白内障手術を終えた後、1週間ほどは、頻繁に眼科を受診していただきます。手術が無事終わったのに、どうしてそんなに眼科に通わなければならないのかと、不思議に思われる方も多いかもしれません。

現在の白内障手術は、小切開で手術時間も短く、患者さんの目の負担は少ないものになっています。しかし眼内に入る手術である限り、まれにですが、術後眼内炎をはじめとした深刻な合併症が起こることがあります。
術後眼内炎は極めて稀な合併症ですが、放置すると失明のリスクが高い合併症で、起きる場合は術後3日~1週間に起きやすいのです。ですので、眼科医ほんの小さな徴候も見逃すまいと経過を見るのです。
自己判断で「調子がよいから」「面倒だから」とやめてしまわず、医師の指示にしたがって受診をしてほしいと思います。

さて今回は、白内障手術後の軽微な合併症として「角膜浮腫」「虹彩炎」「眼圧上昇」について解説します。
これらの軽微な術後所見も1週間ほどで治まるもので、ほとんどの患者さんにとっては深刻な問題にいたることはありませんが、もともと角膜内皮細胞が少ない、ぶどう膜炎の素因がある、緑内障があるなどの背景を持つ目にとっては問題になりかねませんので、今回取り上げました。

手術によって角膜実質にむくみが生じる「角膜浮腫」

角膜浮腫とは

角膜浮腫というのは、角膜の内側にある角膜内皮細胞の働きが低下して、角膜の中身である実質に浮腫(むくみ)が生じている状態です。白内障手術の後にはみられる代表的な症状の一つです。
白内障手術の間は、水晶体と角膜内皮細胞の間の空間に水分を還流させています。そのため1 回の手術で、角膜内皮細胞が5~10%減ってしまうといわれています。
この手術時のストレスにより、角膜内皮細胞が一時的に機能低下することがあるのです。特に高齢の患者さん、角膜内皮細胞が少ない目では起こりやすく、手術時間が長くなったり、水晶体の袋が破れるなどの術中合併症が起きた場合も起きやすくなります。

角膜浮腫の症状と治療

術後に角膜浮腫が起こると、視力の回復が遅れます。これは角膜実質が腫れて透明性が落ちたり、屈折が変化したり、さらには、内皮細胞を裏張りする膜(デスメ膜)にシワが生じるため、ものが見えづらく感じたり、かすんで見えるようになったりします。
ただ、ほとんどの場合は数日もすれば腫れが引いて視力も回復するため、特に治療は必要ありません。ただし、もともと角膜内皮細胞がかなり少ない方は回復に時間がかかったり、回復せず腫れたままになる水疱性角膜症を発症することもありますので、注意が必要です。

角膜内皮細胞が減りすぎると「水泡性角膜症」に

ちなみに、角膜内皮細胞には1mm2あたり2000~3000個くらいの細胞が存在します。これが500以下に減ってしまうと、角膜がむくんで透明性を保てなくなり、混濁してしまう「水泡性角膜症」を発症します。
角膜はちょうど良い量の水分を含むことにより透明性を保っていますが、この働きをしているのが角膜内皮細胞です。角膜内皮細胞はポンプ機能を持ち角膜の余分な水分を外へくみ出していますので、機能が落ちると角膜は腫れるのです。
角膜内皮細胞が減りすぎると、角膜内皮細胞を補うために角膜移植(角膜内皮細胞移植)が必要になります。そのため白内障手術を行う前には、必ず角膜内皮細胞の数を調べる検査を行うことが重要です。

私どもは、白内障手術の際も角膜内皮細胞の減少をできるだけ抑えるために、特殊な方法を採用しています。これは手術時に目に注入する粘弾性物質に、分散型と凝集型という2種類のヒアルロン酸を使うことで、角膜内皮細胞にかかるストレスを軽減する方法(ソフトシェルテクニック)です。
このように眼内レンズを入れるふくろ(水晶体嚢)だけでなく、角膜内皮細胞も守る白内障手術が望ましいのです。

虹彩に炎症が起こる「虹彩炎」はステロイドなどの点眼薬で治療

虹彩炎とは

虹彩とは、いわゆる茶目の部分です。黒目の表面(角膜)と水晶体の間にあって、目に入る光の量を調節するカメラの絞りのような働きをしている組織です。虹彩は血管とメラニンが豊富な組織で、もともと炎症が起こりやすい組織です。

白内障手術後では、大なり小なり術後に必ず虹彩の炎症が起こります。この炎症を抑えるためにステロイド点眼と非ステロイド系消炎点眼剤を組み合わせて使用すると2週間程度で炎症は治まります。
何らかの理由で、この点眼がなされないと、炎症が強まり、虹彩がせっかく挿入した眼内レンズに癒着し、ひどい場合は瞳孔が360度癒着して瞳孔ブロックを起こし急性緑内障発作となります。また、炎症が眼底に影響して黄斑がむくむというやっかいな問題を引き起こします。

緑内障については、こちらのコラムでもご紹介しております

日本での失明原因1位の眼病・緑内障についての基礎知識

虹彩炎は、昔の白内障手術では重い虹彩炎がよくみられました。昔は「水晶体嚢外摘出術」といって、角膜を大きく切開し、濁った水晶体の中身を丸ごと取り出す手術が行われていました。
子供を出産するように押し出していたため、「分娩法」と呼ばれていました。さぞかし、強い炎症が出ることは想像できるでしょう。

虹彩などに炎症が起こると、白血球や血液を凝固させる物質・フィブリンが血液中からたくさん漏れ出してきます。このフィブリンには糊のような性質があるため、炎症によって虹彩と眼内レンズが癒着してしまい、急性緑内障発作にいたる症例もありました。ぶどう膜炎のある目では、このリスクが高く白内障手術を行うことが敬遠されたのです。
目の構造図

しかし、現在は「超音波乳化吸引術」という傷口が小さく、目を変形させない手術が行われるようになり、虹彩炎の症状はごく軽微になり、ぶどう膜炎のある目でも炎症がコントロールされていれば問題なく白内障手術を行うことができるようになりました。
落屑(らくせつ)症候群やぶどう膜炎、糖尿病、網膜剥離などの眼底疾患がある、といった人は、目のバリア機能が弱くなっているため、虹彩炎が強くなるリスクがやや高くなります。油断して、術後点眼を怠ると、今でも怖い術後合併症と言えます。

虹彩炎の症状と治療

虹彩炎の代表的な症状としては、白目の充血、涙が出る、光を眩しく感じる、目の痛み、などが挙げられますが、症状が軽い場合はほとんど自覚症状が無く、眼科医が診察しないとわかりません。

術後は、かならずステロイド系抗炎症薬と非ステロイド系の消炎薬の点眼薬を抗生剤の点眼薬とともに使用します。これで100%近い症例は炎症を無くすことができます。万が一、炎症が強く点眼薬だけで効果が不十分でも、ステロイドの懸濁液を白目に注射したり、ステロイドの内服薬を使ったりと奥の手がありますので安心ください。
また虹彩と眼内レンズが癒着しないように瞳を開いたり閉じたりさせるため散瞳薬を使うケースもあります。

白内障手術の後に起こりやすい一時的な「眼圧上昇」

眼圧上昇とは

白内障手術の後には、眼圧が高くなることがあります。特に、緑内障による視野障害がある方は視野障害が進む恐れがあるため、注意が必要です。

眼圧が高くなる原因として多いのが、白内障手術の際に使う粘弾性物質が目の中に残っているケースです。
白内障手術では、眼内レンズを入れるふくろや前後の空間に粘弾性物質(ヒアルロン酸)を注入します。粘弾性物質を入れてふくろや手術を行う空間をふくらませることで、安全かつ的確に手術が行えるようにしているのです。
ただし手術を終える前に、この粘弾性物質はきれいに取り除く必要があります。これが目の中に残っていると、一時的に目の中の水分の排出が妨げられて目の内部の圧力が高まってしまいます(時間の経過とともに眼圧はしだいに元に戻ります)。
緑内障のある目は、もともと排出が落ちている場合が多いため起こりやすいです。

この他、術後に処方されるステロイド系抗炎症薬の点眼薬をだらだらと長く使うと、眼圧が上昇することが知られています。通常の術後の眼圧上昇は目の痛みが生じるほど高くはなりませんので、きちんと術後の診察を受けていないと、見過ごすことになりかねないのです。
一方では、面白いことに、白内障手術で問題が無ければ、むしろ眼圧は術後低下することが多いのも事実です。

術後眼内炎については、こちらのコラムでもご紹介しております

白内障手術後に注意したい合併症①術後眼内炎について

眼圧上昇の症状と治療

術後に眼圧が上昇していても、ほとんどの場合、自覚症状はありません。
検査で眼圧上昇が確認されたときは、眼圧を下げる点眼薬または内服薬で治療します。数日ほどお薬を使えば、改善する例がほとんどです。
万一、激しい頭痛や眼痛、吐き気などの症状が現れたときは、急性緑内障発作の可能性もあるので、急いで眼科を受診してください。

まとめ

  • 白内障手術後は目の状態が不安定で、軽微な合併症が起こります。医師の指示を守って点眼と診察を続ければ怖くはありません。
  • 角膜がむくむ「角膜浮腫」では視力回復が遅れますが、無治療でも数日で回復してきます。
  • 「虹彩炎」は炎症を抑える点眼薬、「眼圧上昇」は眼圧を下げる点眼薬による治療が必要です。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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