本記事は、2020年1月28日に再更新いたしました。

現在、日本で行われている白内障手術のほとんどは「超音波乳化吸引術」という手術法です。手術時間が5~10分と短く、「日帰り」でも行えるようになっていることもあり、今では、すべての外科手術のなかでもっとも手術数が多いといわれるほどポピュラーな手術となっています。一方、わずかな時間で終わるため“簡単な手術”と思われがちですが、非常に高度で繊細な操作が必要とされる手術でもあります。

今回は、現在の標準的な白内障手術である「超音波乳化吸引術」について解説します。これから白内障手術を受けるという方は、手術の内容や流れを知っておくと、安心して手術に臨めるのではないかと思います。これらについて詳しく解説しますので、参考にしてください。

傷が小さく、視力の回復も早い「超音波乳化吸引術」

入院の必要性をなくした「超音波乳化吸引術」

かつて白内障の手術は、濁った水晶体を丸ごと取り出す「水晶体嚢外摘出術」が行われていました。これだと、水晶体を取り出すために角膜を大きく切開しなければならず、合併症のリスクが高いため、必ず入院して術後は安静にしてもらっていました。それが、日帰り手術も可能になったのは、「超音波乳化吸引術」という方法が誕生したからです。

わずかな創口で手術を行うことが可能に

「超音波乳化吸引術」は、角膜に開けたわずか2~3mmの創口から超音波チップという器具を差し入れて超音波を当て濁った水晶体をミルク状に破砕したあと、吸引して取り除く水晶体摘出術です。最大の特長は、ごく小さな切開創から眼球を歪めずに、すべての手術操作を行うことができる点にあります。

一般に手術は、手術創が大きくなるほど回復も遅くなりますし、炎症や細菌感染などのリスクも高まります。さらに白内障手術の場合は、手術創が大きいほど強い術後乱視が起きて問題となります。「超音波乳化吸引術」は、、手術後の炎症がかなり軽減され、術後感染による眼内炎のリスクが少なくなりました。また小さな創口は多くの場合、糸で縫わなくても自然に塞がるため、術後に引き起こされる角膜乱視もわずかで済みます。当然、視力の回復も早く、早い方では術後すぐから「よく見える」状態が実現します。

この目の状態を大きく変えない超音波乳化吸引術だからこそ、眼内レンズとの相性も高く、眼内レンズに付け加えられてきた乱視矯正機能(トーリックレンズ)や乱視治療機能(多焦点眼内レンズ)を安定して発揮させることが可能になったのです。つまり「超音波乳化吸引術」と高機能眼内レンズのマッチングにより、白内障手術は単に濁りを取り見えるようにするだけではなく、屈折矯正と老眼治療も可能とし、個々の患者さんのライフスタイルや希望に合った便利で快適な見え方を手に入れる治療へと発展したのです。

「超音波乳化吸引術」の4つのメリット

「超音波乳化吸引術」のメリットは、以下の4つにまとめることができます。

  • 手術によるトラブルが減少し、安全性が高くなった
  • 手術創口が小さく、角膜を縫合しなくてもいいため、新たに乱視が起こりにくく視力の回復が早い
  • 術後の目の安定が良く、術後疼痛も少なく、視力回復が速いため、日帰りでの手術が普及した
  • 最新の眼内レンズで選択できる乱視矯正機能や老眼鏡性機能を安定して発揮できる
  • 「超音波乳化吸引術」の流れ①術前準備

    「超音波乳化吸引術」で手術をする場合、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。 まず手術前の段階では、手術決定日を含め、通常3回ほどの通院が必要になります。

    手術決定日 ~全身状態のチェック~

    診察や視力検査、眼底検査などの詳しい検査を経て、白内障手術の適応がある場合は、医師からそれをお伝えします。患者さんが手術を希望されたときには、手術までの具体的なスケジュールを相談します。手術へ向けた準備をスタートします。

    術前検査と手術説明

    手術に必要な検査を行います

    1) 手術のリスクを知るための検査:角膜内皮細胞撮影

    (ア) 視力検査:裸眼の視力と矯正した視力を測ります。
    (イ) 屈折度数検査:近視、遠視、乱視の程度を測ります。
    (ウ) 眼圧検査:目の圧を測ります。緑内障のリスクを調べるためです。
    (エ) 角膜内皮細胞検査:角膜内皮細胞の数を調べます。角膜内皮細胞が相当少ない目は術後に水疱性角膜症になるリスクがあります。
    (オ) 角膜形状検査:角膜の形状を詳細に解析し不正乱視や円錐角膜の診断を行います。
    (カ) 前房深度検査:角膜と水晶体のスペースを調べます。前房深度が浅いと手術の難度は上がります。
    (キ) 瞳孔径検査:目薬で瞳孔を開いたときの瞳孔径を調べます。十分に開かないと手術難度があがります。
    (ク) 眼底検査:眼底に黄斑疾患や緑内障などの術後視機能に影響を及ぼす病気の有無を調べます。

    2) 眼内レンズの度数と乱視矯正度数と軸を決定するための検査

    (ア) 角膜曲率半径と眼軸長検査:眼内レンズの度数決定に必要なのは、この2つの値です。複数の信頼性の高い度数計算式に2つの値を入れて、結果を比べながら決定します。
    (イ) 角膜乱視の把握:光学検査機器で乱視の度数と軸を測ります。通常の検査機器は角膜前面のカーブを測定して乱視を求めます。3次元光干渉断層計は、角膜前面に加え後面のカーブも考慮して真の乱視を求めることができます。

    3)心電図検査や採血検査を実施

    患者さんが気がついていない全身の問題が無いかスクリーニングします。見つかった異常が医師にかかったことがない異常なら、近医に紹介して受診いただきます。

    手術説明を行います

    医師は検査の結果に基づいて、想定される手術中および手術後のリスクについて説明します。眼底疾患や緑内障が見つかれば、それに関しての説明をします。術後に期待できる見え方をお話しします。

    医師と視能訓練士は、各患者さんのライフスタイルと術後にどんな見え方を希望されるかを聞き出して、眼内レンズの選択を行います。

    看護師は、手術当日とその前後の点眼薬や生活上の注意事項について説明します。白内障以外にも持病があって薬を内服している方やコンタクトレンズを使用している方には、手術に向けてそれらの使用法についても指示があります。

    術前点眼

    手術3日前から感染防止のために抗生物質の点眼薬を使用し、手術に備えます。

    手術当日

    手術直前には、手術のための散瞳薬や麻酔の点眼を行います。血圧測定を行い、緊張などで血圧が上がっているときはクリニカルパスに従ってマイルドな降圧薬を使用します。手術室に入室した後は、血圧計や心電図モニターをつけ、手術ベッドの上にあおむけになって目と目の周囲の皮膚の消毒を十分に行います。顔の上に清潔な手術用ドレープをかけ、開瞼器という器具でまぶたを開けっ放しの状態に固定して再度消毒薬を目の表面にかけ点眼麻酔を行って手術の準備は完了します。

    手術中は、手術顕微鏡のまぶしい光をじっと見ていただくと、目が手術のやりやすい向きに固定されます。局所麻酔のため、声を出すことはできますから、万一咳が出そうになるなどがあれば医師にすぐに伝えてください。

    「超音波乳化吸引術」の流れ②手術の手順

    「超音波乳化吸引術」は、以下のような手順で進みます。すべての行程が顕微鏡下で行われます。通常は片眼あたり5~10分ほどで手術は終了しますが、白内障のほかにも目の疾患がある方やハイリスク症例などでは、手術時間が長くなることもあります。

    ①創口作成

    角膜(黒目)と強膜(白目)の境界をメスで2~2.8mmほどの幅の創口(主創口)を1カ所(主と0.9mmに満たない小創口を1~2カ所作ります。主創口は、角膜縁から切る角膜切開法とs、角膜縁から少し離れた強膜から角膜内へ向かって切開する強角膜一面切開法があり、使い分けます。

    ②粘弾性物質の注入

    角膜と水晶体の間の空間に粘性の高いヒアルロン酸物質(粘弾性物質)を注入します。粘弾性物質は、角膜と水晶体の間のスペースを確保し安全な操作が可能になるとともに、角膜内皮細胞への衝撃を吸収して守ってくれます。

    ③前嚢切開

    水晶体を包んでいる「水晶体嚢」という薄い袋の前面(前嚢)を直径4.8~5.5mmの丸い円に切開して、水晶体の吸引を行うための「窓」を作ります。

    ④水晶体の乳化吸引

    前嚢につくった「窓」から超音波チップと呼ばれる器具を水晶体の硬い部分(核)に当てて、超音波を当てながら水晶体を細かく粉砕して吸い取ります。この作業を「乳化吸引」といいます。ケーキを切るように4分割してから、それぞれを乳化吸引する「核分割法」が安全でスピードも速いため主流になっています。

    ⑤皮質吸引

    水晶体核の周囲に柔らかい皮質が覆っています。皮質を吸引して水晶体嚢をきれいにします。

    ⑥眼内レンズの挿入

    中身が吸い出されて空になった水晶体嚢の中に人工の眼内レンズを挿入し、正しい位置に設置します。乱視矯正用のトーリック眼内レンズは、固定する角度が重要です。

    ⑦粘弾性物質の除去と創口閉鎖

    注入した粘弾性物質をきれいに取り除き、人口房水で眼内圧を適度に高め、無縫合で創口を閉鎖します。

    白内障手術を要約すると、濁った水晶体の中身を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入する手術です

    「超音波乳化吸引術」の流れ③術後における注意点

    手術が成功裡に終わったあとも、手術創が修復され目の状態が安定するまでは、しばらく注意が必要です。医師の指示を守って受診や点眼薬の投与を続けるようにしてください。

    手術直後

    手術終了後は回復室でしばらく安静にして過ごします。その後、特に問題がなければ術後の注意事項などの説明を受け、帰宅となります。目をこすったり触ったりしないように眼帯または保護めがねを装着し目を保護します。

    手術翌日以降

    手術を受けた翌日朝は、必ず診察を受けてください。視力検査、眼圧検査、眼底検査などを行い、手術の合併症が出ていないか医師が診察します。特に、術後一時的に眼圧が上昇することが稀にあり、この場合すぐに眼圧を下げる対処をしますので、翌朝朝の診察に意味があるのです。翌朝問題がなければ決められた診察スケジュールに従って、経過観察を続けていきます。まれに、術後しばらく時間が経ってから合併症が起きてくることがあります。調子がよくても定期検診を忘れないようにしましょう。

    板谷理事長のひとことアドバイス

    白内障手術は、水晶体の超音波乳化吸引術があみ出されたおかげで、小切開となり手術時間が短縮するとともに、術後の炎症、感染のリスク、惹起乱視などの問題がすべて小さくなり、視力回復も速くなりました。日帰り手術が可能になったのも、この術式のおかげといえるでしょう。

    まとめ

    • 現在の白内障手術は「超音波乳化吸引術」が標準となっています
    • 「超音波乳化吸引術」は、創口が2~2.8mmと小さく、安全で視力の回復も速いのが特長です
    • 手術を受ける前に、術前検査、手術、術後管理の全体的な流れを理解しておくと安心です

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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