目は、本人がその病気に全く気付いていない状態でも、全身の健康状態をストレートに反映してくれる鏡のようなものです。「目に異常をきたして眼科を受診したところ、生活習慣病が見つかった」という事例は少なくありません。

そういった意味でも、目に何らかの異変を感じたら、些細に思える症状でも眼科を受診することが重要です。目とは、全身の“窓”。非常にありがたい存在だと捉えてみてください。

今回は「目のむくみ」とも形容できる「黄斑のむくみ」、中でも糖尿病黄斑浮腫を取り上げます。

「むくみ」という言葉にまどわされてはいけない

目のトラブルの一つに「黄斑のむくみ」があります。黄斑とは、眼球の内壁にある網膜の中心部の組織を指します。直径わずか1.5~2㎜という小さな組織ですが、「見る力」の大部分を担う重要な部位です。そこが、さまざまな原因によってむくんでしまうと視神経が損なわれ、たとえむくみが取れても視力が落ちたり、見え方に異常が残ったり、最悪の場合は失明に至ることもあります。

「黄斑という目の一部分がむくむだけなのに、ダメージがそんなに大きいのですか?」このような質問をいただくことも、よくあります。結論から言うと、その通りです。

顔や体のむくみより、目のむくみは100倍おそろしい

「むくむ」という言葉を聞いたとき、「手足のむくみ」「顔のむくみ」などをイメージする方が多いようです。特に女性の場合、「健康面」よりもむしろ「美容面」でのデメリットを気にされる傾向が強いと感じます。確かに体が一時的にむくんだとしても、その部位の機能が低下したり、なくなったりするわけではありません。体のむくみも疾患の前兆であったりするので、注意は必要ですが、体のむくみを軽視する方は多いようです。

けれども、目のむくみは軽視しないでください。黄斑はいったんむくむと、光を感じる細胞が死滅してしまい、障害された視力や見え方は、決して元通りにはなりません。すから、早期発見、早期治療が不可欠なのです。

糖尿病や高血圧の方ほど、黄斑がむくむリスクは高くなる

では、黄斑がなぜむくむのか。その理由について説明していきましょう。主な二つの原因として、糖尿病と高血圧が挙げられます。
糖尿病を抱えている方は、糖尿病黄斑浮腫を発症し、黄斑がむくみます。
高血圧の傾向がある方は、網膜静脈閉塞症が起こり、黄斑がむくみます。
つまり、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を抱えている方は、黄斑がむくむ可能性が健常な方よりも高いといえるのです。

目とは、全身の健康状態を教えてくれるセンサーのようなもの

私のところにやってくる患者さんを見ていると「黄斑のむくみに気づいてから、糖尿病や高血圧に気付く」という方が決して少なくありません。診察後に「糖尿病(高血圧)の可能性が高いので、そちらの専門病院を早く受診してください」と伝えると、非常に驚かれます。突然の病気の告知に、ショックを隠せない方も多くいらっしゃいます。そのような場合、私は「目が病気を教えてくれましたね」と、ポジティブな捉え方をご提案しています。

日常のなかで気付けなかった病気の存在について、目が警鐘を鳴らしてくれていると思えば、少しは心も軽くなるはず。また、「目の治療に対して積極的に取り組む意欲も湧いてくる」と、長年の経験上感じています。

黄斑浮腫とは、糖尿病とセットになっている眼病の一つ

ここから糖尿病黄斑浮腫についてより詳しく見ていきましょう。糖尿病黄斑浮腫とは、「糖尿病網膜症」と並び、目に起こる代表的な糖尿病の合併症です。長い間、血糖が高い状態が続くと、網膜の毛細血管が傷んでいきます。そして、毛細血管に小さな瘤 (毛細血管瘤)ができ、血液成分が漏れ出します。やがて瘤のない毛細血管も緩んできて血液成分が漏れることになります。このようにして漏れ出した血液成分が黄斑部に集まった結果、むくみ(浮腫)が生じるというわけです。

黄斑がむくむと、歪んで見えたり、視力が低下したりします。初期の黄斑浮腫は小さなものです。しかしむくみが黄斑の中心部にまで及ぶと、重度の視力障害が生じます。

目がむくむと、世界は歪んで見え始める

黄斑浮腫が進行するにつれ、さまざまな症状が現れます。視力の低下やかすみ目などがありますが、なかでも多いのは、歪み(変視症など)です。たとえば、直線であるはずのものや建築物などが歪んで見える場合、黄斑浮腫の初期症状である可能性は高くなります。たとえば「格子状の模様が歪んで見えた」と訴える患者さんがいます。

また、物の大きさが実物よりも大きく見えたり、反対に小さく見えたりすることもあります。物を見るための大切な部分にむくみが起きているのですから、それらの症状はある意味致し方ない現象ともいえるでしょう。

検査機器の性能は、日進月歩の勢いで進歩している

糖尿病黄斑浮腫の診断のために行われるのが、眼底や網膜の検査です。網膜の断面図を観察できる検査として、まずOCT(光干渉断層計)があります。OCTでは、どの程度のむくみが、網膜のどの位置に生じているのかなどを画像として捉えることができます。検査の精度の高さに加え、痛みやまぶしさが全くなく、短時間で終わる点が大きなメリットです。

他には、蛍光眼底造影などがあります。この検査では、網膜の血管に出血が起きていないか、どの程度の出血がどこに起きているかを調べることができます。蛍光色素の入った造影剤を注射し、眼底の様子を調べます。これらの検査を受けることで、むくみの部位を特定し、よりよい治療につなぐことができます。

血液成分の「漏れ」こそ、黄斑浮腫の原因

黄斑浮腫が起こるのは、黄斑に血液成分が漏れ出すことが原因です。漏れ方(病態)には種類がいくつかあり、それによって治療法が変わります。複数の治療法を組み合わせて行うこともあります。

大きく分類すると、糖尿病黄斑浮腫の治療には、投薬治療・レーザー治療・硝子体手術などがあります。患者さんの目や全身の状態、既往症、むくみの原因や視力などを考慮に入れて、最善の治療法を選びます。どのような治療法でも、早い場合は約2 週間で視力が改善したり、ゆがみが解消したりします。

VEGF阻害剤の登場で、多くの方たちが救われた

投薬による治療法では、ステロイド薬やVEGF(ブイイージーエフ)阻害剤を利用します。これらの場合、網膜や黄斑を傷つけることなく、浮腫を抑えることが可能です。

ステロイド薬には、「炎症を抑え、血管から水分が漏れやすい状態を改善する働き」があり、眼内などに注射することで黄斑浮腫を抑えることができます。

また、近年は新しい注射薬、VEGF阻害剤が、治療の主流になってきました。目の硝子体の中に注射すると、網膜のむくみが改善され、視力の改善が期待できます。

血管成分の漏れを抑えてくれるのがVEGF阻害剤

このVEGF阻害剤が、どのような仕組みで治療効果を発揮するのか、説明してみましょう。
そもそも糖尿病黄斑浮腫とは、網膜の毛細血管から血液成分が漏れ出るのを促す物資、VEGF(=血管内皮増殖因子)によって引き起こされます。このVEGFの作用を抑え込むVEGF阻害剤を目に注射して、血管成分の漏れを抑えるという画期的な治療法です。この薬のおかげで、目のトラブルの多くが、比較的短期間で改善されるようになりました。

手術で治す、という方法もある

外科的な治療法としては、レーザー光凝固術と硝子体手術があります。
レーザー光凝固術には、細小血管や毛細血管瘤(もうさいけっかんりゅう)から血液成分が漏れ出るのを防ぐ直接光凝固と格子状光凝固の2種類があります。これらは単独で行われることもあれば、併用されるケースもあります。

硝子体手術の場合、黄斑浮腫の原因である硝子体の網膜への牽引、たんぱく質の除去、硝子体内の酸素分圧を高めるなどして、黄斑浮腫の改善を目指します。

黄斑のむくみを防ぐには、原因を根本から絶つのが最善策

ここまで、最先端の治療法を紹介してきました。とはいえ、糖尿病黄斑浮腫を根本から改善するためには、症状の原因である糖尿病と向き合うべきです。糖尿病を早期に治療し、血糖コントロールを適正値に保っていくよう心がけましょう。

理想を言うと、疾患(たとえば高血圧症や脂質異常症など)の発症リスクを抱えている方は、それらをできるだけゼロへと近づけていきたいものです。なぜならこれらの病気は、網膜症を発症するリスクを高めるからです。網膜症が引き起こされると、自ずと黄斑浮腫も発症しやすくなります。血圧や脂質をコントロールできると、それらの発症はもちろん、網膜症の進行の速さも遅らせる効果が期待できます。

予防のためには、セルフチェックや眼科の定期検査がおすすめ

糖尿病治療の現場では、合併症予防のため定期的な眼科の受診が推奨されています。忙しくても、眼科に足を運ぶことを習慣化していきましょう。糖尿病黄斑浮腫では、自覚症状がないことも珍しくありません。眼科に通うことこそ、最大の防御策となります。

自宅で気軽に行える検査もあります。カレンダーや壁紙、ネクタイの柄など、格子状のものを少し離れたところから見てください。歪んでいるように感じたり、視野が欠けたりなど「見え方が変化した」と思ったら、できるだけ早く、眼科を受診しましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

目は健康状態を映す鏡のようなものです。異変を感じたら、些細に思えても眼科を受診することが重要です。特に、目のむくみは軽視できません。黄斑はいったんむくむと、細胞が死滅してしまい視力や見え方は元通りにはなりません。生活習慣病を抱えている方は、黄斑がむくむ可能性が高いため、原因を根本から絶つことが最善策と言えます。

まとめ

  • 一度むくんだ黄斑は、細胞が死滅するため、視力や見え方が回復しないことがあります。
  • 新しい薬・抗VEGF治療薬の登場により、手術を受ける患者さんの数は昔より減りました。
  • あらゆる生活習慣病を遠ざけることこそ、目を健やかに保つことにつながります。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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