およそ50年前まで、角膜の病気は失明する原因疾患となることが多かったのですが、最近では治療法が発達し失明する方は少なくなりました。しかし、角膜の病気は子どもから高齢者まで誰もが成り得、治療の推移によっては失明するリスクがあり油断できません。角膜移植はそんな重篤な角膜障害に対する最後の砦となっています。
この角膜移植において、近年の目覚ましい発展としてご紹介したいのがパーツ移植です。これまでの角膜移植では角膜を丸ごと全層角膜移植がほとんどだったのですが、障害のある層だけを移植する技術が生まれたことで、拒絶反応や合併症のリスクが低下するようになりました。
今回は、角膜のどんな病気にかかり、どんな病態になると角膜移植が必要となるのか。移植を受けるためにはどんな手続きが必要なのか。そして、この角膜移植がどのような進化を遂げているのか。角膜移植のなんて一生自分に関わりのないことと思われている方を含めて、皆さんに読んでいただけると幸いです。

角膜移植が必要になるときとは

角膜は眼の表面にある厚さ約0.5mmのドーム状の組織です。光を通すために透明で血管を持たず、日本人では黒く透けて見えるため、俗に黒目といわれます。眼に入ってくる光を屈折させて網膜上にピントを合わせるレンズの役割もあり、ものを見るための重要な働きをしています。この角膜が何らかの原因で、濁ったり、いびつになったりすると視力が低下します。混濁(濁り)やいびつが顕著で、回復不能となった場合、角膜移植が必要になります。角膜移植とは、角膜の状態が悪くて視力を失った患者さんに対して、ドナーとなった人から提供された角膜を移植することで視力を改善させる治療法です。

【角膜は5層から成り立つ組織です。】

角膜移植は110年の歴史のある、安全性が確立した技術

角膜移植は世界的には約110年、我が国でも約90年の歴史があります。手術の方法はもちろん、移植によって得たよい状態を維持していくための管理の仕方まで、世界中の経験値が積み重なっており、安全性が確立している手術であるといえます。

臓器移植法のもとで行われている

角膜は薄い小さな膜ですが、ちゃんとした臓器です。ドナーがいなければ臓器移植は成り立ちません。そのため、厳格な法律のもとで角膜移植は実施されなければなりません。我が国では1958年、「角膜の移植に関する法律」のもとに初めて実施されました。この法律は何度か改正され、現在は「臓器の移植に関する法律の一部改正」のもとで角膜移植が実施されています。

角膜の濁りや歪みを招く疾患

角膜は良好な視力をキープするために、透明で、表面がなめらかで、形状がいびつになっていないことが重要です。角膜移植が必要になるのは、その透明性や形状が損なわれた病態です。できものや傷などが治ったあとに残る瘢痕(はんこん)、病気や外傷などによって穴が空く穿孔(せんこう)、変形、混濁(濁り)がある場合、そして激しい痛みが続く場合に、透明で健康な角膜に置き換える移植が必要になります。以下は頻度の多い原因疾患です。

水疱性角膜症

角膜は5層から成りますが、その一番内側に位置しているのが角膜内皮と呼ばれる組織です。角膜全体の水分を調整する役目を担っていますが、角膜内皮細胞は一度障害されると再生せず、その面積が広がると水分を過剰に抱えこんだ状態になり、角膜が混濁しやすくなります。この状態を水疱性角膜症といいます。角膜のむくみが軽い場合は点眼薬でむくみを緩和できることがあります。しかし、目の痛みを伴うほど進行する症例の中には、膜移植術が必要となるものもあります。角膜内皮が障害される主な原因として、急激な眼圧の上昇(特に緑内障発作)、目の外傷、ぶどう膜炎などの感染症による眼内の炎症、コンタクトレンズによる酸素不足、眼内の操作を要する手術(内眼手術)やレーザー治療などがあります。水疱性角膜症は角膜移植の原因疾患としては最多です。

【水疱性角膜症は、角膜内皮が減少したことにより起こる病気です。】

外傷や角膜炎後の潰瘍、混濁、穿孔

外傷や細菌や真菌などに感染し角膜に潰瘍ができると、やがて角膜に穴が開いてしまうことがあります。潰瘍が治っても瘢痕や混濁が残って角膜の透明性が失われてしまうこともあります。角膜が薄くなってしまう状態になると移植が考慮されます。

【角膜潰瘍の目。】

円錐角膜

角膜中央部が薄くなり、前方に突出し円錐状になる疾患です。角膜が歪むため、乱視を生じます。思春期に好発します。コンタクトレンズで矯正が可能ですが、コンタクトレンズが使用できないほど歪みが強い場合は角膜移植が検討されます。

【円錐角膜は角膜が異常に尖って変形してしまう病気です。】

角膜変性症

遺伝性の疾患です。角膜内に異常物質が沈着し、混濁します。

化学外傷(薬品など)、放射線

薬品や放射線は角膜を傷つけます。特にアルカリ性の薬品は角膜を破って目の内部に侵入して失明に至ることがありますので注意が必要です。もしこれらの薬品が目に入ったら、まずは水道水などの流水で10分以上洗眼を続けるなど、緊急の処置が必要です。
しかし角膜が濁ってしまうなどの後遺症が残ることもあり、重度の場合は角膜移植の適用となります。

全層角膜移植とパーツ移植

角膜移植にもいくつか方法があります。

全層角膜移植

角膜中央部の直径7~8mmの範囲を、ドナー角膜と置き換える手術で、全周縫合する必要があります。最大視力を完全に獲得するのに最大18カ月かかるとの報告がありますが、これは手術時の傷(手術創)の治癒に伴って、また縫合糸除去後に屈折力が変化することによるものと考えられています。

角膜内皮移植などのパーツ移植

病巣部分の角膜のみを移植する方法です。ドナー角膜を5層ごとに薄く切った移植片を、小さな傷口から眼内に挿入して、角膜の内側に接着させる方法です。移植片が薄いため、術後の拒絶反応は格段に少なく、角膜縫合による合併症もありません。安全性の高い手術と言えます。角膜移植に至る頻度が最も多い水疱性角膜症に対し、以前は全層角膜移植を行う以外方法がありませんでした。しかし、技術の進歩により比較的初期の水疱性角膜症にも適応され、最近では、やや進行した水疱性角膜症にも適応が広がりつつあります。

【(左)角膜の全層を丸ごと移植する全層角膜移植。(中央)内側のデメス層と角膜内皮を残してその上部を移植する深層層状角膜移植。(右)角膜内皮のみを移植する角膜内皮移植。全層角膜移植以外のパーツ移植は、患者さんのもとの組織を活かすことができるので、拒絶反応や合併症のリスクを低下させることができます。】

ドナー角膜、国内と海外の相違点

国内ドナー角膜は、いつ提供があるのかを予測できません。提供があり次第、待機者に連絡し、数日のうちに入院・手術となります。海外ドナー角膜は、通常、希望する日に手術を受けることが可能です。一般的に、待機期間を経た後の手術となる国内ドナー角膜に比べて、海外ドナー角膜は早く手術ができます。どちらを受けるかは患者さんの自由です。

疾患ごとの移植手術の成功率

角膜移植は確立された治療法で、手術後1年経っても、約90%の人の角膜は透明のままです。疾患ごとの成功率の目安は、円錐角膜、外傷性角膜瘢痕、初期の水疱性角膜症などでは約90%、進行した水疱性角膜症または不活性ウイルス性角膜炎では80~90%、活動性角膜感染症では約50%です。化学外傷または放射線障害では、0~50%です。

注意するべき合併症

角膜移植に伴う合併症には、移植した角膜に対する拒絶反応のほか、感染症には特に注意が必要です。また緑内障や白内障の発症、縫合部分がうまく生着しなかったり、強い屈折異常(乱視や近視)も起こりやすくなります。疾患の再発も、単純ヘルペスによる角膜症などは起こりやすく、再手術は難しくなるため、警戒すべきでしょう。

角膜移植の課題は、移植に必要な角膜ドナーの不足

全国アイバンク統計によると2014年3月時点で、移植待機者として登録されている方は2,200人、国内54のアイバンクから手術に供給される角膜数は1,476、これはそのまま移植件数になります。また、2006年の厚生労働省身体障害者実態調査によると、角膜疾患のための視覚障害者は1万9千人です。緊急で移植を必要としながらも何らかの事情で待機できない方、移植をあきらめてしまっている方も含めると、年間2万弱くらいの角膜が必要であるといわれています。移植が必要とされる方に比べ、ドナーが少ない状況です。足りない部分は海外のドナー、とりわけアメリカに大きく依存しています。この現状はあまり好ましいものではありません。WHOが臓器や組織の輸入といった行為を制限するのではないか、といった推測が一部でされています。国内におけるドナー不足の大きな原因はやはりドナー登録者が少ないことにあります。

板谷院長のひとことアドバイス

角膜移植のドナーは少なく、必要とする患者さんの数に比べて足りていないのが現状です。この現状は大きな課題であるため、今後より改善が求められます。再生医療の研究が進み、一部、角膜移植への実用化が近いといった情報もありますので、そちらにも期待したいところです。

まとめ

  • 角膜移植の技術は新しいものではなく、100年以上前から行われてきました。
  • 角膜移植が必要になるのは、できものや傷などが治ったあとに残る瘢痕、病気や外傷などによって穴が空く穿孔がある場合、激しい痛みが続く場合などです。
  • 年間2万弱くらいの角膜が必要であるといわれていますが、ドナー不足が深刻で、国内54のアイバンクから手術に供給される角膜数は1,476にとどまっています。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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