白内障とは、目の中のレンズ機能である水晶体の透明な中身が濁ることで光が眼底に届かずものが見えにくくなる病気です。治療は、点眼治療で、進行をある程度遅らせることができる可能性がありますが、水晶体の混濁自体を修復することはできません。根治するためには、手術が必要となります。
白内障の手術は、従来はすべて人の手によって行われていました。しかし最近は熱の出ないフェムトセカンド(フェムト秒=1,000兆分の1秒単位のこと)レーザーをメス代わりに使用して手術を行う施設も出てきています。
白内障手術で「前嚢切開」と呼ばれる重要な手技があります。水晶体のふくろの前の部分を直径4.5~8mmくらいの円形に切り取ります。正確な前嚢切開は眼内レンズを長期的に必要な位置に安定化させるため白内障手術成功の基本です。熟練した執刀医は狙いに近い大きさで、円形に近く真ん中付近に前嚢切開をできますが、コンピューターが行うレーザーによる正確さにはかないません。また、レーザーで水晶体の中身をあらかじめ分割しておくと、中身を超音波処理して吸い出す操作で目にかける負担が減ります。

この記事では、フェムトセカンドレーザーによる白内障手術がどのようなものか、どうして現在はレーザー手術が必要とされているのかなどについて詳しくご紹介していきます。

白内障手術で行う2つのこと、水晶体の中身を超音波機器で砕いて吸い取る+眼内レンズに置き換える

フェムトセカンドレーザーを使った白内障手術についてご説明する前に、白内障手術がどのような手順で行われるかをご紹介します。
※これは医師の手により手術をする際のステップです。

①まず黒目(角膜)のふちをメスで2〜3ミリ切開します。
②針や鑷子(せっし)を用いて、水晶体のふくろの前側(前嚢;ぜんのう)を丸く切り取ります(前嚢切開)。
③②の切開部分から超音波装置を入れて、水晶体の中身を超音波の高速振動で粉々に砕き、吸引・除去します。
④丸く畳んだ人工の眼内レンズを空になったふくろ(嚢;のう)の中に挿入し、ふくろの中で広げて正しい位置に固定します。

多焦点眼内レンズの挿入には、高精度の切開が不可欠

フェムトセカンドレーザーは、レーシック手術や角膜移植などで使われてきました。ではどうして、従来の術式でも安全に白内障手術が行われてきたのに、レーザー技術が白内障に応用されるようになったのでしょうか。

それは、多焦点眼内レンズと呼ばれる眼内レンズの登場が関係します。
従来の眼内レンズは、遠くか手元か、どちらかにしかピントが合わない単焦点でした。しかし現在は、遠く・中間・手元の3つの距離にピントの合う多焦点眼内レンズや、乱視矯正ができるトーリック眼内レンズなど、多機能の眼内レンズが使われるようになりました。多機能になるほど、眼内レンズを予定した位置に正確に固定する必要性が高まったのです。

多焦点眼内レンズの機能を最大限発揮するには、水晶体のふくろの中央に傾かずに位置し続ける必要があります。トーリック機能のあるレンズは、乱視の軸に正確に合わせて固定する必要があります。すなわち、これまでよりも正確な手術が要求されるようになったのです。

そのため測定機器としては、別の記事でご紹介する白内障手術ガイダンスシステムを用いて、術前に正確に目のかたちを測定して、術中に前嚢切開の位置、角膜切開の位置、トーリック眼内レンズの軸の位置などを正確に表示するシステムが開発されました。そして、手術機器として開発されたのがフェムトセカンドレーザー白内障手術装置なのです。白内障手術ガイダンスシステムで測定した目の情報を設計図にして、正確に前嚢切開、角膜切開などを行えるようになりました。

眼内レンズの進化とともに必要不可欠な存在として発達した白内障手術ガイダンスシステムとフェムトセカンドレーザーは、高機能眼内レンズのパフォーマンスを最大限に発揮するのに効果的なのです。

3焦点レンズ「ファインビジョン」(PhysIOLより)

フェムトセカンドレーザーによるレーザー白内障手術は、従来の医師の手によるいくつかの手術操作を、目の中の手術を行う直前に行います

①点眼薬による麻酔のあと、眼球表面に目を固定する器具(サクションリング)を取り付けます。

②レーザーで、水晶体を包んでいるふくろの前側(前嚢)を切開し、水晶体を分割、角膜の切開をします。

③レーザーで水晶体を分割し、吸い出します。

⑤人工眼内レンズを挿入・設置します。

フェムトセカンドレーザーによる白内障手術を可能にする機器の1つ、LenSx(レンズエックス)(手術画像および手術機器:Alconより)

レーザー白内障手術の優れている点は?

①眼内レンズの固定が、より正確にできる

従来の眼科医の手による手術では、医師の経験と技術により左右される部分が非常に大きいという現実があります。特に前嚢切開は切開面が眼内レンズの縁に360度かかるように、適度な大きさで正円に中央に作成する必要があります。これがうまくいかないと、術後のふくろの収縮で眼内レンズの傾きが増えたり、偏位したりするリスクがあるのです。熟練の医師でも、常に適した前嚢切開ができるわけではありません。

一方のレーザー白内障手術では、目の形状や位置などの計測・解析をガイダンスシステムで行うことで、前嚢切開の位置や大きさなどを正確に設定することができます。
この設定をもとにコンピューター制御されたレーザーが切開を行うことで、中央に設定した大きさの正円の切開を行うことができるのです。まさに、ミリを超えたミクロン単位での精密な手術が可能になります。この精密な切開こそが、術後長期に適切な位置に眼内レンズを固定するために望まれることなのです。

②傷口(創口)の長さや角度などを精緻に設定できる

フェムトセカンドレーザーは、白内障手術で使用される前は、レーシック手術や角膜移植などで用いられていました。フェムトセカンドレーザーは、角膜を立体的に、かつ角度や深さ、形を正確に切ることができるため、術後に角膜の面と面がふさがりやすい切開をすることが可能です。
レーザー白内障手術では、手術の前にガイダンスシステムで角膜の切開創の長さ・深さ・位置などを計測し、レーザー手術のシステムに入力。患者さんの角膜のカーブ角度に合わせて切開します。そのためきわめて精緻な切開が可能になっています。

③角膜内皮細胞へのダメージが少ない

白内障手術では、濁った水晶体を超音波の力で粉々に砕いて取り出します。このとき、もっとも気をつけなければならないのは、超音波による「角膜内皮細胞」へのダメージです。角膜内皮細胞は、角膜のいちばん内側にある細胞で、角膜を透明に保つ役割を果たしています。またこの細胞は、一度傷ついてしまうと再生しません。細胞の数が一定以上減ってしまうと角膜の濁りを招き「水疱性角膜症」という角膜移植が必要な病気になります。
レーザー白内障手術では、水晶体をあらかじめレーザーで切って分割おくことで使用する超音波の量を減らすことができ、角膜内皮細胞へのダメージも最小限にすることができます。

④難症例でも前嚢切開や水晶体破砕がしやすい

白内障が進行していると、手術の難易度は当然ながら高くなります。
例えば今までの手術では、水晶体を包んでいるふくろである前嚢を切開する際、進行した白内障では水晶体が真っ白であるため、前嚢もよく見えず、染色液で染めて前嚢切開を行いました。しかしレーザー手術であれば事前にガイダンスシステムによる計測・解析をし、その入力結果に則って切断をするため水晶体が真っ白であっても問題にはなりません。
また水晶体の粉砕でも、進行した核白内障では水晶体が固くなっているため、通常の手による手術では超音波のエネルギー量も時間も多く必要になります。しかしレーザー手術なら固くなった水晶体を予めレーザーで切っておく(分割しておく)ことができるためエネルギー量も時間も最小限にすることができます。
また、水晶体は周囲の無数の線維であるチン小帯により固定されていますが、チン小帯が弱かったり、切れていたりすると前嚢切開も超音波による破砕・吸引も格段に難しくなります。レーザーは、チン小帯に負担をかけずに正確な前嚢切開が可能で、超音波時間も短くチン小帯への負担を減らすことができます。

⑤もともとあった乱視を減弱させるための切開が可能

少し難しい話になりますが、乱視には垂直方向の曲率が強い直乱視と、水平方向の曲率が強い倒乱視があります。この曲率の強い方向から角膜の切開創を作成すること(強主経線切開と呼びます)で、患者さんがもともともっている乱視を減らすことができます。
曲率の強い方向から角膜の切開をすることは、レーザー手術が導入される前から行われていましたが、ガイダンスシステムが使用されるようになり、さらに正確な強主経線切開が可能になっています。

白目に疾患のある方や、目の小さな方はレーザー手術が適用にならない場合も

ご紹介してきたように、レーザー白内障手術は非常に優れたものです。しかし一部の方では適用にならないケースもあります。
手術では、レーザー白内障手術の手順にあるように、サクションリングという器具で固定するため、白目に翼状片などの疾患があると器具に吸い付けることができず固定できません。またまぶたの狭い方はサクションリングが入らず適用できません。瞳の開きが悪い方は虹彩にレーザーが当たってしまうため適用になりません。

板谷院長のひとことアドバイス

目は精密な器官です。白内障手術は単に濁りを取り除くだけではなく、乱視や老眼を治す屈折矯正手術の時代になり、より正確な手術が求められるようになりました。フェムトセカンドレーザーによる白内障手術は、白内障手術ガイダンスシステムとともに、白内障手術の正確性と再現性を追求した最先端の技術なのです。

まとめ

  • フェムトセカンドレーザーによる白内障手術は手で行う手術の一部を手術直前に自動で行います。
  • 白内障手術ガイダンスシステムと連動することで、正確な位置と大きさ、深さ、角度に切開することが可能です。
  • 乱視矯正が可能なトーリック眼内レンズ、多焦点眼内レンズなどの“高機能眼内レンズ”では、従来の手による手術より、さらに正確で再現性の高い技術が求められるため、フェムトセカンドレーザーが実用化されました。
  • 難症例でも対応可能です。
  • 水晶体を取り出す際に、あらかじめレーザーで分割することで角膜内皮細胞への影響を最小限にすることができます。
  • 白目に疾患があったり、まぶたの開きが小さかったりする場合には、適用外になることがあります。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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