白内障の診断を受けた方のなかには、「手術はいつすればよいのだろう……」と迷っている人も少なくないかもしれません。加齢が原因で起こる白内障の多くは、ゆっくりと進行します。そのせいか、「いずれ手術をしたほうがいいのはわかっているけれど、なんとなく怖いし……」と、手術を何年も先延ばしにしている方も少なくないようです。
「白内障手術の最適なタイミング」は、患者さんの目の状態や職業、ライフスタイル、年齢などによって一人ひとり異なります。

今回は、患者さんが「いつ手術をすればよいか」を判断するポイントについて解説したいと思います。ご自身やご家族が白内障と診断されていて、まだ手術をしていない場合、この記事を参考に最適な手術の時期を考えてみてください。

初期の段階から経過観察を

白内障があっても、水晶体の濁りがごく一部に留まっているケースや、軽い濁りが全体に及んでいても生活上の支障がまったくないときは、多くの場合、基本的に手術は不要とされ、経過観察になります。
ただし、経過観察中は症状の変化に常に注意を払い、日常生活の中で何かしらの支障が生じてきたときには、白内障の根本治療である手術を早めに検討することが重要です。手術を先送りにしているうちに治療が難しくなってしまう例もあるからです。

白内障の目

白内障の点眼薬治療について

白内障の経過観察中、一般的な眼科では、白内障の進行を抑えるという点眼薬(ピノレキシンなど)が処方されることがよくあります。しかし残念ながら、こうした点眼薬には、白内障の進行を遅らせるという科学的根拠が人の治験で確認されているわけではありません。仮に進行を遅くする効果があるとしても、それはごくわずかであり、時間が経つにつれて確実に白内障は進んでいきます。

白内障手術を考えたほうがよいとき

それでは経過観察中に、どのような変化が具体的に現れたとき手術の検討を始めればよいのでしょうか。目安にするべきポイントは大きく2つあります。それは「視力低下」と、まぶしさなどの「不快症状」です。

□視力低下を自覚したら手術の時

たとえば、以前と同じ距離ではテレビの画面が見づらくなったり、自動車の運転免許の更新時に一定の基準をクリアできなくなったりして視力の低下を自覚したときは、白内障手術を検討すべき時期といえるでしょう。これは、わかりやすいですよね。

特に運転免許は普通自動車で両眼による視力が0.7以上必要と定められており、メガネ等で矯正してもこの視力が出せなければ、更新することができません。自動車を運転できなくなるのは不便ですので、手術を積極的に検討するタイミングの1つといえます。

「眼科での視力検査では視力が0.7以上出たのに、運転免許更新時の視力検査では0.7でなかった」ということもよくあります。視力検査を行う部屋の明るさが視力の出に影響するからです。
そもそも、視力が低下しているのに運転することは安全性に問題があります。事故は一生を左右します。白内障手術で視力が改善できることが期待できるなら、運転免許証の更新に関わりなく、安全運転のために白内障手術を受けていただきたいと思います。

□核白内障は視力が落ちにくいが薄暮視が悪くなる

核白内障は濁りのわりには視力が落ちにくい特徴があります。また、視力が落ち始めても、ゆっくりゆっくり進むため慣れてしまって、自分はよく見えていると思ってお困りではない高齢者にもよく出会います。
核白内障の目は光を通しにくくなっているため、日中の明るい時間帯は視力が出ていても夕方から視力低下が著しくなる傾向があります。夕方の見え方を薄暮視といいます。薄暗いところで見えにくいと下図のように階段が見えにくくてを踏み外したりするリスクがあります。慣れた自宅ではなんとかなりますが、不慣れなところでは特に危ないです。夕方の運転も危険です。

核白内障

白内障の症状が進むと、暗い場所が見えにくくなります

薄暮視の低下は、コントラスト視力検査で調べることができます。高齢者の方の転倒の原因の1つが視覚の問題にあります。健康な長寿を楽しんでいただくために、ぜひ眼科でコントラスト検査を受けて、見えているつもりが本当かどうか確認いただければと思います。

コントラスト検査用の機器「コントラストグレアテスターCGT-2000」(タカギセイコーより)

コントラスト検査結果の一例。左側は白内障手術前の状態で、コントラスト感度がグレーの正常範囲から低下しています。右側は術後の検査結果で、正常値の範囲に回復しています(タカギセイコーより)

□まぶしいとき

 ある程度の視力が出ていても、光をまぶしく感じるようになり、仕事や生活に支障が生じることがあります。まぶしさは白内障の初期症状です。仕事をされている50~60代でまぶしさがあると強く支障を感じます。特に、運転される方は昼間の日光の照り返しや夜間の対向車のヘッドライトは危険です。
 たとえば、ある50代のタクシー運転手の男性は、矯正視力は1.2ありましたが、夏場の強い日差しや夕方の西日を非常にまぶしく感じるようになり、運転していて危険を覚えたということで、白内障手術を行いました。その後は運転が楽になったと伺いました。もうおわかりですね。白内障手術の適応は必ずしも矯正視力ではなく、白内障がもたらす不快な見え方が仕事や生活に問題かどうかなのです。

実際の光を通常以上にまぶしく見える様子

白内障では濁った水晶体が光を乱反射するため、光を通常以上にまぶしく感じるようになります

□ものが2重、3重に見えるとき

ものが2重、3重にダブって見えるのはとても不快な症状です。よく知られているのは角膜乱視で、正乱視なら2重に、不正乱視なら3重、4重に見えます。多くは、正乱視であり、メガネやコンタクトレンズで矯正できます。意外と知られていないのが水晶体乱視です。水晶体の濁りが不均一な場合に起こる乱視です。問題は、メガネやコンタクトレンズでは矯正できないことです。そのような場合は、白内障手術の出番になります。

水晶体による不正乱視では、例えば月が3つにも4つにも見えることがあります

□目のかすみが気になるとき

目のかすみは、白内障以外にも起こりますので、原因をはっきりさせることが必要です。いつも間にか始まって、年々強まるようなら白内障の可能性が高いです。目のかすみや見えづらさによって、好きなテレビ、ショッピング、スポーツがいままでのように楽しめなかったり、車を運転しづらく感じたとき、問題といえます。はっきり見えてこそ、身体は適切に動き、行為に集中できます。白内障手術で、以前のはっきり見える生活を取り戻してください。

白内障手術を急いだほうがよいケース

白内障には、急激に進む膨化白内障や白内障が進みすぎて起きる緑内障、水晶体融解性緑内障など緊急性の高い白内障もあります。
また、他の目の病気の治療上白内障手術が必要となるケースがあります。白内障は水晶体の病気ですが、他にも水晶体の病気である閉塞隅角緑内障はあまり知られていません。この病気における狭い隅角は白内障手術で治ります。眼底の病気の治療で、レーザー光凝固を行うことがありますが、白内障がレーザー光凝固の妨げになることもあります。このように失明につながる緑内障や眼底疾患の治療のために急いだ方が良いことがあります。

膨化白内障

通常の白内障は年単位でゆっくり進みますが、週単位で急に白内障が進んでしまう白内障があります。数週間前にはちゃんと見えていたのに、みるみる見えなくなったなどの訴えがあります。水晶体には水疱のようなものが無数に観察されることが多いです。膨化白内障は水晶体のふくろの内圧が高まるため、白内障手術が難しくなります。前嚢切開という水晶体のふくろの前の部分を丸く切り取る操作で、内圧のためふくろが裂けやすくなるのです。内圧が少しでも小さい内に手術を受けていただきたいです。

膨化白内障。急激に濁りが強まる白内障で水疱が観察されることが多い

水晶体融解性緑内障

白内障も進みすぎると水晶体の中身が溶け出して眼圧が上昇する緑内障になります。水晶体の中味は、ずっとふくろのなかにあるため免疫寛容が成立しておらず、外に出ると異物と間違われて強い炎症を生じてしまうためです。原因の明らかな高眼圧の治療は、原因を取り除くこと。ゆえに、白内障手術が急ぎ必要です。

水晶体亜脱臼、水晶体落下

加齢、眼外傷、偽落屑症候群などさまざまな原因で水晶体を支える無数の線維であるチン小帯が切れることがあります。そうなると水晶体は前方に飛び出すか、後方の眼底に落ちるしかありません。前方の前房内に飛び出す場合が、水晶体亜脱臼で眼圧が上昇します。眼底に落ちるのが水晶体落下です。水晶体亜脱臼における眼圧上昇の原因は、亜脱臼そのものですので、早急に水晶体を全摘します。落下した水晶体も硝子体手術で除去します。もはや眼内レンズを入れるふくろはありませんので、眼内レンズは強膜内固定法または眼内レンズ縫着術で固定します。

水晶体亜脱臼の目。水晶体を支えるチン小帯が切れて前房に飛び出して、眼圧が上がってしまいます

閉塞隅角緑内障または閉塞隅角症を併発しているとき

加齢により水晶体は濁っていきますが、同時に大きくなっていくことは一般に知られていません。水晶体が大きくなると遠視や正視の方は目のつくりが小さめですので、虹彩を前へ押して目の中の水分である房水の流れを妨げ眼圧が上昇します。これにより、視神経乳頭が傷つき視野障害が出現したら閉塞隅角緑内障、傷つく手前なら閉塞隅角症です。急性緑内障発作のリスクも高まります。これは、急激に眼圧が何倍にも上昇し眼痛、頭痛、吐き気で救急のお世話になる病気です。レーザー虹彩切開術で虹彩の根元に孔を開ければ急性緑内障発作は防げますが、慢性閉塞隅角緑内障のリスクが残ります。水晶体が大きくなって起きる病気ですので、白内障手術で薄い眼内レンズに置き換えることで閉塞隅角は根治します。一旦、視神経乳頭が傷ついたら視野障害は進みますので、閉塞隅角が根治した後でも、眼圧と視野を管理して治療を継続する必要があります。

緑内障のある目の白内障

緑内障は進行すると視野が徐々に欠けていくため、眼圧を下げる点眼治療を行いながら、定期的に視野検査を行い視野障害の進行のスピードを調べていきます。視野障害の進行が許容できない速さであれば、さらに眼圧を下げる治療を強化するのです。
ここで白内障が問題になります。白内障が進行しても視野障害は進行しますので、視野障害の進行が速いとき、緑内障が進行したためか?白内障が進行したためか?判断に迷ってしまいます。治療強度を上げる中には、緑内障手術も含まれますので、この判断はとても重要です。
緑内障のある目で白内障による視力低下が始まったら、早めに白内障手術を受けて緑内障の管理がスムーズに進むようにしたいものです。

レーザー治療が必要な糖尿病網膜症や網膜裂孔があるとき

飛蚊症が出て眼底検査を行うと網膜裂孔が見つかることがあります。網膜剥離に進展すると網膜剥離手術が必要になります。まだ、網膜剥離を伴っていなかったら、レーザー光凝固術で焼き固めれば網膜剥離を予防できます。
ところが、白内障があるとレーザーで網膜裂孔を囲みきれない場合、白内障手術が必要になります。白内障の濁りは水晶体の周辺から始まることが多いため、まだ視力が落ちていなくてもレーザーを妨げることが起こります。網膜裂孔は網膜の端に近いところに起こりやすく、ちょうど水晶体の周辺を通してレーザーを打つからです。孔が危険なら、白内障手術だけでは無く硝子体手術との同時手術を行います。

同様に、糖尿病網膜症の汎網膜光凝固術が十分にできない場合も白内障手術を考慮します。糖尿病網膜症は、悪化すると広い範囲の毛細血管に血液が流れなくなり、失明につながる激しい合併症を起こします。防ぐ方法は、可能な限り早急に汎網膜光凝固術で網膜を豆まき状にレーザー凝固することです。網膜の周辺までしっかり凝固することが重要ですが、白内障の濁りが強いと妨げになることがあります。
この場合、白内障手術を行いますが、逆に水晶体というバリアが無くなりますので、血管新生緑内障のリスクに留意する必要があります。

板谷院長のひとことアドバイス

私が研修医の頃は、やっと眼内レンズを入れる白内障手術が広まりだした頃で、手術のリスクも今より高かったため、矯正視力が0.7以下などと視力だけで手術適応を決めていました。現在、白内障手術が安全になり、乱視や老眼も治せる眼内レンズも定着した今、白内障手術のタイミングは、一人ひとりの年齢、仕事、ライフスタイルなどを考えて、その方のより良い生活に必要と判断されるなら、それが白内障手術のタイミングだと思います。

まとめ

  • 初期で、生活や仕事に支障が感じなければ、手術をせずに経過観察によって症状の変化を注意深く見守ります。
  • 視力低下や、まぶしさ、ものが2,3重に見える、目のかすみなどの不快な症状が生じてきたら手術を検討しましょう。
  • 特殊な白内障や、緑内障・糖尿病網膜症のある人では、手術を急いだほうがよいケースがあります。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ