近年、コンタクトレンズは近視や遠視、乱視などを矯正する医療器具として、ごく身近なものになっています。メガネよりも自然な見え方になりますし、スポーツやおしゃれ・メイクを楽しみたい人にとっても、便利な点が多くあります。
ただし、コンタクトレンズはメガネと違い、目に直接触れる医療器具です。レンズの扱い方が間違っていたり、レンズに汚れが蓄積していたりすると、それが原因で目にトラブルを引き起こす例は決して珍しくありません。
わが国のコンタクトレンズ装用人口は全国で1,500万~1,800万人ともいわれています。日本眼科医会の過去の調査では、その約1割に目のトラブルが起こっているとの報告があり、さらに、目のトラブルを起こしている人の6割は定期検査を受診していないとも指摘されています。特に強い自覚症状がなくても目に障害が起きていることもあります。コンタクトレンズは便利な医療器具ですが、目にとっては異物であることを自覚して目の健康に留意して使用いただきたいと思います。
今回は、コンタクトレンズ使用による目のトラブルについて紹介します。
目次
コンタクトレンズの使用が原因で起こる目のトラブルとは
コンタクトレンズによる目のトラブルの原因
コンタクトレンズによる目のトラブルは、レンズが目と外気を妨げて角膜が酸素不足を起こしてしまったり、消毒などを怠って細菌に感染したりすることで起こります。どうしてこのようなことが起こるかというと、医療器具として認定されていない製品を使用してしまうこともありますが、多くの場合は正しい使用方法を守らないことが原因となっています。
特に、長時間使用によるトラブルの発生は、使用方法による原因の60%を超えます。医師の指導に従って正しい使用方法を守ることはもちろんですが、コンタクトレンズを使用していて目に異常を感じるようになったら、なるべく長時間使用は避けてメガネを併用するようにしましょう。
コンタクトレンズによるトラブルの多くは正しい使用方法を守らないことが原因です
コンタクトレンズ使用者における目のトラブルの統計
平成18年度に日本眼科医会が行った調査報告によると、コンタクトレンズにより目のトラブルを発症した人は、性別では女性に多く(65.8%)、年代では10~30代の若い世代が全体の8割以上を占めていました。トラブルの内容は以下のようなものですが、視力障害が残ることもある角膜潰瘍などの重い目の病気になってしまうことも少なくありませんでした。
代表的な目のトラブルの症状等については、以下に説明を添えておきます。
他覚的所見 | 右眼 | 左眼 |
角膜潰瘍・角膜浸潤 | 20.4% | 22.9% |
角膜上皮びらん・角膜上皮剥離 | 16.8% | 16.2% |
点状表層角膜症 | 16.5% | 16.5% |
アレルギー性結膜炎(巨大乳頭結膜炎を含む) | 16.4% | 15.7% |
結膜充血 | 11.9% | 11.7% |
角膜浮腫 | 4.4% | 4.4% |
角膜血管新生 | 3.7% | 4.1% |
虹彩炎・眼内炎 | 1.5% | 1.1% |
角膜内皮細胞障害 | 0.5% | 0.6% |
その他 | 7.9% | 6.8% |
<引用資料:日本眼科学会HP「平成18年度日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より」>
表面に傷がつく角膜上皮障害(角膜上皮びらん、角膜上皮剥離、点状表層角膜症など)
レンズ下に入ったごみやレンズに付着している汚れ等が原因となって、角膜の表面(上皮)に傷がついたり上皮細胞がはがれたりすると、目の痛みや充血、目がしみる、目やにが出る、といった症状が起こります。特に多いのは、角膜に点状の傷がつく点状表層角膜症です。ドライアイの方に起こる症状ですが、コンタクトレンズを使用している方にも起こりがちです。多くは長時間装用による酸素不足が原因ですが、レンズの汚れ・キズ・劣化や元々のドライアイが点状表層角膜症を悪化させます。
上皮細胞は短期間で入れ替わるので、コンタクトの使用をやめて数日もするとほとんどは症状が改善しますが、傷が深い場合や、感染を起こした場合には、角膜上皮びらんや角膜浸潤・角膜潰瘍へと悪化することがあります。ここまで悪化したら速やかな治療が必要で、抗菌薬などの点眼治療を行います。重症化した場合は、角膜移植を行うこともあります。
酸素不足で起こる角膜内皮細胞障害
角膜のいちばん内側にある層を角膜内皮といいます。酸素透過性の低いレンズの長期使用や夜間も含めた連続装用などで角膜が酸素不足になると、角膜内皮細胞が減少していきます。内皮細胞は再生しないため、内皮細胞の数が一定以下になると、角膜がむくみ透明性を保てなくなって混濁し、視力障害を起こします。この状態を「水疱性角膜症」といいます。
内皮細胞が減りつつあっても、痛みなどの自覚症状はないので注意が必要です。
正常な角膜の角膜内皮細胞(左)と、角膜内皮細胞が減少して水疱性角膜症を発症した目(右)
酸素不足を補おうと血管が伸びてくる角膜血管新生
角膜は本来、無色透明な組織ですが、その角膜に血管が伸びてくる症状をいいます。これは酸素不足に陥った角膜に酸素を供給しようと血管が生まれてくるのであって、角膜の酸素不足のサインといえます。
コンタクトレンズの使用を中止する、装用時間を短くするなどの対応が必要になります。
角膜血管新生
汚れが原因で起こる巨大乳頭結膜炎
コンタクトレンズの汚れが原因で起こるアレルギー性の結膜炎です。上まぶたの裏側の結膜が充血して炎症を起こし、ぶつぶつした隆起(巨大乳頭)ができるのが特徴です。目のかゆみ、目やになどの症状を伴います。治療はしばらくコンタクトレンズを休止して抗アレルギー薬の点眼薬で行いますが、正しいレンズのケア方法を徹底して原因を取り除くことが重要です。
巨大乳頭結膜炎
細菌が原因、重症化しやすい細菌性角膜潰瘍
細菌が角膜上皮の傷から侵入して感染し、角膜に潰瘍が起こるものです。原因となる細菌には黄色ブドウ球菌やセラチア、緑膿菌などがあります。コンタクトレンズのケアが不適切な場合のほか、保存液を使い回していたりレンズケースの洗浄が不十分なときにも、こうした細菌が繁殖し、レンズを汚染することになります。
治療の基本は抗生物質の点眼や眼軟膏です。効かない抗生物質がある耐性菌が多いため、まず原因菌を特定し、細胞培養による抗生物質の感受性試験で効果のある抗生物質を特定して効果のある抗生物質に切り替えていきます。角膜潰瘍は治りにくく治癒に時間がかかります。治っても角膜の混濁が残り著しい視力低下になることが少なくないので、気を付けなければなりません。目の違和感や痛み、充血、目やになどの症状があるときには早めに眼科を受診してください。
角膜潰瘍の目
汚れた水や土に触れると感染するアカントアメーバ角膜炎
汚れた水や土の中にいるアカントアメーバ(原生生物)が角膜上皮の傷から侵入・感染することで起こる角膜炎です。細菌性の角膜潰瘍と同様に、特にソフトコンタクトレンズの不適切な使用によって起こるケースが増えています。
アカントアメーバ角膜炎は初期の段階での診断がむずかしく、重篤な視力障害につながることが少なくありません。問題は、現時点では有効な治療薬がないことです。すこしでも効果のある抗真菌薬や消毒薬を点眼する、角膜の表面を削って病原体を取り除くなどを行いますが、極めて治りにくく、予防が非常に大切になります。
コンタクトレンズを使用する人が目の健康を守るために
コンタクトレンズ使用による目のトラブルは、一度は治療によって治っても、誤ったコンタクトレンズの使用方法やレンズケアを続けていれば、再発や悪化を招いてしまいます。
処方を受けた眼科医から適切な使用法の指導を受けるとともに、決められた使用時間や装用方法、レンズケアの方法をきちんと守りましょう。1日使い捨てレンズ以外は、毎日のケアが必要になりますが、なんとなく自己流で済ましてしまうことなく、必要な手順をそのつど行うようにしてください。
使い捨てタイプのソフトコンタクトレンズでは、決められた期間を過ぎても使い続ける、付けたまま寝てしまう、といった行為は目のトラブルの原因になるので避けてください。
さらに、気になる自覚症状がないときでも、定期的に検査を受けましょう。これも、コンタクトレンズを使用する人が目の健康を守るために非常に大切な行動です。
コンタクトレンズを正しい方法でケアする
コンタクトレンズを扱うときは、石鹸と流水で手を洗ってから行います。外したレンズは洗浄液などでそのつど「こすり洗い」をします。これをしないと、レンズに付いた汚れを十分に落とすことができません。レンズの保存には水道水などではなく、専用の保存液を使い、保存液は毎日新しいものに交換します。
またレンズケースも毎日洗い、乾燥させるようにします。ケースは定期的に新しいものに取り換え、清潔を保つようにしましょう。
菌は目に見えませんが、身の回り至る所にいます。菌も増えなければ人を傷つけることはありません。上記のレンズケアで菌に増えるチャンスを無くせるのです。
調子が良くても、定期検査を受ける
コンタクトレンズを使用していて目に痛み、違和感、充血、かゆみ、目やになどが生じたときは、コンタクトレンズの使用をいったん中止し、眼科を受診してください。トラブルが解消したら再開できます。
最近は、ネットでコンタクトレンズを購入する方が増え、自覚症状が無いため眼科医の定期検査を受けずに、気がついたら目に大きな問題が生じているケースに出会います。調子が良いとしても、医師に指示された期間(3カ月、6カ月など)ごとに定期検査を受け、目に異常がないか、レンズの状態やケア方法が適切か、確認を受けましょう。
1日使い捨てのソフトコンタクトレンズがベター
どうしてもレンズケアができないとか、決められた使用期限を守れないという方は、やむを得ませんので、1日ごとに使い捨てる1DAYタイプのソフトコンタクトレンズを使用するのがベターな選択です。ただ、ハードコンタクトレンズでしかできない乱視矯正もありますので、自分に合ったコンタクトレンズを医師と相談して選ぶようにしましょう。
板谷理事長のひとことアドバイス
よく見えたいから使うコンタクトレンズで見えにくい目にしてしまうのは本末転倒です。コンタクトレンズで起こしてしまう目のトラブルを理解いただき、適切なレンズケア、定期的な眼科医による目のチェックをお願いします。
まとめ
- コンタクトレンズの誤った使用法や不適切なレンズケアなどにより、目のトラブルが起こります。
- コンタクトレンズ使用が原因の目のトラブルには、角膜内皮細胞障害、細菌性角膜潰瘍、アカントアメーバ角膜炎など、重い目の病気が起こるものもあります。
- コンタクトレンズによる目のトラブルを防ぐには、正しい使用法・レンズケアを徹底し、併せて定期検査を忘れずに受けることが大切です。
執筆者プロフィール
医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀
京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。
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