網膜とは、眼球を部屋に例えると壁紙のような存在です。眼球の内側に貼られていて神経が張り巡らされた薄い膜といえばいいでしょうか。この壁紙(網膜)が壁から剥がれてしまうのが網膜剥離(もうまくはくり)です。

網膜が剥がれる原因にはいろいろありますが、網膜に孔(破れ目・裂孔)が開いて、そこから周りに向かって土台から剥がれてくるタイプを「裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)」といいます。

裂孔原性網膜剥離は、若い世代に起きるタイプと、中高年世代に起きるタイプがあります。両者とも治療は手術により行われますが、手術の方法が違います。若い世代に行う手術は「強膜バックリング」という術式で行います。

強膜バックリング手術とはどのようなものか、詳しくご紹介していきます。

ひとくちに網膜剥離といっても、若者と中高年では原因が違う

網膜剥離の原因には大きく分けて二つあります。
一つは「裂孔原性網膜剥離」です。網膜の一部がとても薄くなり、そこにすり切れたような孔が開いて剥離が起こるタイプで、これは20代前後(多くは20歳前後)という若い世代がほとんどです。

もう一つは、網膜と硝子体の異常な癒着による「後部硝子体剥離」です。硝子体とは眼球内の大きな空間を占める透明な組織ですが、年齢を重ねるとコラーゲン繊維が液化し、縮んでしまいます。すると網膜から硝子体が離れますが、きれいに離れれば問題ありません。しかし、網膜と硝子体が強く癒着している部位があると、網膜が硝子体から離れる際に引っ張られ、網膜が裂けてしまうことがあります。このタイプの網膜剥離は60代以降でよく起こりますが、強度の近視の方の場合はもう少し早い年代で起こることがあります。

網膜剥離が生じやすい年代には、20代前後と50代以降の二つがあるのです。

網膜剥離のタイプにより、手術をする時期や術式が違う

若い世代の裂孔原性網膜剥離は、強膜バックリング術

若い世代に多い裂孔原性網膜剥離は、ゆっくりした進行が多いので黄斑部(おうはんぶ)が剥離していなければ、学校や仕事などの都合を考慮して手術をする時期を決めます。術式は、「強膜バックリング」により行うことが多くなっています(このあと詳しくご説明します)。

中高年の後部硝子体剥離は、硝子体手術

一方、中高年に多い後部硝子体剥離はとても進行が早く、治療をしないと網膜剥離が広がります。迅速に治療を行い、網膜をもとに戻さないと失明しかねません。治療は「硝子体手術」にて行うことが多くなっています。

▲後部硝子体剥離による網膜剥離は、目の内側から治療を行います(詳しい手術の方法については硝子体手術の記事をお読みください)。

強膜バックリング術とは:強膜(白目)をシリコンで外側から圧迫して治す

硝子体手術が眼球の内側から治すのに対して、強膜バックリング術は、眼球の外側から治します。

強膜とは、眼球のいちばん外側を包んでいる「白目」のこと。強膜バックリング術は、シリコン製のスポンジ(バックル)を強膜(白目)に縫い付けることで眼球を圧迫。眼球内部に隆起(土手のようなもの)を作ることで孔をふさぎます。必要な場合は、孔の周りを熱し、または冷凍して凝固し、孔をふさぎます。

ほとんどの場合、局所麻酔で行われます。数十年前に完成したこの術式は、眼球の中を触らなくて済むので非常に画期的なものです。

適切に手術が行われた場合、初回の手術で91〜93%の網膜復位率(網膜が元の位置に戻ること)が得られるという研究結果があります。この術式のメリットとしては、眼球の内部を触らないということ、術後に特定の姿勢(うつぶせ寝)を続ける必要がないことがあります。デメリットとしては、外側から眼球を圧迫するため多少の痛みがあること、眼球に圧がかかって眼球が歪む(凹む)ため、近視の度数が変化する可能性があることなどが挙げられます。

眼球の壁を凹ませて網膜を再接着
液が入りこまないようにする

記事をお読みいただいている方は、どうして孔を内側からふさがないのか、なぜ外側から圧迫するのかという疑問が湧いていらっしゃるかもしれません。

網膜に開いた孔には、硝子体により、眼球の中央に向けて引っ張られる力が働いているため、どんなに頑張っても網膜を眼球壁に再接着させることは難しいのです。そのため眼球壁のほうを凹ませて孔のほうへ近づけることで、孔は眼球壁に再接着。網膜の下に硝子体液という液体が入り込まなくなります。

術後の合併症はまれだが、
起きた場合は適正に対処する

強膜バックリング手術が終わったあとの合併症には以下のようなものがあります。まれにしか生じませんが、もし合併症が起こったとしても適切に処理をすれば問題はありません。

①眼球が動かしにくくなる

強膜を圧迫するスポンジは、眼球を動かす筋肉の下を通すため眼球が動かしにくくなることがあります。そのため両眼視ができにくく、物が二重に見えることもあります。

<対処法>
自然に解消することがほとんどですが、改善しない場合には網膜剥離が完治した1~3カ月後くらいに、シリコンスポンジをはずして様子をみます。

② 増殖硝子体網膜症

網膜の土台にある細胞(色素上皮細胞)が網膜の孔を通って網膜の前に出てきます。これが増殖すると網膜の表面に膜を張り、網膜剥離を悪化させたり、治りにくくなります。これを増殖硝子体網膜症といいます。増殖硝子体網膜症は網膜剥離を放っておくと起こりますが、手術後にも起きることがあり、視力が著しく低下するなどの症状があります。

<対処法>
硝子体手術を行って増殖膜を除去。網膜をもとの場所に戻します。増殖が止まらない場合には、複数回の手術が必要になることがあります。

③ 術後眼内炎

手術後に眼の中で細菌が増殖し、化膿した状態になるのが術後眼内炎です。たいていの場合、術後3日から1週間の間に起こります。

<予防法>
手術室を清浄に保ち、空調にも配慮を行います。さらに術前抗菌薬点眼を使用し、術前眼洗浄を行うなど感染に対して万全を期します。また患者さんには、手術前後の目薬をしっかり使用していただく、術後1週間は汚れた手で眼をこすらない、術後の診察を忘れずに受けるなどの協力をお願いしています。

<対処法>
眼内液を採取して原因となる細菌を調べます。同時に、軽症の場合は抗生物質の点滴を行います。重症な場合は、硝子体手術を行い眼球内の菌を除去し、眼内に直接抗生物質を灌流(かんりゅう)させて菌の増殖を抑えます。

板谷院長のひとことアドバイス

若い世代に起きるタイプの裂孔原性網膜剥離は、「強膜バックリング」という手術で、眼球の外側から治します。
ほとんどの場合、局所麻酔で行われます。眼球の中を触らなくて済むので非常に画期的なものです。
適切に手術が行われた場合、初回の手術で91〜93%の網膜復位率(網膜が元の位置に戻ること)が得られるという研究結果があります。

まとめ

  • 網膜剥離の原因には、大きく分けて「裂孔原性網膜剥離」と「後部硝子体剥離」があります。
  • 裂孔原性網膜剥離は20歳前後の若い人に多く、「強膜バックリング術」という手術方法により治療を行います。
  • 強膜バックリング術は、眼球内は触らず、眼球の外側から治療を行います。
  • 強膜(白目)の外側からシリコン素材のバックルを縫い付け、眼球の内側に土手を作り、孔をふさぎます。
  • この手術では眼球が多少歪むため、近視の度数が変化することがあります。
  • 術後は、特定の姿勢をする必要はありませんが、点眼薬の使用や、診察を忘れずに受けるなど、術後の合併症を防ぐためのご協力をお願いしています。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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