20~50代の働き盛りの方で、突発的に視野の真ん中に異常が起きて、ものが小さく、または歪んで見えたり、視野の中心が黒くなったりすることがあります。さまざまな原因疾患が考えられますが、忙しく働いている男性に特に発症しやすい病気として覚えておいていただきたいのが、「中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)」です。

一言で言うと、脈絡膜の漿液(血液の水分)がもれて水ぶくれが起こって軽い網膜剥離となり、見え方に異常が起こる病気です。自然に治ることも多いのですが、再発しやすい性質があるので注意が必要です。また、いったん治っても、数年~数十年後に黄斑の問題、特に加齢黄斑変性として現れやすい、という事実が明らかになってきました。

男性の発病頻度は、女性の3倍

中心性漿液性脈絡網膜症と聞くと、難しく感じてしまうかもしれません。簡単に説明しますと「網膜の中心(黄斑のことです)で血液や細胞の水分(漿液)が脈絡膜と網膜の間にもれてしまって、軽い網膜剥離を起こしてしまう(網膜症)」病気となります。働き盛りの男性に起こりやすい、というのが大きな特徴で、20~50代、特に30~40代の方に起きやすいことがわかっています。性別で比べると「男性の発病頻度は女性の3倍」というデータもあります。また、生活面では、過労や睡眠不足のとき、ストレス過多の状態のときに発症しやすい、という傾向も見られます。

網膜は脈絡膜というラジエーター的存在に守られている

ではなぜ、目の奥で「水もれ」「水ぶくれ」といったトラブルが起こるのでしょうか。眼球の仕組みから説明してみましょう。
そもそも眼球は、数種類の膜によってつくられています。それらの膜の中で、網膜を外側から覆っている膜が、脈絡膜です。脈絡膜とは、網膜で発生した熱を放熱する「ラジエーター」的な役割を担う重要な組織です。また、網膜に酸素や栄養分を送り届けたり、不要になった老廃物を引き取ったりするため、多くの血管が通っています。そのやりとりの過程で、大事な網膜に酸素や栄養分以外の余計な物質が侵入しないよう、バリア機能を発揮してくれている“関門”的な組織があります。それが、網膜色素上皮です。

網膜のバリア機能が低下すると、水もれや水ぶくれが起き、視野に歪みなどの異変が生じる

網膜の“関門”である網膜色素上皮ですが、何らかの原因でバリア機能が落ちてしまうことがあります。その原因は明確にはわかっていません。網膜色素上皮のバリア機能が低下すると、当然さまざまなトラブルが起こります。主な問題の一つが、脈絡膜の中の漿液(血液の水分)などが網膜側に漏れて、黄斑付近で水ぶくれをつくることです。黄斑付近にできた水ぶくれの周辺では、網膜色素上皮がはがれ、網膜剥離の状態を招きます。その結果、脈絡膜から網膜への栄養補給が途絶えて視細胞の働きが低下し、見え方にまつわるさまざまな問題が引き起こされることになります。

片目ずつ発症し、視力低下は起こりにくい

脈絡膜で水もれや、水ぶくれが起こった結果、どのような症状が起こるのか、ご説明しましょう。症状は片側の目だけに起こることが多く、両目同時に発病することは少ないとされています。けれども、時期が少し前後して、反対側の目にも発病するというケースもありえます。また、多くの方が心配される視力低下については、軽い場合がほとんどです。ただし網膜剥離の期間が長引いたり、再発を幾度となく繰り返したりするうちに、連動して視力も落ちていくということは珍しくありません。

ゆがみ、小視症、中心暗転の3つが主な症状

中心性漿液性脈絡網膜症の主な症状には、ものが歪んで見える変視症、ものが実際よりも小さく見える小視症、視野の中心が暗く見える中心暗点などが挙げられます。原理としては、水ぶくれのせいで、ものが歪んで見えたり、実物の大きさよりも小さく見えたりするというわけです。また、脈絡膜の水ぶくれのせいで網膜細胞の機能が低下して、視野の中央が周辺よりも「暗い」と感じられることがあります。これが「中心暗転」の起こる原因です。

考えられる原因は、ストレスとステロイド薬の2つ

中心性漿液性脈絡網膜症の明らかな原因については「ストレスが悪い影響を与える」という説が主流です。また、近年の研究では、ステロイド薬の副作用で誘発されるという可能性も一部で指摘されています。気を付けてほしいのは、ステロイド薬は、市販薬を含め、さまざまな薬剤に使われているという事実です。「知らず知らずのうちに塗布(服用)していた」というケースがよくあります。たとえば、中心性漿液性脈絡網膜症を治療中のある患者さんは、痔の治療薬を長期にわたって常用していました。もちろん、そこに明確な因果関係があるかどうかは調べようがありませんが、ステロイド薬の副作用で誘発される傾向があることは心に留めておいてください。

OCTアンギオグラフィーで、誰でもスピード診断が可能に

眼の検査機器にも長い歴史がありますが、近年は「OCTアンギオグラフィー」という最新の撮影方式(画像処理技術)のおかげで、診断がより早く、より正確にできるようになりました。今までは、腕の血管から造影剤を注射し、眼底カメラなどで撮影する「蛍光眼底造影検査」が主流で、1回の検査に約15~30分を要していました。また、体質的に造影剤が合わず、吐き気などを起こしてしまう患者さんも少なくありませんでした。「OCTアンギオグラフィー」では造影剤を使わずに、網膜や脈絡膜などの組織を細かな血管レベルまで鮮明に見ることができます。

【OCTアンギオグラフィーが使用できるキャノンの「OCT-HS100」】

OCTアンギオグラフィーが教えてくれた、新生血管の秘密

OCTアンギオグラフィーを利用すれば、細部まで鮮明な画像を得られます。その結果、意外な事実が明らかになってきました。中心性漿液性脈絡網膜症には治りが悪いケースや、慢性的に続くケースもあります。そのような患者さんをOCTアンギオグラフィーで検査したところ約4割に、血管(新生血管)が新しく生じる「pachychoroid neovasculopathy(パキコロイド・ネオバスキュロパシー)」を発症していることがわかりました。これは、加齢黄斑変性の滲出型とされていた病態の一部によく似ており、実は同じ病気なのではないかと考えられています。

つまり、中心性漿液性脈絡網膜症と診断された方で、再発を繰り返すケースでは、これまで加齢黄斑変性として診断されていた、よりやっかいな病気になっていくのだと考えられるのです。

中心性漿液性脈絡網膜症はいったん完治したと思っても継続して経過観察することが大事です。

近年発見されたパキコロイド・ネオバスキュロパシーが難病の解明を一歩進める

「パキコロイド・ネオバスキュロパシー」という病気は、日本語の病名がまだ付けられていません。言葉の解説をしますと、「パキ」=「分厚い」、「コロイド」=「脈絡膜」、「ネオバスキョロパシー」=「新生血管」となります。分厚い脈絡膜は中心性漿液性脈絡網膜症に見られる症状で、そこに実は新生血管が発生しており、さらにそれが実は加齢黄斑変性の一部と酷似していることが分かったというのは、先ほど述べた通りです。

加齢黄斑変性は、日本人の失明原因の上位にある病気ですが、ヨーロッパでは失明原因の1位となっており、非常にやっかいな病気です。そのため、世界中で研究がさかんに行われているのですが、ヨーロッパ人と日本人では発症の仕方が異なることが知られていました。この違いは、加齢黄斑変性とひとくくりにされている病態が、実は全く別の病気の総称になってしまっている可能性を秘めていました。

OCTアンギオグラフィーの登場によって「パキコロイド・ネオバスキュロパシー」という疾患が認識されたことで、より正しく病気をとらえることができるようになりました。今後、中心性漿液性脈絡網膜症と加齢黄斑変性への理解や研究が進み、治療や予防の進歩が期待されます。

治療に踏み切る目安は3~6カ月

中心性漿液性脈絡網膜症と診断されたとしても、たいていの場合は3~6カ月で自然に治ります。けれども、それ以上経っても症状がある場合は、積極的な治療に踏み切る必要があります。また、再発を繰り返しているような場合では、視細胞の機能が低下して、水ぶくれがひいた後も、問題が残りかねません。そのような場合にも、積極的な治療が必要になってきます。

治療法は、薬とレーザー光凝固術の2種類

中心性漿液性脈絡網膜症の治療の大きな目的は、網膜の“関門”である網膜色素上皮の回復を早め、網膜にたまっている漿液の吸収を促進していくことになります。そのため、内服薬での治療や、網膜に溜まっている漿液の吸収を促すためにレーザー光凝固術を行ったりします。

また、まれにですがレーザー光凝固術でも水がひかなかったり、新生血管という異常な血管が発生することもあります。それらを確認するためにも、レーザー光凝固術後に眼底検査を受けることが必要です。また、術後は視細胞の活性化をはかるため、ビタミン薬が処方されることもあります。

上手に気分転換をして、ストレス解消を

中心性漿液性脈絡網膜症が引き起こされる原因は、現状よくわかっていません。けれども睡眠不足や過労、ストレスなどの影響が大きいとされています。特に働き盛りの年代の方ほど、意識的に心身を休めるようにしていきましょう。心身が癒され、元気な状態であれば、網膜色素上皮のバリア機能も健やかに整えられていくはずです。また、休息をとることが難しい状態であれば、定期的に眼科で検査を受けることを習慣化していきましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

中心性漿液性脈絡網膜症は20~50代の働き盛りの男性に多くみられる病気です。ものが歪ん」で見える変視症、ものが実際よりも小さく見える小視症、視野の中心が暗く見える中心暗点といった症状が現れますが、原因はストレスが悪い影響を与えると言われています。予防のためにも睡眠や休息を十分にとり、ストレスをできるだ遠ざけるよう心がけましょう。

まとめ

  • 中心性漿液性脈絡網膜症がいったん治っても、数年~数十年後、同じ部位である黄斑でのトラブルが起こりやすい可能性があります。
  • 中心性漿液性脈絡網膜症の主な症状は、ものが歪んで見える変視症、ものが実際よりも小さく見える小視症、視野の中心が暗く見える中心暗点などです。
  • 予防のためには、睡眠や休息を十分にとり、ストレスを遠ざけていきましょう。

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執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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