白内障の主な症状としては、以下のものがあげられます。
- 光がまぶしく感じる
- 暗いときと明るいときで見え方が違う
- ものが幾重にも重なって見える
- 視野全体が白っぽくかすんでしまう
しかし、白内障の種類によって、それぞれの症状の強弱や、現れるタイミングは異なります。以下では、白内障の種類ごとに詳しい症状をご紹介いたします。
目次
治療をして初めてそれまでの見え方が異常であったと気づく
人は誰しも加齢とともに、その水晶体は徐々に濁りを増し、色の見え方も黄色っぽく見えるようになります。ただこれはゆっくりと進行していくため、初期の間はその変化に気づくことは稀です。
白内障の手術を受けた患者さんが、手術を受ける前の見え方と比較して「こんなに黄色くくすんだ見え方だったんだ」と初めて気がつかれます。
「世の中はこんなに青っぽくクリアだった」のかと。
白内障手術により、若い頃には当たり前だったクリアな見え方を取り戻すことができるのです。
白内障の治療は点眼?
初期の頃であれば点眼薬によって白内障の症状の進行スピードを遅らせることもできますが、白内障に用いる点眼薬には白内障を治す力はなく、成分的にみてもそれほど強いものではありません。
白内障初期段階の方が行う点眼薬による治療というのは、あくまでも進行スピードを遅らせるものであって、実際には白内障予防薬を点眼していても白内障は進んでいきます。たとえ効果があったとしても、くすんだ黄色い見え方が続く人生はつらくありませんか?
白内障点眼薬による治療は進行スピードを遅らせるもの
「核白内障」
それはまるで、ひっそりと身を潜める忍者のよう!?
白内障の濁り方にはいろいろあり、濁り方により初期の症状は異なります。「核白内障」は、水晶体の核とよばれる中心部が黄色く濁っていくタイプです。
しかし、初期の段階では視力は落ちにくく、あまり自覚症状が現れないことも少なくないのです。自覚症状を感じたとしても、「何となく視力が落ちてきたなあ」くらいなものでしょう。
ですから、そろそろ今の眼鏡を作り直したい、目が疲れるから目薬が欲しいなど、他の理由で医師に相談をしようと眼科を受診したところ、医師から突然「水晶体が黄色く濁っています。かなりの白内障です」と告げられることも十分にあり得る話なのです。
自覚症状がほとんどないのに、急に「あなたは白内障ですよ」と告げられるなんて、びっくりしてしまうと思います。40代や50代の方など年齢が若い方であれば、まさに青天の霹靂だと感じることもあるでしょう。
つまり、核白内障のために近視が進み、メガネやコンタクトレンズが合わなくなって受診された際に、初めて気づくことがある。それが核白内障なのです!
たしかにそこにいるのに、まるでいないかのような身の潜め方をする……核白内障は、まるで凄腕の忍者のようではありませんか!
忍者のような「核白内障」
「皮質白内障」
まぶしさやダブって見える苦痛に耐えられない!
まぶしい!ダブって見える!皮質白内障
皮質白内障は、水晶体の核のまわりを取り巻いている皮質が白く濁るタイプの白内障です。
視力が落ちる前から、まぶしさやものが三重に見えるなどの症状に悩んで受診されます。皮質の濁りがあると、光が様々な方向に反射して(散乱して)、まぶしく感じるのです。対向車のヘッドライトや街路灯の明かりがぎらついたり大きな光の輪のようになってしまい、周囲の車や人が見えなくなるため、夕方の運転が怖くなったり、夜の外出が億劫になったりしやすくなります。
また、普通なら天気の良い昼下がりの外出というのは気持ちの良いものであるはずなのですが、皮質白内障の方にとっては光がまぶしすぎて目を開けていられず、苦痛の外出になってしまうこともあるのです。
「もしかしたら、白内障かもしれないな」と眼科を受診される方に圧倒的に多いのは、上記のような「光のまぶしさ」に悩まされる場合です。
ものが幾重にも重なって見えたり、視界のかすみを訴える方もいらっしゃいますが、それよりも何よりも光のまぶしさに耐えられないことのほうが多いのでしょう。
実際の光を通常以上にまぶしく見える様子
「後嚢下(こうのうか)白内障」
急に視力が落ちてきた!
水晶体のふくろの後ろの部分を後嚢(こうのう)といいます。
後嚢
後嚢に沿ってすりガラスのように濁るのが後嚢下白内障です。急にかすんで見えにくくなります。日中、屋外に出ると強いまぶしさを感じるなど皮質白内障と同様な症状がありますが、急に自覚するのが特徴です。糖尿病や全身疾患があったり、ステロイドの投与を行われている方に多い白内障です。
急に見えにくくなる後嚢下白内障
「前嚢下(ぜんのうか)白内障」
若いのに見えにくくなってきたら要注意!
水晶体のふくろの前の部分が前嚢(ぜんのう)です。
前嚢
前嚢の下が白く硬い感じに濁るのが前嚢下白内障です。比較的若い方に見られます。アトピーを患う方に多い白内障です。水晶体の前面の中央から濁りが始まりますので、明るい場所では瞳が小さくなるため見えにくくなります。
若い人に多い前嚢下白内障
水晶体は加齢によって硬くなるし、濁っていきます
目の見えづらさを感じると、多くの方は老眼を疑うでしょう。
水晶体は、薄いふくろに無色透明の柔らかいグミが入ったような構造をしているのですが、歳を重ねるごとにこのふくろの中身の柔らかさが失われ、硬くなってしまいます。柔らかいが故にその厚みを柔軟に変えることができ、またそれによりピントを合わせる役割を果たしていたのに、ふくろの中身が硬くなって伸び縮みの幅が悪くなれば、当然ピントが合いづらくなりますね。
これが老眼の仕組みです。また、水晶体は加齢によって徐々に硬化するだけでなく、ゆっくりと濁っていきます。
その濁りによって鮮明に見えなくなってくるのが白内障なのです。
老眼も白内障も水晶体の病気なのです。
どちらにしても、見えにくくなる原因は水晶体にあるのですが、老眼と白内障ではその原因が違います。
また、水晶体というのはよくカメラのレンズにたとえられる部分ですが、両者は決定的に違うことがあるのです。それが、一度濁った水晶体は白内障発症前のクリアな状態に戻すことができないということ。カメラのレンズなら、濁ったりくもったりした時にはレンズクリーナーで拭けば済む話ですが、水晶体においてはそうはいきません。一度濁った水晶体を、クリアな状態に戻すことはできないのです。
目の濁りについては、こちらのコラムでもご紹介しております。
白内障は誰もがかかりうる病気です
若ければ40代で発症
白内障は高齢者の方が患う眼病だというような認識をお持ちの方も少なくないと思いますが、実は白内障を発症する年齢は様々で、加齢性白内障の場合は早ければ40代から発症することもあります。
特に、近視が強い方は40代でも核白内障が進みさらに近視になることが多いのです。60代では70%、70代では90%、80歳になるとほぼ100%の方に白内障の症状が見られると言われています。ちなみに、白内障は片目にのみ現れることもありますし、両目ともにかかることもあります。
自律神経の乱れが発症の可能性を高める
最近の研究では自律神経のバランスが乱れて交感神経の緊張状態が続くと、顆粒球(かりゅうきゅう)と活性酸素の増加により化膿性の炎症や組織破壊による炎症が起きるため、白内障にかかるリスクが上がることも分かっています。白内障の原因は加齢によるものが圧倒的に多いのですが、その他にもこのような理由から白内障になることもあるのです。
ちなみに、目の周りに受ける激しいダメージや継続的に受ける刺激から白内障を発症することもありますし、まれではありますが先天性のものもあります。
失明率1位は白内障
これだけ発症率の高い病気であるということもあり、世界的にみると失明原因としては白内障がダントツで1位です。
白内障は正しい治療を行わなければ失明する可能性がある病気ですが、日本においてはその高い医療レベルと国民皆保険制度によって白内障での失明率はたったの3%程度※にとどまっており、それほど高いものではありません。現代の日本では、白内障は手術で治せる病気となりました。
さらに補足しておきますと、白内障の手術自体は年間100万を超える件数が執り行われている“かなりメジャーな手術”となっています。
白内障の手術は水晶体の代わりに“単焦点眼内レンズ”もしくは“多焦点眼内レンズ”を挿入します。
※参照:白内障手術をめぐる現在の環境 – 日本眼科医会
眼内レンズ
白内障の手術については、こちらのコラムでもご紹介しております。
白内障を治せば、その後の人生は素敵に色づく!
白内障手術のタイミング
白内障手術のタイミングは、一人一人のライフスタイルや仕事の都合等によって決めるのが良いでしょう。
具体的には、
- 車の運転をするかどうか?
- するとしたらどれくらいするか?
- 夜間の運転をするか?
- ゴルフやテニスなどのスポーツをするかどうか?
- 趣味は何か?
- PCをよく使うか?
などです。
たとえば、車の運転をされる方は、まぶしさの影響で車の運転に危険を感じた場合や、矯正視力が0.7以下になり運転免許の更新ができなくなった場合には、手術が必要でしょう。
日常的には、視力低下や目のかすみ、まぶしさなどにより生活に支障をきたした場合が、手術のタイミングです。
さらには、緑内障や眼底の病気があるのに、その病気の診察や管理が十分にできないほど白内障が進行した場合も手術が必要です。
放置すると緑内障を併発する危険が
実は、白内障に侵された水晶体を放置しておくと、日本の失明率第1位の緑内障を併発する可能性があるのです。
白内障により水晶体が膨らむと、前房内にある房水が出口を失い眼圧が急激に上昇し、激しい頭痛や酷い吐き気に襲われます。
これが急性緑内障発作というもので、場合によっては一晩で失明する可能性もある危険な病気です。そのため、急性緑内障発作を起こした場合(もしくは、起こす可能性が高いと考えられる場合)や緑内障の病状管理に支障をきたす場合も、医師の立場からすれば白内障手術に踏み切るタイミングだと言えます。
急性緑内障発作を起こさずにゆっくり緑内障になっていく慢性的なものもあり、併せて閉塞隅角(へいそくぐうかく)緑内障と言います。
水晶体の病気は3つあり、「濁って白内障、硬くなって老眼、大きくなって閉塞隅角緑内障」なのです。
緑内障については、こちらのコラムでもご紹介しております。
白内障手術をすることで、発症前のクリアな視界を取り戻すことも、コントラストが落ちて淀んで見えていた世界を払拭することもできます。そう考えていくと、キラキラとした色づきを取り戻したいと思った時こそが白内障手術のベストタイミングだと言えるのかもしれませんね。
板谷院長のひとことアドバイス
視力が良い初期の白内障でも、水晶体の濁りが目の中に入ってくる光を散乱させてまぶしくなったり、ものが3重に見えたりと、生活に不快な見え方を引き起こすことがあります。仕事をされている方や運転やスポーツをされる方は、不快さが募ります。手術により治す適応になります。
まとめ
- 白内障の初期症状は、濁り方により異なります。視力が落ちる前から生じるまぶしさやダブって見えるのは初期ですが辛い症状です。
- 水晶体の病気は3つあります。「濁って白内障、硬くなって老眼、大きくなって閉塞隅角緑内障」に分けられます。
- 手術のタイミングはライフスタイル次第です。他の病気の併発が考えられる場合でなければ点眼で様子を見ることもありますが、手術で見え方は劇的にクリアになります。
執筆者プロフィール
はんがい眼科院長 板谷正紀
京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。
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