ものが歪んで見えたり、小さく見えたり、大きく見えたりする。そんな目の病気があります。意外に思われるかもしれませんが、それらの症状は「黄斑」にあることが多いものです。

黄斑とは文字通りに解釈すると「黄色いしみ」。「しみ」という言葉の意味とは正反対に、実は非常に大事な器官です。「しみ」といえども、ひとたび変形すると見え方に大きな異変が生じてしまいます。「黄斑」という存在を軽く見てはいけません。加齢によっても、変形することのある黄斑。その異変に気付くには、定期的な眼科受診を推奨します。今回は、ものが歪んで見える「変視症」と、ものの大きさを正確にとらえられなくなる「小視症」「大視症」についてお伝えします。

黄斑とは、「網膜」に存在する偉大な「シミ」である

そもそも「黄斑」とは、どのような部位なのでしょうか。黄斑が位置しているのは眼球にある「網膜」です。網膜は、カメラの「フィルム」に相当すると、よくたとえられます。

外からの光が、角膜や水晶体、そして目の中央部(硝子体)を通ったあと、最後に到達するのが「網膜」という部位です。「網膜」の中心にあるのが、「黄斑」です。黄斑は、「キサントフィル」という色素が豊富に集まっているため、その名の通り、黄色をしています。

情報が目から入ってきた光の情報は、「網膜」で電気信号に変換され、視神経を経由して脳に伝えられ、これによって私たちはようやく「ものを見る」ことできます。ですから、「網膜」とは非常に重要な部位なのです。

網膜の中心にある「黄斑」

2㎜足らずの大きさなのに、視力を左右する部位が「黄斑」

このように、目をカメラの構造にたとえたとき、フィルムにあたる部分が「網膜」です。けれども、カメラのフィルムと網膜には、大きな違いがあります。それは、映り方の違いです。

カメラのフィルムは、全体的に情報をキャッチできます。ところが「網膜」は、中心にある「黄斑」でしか視力を出せないのです。とはいえ黄斑の面積は、直径わずか1.5mm~2mm。そんなに小さい部位が、頑張ってくれているおかげで、人はものを見ることができているのです。これは驚くべき事実です。

逆にいうと、黄斑がトラブルに見舞われたり、故障をしたりすると、たとえそれ以外に網膜に問題がなくても、視力が落ちたり、細かい文字などが読めなくなってしまいます。

「変視症」は、「黄斑」が障害されたときに起こります

「変視症」とは、わかりやすくいうと、物がゆがんで見える病気です。まれに脳の疾患で発症することもありますが、ほとんどの場合、黄斑が障害されたときに起こります。ゆがみ方の特徴については、患者さんごとに異なります。場合によっては、「物が大きく見える」「小さく見える」などの症状を伴うこともあります。

黄斑の形が変わるから、見え方も変わる

変視症はなぜ起こるのか。その主な理由は、強い乱視や、「円錐角膜」という「角膜が薄くなる病気」のこともありますが、多くは黄斑の病気が原因です。わかりやすくいうと、何らかの理由で、「黄斑」のかたちが変わってしまうためです。黄斑が変形する理由は様々ありますが、おおむね「網膜表面の病気」「網膜の中の病気」「網膜の裏側の病気」に大きく分類されます。

黄斑の形が変わってしまう原因には、さまざまな病気が想定される

たとえば、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)、黄斑円孔(おうはんえんこう)、黄斑前膜(おうはんぜんまく)、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、中心性漿液性(しょうえきせい)脈絡網膜症、網膜剥離が黄斑にまで及んだ裂孔原性網膜剥離などです。

これらの原因によってゆがみ方は異なりますが、黄斑円孔の場合、「見た部位を中心に内向きに映像がつぶれる」と訴えられる患者さんが多いです。

最新機器「OCT」で、検査はよりスムーズになっている

変視症の原因は、眼底を光干渉断層計(OCT)という検査機器で調べると、すぐに特定することができます。変視症の原因がわかれば、最適な治療法を選ぶことができます。薬で治ることもあれば、手術が必要になるケースもあります。

【加齢黄斑変性】

【黄斑円孔】

黄斑前膜と正常な黄斑

【網膜中心静脈閉塞症により眼底に出血が起きた様子】

【中心性漿液性脈絡網膜症】

格子状のものを意識的に見ることを、習慣にしましょう

変視症に限らず、あらゆる病気は病院で診断してもらうことが鉄則です。ただ、目の異変に少しでも早く気付くことができれば、早期発見・早期治療をかなえることができます。日常的に変視症の自己チェックを行うことをおすすめします。

変視症の自己チェックとして有効なのが「アムスラーチャート」という表を用いた検査です。平たくいうと、格子柄の表を片目ずつ眺めて、ゆがみがないかどうかを確認する検査です。
「アムスラーチャート」(写真)のような格子状の表を壁に貼り「片目ずつ眺めること」を、習慣化してみてください。

変視症のセルフチェック

検査の仕方は、具体的には次の通りです。

➀手のひらなどで片目を覆う。

➁アムスラーチャートを目から約30cm離す。

➂開けているほうの目で、アムスラーチャートの中心を見つめる。

➃格子に歪みがないか、どこか見えない部位がないかを調べる。

アムスラーチャートのような格子状の表を、必ずしも用意する必要はありません。たとえば、障子や壁紙の模様、タイルなど、格子状のものが壁面にあれば、それを検査表として代用すればよいのです。さらにいうと、格子柄やチェック柄のネクタイ、シャツなどがあれば、それらを意識的に眺めることでもセルフチェックになります。もし、「柄がゆがんで見える」と感じられたときは、すぐに眼科を受診しましょう。

アムスラー・カレンダー

小視症が引き起こされると、対象物の輪郭がズレて見えることがある

変視症の中でも多いのが、小視症を伴うケースです。小視症とは、ものが小さく見える病気です。小視症のつらいところは、左右の目で大きさの捉え方が異なり、それぞれの目で見える大きさに差ができてしまうため、見ようとする対象物の像がうまくとらえられず、輪郭が二重にズレて見えしまう点にあります。

小視症の原因で多いのは「中心性漿液性脈絡網膜症」

目に起こったトラブルのせいで小視症が起こるとき。どのような原因がひそんでいるのでしょうか。多いのは、「中心性漿液性脈絡網膜症」などの病気です。また黄斑の変形が関係していることも、珍しくありません。

たとえば、ものが小さく見えるとき。黄斑の異常によって「網膜に映る像が実際に小さくなる」というパターンがあります。さらに、網膜に映る像の大きさは通常と変わらなくても、信号を伝える神経などの問題によって、最終的に「ものが小さく見える」という事例もあります。

小視症の検査と診断は、昔よりも格段に速くできるようになっている

小視症について調べるときは「眼底検査」「蛍光造影検査」「光学的干渉断層計(OCT)」などによって診断されます。特に視神経や眼底の中心部に注目して検査を行います。また、周辺視野に異常がないかを調べるため、「ゴールドマン視野計」という機器を用いて検査を行うこともあります。長年の経験でいうと、見え方の問題については黄斑の異常によって起こることが多い傾向が見られます。

小視症だけではなく、大視症という病気にも要注意

さらにいうと、小視症とは反対の症状が出る「大視症」もあります。

大視症とはつまり、実物よりも大きく見える病気です。大視症も小視症と同様、黄斑の変形が原因であることが多いと報告されています。いずれも、左右の目で片目ずつ対象物を見比べることで「見え方がおかしい」と自覚できるはずです。また小視症も大視症も、検査と治療法は共通しています。

「見え方のおかしさ」を我慢することは、さまざまな危険を招く

「目の病気」というと、視力の低下や、失明などといった深刻な病気をイメージする方が多いようです。確かに、それらも深刻な病状とはいえます。ただ、見え方がおかしいという違和感は、一般的な生活を営む上でも、ストレスの原因になります。それが原因で事故にあったり怪我をしたりする可能性も高まります。

ものの見え方に異変を感じたら、「像がダブって見えているだけ」「小さく(大きく)見えているだけ」と片付けず、すぐに医師にかかりましょう。ものの見え方に重要な役割を果たしている「黄斑」を大切にして健やかに保っていきましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

光干渉断層計(OCT)という検査機器で調べると、すぐに変視症の原因は特定することができます。変視症の原因がわかれば、最適な治療法を選ぶことができますので早めの検査によって現状を把握しましょう。

まとめ

  • 目の網膜にある「黄斑」が障害されると、物が歪んで見えたり、小さく見えたり、大きく見えたりすることがあります。
  • 変視症のセルフチェックとしては、格子状のものを眺めることが有効です。また、片目ずつ物を見て、大きさの違いを感じるようなら、小視症や大視症の可能性が高いです。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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