眼科手術において手術顕微鏡の登場は画期的でした。今日のあらゆる眼科手術の基本は手術顕微鏡の登場とともに確立されてきたと言っても過言ではありません。そして現在、3次元のモニター画像を見ながら目の手術ができるシステム(眼科用3次元映像システム)が登場し、医師だけでなく患者さんの負担も軽減できるようになっています。私も朝の10時から夜の9時頃まで手術するのですが、その間私はずっと手術顕微鏡の接眼レンズを覗きながら同じ姿勢で長時間がんばっています。腰や首に良いわけがありません。実際、腰や首を痛める術者は多いのです。眼科用3次元映像システムによる3Dデジタル手術は接眼レンズから解放され、姿勢の自由が得られるのです。

特にメリットが高いのは、硝子体手術(しょうしたいしゅじゅつ)です。手術野がデジタル画像に変換されるため、病変部を強調して表示したり、眼内照明の明暗差で見えにくいところを見やすくしたりして医師も手術がしやすくなりますし、眼底を照らす光量を減らして画像処理で明るくすることで患者さんにとっても網膜への光毒性が軽減し黄斑部にも優しい手術が可能になっています。

眼科用3次元映像システムを使用した3Dデジタル手術とはいったいどんなものなのか、わかりやすくご紹介していきます。

眼科用3次元映像システムとは?

HDRという言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。HDRとは、High Dynamic Rangeの略で、明るさのレンジ(幅)を拡大する技術のことです。従来のSDRより、さらに広い明るさのダイナミックレンジを表現できるようになりました。最近では、映画やブルーレイディスクなどでもHDR映像の作品が登場しています。

HDRの技術により対象を鮮明な映像で表現することができます(以下、写真はAlcon社ホームページ[https://www.alcon.co.jp/news/media-releases/20170123-ngenuity]より引用)

3つの画像を見比べていただくとわかるように、HDRで撮影した画像は、本来は陰になってしまって見にくいような部分まで鮮明に見えるのがわかります。

このHDRビデオカメラを搭載した、眼科用3次元映像システムが「NGENUITY® 3D ビジュアルシステム(エンジェニュイティ スリーディ ビジュアルシステム)(Alcon社)」です。はんがい眼科では、このシステムを採用しています。

NGENUITY® 3D ビジュアルシステム(エンジェニュイティ スリーディ ビジュアルシステム)(Alconより)

手術の際には、眼底を3DビデオHDRカメラで撮影し、その映像をハイスピードで最適化してモニターに映します。その映像を映し出す、3Dデジタル高解像度の4K大型モニターを専用の偏光メガネをかけて見ることで、繊細な眼底組織を鮮明で奥行きのある映像として見ることができます。

硝子体手術とは、網膜や黄斑、硝子体の出血や濁り、網膜剥離などの障害を治療する手術

眼球内の大部分は、硝子体という無色透明の組織で満たされています

硝子体とは、水晶体の奥にあって、透明で卵白のようなドロッとしたゼリー状の組織のことです。眼球の形を保ち、透明であることで目の中に入る光を網膜に届ける役目を果たしています。
この硝子体が加齢とともに起こる後部硝子体剥離により網膜を引っ張ったりすると、 網膜剥離や黄斑円孔などを起こしますし、また糖尿病網膜症や網膜静脈分枝閉塞症などによって網膜から硝子体に新生血管が侵入し、硝子体出血や増殖変化を引き起こします。
こうした目の奥にある硝子体の問題を解決し、黄斑の機能を回復させるための手術が硝子体手術です。

硝子体手術では、目に小さな穴を3つまたは4つあけ、そこから小さな器具を目の内部に挿入し、目の中の出血や濁りを硝子体と共に取り除きます。症状に応じて器具を取り替えながら網膜や黄斑表面に癒着した黄斑前膜や増殖膜を剥離除去します。病気によっては網膜の1番表面にある内境界膜という3~5ミクロンの薄い膜も剥離除去し治癒率を高めます。

硝子体手術の難しさは、硝子体も黄斑前膜も内境界膜も透明であることです。また、網膜は神経であるため簡単に壊れてしまう弱い組織です。網膜を傷つけずに薄い透明な膜を剥離除去するというデリケートな手術操作が求められます。このため、組織がよく見えることが最も重要です。
まず強い光で照らします。また、硝子体や内境界膜を染める染色液が用いられます。いわば目の中という洞穴で、いかに透明な組織を見やすくするかが課題でした。眼科用3次元映像システムを使用した3Dデジタル手術は、この課題に役に立つのです。

眼科用3次元映像システムは何がすごいの?

陰や濁りにジャマされず、クリアな視界で眼底の手術ができる

手術で一番大事なことは、術野がよく見えるということです。硝子体手術は目の一番底(奥)の部分を治療するため、術野は真っ暗です。このため、強い照明で照らし出して手術を行います。
「網膜光障害」という言葉がありますが、網膜は強すぎる光にある時間さらされると障害を受けます。例えば、日食の時など太陽を見つめてしまい真ん中が見えなくなる患者さんがいます。このため硝子体手術でも強い照明を長時間しないほうが良いのですが、透明な薄い膜を網膜から剥がす操作では、暗いと見えにくいため照明を強くしがちです。眼科用3次元映像システムを使用した3Dデジタル手術では、光量を半分に減らして画像処理で2倍に明るくする、という方法ができるため網膜光障害のリスクを減らすことができます。
 また、High Dynamic Rangeで、照明の影になり見えにくいところが改善されますので、眼底全体をより良く俯瞰しながら手術できるようになるのです。

眼底手術をするうえで、クリアかつ広角の視界が得られることは大きなメリットになります(Alconより)

手術用顕微鏡を通して生の術野を観察するのに対して、3次元映像システムは、さまざまな画像処理を行い手術操作に有利な見え方に加工することが可能です。例えば、デジタルフィルター機能を使ったカラーコントラスト調整により、見えにくい透明な膜を強調することができます。上記右は、染色された増殖膜を強調して表示させたものです。組織の可視化をサポートすることで、手術をする医師を助けてくれます。

手術室にいるすべてのスタッフが同じ映像をリアルタイムで共有

このシステムがすごいのは、手術をしている医師だけでなく、手術室にいるスタッフ全員が映像をリアルタイムで共有できることです。そのため手術室内のコミュニケーションがスムーズになります。
さらには若い医師や看護師への優れた教育ツールになります。「百聞は一見にしかず」の通り、術者と同じ映像を見ていただき、説明することで理解が共有できます。術後に録画された映像を3Dで見られるので、医師や看護師への映像教材として活用することが可能です。

疲れにくい姿勢で治療に臨めるため手術で最高のパフォーマンスを出せる

エンジェニュイティを使用すると楽な姿勢で手術を行えることもメリットの1つです(Alconより)

はじめに述べましたように、術者は接眼レンズから自由になります。左側の写真をご覧いただくとおわかりいただけますうように、従来の光学顕微鏡を覗きながらの手術では、不自然な姿勢で長時間接眼レンズを見続ける必要がありました。しかし右側の写真(3次元映像システム)では、普通に座った姿勢で目の前のワイドスクリーン・ディスプレイを見ながら手術ができます。

私の一週間は、火曜午前と木曜日終日が手術日になっています。木曜日は、10時から18時まで予定を組みますが、緊急の手術が入ることが多く、20時頃まで手術を行います。その間、お昼休みをはさんで9時間の間、ずっと手術用顕微鏡を覗いているということになります。これが年中ですと、身体への負担を感じます。実際、手術を行う眼科の先生は首や腰を痛める先生が多いのです。3Dデジタル手術は、大モニターを見て行う手術ですから、顔や身体をある程度動かしても問題ありません。身体への負担の少ない手術といえます。

板谷院長のひとことアドバイス

今日の眼科手術は、手術顕微鏡の登場により劇的な進歩を遂げました。今日の洗練された眼科手術があるのは手術顕微鏡のお陰だと言っても過言ではありません。これに、3次元映像システムによる3Dデジタル手術が加わりました。今後の発展が楽しみです。

まとめ

  • 眼底疾患(網膜剥離・黄斑円孔・黄斑前膜・糖尿病網膜症など)を治療するための硝子体手術をサポートしてくれます。
  • HDRビデオカメラを搭載しているため、明暗による見えにくさが解消された画像が得られます。
  • 従来の光学顕微鏡と比べて、光の量を減らして鮮明な映像を得ることができます。
  • 光量の減少により黄斑部へのダメージも最小限に抑えられます。
  • 手術室のスタッフ全員で手術中の映像を共有でき、コミュニケーションと教育がスムーズになります。
  • 執刀する医師は、手術中の頸椎などへの負荷が軽減され、体への負荷が軽い状態で手術に臨めます。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ