以前と比べて「目が飛び出している」「横から見たときに左右の目の高さが違う」という症状に気づいたら、恐ろしく感じてしまうのではないでしょうか?
これは「眼球突出」と呼ばれる症状で、多くの場合はバセドウ病という甲状腺の機能が障害される病気によって起こります。バセドウ病は甲状腺ホルモンが異常に分泌されることで、全身にさまざまな症状が現れる病気です。命にかかわるような病気ではありませんのでご安心ください。

ところが、バセドウ病以外にも眼球突出の原因となる病気はあり、なかには命にかかわるようなものあります。
目が飛び出る症状は見た目の問題が気にされがちですが、もしかしたら命の危険となる病気を見つけるためのサインなのかもしれません。
今回は、眼球突出を引き起こす病気について、お伝えしていきます。

目が飛び出るのはなぜ?

目が飛び出る症状のしくみ

なぜ眼球が突出するのでしょうか。眼球は、眼窩(がんか)と呼ばれる骨のくぼみの中に入っています。このくぼみにある筋肉や脂肪、組織、血管などが、何らかの病気で腫れてしまうことで、眼球が後ろ側から押し出され、眼球が飛び出ているように見えます。この状態が、眼球突出です。

眼窩部の図解

眼球突出に併発する症状

眼球突出が起こったとき、気をつけたいのは、目にまつわるほかのトラブルです。
目のトラブルには以下があります。

  • まぶたの腫れ…眼窩の脂肪や涙腺が炎症することで、まぶたが腫れてしまうことがあります。まぶたが腫れると、まつ毛が眼球側に向かって伸びる逆さまつ毛になってしまい、目を傷つけます。
  • ドライアイ…バセドウ病の場合、甲状腺ホルモンの異常分泌の影響でまぶたが完全に閉じなくなる「眼瞼後退」が起きることがあります。まぶたが閉じなくなると角膜や結膜が常に外気にさらされてしまい、乾燥して傷つきやすくなるドライアイを発症します。
  • 複視…眼球を動かす筋肉組織である外眼筋が腫れることで、眼球がうまく動かなくなってしまいます。両目の動き方が変わってしまい、ものがダブって見えるようになります。
  • 視神経の障害…眼窩の腫れがひどいと、眼球が突出するとともに眼窩の内圧が高まります。眼球から脳につながっている視神経が、この圧力で障害される場合があります。視神経が障害されると、視力低下や視野欠損が起こるようになります。
  • 眼球突出が一度起こると、腫れた筋肉は戻りにくくなることも

    バセドウ病などで眼球突出が起きたとき、原因となる病気を治せば目が飛び出る症状も良くなっていくと思われがちです。しかし、一度突出してしまった眼球は元に戻りづらい傾向があります。というのも、炎症を起こした脂肪や筋肉には、グリコサミノグリカンという物質がため込まれてしまい、体積が増えてしまうためです。この物質は炎症が治まってもずっと残り続けてしまいます。
    時間の経過とともに、目の症状はますます治りにくくなっていきます。早期の発見、治療が理想的です。

    脳などの深刻なトラブルのサインである可能性も

    もうひとつ注意したいのが、眼球突出の原因に、より深刻なケースがあることです。眼窩の後ろは脳につながっているため、例えば脳に腫瘍ができたり、出血したり(脳内出血)というトラブルによって眼球突出が起こることがあります。また、ごくまれに眼窩に腫瘍ができることで目が押し出されることもあります。これらのトラブルは、時に命にかかわります。

    眼球突出の主な原因となるバセドウ病

    バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで全身にさまざまな症状が現れる全身性の自己免疫疾患です。
    甲状腺ホルモンは、細胞の新陳代謝を促し、運動や精神活動を活発化させるはたらきがあります。甲状腺の機能が高まると、体が常に運動を続けているような状態へと陥り、動悸や息切れ、手足のふるえ、発汗、疲労など多くの症状が現れます。

    全身症状と同時に、眼窩の脂肪や外眼筋に炎症が起こります。
    バセドウ病は、男性1に対して女性5の割合で発症する病気ですので、眼球突出は若い女性に多い症状といえます。

    バセドウ病では、眼球の奥にある眼窩脂肪や外眼筋に炎症が起きます。炎症により堆積が増えた眼窩脂肪などの組織が眼球を押し出すため眼球突出が起こります

    眼球突出を引き起こすその他の病気

    眼球突出を引き起こす病気は、バセドウ病以外にもあります。可能性は高くありませんが、万が一のこともありますので、ご紹介します。

    激しい痛みが起こる眼窩蜂窩織炎

    眼窩蜂窩織炎は、眼窩に侵入した細菌によって、脂肪組織に炎症が起こる病気です。主に、眼窩の近くにある副鼻腔で細菌が繁殖して、眼窩に感染することで発症します。副鼻腔のほかにも外傷や、歯の病気などが感染源となることがあります。小児に多いことが特徴です。
    眼球突出と同時に見られる症状は、まぶたの腫れや充血、むくみ、痛み、視力低下、発熱、頭痛、吐き気などです。特にまぶたに触ったとき、激しく痛んだり、複視が発症するケースも珍しくありません。

    失明の可能性もある内頸動脈海綿静脈洞瘻(ないけいどうみゃくかいめんじょうみゃくどうろう)

    眼窩の後ろに海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)という、静脈が広がった部位があります。この部位に直接、内頸動脈の血が流れ込んでしまうのが内頸動脈海綿静脈洞瘻です。

    動脈は心臓から全身に血液を送るための血管で、静脈は全身から心臓へ血液を戻すための血管です。血液を送るための圧力は動脈のほうが圧倒的に大きいので、動脈と静脈がつながると、動脈の血液が静脈に流れ込み、静脈の血液が逆流します。内頸動脈海綿静脈洞瘻は、脳や眼球、眼窩からの血液が静脈に流れ込むので、血液が逆流し血管が圧迫されて眼球が飛び出すことがあります。
    動脈から流れ込む血液の量によって現れる症状は異なりますが、眼球突出のほかにも、目の充血や視力低下(失明することも)、複視などが起こります。

    また、本来は脳に送られる血液が静脈に入ってしまうので、脳に十分な血液が送られなくなり、脳性の障害が起こることがあります。また、脳の静脈血が逆流してしまうと、脳出血や脳梗塞などの重篤な症状を起こすことがあります。
    こうした症状を防ぐためにも、早期の治療が重要です。

    内頸動脈海綿静脈洞瘻では、海綿静脈洞という複数の静脈が合流する部分に、動脈からの血液が流れ込んで、静脈の血液を逆流させてしまいます。そのため、眼球突出が起こることがあります

    さまざまな種類がある眼窩腫瘍

    眼窩に存在する組織から発生する腫瘍(しゅよう)の総称が眼窩腫瘍です。眼窩腫瘍にはさまざまな種類があり、腫瘍の種類ごとに症状が現れるスピードは違います。一般的には良性のものはゆっくりと、悪性のものは急激に進行します。
    腫瘍が大きくなり、眼球を圧迫することで現れる眼球突出もそのサインの1つです。ほかにまぶたの腫れや複視、痛みを併発しやすくなります。症状が悪化すると視機能に甚大な影響が及びます。まれに眼球破裂に至るケースもあるため、早期の治療が重要です。

    見え方に変化を感じたら、迷わず眼科へ

    眼球突出の程度が著しくない場合でも、「目が渇きやすい」「ものが二重に見えたりする」などの自覚症状がある場合は、眼球突出が起きている可能性があります。少しでも不安を感じたら、早めに眼科を受診することをおすすめします。眼球突出が起こった場合、ひとまず眼科を受診しましょう。そののちに、バセドウ病なら内科、といったように、原因疾患ごとの専門医のもとでさらに詳しい検査を受けましょう。

    眼球突出の治療法は原因ごとにさまざま

    炎症性疾患の場合は抗炎症薬の投与

    バセドウ病によって眼窩に炎症が起きた場合、抗炎症薬(ステロイド薬)を投与します。急性期は炎症を抑えることで、眼球突出の症状が軽減することもあります。しかし、慢性化してしまったあとでは効果が少ないので、眼球突出はそのままになってしまうことが多いです。
    バセドウ病自体の治療では、薬物療法のほかに、放射性ヨウ素を内服することで甲状腺細胞を減らし、症状を軽減するアイソトープ(放射性ヨウ素)治療や、甲状腺を摘出する手術療法が選択されることもあります。

    腫瘍や静脈の異常は手術

    腫瘍が原因であれば、摘出することで眼球突出は治ります。また、内頸動脈海綿静脈洞瘻も手術によって動脈の孔を塞ぐことで、静脈の圧力低下とともに眼球突出も改善されます。

    感染症には抗菌薬を投与

    眼窩蜂窩織炎の治療は抗菌薬の投与です。緊急入院した上で治療します。抗菌薬の効果が弱い場合は、手術で膿を取り除く必要があります。

    眼球突出のみの治療

    原因疾患の治療が終わっても眼球突出が残ってしまった場合は、眼球突出に対する治療が必要となります。
    重度のドライアイが発症している場合は、角膜を保護するために人工涙液を配合した点眼薬が処方されます。それでも症状が続く場合は、外科手術によってまぶたで目を覆うように治療します。

    また、複視の症状が強い場合は、目の周りを囲っている骨の一部を取り除いて眼窩のスペースを広げたり、両目のずれを直す斜視手術が行われることもあります。

    板谷院長のひとことアドバイス

    目が飛び出る症状は、多くの場合はバセドウ病が原因ですが、命にかかわる病気が原因の場合もあります。症状が怖い病気を知らせるサインであると考えて、すぐに眼科を受診しましょう。

    まとめ

    • 眼球突出の原因は多くの場合、バセドウ病です。
    • 眼球突出の原因が、命にかかわるトラブルの場合もあります。
    • 眼球突出の治療は、原因疾患の治療が最優先です。
    • 原因疾患を治療しても眼球突出が残る場合、専用の治療で症状の軽減を目指します。

    目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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