白内障手術を受ける前には、「手術が終わればすべて終了」――そんな気持ちで手術に臨まれる方も多いかもしれません。しかしどんな手術であっても、「術後」も手術と変わらないくらい重要なことをご存じでしょうか。
たとえ手術が成功に終わっても、そこで油断してはいけません。確率としてはごく少数ですが、手術の後しばらくたってから、目に合併症のトラブルが生じてくることがあります。
なかでも眼科医がもっとも恐れる手術後の合併症が、「術後眼内炎」です。術後感染症は、医師も細心の注意を払って予防に努めていますが、それでも完全には防ぐことができない合併症です。

患者さん自身も早く気づいて早期治療につなげられるように、原因や症状などをお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。

目の中に細菌が繁殖することで起こる「術後眼内炎」

術後眼内炎は、手術の後に目の中に細菌が繁殖してしまい、炎症を起こす病気です。原因となる細菌にはいろいろな種類がありますが、私たちの目の表面やまぶた、まつげの根元、手などに付着している雑菌(常在菌:ブドウ球菌、緑膿菌、腸球菌、MRSAなど)が原因になることがよくあります。

そうした雑菌は目の表面や手に付いている分には特に悪さはしないのですが、それが手術中や術後に目の中に入ると、急に勢力を増して増殖し、目の中に炎症や化膿を起こすことがあるのです。術後眼内炎の発生率は決して高くはありませんが、平均して2000例に1例ほどといわれています。

治療が遅れると感染が網膜におよんで傷めてしまい、重い視力障害が残ります。毒性か強い菌の場合、わずかな時間で失明に至ることもあるため、十分な注意が必要です。

術後眼内炎を防ぐために眼科医はできる限りの対策をしている

白内障手術を手がける眼科医は、この術後眼内炎を防ぐために、さまざまな対策をとっています。

術前術後の抗生剤使用

まず、白内障手術を受けるときには、3日前から抗生物質の点眼薬を使用してもらい、目の表面やまつげの根元などにいる常在菌を減らします。また、手術が終わった後にも、抗生物質の点眼薬を処方し、点眼を続けていただきます。
抗生物質が効きにくくなる耐性菌の問題と、術前の目に点眼びんが触れるなどして菌が繁殖しているリスクを考慮して、はんがい眼科では術前と術後の抗生剤点眼の種類を変えます。
ドライアイの目薬をさす女性

術前の念入りな消毒

手術の際には、消毒液(ポピヨード液やオゾン水など)で目を洗浄し、目の表面の消毒を行います。さらにまぶたなど目のまわりの皮膚をイソジン消毒します。
イソジンは殺菌力が強いため「(目が)染みる」とおっしゃる患者さんがよくいますが、染みるくらい強い消毒を行って睫毛の付け根や皮膚の殺菌をしておくことが重要なのです。
さらに、はんがい眼科では、手術の途中の眼内レンズを入れる直前にも、消毒を行います。眼内レンズを挿入するときに眼内レンズまたはそれを挿入するインジェクターという道具が眼内へ菌を持ち込むリスクを減らすためです。

眼内レンズを挿入した後は眼内レンズの後ろまで十分に洗い流します。
眼内レンズ

清浄な手術室環境

手術室の環境も重要です。手術室を陽圧に保ち外からの埃や塵などの空気中の細かい微粒子が手術室に入ってこないようにします。
手術室の消毒・洗浄は毎回行い、手術室の空調も、空気中の細菌や微粒子を取り除く特殊なフィルター(HEPAフィルター)を通して空気を送る仕組みになっています。
空気中に浮遊する細菌すら手術時に目に入り込まないよう、厳重な管理をしているわけです。

手術用器具の滅菌

器具に応じてガス滅菌と高圧蒸気滅菌を適切に運用し、使用する器具を完全に滅菌することが重要です。

それでも起こる術後眼内炎

このような徹底的な感染対策をとることにより術後眼内炎はかなり減らすことができます。
しかし、それでも0.5%くらいの頻度で術後眼内炎は起きるのです。その最大の原因は、抗生物質が効きにくい耐性菌です。耐性菌とは、以前に抗生物質によって攻撃された菌のなかで生き延びた個体がおり、その個体が抗生物質に耐性を持ったまま増殖してしまったものです。

毎年流行するインフルエンザなどの風邪に抗生物質の飲み薬が出されることが多いと思います。風邪はウイルス性のものが多いのですが、抗生物質はウイルスに効き目がありません。二次的な細菌感染を防ぐ意味はあります。
抗生物質の多用は抗生物質が効きにくい耐性菌を増やし、手術などここぞと言うときに抗生物質が効かずに問題を生じるリスクがあるのです。
自分に術後眼内炎は起きないと考えるのでは無く、起きるリスクはわずかでもあるので、起きたときにどうするかを知っておくことが大切なのです。

ズキンズキンと脈打つような痛みが出たら、眼科へ急いで

術後眼内炎の対処で最も重要なのは、早期発見・早期治療です。そして、早期発見には患者さん自身の自覚症状が最も役に立つのです。

術後眼内炎で特に気を付けたいのは、術後、数日から1週間ほどの間に強い炎症が起こる「早発性」タイプです。毒性の強い菌ほど、急激に強い症状が現れるので、早い時期の眼内炎ほど怖いといえます。

早発性の術後眼内炎の症状としては、以下の症状が挙げられます。

  • 強い眼痛
  • 涙が出る
  • 充血
  • 急激な視力低下
  • 眼痛といってもチクチクする、ゴロゴロするといったよくある目の痛みとは違い、傷が化膿したときのようにズキンズキンとうずく感じの強い痛みが出るのが特徴です。目の充血も、いわゆる血走った目という感じの激しい症状になります。
    こうした症状に気付いたら、すぐに眼科を受診してください。治療が遅れるほど視力障害が生ずる可能性が高まりますし、最悪の場合、半日ほどで感染が網膜までおよび視力を失うケースもあります。治療は時間との勝負で、早期発見・早期治療が肝心です。

    術後1か月以上して起こる「遅発性」の眼内炎の場合、弱毒性の菌によるものなので、症状の程度は軽くなります。上記のほかに、目がかすむ、光をまぶしく感じる、飛蚊症(小さな虫やごみ、糸くずのようなものが視界に見える)といった症状を自覚することもあります。

    軽症の場合は抗生物質で治療し、重症例は硝子体手術を行う

    症状が軽ければ抗生物質のみで治療

    術後眼内炎が起きたときは、症状が軽いときには抗生物質で治療します。抗生物質というのは、細菌の生命装置を壊して破壊する作用をもつ薬です。
    抗生物質の種類によってどの細菌に効くかは異なりますが、原因菌に合った抗生物質を用いれば、高い作用が期待できます。抗生物質の点眼薬の種類や点眼回数を増やすこともありますし、それだけで不十分な場合は、抗生物質の内服薬を服用する、点滴を行うといったケースもあります。

    ここで問題になるのは先述した耐性菌の問題です。原因となっている菌が一般に用いられる抗生物質に耐性を持っている可能性があるため、できるだけ耐性が生じにくく普段使用しない抗生物質を用いることを考えねばなりません。
    眼内炎になったら、目の表面や目の中の液体を採取し、そこに含まれる細菌を培養して効き目のある抗生物質を特定する「感受性試験」を行います。
    その患者さんにどの抗生物質がよく効くかがわかるのです。ただし、培養した菌が増えるのに1週間くらいかかるため、一番大事な感染時に間に合わないのが欠点です。

    耐性菌や強毒性の菌が相手では硝子体手術で治療

    強毒性の細菌による術後眼内炎では、激しい炎症が急速に進み、目の中の炎症のため眼底が見えなくなることがあります。
    この場合は迷わず、緊急に硝子体手術をして菌が貯まっている硝子体を切除するとともに、眼内にバンコマイシンなど耐性菌に強い抗生物質を含む3種類くらいの抗生物質のカクテルを灌流させて治療します。

    白内障の手術後1週間ほどは毎日眼科を受診する

    術後眼内炎で視力低下や失明を起こさないためには、やはり術後の経過観察が何より大切です。特に早発性(強毒性)の術後眼内炎の起きやすい、手術後3日~1週間ほどは、頻繁に眼科を受診し、医師に目の状態を見てもらうようにしてください。

    その後は、どのくらいの頻度で経過観察が必要かは患者さんによって異なりますから、眼科医の指示や指導をきちんと守って診察を受けましょう。

    せっかく白内障手術を受けて「よく見える目」を手に入れたのですから、それを守るため、術後にも気を抜かず、定期的に眼科に通っていただきたいと思います。

    まとめ

    • 白内障手術後の合併症で、細菌感染による「術後眼内炎」が起こることがある
    • 強毒性の場合、術後数日~1週間ほどの間に強い眼痛、充血、急激な視力低下が起こる
    • 術後眼内炎から眼を守るには、早期発見・早期治療に限る

    執筆者プロフィール

    はんがい眼科院長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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