本記事は、2020年1月30日に再更新いたしました。

硝子体とは、眼球内で大きな空間を占める透明な組織のことです。コラーゲンでできた線維の中に、たくさんの水分を含んだヒアルロン酸が充満しており、透明性を保っています。なぜ「硝子体」と呼ばれるというと、硝子体が溶けたガラスに似ているからです。

目の奥(眼底)の病気のことを「網膜硝子体疾患」ともいいます。網膜硝子体疾患は、硝子体が網膜に異常な力を加えて、網膜に孔が開いて剥離したり(網膜剥離(もうまくはくり))や、網膜の中心である黄斑(おうはん)が変形してしまう病気です。

黄斑が障害される疾患には、黄斑前膜(おうはんぜんまく)、黄斑円孔(おうはんえんこう)といったものがあります。

「硝子体手術」は、こうした「網膜硝子体疾患」を治す手術のことで、網膜にかかる硝子体の異常な力を解除し、網膜や黄斑に開いた孔を修復します。

硝子体手術は近年、手術器具が劇的に進歩したことにより、非常に安全性が高まりました。一昔前は難しかった眼底の治療が日帰り手術で可能でになりました。以下では、硝子体手術とはいったいどういうものなのか、手術の進歩も含めてご紹介していきます。

手術の手順:白目の部分に小さな3つまたは4つの穴を開けて、
手術器具や照明などを入れて治療をする

硝子体が出血や炎症で混濁して網膜に光が届かなくなったり、硝子体に増殖反応が起こり網膜に破壊的牽引が及んだりしている場合は、硝子体を切除する「硝子体手術」が必要になります。硝子体を英語で「vitreous」といいますので、硝子体手術は「vitrectomy(ビトレクトミー)」といいます。

【手術の手順】
① 手術のセッティング
白目のテノン嚢の下から目の奧に麻酔をした後、角膜から3.5mm~4mmの白目の部分に小さな孔を3カ所(あるいは4カ所)開けます。そこから細い器具を入れて、病変部の治療を行います。

各の孔にはそれぞれ役割があります。1つ目は、手術中に眼球の圧を保つために灌流液(かんりゅうえき)を注入するための孔。2つ目は、目の中を照らす器具を入れるための孔。3つ目は、硝子体を切除して吸引する硝子体カッターをはじめとする治療器具を入れるために使います。照明器具と治療器具は操作状況に応じて入れ替えます。

この治療器具には、「硝子体カッター」の他に、網膜表面の薄い膜を剥離除去する「マイクロピンセット」や増殖膜を切離するための「マイクロ水平剪刀」などがあります。通常は、片手に照明器具を持ち、もう片方の手で治療器具を操作しますが、両手で治療を行いたいときは、4つ目の孔を開けて天吊り型の照明を置きます。

② 硝子体切除術
まず、眼球中央を占める硝子体を切除します(コアビトレクトミー)。硝子体が網膜と離れる後部硝子体剥離が起きていない目の場合は、「人工的後部硝子体剥離」を起こし硝子体切除を進めます。次に、網膜周辺部の硝子体を切除します(ペリフェラルビトレクトミー)。網膜剥離や増殖性の疾患は周辺部硝子体切除を十分に行うことが鍵になります。

硝子体を切除すると、切除した硝子体の代わりに灌流液が満たし、眼球の形を保持したまま、硝子体が灌流液に置き換わっていきます。

③ 網膜病変の治療
網膜や黄斑の病変を直接操作して変形した網膜や黄斑を元に戻します。疾患によって操作は異なりますが、「内境界膜剥離術」、「裂孔閉鎖術」、「増殖膜処理」「(汎)網膜光凝固術」などを組み合わせて網膜病変を治します。

【白内障手術との同時手術(硝子体トリプル手術)】
白内障がある場合や、水晶体があると手術の障害になる場合は、硝子体手術と同時に白内障の手術を行います。すなわち、「水晶体超音波乳化吸引術」+「眼内レンズ挿入術」+「硝子体手術」を行いますので、硝子体トリプル手術ともいいます。

50歳を超える方の目は硝子体手術後白内障が急速に進むことが多いためトリプル手術を選びます。

増殖糖尿病網膜症の重症例や増殖硝子体網膜症は、徹底的に周辺部硝子体を切除する必要があるため、少し邪魔になる水晶体を取るためにトリプル手術を選びます。

器具の進化:手術で使う器具がとても細くなり
極小の孔での手術が可能に!

硝子体手術の進歩は、目に挿入する器具を細くして、手術時にできるキズ(手術創)を小さくすることの歴史といってもいいかもしれません。

私が研修医の頃(1990年代前半)は、20ゲージという直径0.9ミリもある器具を使用していました。しかし現在では27ゲージといって、直径0.4ミリにまで細くなりました。

トロカールシステムの登場で、硝子体手術は安全に

器具が細くなったことだけではなく、「トロカール」システムが硝子体手術に導入されたことで、硝子体手術は安全な手術になったと言えるでしょう。

トロカールシステムとは、腹腔鏡手術やロボット手術などで用いられる器具の出し入れ用のガイドシステムです。使い方は、結膜の上から刺して設置するだけです。以前は、結膜を切って強膜を露出して創を作成していましたが、結膜を切る必要がなくなりました。さらに、創部の組織を傷めずに器具の出し入れができます。従来は、硝子体器具を抜く時に硝子体が創に入り込んで網膜を引っ張り孔を開けるトラブルが起こりやすかったのですが、トロカールシステムにより器具の出し入れによる網膜裂孔は経験しなくなりまたました。また、器具を抜いたときに目の中の房水(眼球の中を循環する体液)が外に漏れるのを防ぐ機能がついているため眼内圧が安定した状態で手術が出来るようになったのです。

小切開硝子体手術の時代となり、
翌日には傷跡もきれいに。日帰りが可能に!

トロカールを用いた25ゲージ~27ゲージ手術システムのことを「小切開硝子体手術」と呼びます。最も細い27ゲージの小切開硝子体手術では、黄斑前膜(黄斑上膜)や黄斑円孔など重症ではない眼底疾患なら、抜くだけで創は自然に閉鎖するため、創を縫合する必要が無くなりました。結膜を切らないため術後がきれいで、眼表面の炎症が少なくなり、術後の疼痛がほとんど無くなりました。縫合糸による術後の異物感が大幅に緩和されました。

また、小切開硝子体手術になってから、網膜に孔が開く網膜剥離の合併症も大幅に減りました。術後の視力回復も速くなり社会復帰が早まっています。はんがい眼科では、全症例で日帰りが可能になっています。

黄斑円孔や黄斑前膜などの非重症例では縫合の必要がないことが多く、翌日には手術創がきれいに閉じてしまう。

網膜剥離や増殖糖尿病網膜症などの難症例も、23ゲージ、25ゲージ、27ゲージを使い分けた小切開硝子体手術で治療します。難症例は硝子体を徹底的に取るため、漏れやすくなるため、創を縫合します。

硝子体手術の対象となる疾患:手術を急ぐものから、経過観察でいいものも
手術のタイミングは主治医と相談を!

硝子体手術の対象となる眼底の病気には、以下のようなものがあります。

① 網膜剥離(もうまくはくり):早く治せば治すほど、
視力の回復度合いは高くなる!

網膜剥離とは、網膜が土台の網膜色素上皮から剥がれる病気で、大きく分けて2つに分類できます。網膜に孔が開く「裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)」と、網膜に孔は開いていない「非裂孔原性網膜剥離(ひれっこうげんせいもうまくはくり)」です。

網膜の中心(中心窩;ちゅうしんか)が剥がれてしまうと網膜剥離が治ってもゆがみが残ります。中心窩の剥離の丈が高いほど、剥離してからの時間が長いほど、視力の回復が難しくなるので早期発見・緊急手術が重要になります。

裂孔原性網膜剥離の超広角レーザー走査検眼鏡写真

(治療)
はんがい眼科では、網膜剥離には当日でも緊急手術しています。網膜剥離は、網膜が中心窩近くまで剥がれていたら、できるだけ早く手術を行い、網膜を復位させ中心窩を守ることが大切です。早く治せば治すほど、術後の視力予後(視力の回復度合い)は良いといえます。

硝子体手術で網膜周辺部の硝子体切除が十分であると、再剥離をきたしやすくなり再手術が必要になります。網膜剥離は1回の手術で治すべきものです。成功の鍵は、時間がかかっても網膜周辺部の硝子体をしっかり切除して、網膜にかかる牽引を十分に解除することです。

②黄斑円孔(おうはんえんこう):緊急性はないが、発見されたら
早めに手術を受けて孔をふさぐ

黄斑(おうはん)とは、網膜の中心にある直径1.5ミリほどの組織でモノを見るための視細胞がたくさん集まっています。黄斑が少し傷つけられるだけで、視力が著しく低下してしまう大変重要な組織です。

その黄斑の中央に孔が開いてしまうのが「黄斑円孔」という病気です。丸い孔が開くことが多いために「円孔」と言うようになりました。60歳代の女性に起きやすく、他に強度近視の方や目を強く打った方などに見られます。

黄斑円孔のOCT画像

(治療)
まだ硝子体が黄斑円孔周囲に付着している場合は、人工的後部硝子体剥離を起こします。そして、十分に硝子体を切除すると、これだけでも円孔がふさがる場合もありますが、閉鎖率は低くなります。そこで、網膜の最表面にある内境界膜(ILMといいます)というコラーゲンでできた膜を剥離しますと閉鎖率が高くなります。ILMは透明な薄い膜であるため、特殊な色素で染めて見やすくして剥がします。その後、眼内を空気またはガスに置換し、術後に下向きを行うことで円孔閉鎖を促します。

術中の内境界膜剥離のシーン

③ 黄斑前膜(おうはんぜんまく):視力が低下してしまう前に、早めに硝子体手術で治療を!

黄斑部の網膜表面に硝子体の薄い膜が残り、その膜が厚く成長して収縮する力で黄斑を変形させてしまう病気です。網膜の前は、網膜から見ると上方になるので、「黄斑上膜(おうはんじょうまく)」と呼ぶこともあります。加齢により起こることが最も多く、若年齢でも網膜剥離、網膜裂孔の治療後、ぶどう膜炎など他の病気に生じることがあります。階段式に症状が進行していきます。最初は自覚症状がありませんが、次第にものがゆがんで見えたり(変視症、歪視)、大きく見えたり(大視症)、視力が低下しいきます。手術する時期は、視力がひどく低下する前のほうが予後は良いので、主治医とよく相談しましょう。

正常な目の黄斑と黄斑前膜の黄斑のOCT画像を比較

(治療)
薬で治ることはありません。硝子体手術で膜を取り除く治療を行います。まず硝子体を切除し、その後、黄斑表面の膜を細いピンセットで網膜からゆっくりはがしていきます。この際、網膜の表面にある内境界膜の一部も一緒に剥がれてきますので、内境界膜もきれいに剥離します。

④ 糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう):進行状況により、レーザーによる光凝固術か硝子体手術で治療をする

糖尿病網膜症が悪化すると網膜の毛細血管に血液が流れなくなります。これを無灌流領域といいます。無灌流領域が増えると血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor=VEGF)の産生が増えて、網膜や視神経乳頭に新生血管を生じます。糖尿病網膜症のなかでも重篤な増殖糖尿病網膜症といいます。この新生血管は、硝子体の中に伸びていくため、硝子体が引っ張って破れてしまい、硝子体出血を引き起こします。硝子体中に伸びた新生血管に沿って増殖膜が形成されると、この血管増殖膜の牽引により黄斑が著しく変形して傷んでしまったり、網膜を引っ張って網膜剥離が生じることもあります。

硝子体出血をきたした増殖糖尿病網膜症の超広角レーザー走査検眼鏡写真

(治療)
広い無灌流領域を認めたら、レーザーによる汎網膜光凝固術によりVEGFの産生を抑え、悪化を防ぎます。黄斑浮腫を悪化させないために3回に分けて行います。既に、硝子体出血を起こしている場合はレーザーできませんので、硝子体手術を行い出血を除去して汎網膜光凝固術を行います。血管増殖膜が黄斑を障害したり、網膜剥離を引き起こしている場合も、硝子体手術を行い血管増殖膜を切除して黄斑と網膜を守ります。

汎網膜光凝固術直後の超広角レーザー走査検眼鏡写真
3回に分けて行ったうちの3回目

⑤ 硝子体出血:出血の原因が何かで硝子体手術の緊急度が変わる

透明な硝子体の中に、なんらかの原因で出血が起こると、赤血球は光を通さないため、視力が低下してしまいます。出血量が少ないときは、視界に糸くずや虫、ごま粒が浮いたように見える飛蚊症(ひぶんしょう)という症状が起きます。出血量が多い場合には、墨が垂れたように見えた後視力が著しく低下します。

原因となる疾患は、後部硝子体剥離、網膜裂孔、増殖糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症などさまざまです。

(治療)
増殖糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症などは、経過を見ている間に硝子体出血をきたすことがありますが、原因がわかりますので、手術は急ぎません。出血量が多くなく、出血を繰り返さなければ自然と吸収されることも多いので、1カ月程度経過観察をすることもあります。

一方、硝子体出血ではじめて眼科受診された場合が問題で原因がはっきりしない場合が多いです。増殖糖尿病網膜症の場合は、糖尿があり反対側の目に網膜症を認めるため、ある程度推察できます。原因がはっきりしない場合は、網膜裂孔による硝子体出血の可能性も想定して、比較的緊急で硝子体手術に踏み切ります。その理由は、網膜裂孔が原因だった場合、ゆっくり経過を見ていると網膜剥離が進んでしまうリスクがあるらです。

いずれにしましても、硝子体出血の硝子体手術は、出血の原因を確定することが重要で、硝子体手術により原因となった疾患の治療も行います。

板谷理事長のひとことアドバイス

硝子体手術は、小切開硝子体手術になり安全性が格段に向上し、患者さんへの負担が大きく軽減し、日帰り手術が可能になりました。ただし、一歩間違えると失明につながるトラブルと背中合わせですので、経験と技術が必要な手術です。経験豊富な専門医にご相談ください。

まとめ

  • 目の奥(眼底)の治療を行う硝子体手術は、小切開硝子体手術が登場して安全になりました
  • 27ゲージ小切開硝子体手術は手術創が0.4ミリと小さく、自己閉鎖性が高いため、黄斑前膜や黄斑円孔の治療では縫わなくても翌日には手術創がきれいに閉じます
  • 小切開硝子体手術は、術後の疼痛が少なく、視力改善も早くなったため日帰り手術が可能で、社会復帰も早まりました

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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