本記事は、2020年3月27日に再更新いたしました。

ものが歪んで見える症状があると、たとえ高い視力であっても、毎日の生活で不快に感じることが多くなると思います。

視界が歪んで見える症状は、網膜の中心にある黄斑に異常が起き変形している場合が多いのですが、最も頻度が高いのが黄斑前膜(黄斑上膜ともいいます)です。
黄斑前膜は進行すると歪んで見えたり(変視症、歪視)、ものが大きく見えたり(大視症)と不快な症状がでてきますが、失明することはないため、症状が軽い場合は経過観察で様子を見ることが多かったのです。

しかし、進行すると手術をしても元の高い視力に戻らないリスクが増え、変視症や大視症は残りやすいため、手術は早ければ早いほどいい病気であるといえます。黄斑前膜の治療は、黄斑の健康な形を守る闘なのです。

今回は黄斑前膜について詳しく解説しますので、症状に心当たりのある方はぜひ参考にしてください。

黄斑の前に膜ができる黄斑前膜

黄斑を前膜が覆ってしまう病気

黄斑前膜とは、その名の通り網膜の黄斑部の前に膜が張ってしまう病気です。眼底を目の底と考えると上に膜が張るという表現になるので、黄斑上膜ともいいます。
黄斑は網膜の中心にある、視力の源である大切な場所ですので、ここに異常が起きると見え方にも異常が現れるようになります。

【黄斑前膜の眼底写真】

【黄斑前膜のOCT画像】

【正常な目のOCT画像】

多くの場合、「後部硝子体剥離」が原因

黄斑前膜は誰もがなりうる病気です。というのも、後部硝子体剥離という生理的な加齢変化が発症の原因になることが多いからです。

後部硝子体剥離は、加齢にともなって硝子体が水分を保てなくなってボリュームが減ってしまい、眼底から剥がれてしまう現象です。硝子体は黄斑とかなり強く接着していますので、剥がれる際にお互いを引っ張り合ってしまいます。
その結果、硝子体の組織の一部(後部硝子体皮質)が剥がれて、黄斑を中心とした網膜の上部に残ってしまうことがあります。これが元で、黄斑前膜が進行するようになります。

黄斑の健康な形が変形してしまう

黄斑部に残った後部硝子体皮質の端で、網膜の表面に傷ができてしまいます。この傷から細胞が前膜へ集まるようになり、前膜はどんどん厚くなります。
厚くなるにつれ前膜は真ん中へ向かって収縮して黄斑を変形させ、網膜表層に新たに傷ができ、さらに細胞が集まる、ということを繰り返し、前膜が強く収縮して黄斑のくぼみが失われ、網膜にしわが寄るようになります。このしわのせいで視界が歪む症状が出、くぼみが無くなることで大視症がでます。

【黄斑前膜は硝子体が網膜から剥がれる際にできた傷によってできはじめ、成長していきます。】

眼内炎や糖尿病網膜症などが原因になることも

黄斑前膜の原因は後部硝子体剥離がほとんどですが、稀にぶどう膜炎や糖尿病網膜症や網膜裂孔などの網膜の病気や、網膜のレーザー治療にともなう炎症などが原因で発症することがあり、続発性黄斑前膜と呼ばれます。
ちなみに後部硝子体剥離が原因の場合は特発性黄斑前膜と呼んで分類されます。

黄斑前膜の症状はゆっくり進行して次第に視界が歪んでいきます

膜のしわが視界を歪ませます

黄斑前膜を理解するためには健康な黄斑のかたちを理解する必要があります。健康な黄斑は、なだらかなくぼみ(中心窩陥凹)を持っています。黄斑前膜の初期や、軽症である場合は、自覚症状はほぼありません。
もともと網膜表面に張っている後部硝子体は透明ですので、黄斑部に透明なセロハン状の膜が張っているだけのようなものだからです。黄斑のかたちも保たれています。

しかし、病気が進行し、黄斑前膜の厚みが増して収縮していくと、その後ろの黄斑部に異常な力が働き、黄斑の大事なくぼみが消失します。また、網膜表層に皺が寄り、視界も歪んで見えるようになります。
この視界の歪みを変視症(もしくは歪視)といいます。

そのようなメカニズムで、黄斑前膜が進行すると文字や人の顔が歪んで見え、視力も落ちていきます。

【黄斑前膜が進行すると、視界の中心が歪んで見えるようになります】

大視症が起こることも

黄斑前膜の症状として、大視症が現れることもあります。大視症とはものが大きく見える症状のことをいいます。黄斑前膜により黄斑のくぼみが消失してしまうために起こる症状です。

両目で同じように起こると気にならないのですが、片目で起こると左右の目でものの大きさが違って見えるため不快に感じます。

失明することはないものの見え方の不快がつらい病気

黄斑前膜が進むと視力が落ちていきますが、失明にまで至ることはありません。しかし、変視症や大視症はどんどん強くなりますので、見え方の不快は高まります。

黄斑前膜は硝子体手術で治療します

手術で前膜を剥がします

黄斑前膜は、残念ですが現在の医療では薬物で治すことはできません。必ず、手術が必要になります。
手術は、硝子体手術を行います。白目の部分の3カ所に孔を開け、特殊な器具(それぞれ灌流液注入器具、硝子体カッター、照明器具)を眼内に挿入し、黄斑部を覆っている黄斑前膜を剥がしていきます。

内境界膜も一緒に剥がします

黄斑部を覆っている黄斑前膜を剥がすとき、癒着している網膜の一番外側の膜である内境界膜も一緒に剥がれくることがほとんどです。中途半端に剥がれていると問題が生じるリスクがあるため、広く剥がします。
実は、この内境界膜に強い皺が生じていますので、一緒に剥がしておくと網膜のしわが元に戻りやすくなるというメリットがあるのです。

しかし、内境界膜剥離は、神経線維層の一部にダメージを与え網膜感度を下げるため、緑内障による視野障害がある目では、可能な限り内境界膜を剥がさないように努力します。

【硝子体手術で黄斑前膜を剥離している様子】

【網膜を傷つけないように黄斑前膜を剥離します】

手術の効果

黄斑部を覆っている黄斑前膜を剥がすと黄斑にかかっている異常な力は無くなります。徐々にしわが伸びて網膜の肥厚は改善していきます。
内境界膜を剥がすと翌日から網膜表層の皺はほとんど消失することが多いです。それに伴い、歪みや視力の低下は回復していきます。

しかし、病気が進行しすぎていると、しわが伸びても黄斑のくぼみが元に戻りにくくなります。その場合、視力はある程度回復しても、変視症や大視症は残る場合が多いです。

黄斑前膜と診断されたらなるべく早く手術をしたほうがいい理由

放置すると黄斑の変形が元に戻らなくなります

黄斑前膜は初期にはほとんど自覚症状がなく、視界の歪みも視力低下もほとんど起こりません。変視症や大視症がではじめても、最初のうちは良い方の目が症状を隠してしまうため気がつきにくいこともあります。

また、眼底検査で病気が見つかっても、軽い場合は、すぐには手術せず、定期検診で様子を見ることが多かったのですが、受診が途絶え再び来院されたころには病気がかなり進行してしまっている、ということも起こります。

黄斑の肥厚が強くなると、硝子体手術で黄斑前膜をきれいに剥がしても、元のかたちにはもどりにくくなります。黄斑前膜は早期手術が望ましいと考えます。視力は術前の視力が良いほど術後の視力は高くなります。
次に、変視症や大視症は早く手術するほど症状が無くなる可能性が高まります。

硝子体手術の進歩により合併症のリスクが低下しました

手術を早めにしたほうがいいもう1つの理由として、硝子体手術の進歩があります。
硝子体手術は、白目の角膜から3.5ミリ離れた部位に器具を挿し込み、必要な治療を行うものです。以前、手術器具が太かった時代、手術に伴う網膜へのダメージが大きく、網膜剥離など合併症が起きやすい一面がありました。
ちなみに、私が研修医当時は器具の太さは針の大きさの規格で20ゲージ(外径0.9㎜)でした。

しかし、現在は目の中に挿し込む器具が、27ゲージ(外径0.4㎜)と、とても細いものになりました。さらに、重要なのはトロカールという器具を出し入れする支持システムが導入されたことです(写真)。
トロカールシステムは、器具を直接出し入れするときに起こる組織の挫滅や硝子体の嵌頓を防ぎ網膜に孔が開くのを防いでいます。この小切開+トロカールシステムを、「小切開硝子体手術」といいます。
小切開硝子体手術には23ゲージ、25ゲージ、27ゲージがありますが、はんがい眼科では一番細い27ゲージ小切開硝子体手術を行います。

27ゲージ小切開硝子体手術により術後合併症が激減し、日帰りの硝子体手術も可能になりました。
合併症のリスクを考えると、生活に不便がない状態で手術を強くすすめることはできませんでしたが、現在そのリスクはかなり低下しましたので、術後の見え方の質を守ることをめざして、早めの手術をおすすめできます。

【27ゲージ小切開硝子体手術】

合併症のリスクを考えると、生活に不便がない状態で手術を強くすすめることはできませんでしたが、現在そのリスクはかなり低下しましたので、早めの手術をおすすめできます。

視力が1.2でも黄斑前膜の手術をするべきタイミングがあります

手術タイミングの目安となる3つのポイント

黄斑前膜は、黄斑の変形が進んでしまうとくぼみを取り戻すことができなくなり、変視症や大視症が残りやすくなりますので、手術のタイミングが大切です。
たとえ視力が1.2あったとしても、変形が進んでいるなら手術をするべきでしょう。

目安となるのは、次の3つのポイントです。
「黄斑前膜による視力低下が明らかな場合」「歪みがある場合」「黄斑の中心部のくぼみ(中心窩)が失われるほどの変形が生じているとき」。

黄斑前膜が生じてから手術が早いほど、歪みは治りやすいと考えられます。長期間放置するほど手術を受けてもゆがみは治りにくくなります。

視界の歪みを自覚できるアムスラーチャート

黄斑前膜の影響の程度を調べるため、眼科では視力検査を行います。その際に、歪みの程度を知るために、アムスラーチャートという方眼紙のような碁盤の目が印刷してあるものを見てもらいます。両目で見ると、異変に気付きにくいため、片眼ずつ検査します。もし、方眼紙が歪んで見えるようでしたら、すぐに眼科で詳しい検査をしたほうがいいでしょう。

【アムスラーチャート】

自宅でも、アムスラーチャートの代わりにカレンダーなどの網目状の線が入ったものを見ることで、視界の歪みをチェックできます。

【アムスラーチャートの代わりに、カレンダーなどの格子状の線が入ったものを見ることで視界の歪みをチェックできます。もし歪んでいたら、すぐに眼科を受診しましょう】

板谷理事長のひとことアドバイス

黄斑前膜は硝子体手術の27ゲージ小切開硝子体手術への進歩により、早めに手術をすることで良好な回復が見込める病気になりました。もし黄斑前膜と診断されたとしても心配しないでください。

まとめ

  • 黄斑前膜は、硝子体が加齢による変化で収縮して網膜から剥がれる際に、その組織の一部が黄斑に残ってしまって発症することが多い病気です。
  • 黄斑前膜の主な症状は、視界の歪み(変視症)と大きく見えること(大視症)と視力低下です。
  • 黄斑前膜で失明することはありません。
  • 黄斑前膜が見つかってもすぐに手術しないことがありますが、病気が進行すると手術をしても歪みや視力の回復が悪くなる場合があるので手術のタイミングが重要です。
  • 硝子体手術の進歩により、合併症のリスクが低下して日帰り手術も可能になりました。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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