「黄斑前膜(おうはんぜんまく)」という病気をご存じでしょうか。発症当初、自覚症状はありませんが、病気が進行すると壁にかかっているカレンダーの罫線や文字が歪んで見えるようになります。
黄斑(おうはん)という言葉を初めて聞いた方も多いと思いますが、黄斑とは、目の奥の網膜の中心にある、やや黄色味を帯びた直径1.5mmほどの部分を指します。人は網膜に像が映ることで初めてものを見ることができますが、黄斑はそのなかでももっとも重要な部分であり、ここが障害されるとうまくものを見ることができなくなります。

この黄斑部分に、薄いセロファンのような膜ができる病気を「黄斑前膜」といいます(黄斑上膜と呼ぶこともあります)。放置しておくと、ものが歪んで見える「変視症」や「視力低下」などの症状が起こりますが、発症してしばらくは視力に影響を与えることが少ないため、手術をいつするか、見極めが重要になります。

以前も一度黄斑前膜についてご紹介していますが、その際に視力が高いうちに手術をすべきであると述べました。
今回は、再び黄斑前膜という病気について簡単にご紹介しつつ、なぜ視力が高いうちに手術を行うべきか、はんがい眼科のデータを用いて詳しくご紹介します。

誰にでも起こりえる、よくある網膜の病気

黄斑前膜は、黄斑の表面に膜が張り、その膜が次第に厚くなって収縮していくことで黄斑や網膜を変形させてしまいます。加齢によって誰にでも起こる可能性のある、とてもポピュラーな病気です。

硝子体が網膜から剥がれる際に一部が残り、そこに細胞が増殖する

ではどうして、黄斑の表面に膜が張るような症状が起きるのでしょうか。
目の中には、硝子体(しょうしたい)と呼ばれる透明な組織があります(冒頭の図を参照)。コラーゲン線維とヒアルロン酸とたくさんの水から成る組織です。この硝子体は、もともと網膜とくっついているのですが、加齢に伴って液化して縮んでいき、そのために少しずつ網膜から離れていきます(これを後部硝子体剥離と呼びます)。

後部硝子体剥離

後部硝子体剥離はほとんどの方に起こる加齢現象であり、通常は問題なく剥がれるのですが、まれに、後部硝子体皮質の一部が黄斑の表面に薄い膜となって残ってしまうことがあります。ここに細胞が増殖して薄い膜が形成されてしまうのが黄斑前膜です。


くぼみがくっきりしている正常な黄斑(上)と、上部に膜が張って黄斑にくぼみがなくなってしまった黄斑前膜(下)

剥がれた硝子体の一部の組織が網膜黄斑部の表面に残り、徐々に収縮して黄斑を変形させてしまうのが黄斑前膜です

もう少し詳しくご説明しますと、網膜にくっついていた硝子体が剥がれると、黄斑の表面に薄い膜(後部硝子体皮質の一部)が残ります。この膜の断端部分の網膜表面に傷ができると、網膜や血管の細胞が膜を伝って集まります。すると膜は分厚くなり中央へ向かって収縮します。収縮するとき網膜の表面を引っ張って傷を付けてしまうため、そこからさらに細胞が集まる・・・ということを繰り返して黄斑前膜が成長していきます。

黄斑前膜が進行すると、線や文字がゆがんで見えたり、視力も低下する

黄斑前膜の代表的な症状は、ものが歪んで見える「変視症」「歪視(わいし)」、ものが大きく見える「大視症」、そして「視力低下」です。

発症当初は、黄斑の前に透明な膜が張っているだけですので、自覚症状はありません。進行すると膜が厚くなり収縮してくるので、黄斑前膜にしわが寄ります。こうなると網膜にもしわが寄り、その表面に凸凹が生じます。その結果、ものが歪んで見えるようになり、視力も低下していきます。

黄斑前膜が進行すると、カレンダーの罫線などが歪んで見えるようになります

黄斑前膜は、薬は効かないので硝子体手術で治す

黄斑前膜はほとんどの場合、自然には治りません。自然治癒は5%くらいとされています。また薬も効きません。そのため治療は硝子体手術にて行われます。

手術では、黄斑(網膜)に張っている薄い膜をピンセットで剥がします。

黄斑前膜の手術では、硝子体手術の方法で黄斑を覆っている膜を剥がしていきます

日帰り手術が可能!硝子体手術の安全性も飛躍的に高まっている

手術というと身構えてしまうかもしれませんが、日帰りで行うことができます。手術自体も、硝子体手術の記事でご紹介したように、27ゲージという大変細い器具の登場など、手術器具の進化などで飛躍的に安全性が高まっており、安心して受けていただけます。

術後視力1.0以上をめざすなら、早期の手術が望ましい

以前は硝子体手術をすることによる合併症のリスクがかなり高く、視力が0.7以下に低下しないと手術をしない医師が多いという時代が続きました。しかし現在は、硝子体手術は大変安全に行えるように進化しており、多くの報告で、術前の視力が良いほど術後の視力が良いという結果となっています。術後の視力で1.0以上をめざすなら、術前視力が1.0を下回らないうちに手術を受けるのがベストということになります。

OCT(光干渉断層計)で見ると、視力が低下した黄斑前膜の症例は、黄斑部の肥厚や変形が強く、手術で膜をきれいに除去しても黄斑の厚みやかたちは元にもどりません(下の写真参照)。

一方、視力がそれほど低下していない場合は、黄斑の変形が軽く黄斑のかたちが正常に近い状態に戻りやすいといえます。その結果、視力回復も速く、ものが歪んで見える変視症の症状も改善されやすいのです。

視力が良好なうちに手術を受けた方が、術後の視力が良いというのは当院データからも明らかです。術前の視力が0.7だった方が、術後1.0以上に回復したのは73%、術前の視力が1.0だった方が、術後1.0以上に回復したのは100%となっています。

開院後平成27年5月〜28年7月までの14カ月間に行った硝子体手術390例のうち、153例が黄斑前膜の手術でした。そのうち、白内障が強い症例、黄斑前膜以外の黄斑疾患を併発した症例、中心付近の視野障害を有する緑内障の症例など黄斑前膜以外に視力に影響を及ぼす症例を除外した114眼の結果をお示ししています。

硝子体手術が安全に行えるようになった現在では、視力が低下するまで待つ必要はありません。視力が良好なうちに治療することで、1.0以上の視力を取り戻すことが可能なのです。

【はんがい眼科での黄斑前膜の手術適応の目安】
当院では、以下のいずれかを満たす方の場合には黄斑前膜の手術をおすすめしています。
・視力が低下している(0.7以下)
・変視症の自覚症状がある
・OCTで中心窩陥凹(ちゅうしんかかんおう)※の消失、または黄斑偽円孔がある

※中心窩陥凹(ちゅうしんかかんおう)とは、黄斑の中心にある、少しくぼんだ部分のこと。中心窩の直径はおよそ0.35mm。

板谷院長のひとことアドバイス

黄斑前膜は加齢によって起こる病気です。症状は変視症・歪視・大視症・視力低下などで、自然には治らず、薬も効かないので硝子体手術で治療を行います。手術の安全性は向上しており、日帰りで手術が可能になってきています。

まとめ

  • 黄斑前膜は、よくある病気で誰でもなりえます。
  • 加齢などの原因で硝子体が網膜から剥がれる際に、硝子体組織の一部が黄斑の表面に残ってしまい、その部分に細胞が増殖して薄い膜が形成されることで起こります。
  • 初期には自覚症状はほとんどありませんが、症状が進むと、ものが歪んで見えたり、視力が低下したりします。しかし失明することはありません。
  • 治療は硝子体手術により行います。
  • 視力が良好なうちに手術を行うことで、術後視力も1.0以上を得ることが可能です。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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