多くの患者さんと接していてよく実感するのは、白内障の手術で、鮮やかな視界を取り戻される方が多いという事実です。たとえば手術後に「白ってこんなに白かったのですね」と喜ばれる方が珍しくありません。

これは、明確な自覚がなくても「白内障によって色覚異常になっていた」といえます。このように、さまざまな病気にかかった際に気づかないうちに引き起こされやすい場合があるのが色覚異常です。後天的に色覚異常になることは珍しいことではありませんが、自覚することが非常に難しいともいえるでしょう。

色が正しく見える仕組みとは

そもそも色覚の異常とは、どんな状態?

「ものを見る」という機能は、➀視力➁視野➂色覚という三つの要素から成り立っています。➀「視力」とは細かい物を見分ける能力のこと。➁「視野」とは一度に見渡せる範囲のこと。➂「色覚」とは色を識別する感覚のことを指します。
この三つの機能は網膜にある「視細胞」によって担われています。視細胞がうまく機能しない場合は、➀「視力」が悪くなったり、➁「視野」が狭くなるなどのトラブルが起こることになります。➂「色覚」についても、視細胞の働きによっては機能が低下することがあります。それを専門的な用語で「色覚異常」と呼びます。

色を感じ取るタイプは、大きく三つに分類できる

全ての色は、「光の3原色」、「赤」「緑」「青」の三つの光の組み合わせで、作られています。
専門的な話になりますが、色を感知する視細胞も、「赤に敏感なタイプ」「緑に敏感なタイプ」「青に敏感なタイプ」の三つに分かれます。色覚の異常は、この3種類の視細胞のうちのいずれかが弱くなっていたり、十分機能しない場合に引き起こされます。

色覚異常には二つある

色覚異常には、「先天色覚異常」と「後天色覚異常」の2種類があります。「先天色覚異常」は、遺伝による影響が大きいもので、男性の約5%、女性の0.2%の頻度で起きているとされます。それ以外の要因、たとえば目や脳の病気などによる色覚異常を「後天色覚異常」といいます。後天性の場合、緑内障や白内障など、何らかの病気の一つの症状として、起こることがほとんどです。したがって、色覚以外の視力や視野にもトラブルがあったり、見え方がそれまでと異なることがあります。

先天色覚異常の特徴

男性の20人に1人は色覚異常

先天性の色覚異常は、国内で300万人以上が該当すると推計されており、決してまれなものではありません。もちろんその程度は、人によって千差万別です。検査で指摘されない場合「ずっと気付かない」という方がいれば、一方で生活に不便さを感じている方もいます。ただ多くのケースでは、色覚異常で日常生活に困ることはありません。

先天性の色覚異常は「個性」と捉えましょう。

多くの場合、先天性の色覚異常は、小児のときに気付くことが多いものです。学校の授業やコミュニケーションの際には、不都合が生じるケースもあります。そのため、できるだけ本人も保護者も、見え方については把握をしておくことが望ましいといえます。

職業によっては、就けない職種も存在します。特に安全性に関わる職種については、試験で指摘を受けることがあるかもしれません。将来を左右しかねない問題なので、周囲の大人が早期に気付くことができれば理想的です。とはいえ、先天性の色覚異常であることが、生き方の選択肢を大きく狭めるわけではありません。有名な画家が色覚異常だった例もあります。また、社会環境も色覚異常に配慮した環境を整えつつあります。一つの個性として認識してみてはどうでしょうか。

後天色覚異常には、本人も周囲も気付きにくい

後天色覚異常も、自分で気付くことは難しいものです。その証拠に、診察中に「△色が見えません」と訴える患者さんは、ほとんどいません。そのため医師も気付くことができず、色覚検査も行われないのです。そのため、数ある目のトラブルのなかでも、後天色覚異常は「取り沙汰されることが少ない」と言えるでしょう。目の不調として多いのは、やはり「かすみ」「まぶしさ」「何重にも見える」「視力低下」などの主訴なのです。

後天色覚異常の特徴

色の誤認が起きやすくなる条件とは

後天色覚異常が起こりやすい原因として、白内障・網膜疾患などがあります。そして、対象物が小さいとき(色の面積が狭いとき)や、対象物の色の彩度が低く、鮮やかではない色のとき。周囲の明るさが足りないとき。また短時間で色を判別する必要があったり、対象物に対する色への先入観が強かったり、疲労などにより注意力が落ちているときも、色を間違えやすくなります。

「誤認のしやすさ」には個人差も大きい

家の中だけでも、さまざまな条件があり、誤認が起こりやすいときと、そうでないときがあります。理想を言えば、「どの色を誤りやすいのか」を自分で把握することができれば、解決に1歩近づくことになります。「色の誤認のしやすさ」には、個人差があります。たとえ同年代同士であっても、比べることができるようなものではありません。
特定の色について見えにくさを感じたら、色覚検査を受けてみましょう。

 

後天色覚異常は、治るケースのほうが多い

原因となる病気の治療でほぼ治るのが後天色覚異常

後天色覚異常はどうすれば治るのか。端的に言うと、原因となる病気を根治することが必要です。
特に加齢によってかかりやすい白内障のような場合、視界をかすませるだけでなく黄色っぽく見える色覚異常を起こすこともあるので、生活に支障をきたすことがあります。症状が進行するにつれ、視界から色が失われていきます。しかし、手術をすることで取り戻せることがほとんど。だから手術については恐れすぎず、早めに受けることをおすすめしています。

手術のあとは、外出が楽しくなる

手術を終えた患者さんたちの生活の質は、途端に向上します。目に見えるものが色鮮やかになったため、「食事が楽しみになった」「外出の機会が増えた」「出無精だったけれども旅に出かけることが楽しみになった」と喜んでくださいます。また美術館に展示されている作品を見て、以前よりも深い感動を覚える方も多いです。「私は今までフィルターをかけて、暗いトーンで絵を見ていた。手術で鮮やかに見えるようになった」と驚かれるのです。後天性の色覚異常は、それほど気付きにくいものであるということです。

日常生活の質がアップする

もちろん「日常的な暮らしもスムーズに安全になった」と喜ばれる方も多いです。たとえば、ガスコンロの火が、鮮やかに見えるようになり「ラベンダー色に見える」という方がいました。火がどこにあるか、明瞭に見えることによって、「着衣着火」などの不慮の事故を抑止することができます。今のガスコンロの火は、薪の赤い火とは異なり青白いため、色覚異常の方にとっては認識が難しく「火がない」ように見えてしまいます。特に温度の高い炎の先端は、色覚異常の方にとって「見えにくい」ということがわかっています。

快適に暮らすために、注意すべきポイントとは

室内では転倒、外では交通事故

色覚異常の方にとっては、階段の段差は認識しづらいものです。たとえ照明が点いていても、微妙な色合いが見えづらいと段差が判別しづらく、転倒などの事故が起こりやすくなります。車を運転する際も、危険はつきまといます。懸念されるのは、色覚異常のため信号機の色を認識できていないというケースです。ただ、「△色である」とはっきりわからなくても「今までついていた色と比べて、相対的に明るく見えるから黄色だろう」「止まっていた車が動き出したから、おそらく青色だろう」などと判断ができるため、気にしないという方も多いようです。万が一のことを考えると、このような色覚異常が治せるようであれば、早期に治すに越したことはありません。

後天色覚異常が治らないとき

網膜異常や緑内障で後天的に色覚異常が引き起こされることもあります。病気の種類によっては、手術をしても色覚異常が治らないケースもあります。
主治医とよく相談をしてみてください。
もし回復が望めない場合、先天性の色覚異常と同じく個性と捉え、生活の質を落とさないよう対策を立てていくことをおすすめします。たとえば「自宅の階段には手すりをつける」などです。

また、「黒色と紺色の靴下の取り違え」がたびたび起こる場合、色覚異常やその他の病気の疑いが強くなります。そのような場合、何らかの病気を抱えている可能性が高くなります。身近な方であれば受診を促すなど、気を付けてみてください。

板谷院長のひとことアドバイス

色覚異常の方は、室内の転倒や運転の際など、危険が付きまとうため注意が必要です。とはいえ、色覚異常を気にしない方も多く、ひとつの個性としてとらえてもいいでしょう。後天色覚異常の場合は、原因となる病気を根治し手術すれば治るケースが多いため、手術については恐れすぎず、早めに受けることをおすすめしています。

まとめ

  • 後天色覚異常には、本人も周囲も気付きにくいものです。
  • 色の誤認のしやすさには、個人差も大きくあります。
  • 後天色覚異常が治ると、日常生活の質は上がり、より安全で楽しく過ごせるようになります。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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