一般的に白内障の手術は、簡単で安全な手術といわれています。通常であれば手術時間も5~10分と短く、「あっという間に手術が終わった」「簡単な手術でよく見えるようになった」という感想を伝えてくださる患者さんも多くいます。ただし簡単というのは、患者さんの目の状態に大きな問題がないケースです。

その方の目の状態によっては、通常の白内障手術がむずかしくなってしまう症例もあり、はんがい眼科ではそうしたケースを「ハイリスク白内障」に分類しています。

そこで今回は、ハイリスク白内障の症例にあたる、「浅前房(せんぜんぼう)」と「狭隅角(きょうぐうかく)」について解説したいと思います。これらは水晶体の前の部分に問題があるケースです。浅前房や狭隅角があると、白内障手術がむずかしくなったり、重い合併症を起こしたりするリスクが高くなります。

それぞれについて順番に説明してまいりますので、ぜひ参考にしてください。

水晶体の前のスペースが狭くなっているのが「浅前房」

まず「浅前房(せんぜんぼう)」から解説しましょう。
私たちの目のいわゆる黒目の表面部分を、角膜といいます。角膜と水晶体との間にはわずかな空間があり、これを「前房(ぜんぼう)」と呼びます。この前房と呼ばれるスペースが狭く(浅く)なっているのが「浅前房」です。

浅前房になりやすいのは、正視あるいは遠視の方です。つまり若いときから近視がなく、40歳頃まではメガネいらずで、目が良いと思っていたような方です。こういう方は眼球のつくりが小さい傾向があり、加齢とともに水晶体の変質が進んで大きくなってしまうと、水晶体に圧迫されるかたちで前房が極端に狭く(浅く)なってしまうことがあるのです。

これにはチン小帯の状態も関係します。目の周りの筋肉と水晶体を結ぶチン小帯が弱くなっていると、水晶体が前に押し出されてきて、やはり前房のスペースが少なくなります。

浅前房の危険性と白内障手術における対処法

浅前房が危険な理由とは

「超音波乳化吸引術」という一般的な白内障手術では、角膜に開けた小さな穴から細い器具を入れて、水晶体を包んでいるふくろを切開したり、超音波を当てて濁った水晶体を砕き、吸引するといった作業を行います。 

前房が極端に狭い人では、こうした手順をスムーズに行うのがどうしてもむずかしくなり、手術の難易度が高くなります。

さらに前房が狭いと、角膜の内側のデリケートな部分(角膜内皮)が水晶体に近いため、手術時の超音波で角膜内皮を傷つけてしまうことがあります。ダメージが大きいと角膜が白く濁ってしまい、角膜移植が必要になることもあります。

こうしたことから、浅前房を「ハイリスク白内障」に分類しています。
自分が浅前房かどうかというのは、眼科で行う「前眼部OCT」などの検査を受けることで初めてわかります。

浅前房の手術では高分子のヒアルロン酸を注入

はんがい眼科では、浅前房と判明したときは、手術時に通常よりも高分子のヒアルロン酸を前房に注入し、手術を進めます。こうすると、粘度の高いヒアルロン酸が前に出ようとする水晶体の力を抑えてくれるので、角膜と水晶体の間にスペースを確保でき、安全に手術を行うことができるのです。

「狭隅角」は、前房の隅が狭くなっている状態

次に、「狭隅角」について説明します。隅角というのは、前房の隅の部分を指します。角膜と、光の量を調節する虹彩や水晶体が重なるようになっている狭いエリアです。

私たちの目の中は、房水と呼ばれる水分で満たされています。房水は、虹彩のつけ根の裏にある毛様体筋で作られ、眼球の中を循環した後、水晶体と虹彩の間を通って前房にたまります。そして、前房の隅(隅角)にある繊維柱帯を通過し、シュレム管という器官に入って排出されています。この隅角が何らかの理由で狭くなり、房水の循環がうまくいかなくなる状態を「狭隅角(閉塞隅角)」といいます。

狭隅角になる原因は、浅前房とほぼ同じです。正視、乱視の人は前房のスペースがもともと小さいので、その隅である隅角も狭くなりやすいものです。また、白内障やチン小帯の劣化で水晶体が大きくなったり、前に出てきたりすると、それだけ隅角も狭くなってしまいます。

狭隅角の危険性は急性緑内障発作の可能性が
高いことも一因

狭隅角が「ハイリスク」な理由は、浅前房と同様に手術がむずかしくなることに加えて、緑内障を発症しやすいことが挙げられます。狭隅角があると虹彩が角膜や水晶体に癒着し、房水の通り道を塞いでしまうことがあります。こうなると、房水が排出されずに眼球内に溜まっていき、眼圧が上昇して緑内障につながるのです。

ときには、一晩で失明にいたることもある急性緑内障発作を起こすこともあります。急性緑内障発作では、通常10~21mmHgの眼圧が、50mmHgから70mmHgにまで急上昇します。激しい頭痛と目の痛みを伴い、目がかすんで見える(霧視)、吐き気や嘔吐といった症状も見られます。

このような高い眼圧に視神経は耐えられないため、数日から早いときには一晩で、失明にいたることもあります。また、眼科で処置を受けて失明を免れたとしても、視神経が傷ついているため、その後も生涯にわたって緑内障治療を続けなければいけません。

狭隅角の治療の決め手は「白内障手術」

狭隅角を治療するもっとも良い方法は、白内障手術です。手術をすることで、白内障で大きくなった水晶体を薄い眼内レンズに置き換えれば、自然に隅角が広がり、房水の流れも改善します。特にすでに白内障があるという人は、迷わず手術されることをおすすめします。

はんがい眼科では、白内障がなくても緑内障のリスクが高い場合、緑内障の予防のために白内障手術を提案することもあります。眼科医とよく相談をして、治療法を検討してみてください。

狭隅角や浅前房かどうかは、検査でわかる

自分の目が浅前房や狭隅角かどうかは、基本的には、眼科で調べなければわかりません。急性緑内障発作のような場合を除けば、ほとんどの場合、自覚症状はありません。

眼科では細隙灯顕微鏡検査や、特殊なミラー付きレンズを用いる隅角鏡検査、前眼部OCTなどで前房や隅角の状態をチェックします。

細隙灯顕微鏡検査

細い帯状の光を目に当てて、拡大鏡で観察する検査です。角膜、前房、虹彩の状態のほか、水晶体やチン小帯の状態もこの検査である程度は知ることができます。眼科の検査では非常に重要な検査で、診察のたびに行うことが多くなっています。

隅角鏡検査

隅角の状態は、目の表面からは観察ができないため、「隅角鏡」と呼ばれる特殊なレンズを使って隅角の状態を調べます。点眼麻酔をして、隅角鏡を角膜に接触させ、観察を行います。

前眼部OCT

前眼部OCT(前眼部3次元画像解析)は、コンピュータで解析した画像によって、角膜や隅角、水晶体などの前眼部の状態を立体的に、より詳細に把握できる検査です。2018年4月から保険適用で検査が行えるようになりました。

白内障手術の際にも上記のような検査を行いますが、まだ手術を受ける段階でない方も、定期的に眼科で目の状態を調べておくことは大切です。特に狭隅角があると知らずに放置していると、急性緑内障発作を起こす可能性もあります。そうしたリスクがないかどうかを眼科を受診して確認しておくようにしましょう。

白内障については、こちらのコラムでもご紹介しております

白内障は治せる!「国民的眼病」の基礎知識

視力低下だけではない!白内障の意外な初期症状

かつては母の愛が急性緑内障発作を招いていた!?
現代はスマホが危険!

余談になりますが、日常生活において緑内障になりやすい条件というのもあります。それは「母さんが夜なべをして、手袋編んでくれた~」という童謡で歌われている、昭和初期の風景です。

薄暗い部屋にいると、少ない光を取り入れるために虹彩が開きぎみになります。その状態でずっと下を向いていると、重力で水晶体が前方に移動し、隅角が狭くなって緑内障を起こしやすくなるのです。夜なべで編み物をする母の愛は美しいですが、眼科医としては緑内障を誘発するので要注意、と指摘したくなります。

ちなみに現代でいえば、暗い部屋でうつむいてずっとスマホを見ているという習慣も、同じ状況になりますから、くれぐれも気をつけてほしいと思います。

ハイリスク白内障まとめ

  • 前房が浅かったり隅角が狭かったりする目はハイリスク白内障になりやすい
  • 浅前房と狭隅角の症例は白内障手術が難しくなるだけでなく緑内障の危険性も上がる
  • 浅前房や狭隅角は自分ではわからないので眼科でしっかり検査をしよう

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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