本記事は、2020年4月20日に再更新いたしました。

目は、本人がその病気に全く気付いていない状態でも、全身の健康状態をストレートに反映してくれる鏡のようなものです。「目に異常をきたして眼科を受診したところ、生活習慣病が見つかった」という事例は少なくありません。

そういった意味でも、目に何らかの異変を感じたら、些細に思える症状でも眼科を受診することが重要です。目は全身の“窓”。非常にありがたい存在だと捉えてみてください。

今回は「目のむくみ」とも形容できる「黄斑のむくみ」、中でも糖尿病黄斑浮腫を取り上げます。

「むくみ」という言葉にまどわされてはいけない

目のトラブルの1つに「黄斑のむくみ」があります。黄斑とは、眼球の内壁にある網膜の中心部を指します。直径わずか1.5㎜という小さな組織ですが、「視力」を担う重要な部位です。そこが、さまざまな原因によってむくんでしまうと神経細胞や神経線維が損なわれ、たとえむくみが取れても視力が戻らなかったり、見え方に歪みなどの異常が残ったり、最悪の場合は字が読めなくなります。

「黄斑という目の一部分がむくむだけなのに、ダメージがそんなに大きいのですか?」このような質問をいただくことも、よくあります。結論から言うと、その通りです。

顔や体のむくみより、目のむくみは100倍おそろしい

「むくむ」という言葉を聞いたとき、「手足のむくみ」「顔のむくみ」などをイメージする方が多いようです。特に女性の場合、「健康面」よりもむしろ「美容面」で気にされる傾向が強いかもしれません。確かに体が一時的にむくんだとしても、その部位の機能が低下したり、なくなったりするわけではありませんので、シリアスには考えにくいのです。

けれども、目のむくみは軽視しないでください。黄斑はいったんむくむと、光を感じる細胞が死滅していき、障害された視力や見え方は、決して元通りにはなりません。ですから、早期発見、早期治療が不可欠なのです。

糖尿病や高血圧の方ほど、黄斑がむくむリスクは高くなる

では、黄斑がなぜむくむのか。その理由について説明していきましょう。主な2つの原因として、糖尿病と高血圧が挙げられます。

糖尿病を抱えている方は、糖尿病黄斑浮腫を発症し、黄斑がむくみます。

高血圧の傾向がある方は、網膜静脈閉塞症が起こり、黄斑がむくみます。

つまり、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を抱えている方は、黄斑がむくむ可能性が健常な方よりも高いと言えるのです。黄斑のむくみを黄斑浮腫といいます。

【黄斑浮腫】

目とは、全身の健康状態を教えてくれるセンサーのようなもの

日々の診察の中で、黄斑のむくみ(黄斑浮腫)を発見したのをきっかけに、糖尿病や高血圧が発見されるケースが決して少なくありません。診察後に「糖尿病(高血圧)の可能性が高いので、内科を受診してください」と伝えると、非常に驚かれます。「見えにくい」という目の症状以外に、身体の異常を自覚されていないからです。そのような場合、私は「目が身体のリスクを教えてくれましたね」と、ポジティブに捉えていただくように言葉をかけます。

日常のなかで気付けなかった病気の存在について、「目が警鐘を鳴らしてくれたんだ。今、身体に進んでいる異常に気がつけなかったら命にかかわる問題になっていたかもしれない。」と思えば、前向きな気持ちになれるはずです。目の治療に対しても積極的に取り組む意欲も湧いてくると期待します。

黄斑浮腫とは、糖尿病網膜症とセットになっている眼病の1つ

ここから糖尿病黄斑浮腫について詳しく見ていきましょう。糖尿病黄斑浮腫とは、「糖尿病網膜症」が進んでいくなかで、どの段階でも起こりうる糖尿病の合併症です。長い間、血糖が高い状態が続くと、網膜の毛細血管が傷んでいきます。そして、毛細血管に壁の薄い小さな瘤 (毛細血管瘤)ができ、血液成分が漏れ出します。やがて毛細血管の瘤のない部分も緩んできて血液成分が漏れることになります。このようにして漏れ出した血液成分が黄斑部に集まった結果、むくみ(浮腫)が生じるというわけです。

黄斑がむくむと、ゆがんで見えたり、視力が低下したりします。初期の黄斑浮腫は小さなものですが、悪化すると重度の視力障害が生じます。

目がむくむと、世界はゆがんで見え始める

黄斑浮腫が進行するにつれ、さまざまな症状が現れます。視力の低下やかすみ目などがありますが、なかでも多いのは、ゆがみ(変視症または歪視)です。変視症は黄斑の病気によくみられる症状です。たとえば、直線であるはずの線や壁などがゆがんで見える場合、黄斑の病気を疑います。その中でも代表的なものの一つが黄斑浮腫なのです。黄斑浮腫が長引くと黄斑の光を感じる視細胞が失われていくため見つめたところが見えにくい中心暗点が生じます。

変視症はアムスラーチャートで発見する

片方の目に変視症が出始めても、もう片方の目がカバーして変視症に気がつかないことが多いです。片眼をカバーして、片眼でカレンダーなどを見ると気がつきやすくなります。変視症を見つけるのに有用なのが、アムスラーチャートです。図のように、格子状の線が碁盤の目のように並んでいます。アムスラーチャートを30cmほど離して片眼だけで見ます。変視症があると、まっすぐなはずの線が曲がったり、波打ったりします。真ん中が見えにくくなると(中心暗点)線が欠けたり、黒っぽくなって線が見えにくくなります。

【アムスラーチャート】

黄斑の健康はOCTでわかる

糖尿病黄斑浮腫の診断にはOCT(光干渉断層計)を用います。黄斑の健康はOCTでわかります。健康な黄斑はきれいなくぼみを持ちます。この健康な黄斑の形が変形すると歪んで見えるようになるのです。また、黄斑の光を感じる視細胞が健康だと4本のラインが途切れることなく平行に並んでいます。視細胞がダメージを受けて減ってしまうと上の3本のラインが消失したり、その部分が薄くなります。

糖尿病黄斑浮腫になると現れる黄斑の病的変化をまとめると、

  • 黄斑のくぼみがなくなる
  • 肥厚する(分厚くなること)
  • 嚢胞様黄斑浮腫:血漿が網膜内に溜まる
  • 黄斑剥離: 血漿が網膜下に漏れて黄斑が剥離する
  • OCTにより黄斑浮腫の質や程度を把握することができるとともに、治療の効果をモニターすることができます。特に、OCTは分解能が3~8ミクロンメートル(μm)と精度が高く、むくんだ網膜の厚みを高い精度で測定することができ、治療の効果判定に優れています。実際の撮影では、痛みやまぶしさが全くなく、短時間で終わる優れものの検査なのです。

    【健康な目のOCT画像】
    健康な黄斑は「きれいなくぼみ」と「4本のライン」を持っている

    【糖尿病黄斑浮腫のOCT画像】
    黄斑のくぼみは消失し、嚢胞様黄斑浮腫(網膜内の黒っぽいエリア)や黄斑剥離(網膜下の黒っぽいエリア)を認める

    糖尿病黄斑浮腫で、かつて主役だった検査に蛍光眼底造影があります。この検査では蛍光色素の入った造影剤を腕の静脈から注射し、眼底での動きを捉えます。健康な状態では、造影剤は血管の中にだけ存在しますが、黄斑浮腫で血液成分が漏れていると造影剤が血管の外の組織に溜まります。これにより黄斑浮腫の存在や程度がわかるのです。他にも、毛細血管瘤や血液が流れていない毛細血管の範囲(無灌流領域)などがわかります。

    蛍光眼底造影は、造影剤に対する身体のアレルギー反応が起きるリスクがあり繰り返しの検査に向かないこと、黄斑浮腫の程度を測定できないなどの弱点が有り、OCTに主役の座を明け渡しました。

    【蛍光眼底造影】 白色に映る造影剤が花びらのように溜まって見えるのが嚢胞様黄斑浮腫である。

    血液成分の「漏れ」こそ、黄斑浮腫の原因

    黄斑浮腫が起こるのは、網膜の中に血液成分が漏れ出すことが原因です。漏れは毛細血管瘤と毛細血管そのものから起こります。黄斑浮腫が長引くと炎症や黄斑前膜が絡んできて病態が複雑になります。治療法には、大きく分類すると、糖尿病黄斑浮腫の治療には、抗VEGF治療薬・レーザー治療・硝子体手術などがありますが、抗VEGF治療薬を第1選択治療とし、漏れ方や病態によっては、複数の治療法を組み合わせて行うこともあります。

    抗VEGF治療薬の登場で、多くの方たちが救われた

    抗VEGF治療薬の硝子体中が黄斑浮腫の第1選択として確立しました。VEGF(=血管内皮増殖因子)は糖尿病網膜症を悪化させる犯人で、毛細血管を漏れやすくする力が強く黄斑浮腫の主な原因となっています。抗VEGF治療薬は、このVEGFを抑え込む薬剤で、目の中の硝子体腔に注射することで毛細血管からの漏れを減らし黄斑浮腫を抑えるという画期的な治療法です。今まで、治りにくかった糖尿病黄斑浮腫のコントロールが可能になり、黄斑浮腫の治療が激変しました。ただし、問題が2つ残っています。

    抗VEGF治療薬の残る問題①:「注射をやめられない」

    抗VEGF治療薬の効果は約1ヶ月です。このため、注射後1ヶ月を過ぎると黄斑浮腫が再発してくるのです。このため、まず導入期として1ヶ月ごとに3回注射を行い、黄斑浮腫を抑え込みます。3回で抑え込めない場合は、継続します。しかし、抑え込めたと思って、注射を止めると再発してしまい、なかなか注射を止められないという苦しい闘いになることがあります。必要な抗VEGF治療薬の注射回数は、原因別に 「糖尿病黄斑浮腫>網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫>網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫」の順に多くなります。このように、糖尿病黄斑浮腫は注射をなかなかやめられないという問題が大きいのです。

    抗VEGF治療薬の残る問題②:「注射の効き目がいまひとつの場合がある」

    糖尿病黄斑浮腫>網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫>網膜静脈分枝閉塞症 の順に抗VEGF治療薬が効きにくい、あるいは効いても不完全である症例があります。糖尿病黄斑浮腫を例に取り説明します。

    ① 毛細血管瘤の漏れ: 糖尿病黄斑浮腫は、血液成分が毛細血管から漏れますが、毛細血管瘤からも漏れます。抗VEGF治療薬は、毛細血管からの漏れを止めるのは得意ですが、毛細血管瘤の漏れは止めにくいのです。この場合、レーザーによる毛細血管瘤凝固術を併用します。

    ② 炎症の関与:糖尿病黄斑浮腫は、診断したときはかなり時間が経っていて慢性化していることが多いです。慢性化すると、炎症が黄斑浮腫形成に絡んでおり、抗VEGF治療薬だけでは抑えきれなくなります。この場合は、炎症を抑えるトリアムシノロン(ステロイド懸濁液)のテノン嚢下注射を併用します。

    ③ 黄斑前膜の関与: 黄斑浮腫が長く続いたときに起こることがある硝子体の変化が黄斑浮腫を悪化させている場合、抗VEGF治療薬だけでは黄斑浮腫を抑えることはできません。炎症は硝子体の最後部にある硝子体皮質と呼ばれる薄い膜を肥厚させ、網膜との癒着を強めます。やがて、硝子体は水分を失っていき収縮していき黄斑表面から離れようとしますが、癒着が強すぎると離れることができず、黄斑を引っ張って黄斑浮腫を悪化させてしまうのです。硝子体黄斑牽引症候群と呼ばれることもあります。硝子体手術を行い、黄斑に癒着した黄斑前膜を剥離除去します。

    【黄斑前膜が関与した糖尿病黄斑浮腫】 
    「OCTアトラス」吉村長久・板谷正紀共著(医学書院)より

    レーザーで治す

    抗VEGF治療薬と併用する外科的な治療法としては、レーザー光凝固術があります。
    レーザー光凝固術には、抗VEGF薬の効き目が悪い毛細血管瘤(もうさいけっかんりゅう)を焼き固めて漏れを塞ぐ毛細血管瘤凝固術と網膜の土台の色素上皮細胞を刺激して活性化し漏れた血液成分の吸収を高める閾値下凝固の2種類があります。

    手術で治す

    黄斑浮腫を悪化させている黄斑前膜がある場合(硝子体黄斑牽引症候群)硝子体手術を行ます。硝子体手術は、安全性の高い27ゲージ小切開硝子体手術がお勧めです(下図)。黄斑浮腫を悪化させている黄斑前膜を剥離して除去します。硝子体を除去すること自体も黄斑表面の酸素分圧を高めるなどして、黄斑浮腫の改善にプラスに働くと考えられています。

    【小切開硝子体手術】

    【小切開硝子体手術による黄斑前膜剥離術】

    黄斑のむくみを防ぐには、原因を根本から絶つのが最善策

    ここまで、最先端の眼科の治療法を紹介してきました。とはいえ、黄斑浮腫は高血圧や糖尿病が深く関わった病気ですので、眼科の治療と並行して高血圧や糖尿病の治療に努め、十分なコントロールを続けることが大事です。いわば、眼科治療と内科治療は車の両輪のように進めるべきものなのです。これにより、眼科治療の効果は高まりますし、再発もしにくくなると期待できます。

    予防のためには、セルフチェックや眼科の定期検査がおすすめ

    糖尿病治療の現場では、合併症予防のため定期的な眼科の受診が推奨されています。忙しくても、眼科に足を運ぶことを習慣化していきましょう。糖尿病黄斑浮腫では、自覚症状がないことも珍しくありません。眼科に通うことこそ、最大の防御策となります。
    自宅で気軽に行える検査もあります。カレンダーや壁紙、ネクタイの柄など、格子状のものを片眼ずつで見てください。ゆがんでいるように感じたり、視野が欠けたりなど「見え方が変化した」と思ったら、すぐに眼科を受診しましょう。

    板谷理事長のひとことアドバイス

    黄斑はものを見るチカラの源泉です。黄斑がむくむ黄斑浮腫はものを見るチカラを失う危機です。できるだけ早く治療を開始して黄斑のチカラを守ることが大切です。片眼ずつカレンダーを見ることでゆがみに気がつくことが早期発見につながります。特に、高血圧や糖尿病がある方は週1回でもお試しください。

    まとめ

    • 黄斑浮腫の背景には、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があります。
    • 黄斑浮腫が長引くと黄斑の視細胞が死滅していくため、視力や見え方が回復しないことがあります。
    • 抗VEGF薬の登場により、黄斑浮腫はコントロール可能になりました。
    • 黄斑浮腫の診断と治療にはOCTが主役になりました。
    • 黄斑浮腫は目の治療と背景の生活習慣病の治療を一緒に行うことが重要です。

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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