本記事は、2020年1月28日に再更新いたしました。

20~50代の働き盛りの方で、突発的に視野の真ん中に異常が起きて、ものが小さく、またはゆがんで見えたり、視野の中心が黒っぽくなることがあります。さまざまな原因疾患が考えられますが、忙しく働いている男性に特に発症しやすい病気として覚えておいていただきたいのが、「中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)」です。一言で言うと、脈絡膜血管から血漿(血液の水分)がもれて網膜の下に溜まって軽い網膜剥離となり、見え方に異常が起こる病気です。自然に治ることも多いのですが、長引いたり、再発を繰り返す重症例があるので注意が必要です。また、いったん治っても、数年~数十年後に黄斑の問題、すなわち加齢黄斑変性として現れやすい、という事実が明らかになってきました。

男性の発病頻度は、女性の3倍

中心性漿液性脈絡網膜症と聞くと、難しく感じてしまうかもしれません。簡単に説明しますと「網膜の土台である脈絡膜血管から血液の水分(血漿)が脈絡膜と網膜の間にもれてしまって、網膜の中心である黄斑を中心に軽い網膜剥離を起こしてしまう(黄斑剥離)」病気となります。働き盛りの男性に起こりやすい、というのが大きな特徴で、20~50代、特に30~40代の方に起きやすいことがわかっています。性別で比べると「男性の発病頻度は女性の3倍」というデータもあります。また、生活面では、過労や睡眠不足のとき、ストレス過多の状態のときに発症しやすい、という傾向も見られます。

網膜は脈絡膜という守護神的存在に守られている

ではなぜ、目の奥で「水もれ」といったトラブルが起こるのでしょうか。眼球の仕組みから説明してみましょう。

眼球はタマネギのように、数種類の膜によってつくられています。それらの膜の中で、網膜を外側から覆っている膜が、脈絡膜です。脈絡膜とは、網膜が機能を発揮できるように補助したり、網膜を守護したりしています。最も重要な働きは、網膜に酸素や栄養分を送り届けたり、不要になった老廃物を引き取ったりすることです。このためため、多くの血管が通っています。そのやりとりの過程で、大事な網膜に酸素や栄養分以外の余計な物質が侵入しないよう、バリア機能を発揮してくれている“関門”的な組織があります。それが、網膜色素上皮です。また、脈絡膜は発生した熱を放熱する「ラジエーター」的な役割も担います。脈絡膜と網膜色素上皮は網膜を影ながら守る守護神と言えます。

網膜のバリア機能が低下すると、水もれが起き、視野に歪みなどの異変が生じる

網膜の“関門”である網膜色素上皮は、脈絡膜から必要な栄養因子だけを網膜へ輸送し、水分は堰き止めています。このバリア機能が落ちてしまうと、脈絡膜血管から血漿(血液の水分)が網膜下に漏れて、黄斑下に溜まって剥離を起こしてしまうのです。その結果、脈絡膜から網膜への栄養補給が低下して視細胞の働きが低下し、見え方にまつわるさまざまな問題が引き起こされることになります。

なぜ、網膜色素上皮の機能障害が起こるのかは、わからない点が多いのですが、ただ一つ明らかなことは、脈絡膜の大血管が拡張し、脈絡膜が厚くなっていることです。このことから、脈絡膜の静脈から血液の排出が低下して脈絡膜に血液がうっ滞して網膜色素上皮に過度な圧力がかかり続けていることが推察されるのです。

片目ずつ発症し、視力低下は起こりにくい

脈絡膜から水もれが起こり黄斑剥離が生じると、どのような症状が起こるのか、ご説明しましょう。症状は片側の目だけに起こることが多く、両目同時に発病することは少ないとされています。しかし、両眼とも脈絡膜が肥厚し網膜色素上皮が傷んでいる所見が認められることが多く、時期が少し前後して、反対側の目にも発病するというケースもありえます。また、多くの方が心配される視力低下については、軽い場合がほとんどです。矯正視力1.0も珍しくなく、低下しても0.8前後がほとんどで、黄斑剥離が治ると元の視力に戻ります。ただし網膜剥離の期間が長引いたり、再発を幾度となく繰り返したりするタイプは、黄斑の視細胞が減少して視力が落ちてしまうリスクが高いのです。

ゆがみ、小視症、中心暗転の3つが主な症状

中心性漿液性脈絡網膜症の主な症状には、ものがゆがんで見える変視症(歪視ともいう)、ものが小さく見える小視症、視野の中心が暗く見える中心暗点などが挙げられます。これらの症状は、黄斑剥離のために起こるのです。また、黄斑剥離のため網膜細胞の機能が低下して、視野の中央が周辺よりも「暗い」と感じられることが多いのです。色が違って見える色覚異常を伴うことがあります。

考えられる原因は、ストレスとステロイド薬の2つ

中心性漿液性脈絡網膜症の原因は不明な点が多いものの、原因に深く関与しているのはストレスとステロイド薬使用と考えられています。ストレスを総合評価することができないため、解明は進みませんが臨床経験的には明らかです。ステロイド薬の副作用で誘発されるのも間違いありませんが、メカニズムはまだよくわかっていません。気を付けていただきたいのは、ステロイド薬は、市販薬を含め、さまざまな薬剤に使われているという事実です。「知らず知らずのうちに塗布(服用)していた」というケースがよくあります。たとえば、中心性漿液性脈絡網膜症を治療中のある患者さんは、痔の治療薬を長期にわたって常用していました。痔の薬にもステロイドが含まれているものがあるのです。

OCTアンギオグラフィーで、病気の理解が進んだ

眼の検査機器にも長い歴史がありますが、近年は「OCTアンギオグラフィー」という最新の撮影方式(画像処理技術)のおかげで、一部の予後の悪い中心性漿液性脈絡網膜の秘密が明らかになってきました。従来、眼底の血管の検査は「蛍光眼底造影検査」でした。これは、腕の血管から造影剤を注射し、眼底カメラなどで撮影する検査法で、1回の検査に約15~30分を要していました。また、体質的に造影剤にアレルギー反応を起こし、吐き気やじんま疹などを起こしてしまう患者さんも少なくありませんでした。極めて稀ですが、アナフィラキシーショックで死亡例も報告されています。OCTアンギオグラフィーは数分で検査が完了し、造影剤を使わないため安全な検査なのです。しかし、まだ蛍光眼底造影検査でしかわからない情報もあり、蛍光眼底造影検査が不要になったわけではありません。逆に、蛍光眼底造影検査では捉えられなかった中心性漿液性脈絡網膜における脈絡膜新生血管がOCTアンギオグラフィーにより捉えられることがわかってきました。

【OCTアンギオグラフィーが使用できるキャノンの「OCT-HS100」】

OCTアンギオグラフィーが教えてくれた、新生血管の秘密

中心性漿液性脈絡網膜症は網膜色素上皮のバリアが緩んで水漏れが起きる病気のはずですが、OCTアンギオグラフィーにより意外な事実が明らかになってきました。中心性漿液性脈絡網膜症には治りが悪いケースや、再発するケースもあります。そのような患者さんをOCTアンギオグラフィーで検査したところ約4割に、脈絡膜新生血管が捉えられたのです。脈絡膜新生血管は加齢黄斑変性などで生じるもので、中心性漿液性脈絡網膜症に関与するとは考えられてこなかったのです。これは、蛍光眼底造影検査では、この中心性漿液性脈絡網膜症における脈絡膜新生血管を映しだすことができなかったからです。

近年発見されたパキコロイド・ネオバスキュロパシーが難病の解明を一歩進める

実は、平行してFreundらが提唱し日本でも研究者の間で認められつつある「pachychoroid neovasculopathy (パキコロイド・ネオバスキュロパシー)」という新しい疾患概念があります。加齢黄斑変性の中の一部に、中心性漿液性脈絡網膜症と同様に脈絡膜が厚いグループがあり、これがpachychoroid neovasculopathyなのです。つまり、欧米で失明原因1位の加齢黄斑変性は一つの病気と思われていましたが、よく似た複数の病気の集まりである可能性が高まったのです。

「pachychoroid neovasculopathy(パキコロイド・ネオバスキュロパシー)」は新しい疾患概念であるため、日本語名がまだ付けられていません。言葉の解説をしますと、「pachy (パキ)」=「分厚い」、「choroidコロイド」=「脈絡膜」、「neovasculopathyネオバスキョロパシー」=「新生血管症」となります。脈絡膜が厚いという特徴を持ち、脈絡膜新生血管が加齢黄斑変性と類似の滲出性病変をきたす病気という意味になります。

そして、OCTアンギオグラフィーにより一部の中心性漿液性脈絡網膜症に脈絡膜新生血管が捉えられたこととあいまって、中心性漿液性脈絡網膜症とpachychoroid neovasculopathyがつながっていると考えられるようになったのです。すなわち、中心性漿液性脈絡網膜症が再発を繰り返すケースでは、年齢を経るとpachychoroid neovasculopathyになることがあること考えられるのです。中心性漿液性脈絡網膜症はいったん完治したと思っても継続して経過観察することが大事です。

加齢黄斑変性は、日本人の失原因の上位にある病気ですが、ヨーロッパでは失明原因の1位となっており、非常にやっかいな病気です。そのため、世界中で研究がさかんに行われているのですが、ヨーロッパ人と日本人では発症の仕方が異なることが知られていました。この違いは、加齢黄斑変性とひとくくりにされている病態が、実は全く別の病気の総称になってしまっている可能性を秘めていました。

「 pachychoroid neovasculopathy」という疾患が認識されたことで、より正しく病気をとらえることができるようになりました。今後、中心性漿液性脈絡網膜症と加齢黄斑変性への理解や研究が進み、治療や予防の進歩が期待されます。

治療に踏み切る目安は3ヶ月

中心性漿液性脈絡網膜症と診断されたとしても、たいていの場合は3~6カ月で自然に治ります。しかし、3ヶ月経っても軽快の気配が無いときは、積極的な治療に踏み切る必要があります。時間が経ちすぎると黄斑の視細胞のダメージが生じるからです。また、再発を繰り返しているような場合では、視細胞のダメージが蓄積されていくと考えられ、予後が比較的良くないことも考慮して、3ヶ月は待たずに、積極的な治療が必要になってきます。仕事年齢に発症するため、症状が仕事へ無視できない影響を及ぼす場合は、3ヶ月を待たず積極的な治療を行います。

治療法は、薬とレーザー光凝固術の2種類

治療法は水漏れの仕方により選択します。
1) 漏れている箇所がピンポイントで黄斑の中心である中心窩から十分に離れている場合
漏れている点をレーザー光凝固術で焼き固め漏れを止めます。

2) 漏れている箇所がピンポイントだが中心窩に近い場合
中心窩に近いためレーザー光凝固術を行うと傍中心暗点を生じてしまうため、レーザー光凝固術は選択できません。そこで、他の方法を選択しますが、効果は症例により異なります。

① レーザー閾値下凝固法
焼ける手前の弱いパワーのレーザーで網膜色素上皮を刺激して細胞を賦活化し、網膜下に溜まった液の吸収を高めます。保険が効きます。

② 光線力学療法
加齢黄斑変性の治療として認可されている治療法ですが、中心性漿液性脈絡網膜症にも効果があることがよく知られています。しかし、適応外使用になるため自費診療になります。

3) 漏れている箇所がびまん性ではっきりしない場合
① レーザー閾値下凝固法
② 光線力学療法
③ 抗VEGF薬硝子体注射

これも加齢黄斑変性の治療法として認可されている治療で、脈絡膜新生血管に作用して漏れを止めます。OCTアンギオグラフィーで脈絡膜新生血管を認める症例には効果が期待できます。

他にも、末梢循環改善薬やビタミン剤なども使用されますが、効果は明らかではありません。

上手に気分転換をして、ストレス解消を

中心性漿液性脈絡網膜症が引き起こされる原因は、現状よくわかっていません。けれども睡眠不足や過労、ストレスなどの影響が大きいことは臨床経験上あきらかです。特に働き盛りの年代の方は知らず知らず高いストレスをため込んでいることがありますので、意識的に心身を休めるようにしていきましょう。心身が癒され、元気な状態であれば、網膜色素上皮のバリア機能も健やかに整えられていくはずです。昨今、ワークライフバランスが叫ばれますが、オフの時間を作ることも社会人として重要な能力なのかもしれません。

板谷理事長のひとことアドバイス

中心性漿液性脈絡網膜症は20~40代の働き盛りの男性に多くみられる病気です。高いストレスが背景にあると考えられますので、仕事とプラーベートを振り返り、ストレスとのつきあい方を考えるチャンスにしてください。ステロイドも引き金になりますので、常用している軟膏などにステロイドが入っていないかを確認しましょう。

まとめ

  • 中心性漿液性脈絡網膜症の主な症状は、ものがゆがんで見える変視症、ものが実際よりも小さく見える小視症、視野の中心が暗く見える中心暗点などです
  • 予防のためには、日頃から睡眠や休息を十分にとり、ストレスをため込まないように心がけましょう
  • 中心性漿液性脈絡網膜症は漏れ方により選択できる治療法が異なります
  • 中心性漿液性脈絡網膜症がいったん治っても、一部年月を経て加齢黄斑変性に進展していく可能性が考えられるようになってきており、経過観察が重要です

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ