現在の白内障手術は、「日帰り手術」が普及したこともあり、以前に比べると手術を受けることのハードルは低くなっていると感じます。

一方で、大事な目を手術するということで、恐怖感や抵抗を覚える患者さんも少なくないようです。「右目はかなり見えないけど、左目が見えるから、なんとなく怖さもあって手術を先延ばしにしている」――そんな方も多いのではないでしょうか。
しかし眼科医の立場からすると、見えないのにあまり長期間、白内障を放置しておくのはおすすめでできません。通常の白内障手術がむずかしくなったり、合併症のリスクが高くなったりすることがあるからです。

実際に白内障が高度に進行し、「成熟白内障」や「膨化白内障」と呼ばれる状態になったケースを、はんがい眼科では手術の難易度が高いハイリスク白内障の1つに分類しています。

今回はこの「成熟白内障・膨化白内障」とはどういうもので、なぜ白内障手術を難しくしてしまうのか、詳しく解説していきたいと思います。

白内障が進行すると、濁りが強くなり水晶体が大きくなる

目に入った光を屈折させるレンズの働きをしているのが、目の中の「水晶体」です。
水晶体の内部は中央に核と呼ばれる部分があり、その周りを皮質がとりまいています。水晶体全体は薄い膜(ふくろ)に包まれていて、ふくろと周りの筋肉との間をチン小帯という細い線維状の組織がつないで水晶体を支えています。

水晶体はもともと透明な組織ですが、加齢などの原因により、核や皮質に濁りが出てきてしまいます。これが白内障です。
白内障は、初期のうちは水晶体の濁りは一部にとどまりますし、濁りの程度もごく軽いものです。そのため、かなり進行するまで気づかないこともありますし、気づいて眼科の診断を受けたとしても、日常生活にそれほど支障がなければそのまま放置してしまう方もいます。

目に入った光を屈折させるレンズの働きをしている「水晶体」

しかし白内障は徐々に進行していく病気であり、時間が経つほど(年齢が高くなるほど)濁りの範囲が広くなり、濁りの程度も強くなります。
それだけでなく、白内障が進むにつれ、水晶体は硬く大きくなります。水晶体の中身を構成する細胞の1つである水晶体上皮細胞が、線維細胞をどんどん生産し続けるにもかかわらず、その細胞を排泄することができないためです。
繊維細胞はどんどん内側に押し込められ、中心の核がどんどん硬く、大きくなっていくのです。

このようにして白内障が高度に進んだ状態が「成熟白内障」です。なかには、水晶体の中身が溶け始め急激に成熟してくるケースがあり、これが「膨化白内障」です。
進行がはやければ膨化白内障を疑わないといけません。白内障を成熟させたり、膨化させてはいけません。その前に手術してハイリスク白内障になるのを予防しましょう。

水晶体は加齢にしたがって硬く、大きくなっていきます

水晶体の全体が白濁する成熟白内障

白内障が進行し、水晶体全体が白濁した状態です。外から見ても瞳孔が真っ白に見えます。白内障という病名の由来は成熟白内障なのです。
ここまで進行すると、ほとんど何も見えなくなります。また、なかには水晶体が非常に硬くなって手術が困難になるケースもあります。

場合によっては、水晶体の皮質の部分が溶け出してくることもあります。そこまで進行した場合は過熱白内障と呼ばれるようになります。
溶け出した水晶体の中身が外に漏れると水晶体誘因緑内障になります。

成熟白内障

急激に水晶体が膨らむ膨化白内障

水晶体が大きく膨らんでいく症状の白内障です。水晶体は加齢により徐々に大きくなっていくものですが、膨化白内障は短期間で急激に膨化が進むタイプの白内障です。
手術を数週間引き延ばしただけで症状が進行して手術が困難になってしまうことがあるので注意が必要です。

水晶体が膨化していると、水晶体を包むふくろがパンパンになり、内部の圧力が高まっているため、水晶体のふくろを丸く切る「前嚢(ぜんのう)切開」の時に、ふくろが裂けやすくなります。
運が悪いとふくろが真っ二つに裂けて水晶体の中身が目の奧に落下します。

膨化白内障

ふくろが破れやすくなるのが「ハイリスク」になる最大の要因

成熟白内障と膨化白内障は、ともに水晶体を包んでいるふくろが破れやすくなるというリスクが高まってしまう白内障です。
標準的な白内障手術である「超音波乳化吸引術」では、水晶体を包んでいるふくろの前面を切開して窓をつくり、そこから超音波を当てて濁った水晶体を砕き、取り除きます。
そして残ったふくろの中に眼内レンズを挿入する、という操作を行います。

標準的な白内障手術「超音波乳化吸引術」

水晶体のふくろを丸く切る前嚢切開では、通常は眼底から跳ね返ってくる光がネコの目のように前嚢を光らせてくれるので、じっくり観察しながら切開できるのですが、成熟白内障は眼底反射が期待できず水晶体のふくろがよく見えない状態で切開しないといけないのです。
このため水晶体のふくろを染めるお薬を用意して、見えるようにして前嚢切開を行います。時に、成熟白内障では、核が非常に硬くなっていて、通常より強いパワーの超音波を当てなければならなくなるため、ふくろを破損しやすくなることがあります。

最も危険なのは膨化白内障です。
膨化白内障ではふくろの内圧がパンパンに高まっていますから、ふくろの切開のときに中からはじけるように水晶体の組織がそとに飛び出ようとして切開が外に走りふくろの後ろに回ってしまうリスクが高いのです。
水晶体のふくろの中に眼内レンズを入れるという一番安全な方法が取れなくなります。下手をすると、水晶体の中身が目の奧に落ちて、硝子体手術が必要になりかねません。

水晶体のふくろが破れることで引き起こされる合併症

白内障手術が10分程度の短時間で痛みもなくできるのは、水晶体のふくろを残し、そのふくろを利用して眼内レンズを入れることができるからです。その水晶体を包むふくろが破れると、以下のようなトラブルが起こります。

眼内レンズを固定できない

眼内レンズを入れるはずのふくろが大きく破れると、通常の手術の方法では眼内レンズを入れられなくなります。
眼内レンズの足と呼ばれる支え部分を目に縫い付ける手術(眼内レンズ逢着術)や、目の強膜(白目)に小さな穴をあけ、そこに眼内レンズの足を差し込んで固定する手術(強膜内固定術)といった特殊な手術が必要になります。

水晶体の中身が目の奧に落ちてしまう

水晶体は透明なふくろの中に中身である水晶体核が包まれています。このため、水晶体を包むふくろが破れると、この水晶体核が支えを失って目の奧に落ちてしまうことがあります。こうなると専用の器具を使って水晶体を取り出すための特殊な手術(硝子体手術)が必要になります。水晶体核落下は眼科医にとってかなりの恐怖ですが、硝子体手術の技術があれば、恐れることはありません。

水晶体の中身が目の中奧に落ちてしまうことがあります

水晶体が大きくなると狭隅角(きょうぐうかく)、緑内障発作にもつながる

成熟白内障、膨化白内障では、手術中にふくろが破れるリスクのほかにも、緑内障のリスクも高まります。
水晶体が大きくなると、本来の位置より前のほうにせり出します。房水が排出される隅角(ぐうかく)が狭くなり、房水が排出されにくくなるため、眼圧が高くなることがあるのです。
もともと隅角が狭い方は要注意です。遠視の方は一度隅角が狭くないか診察を受けたほうが良いです。

緑内障は高い眼圧などで視神経が傷つき、失明に至ることもある病気ですから、十分に注意しなければなりません。
具体的には、次のような症状を起こすことがあります。

房水の出口が狭くなる狭隅角

水晶体と角膜の間の空間を前房といいますが、この前房の隅の部分を「隅角」といいます。隅角には、目の中を還流する水分の出口であるシュレム管という管と、それを覆うコーヒーフィルターのような線維柱帯があり、ここが狭くなるのが「狭隅角」です。
狭隅角になると、水分が排泄されにくくなって眼球内にたまり、眼圧が高まって緑内障を引き起こすことがあります。

成熟白内障や膨化白内障では、大きくなった水晶体が隅角を圧迫し、狭隅角を起こしやすくなります。

水晶体が大きくなることで隅角が狭くなり、房水が排出されにくくなります

急激に眼圧が高まる急性緑内障発作

水晶体が大きくなっていくと水晶体と黒目(虹彩〔こうさい〕)の間の房水の通り道が狭くなっていきます。

そのような状態では、特に瞳が大きくなる暗所で長時間下向きの作業をしたり、瞳が大きくなる作用のあるお薬を内服したときに、この通り道が急に閉じてしまうことがあります。
こうなると房水は黒目の後ろに貯まって黒目を前へ押し出し、隅角が完全に塞がってしまい急激に眼圧が上昇し急性緑内障発作を起こします。

通常10~21mmHgの眼圧が50~70mmHgくらいまで急上昇し、激しい頭痛や眼痛、吐き気などを引き起こし救急に来院されます。急性緑内障発作が起きると、数日から、早ければ一晩で失明に至ることもあるので、緊急に治療して眼圧を下げる必要があります。

早めに眼科を受診することがいちばんの予防策

成熟白内障、膨化白内障は、白内障が進行することによって起こる症状です。これらを防ぐいちばんの対策は、早めに眼科を受診していただくことです。

特に、膨化白内障は片方の目だけに発症することが多く、良い方の目で生活できるため受診が遅れがちです。
「まぶしい」「ものが何重にも見えるようになった」「なんとなくかすんで見えにくい」など白内障の初期症状があれば、ぜひ眼科を受診して視力と水晶体の状態を検査してもらいましょう。そして白内障が見つかったら定期的に経過観察してもらうのが良いでしょう。

また成熟白内障、膨化白内障があると判明したときは、水晶体のふくろを守りながら手術を行える技術をもつ眼科、万一ふくろが破れてしまったときにも対応が可能な眼科で、手術を受けることをおすすめします。

板谷院長のひとことアドバイス

黒いはずの瞳孔が白くなったら要注意です。成熟白内障か膨化白内障です。成熟しすぎると高眼圧にもなります。早めに白内障手術で治しましょう。みるみる見えにくくなったら膨化白内障の可能性があります。高い技術を要するハイリスク白内障の1つです。

まとめ

  • 白内障が高度に進行すると、成熟白内障、膨化白内障が起こります。
  • 成熟白内障、膨化白内障ではふくろが破れやすくなり、手術の難度が高くなります。
  • 対策は白内障が進みすぎる前に早めに眼科を受診することです。手術をするときは、合併症にも対応可能な眼科を選びましょう。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ