本記事は、2020年4月20日に再更新いたしました。

緑内障は、視神経が障害されるために視野が欠けていく病気です。視野の欠損はゆっくりと進行しますが、自分で気がつきにくく発見が遅れ、失明に至る場合もあります。日本での失明原因の1位であり、失明された方の4人に1人は緑内障が原因となっています。

以前は眼圧が上昇することで視神経乳頭が圧迫され視神経が障害されると考えられていましたが、日本人の場合は、正常眼圧であっても緑内障になる方が多いことがわかりました。これは、日本緑内障学会と多治見市との共同で行われた「多治見スタディ」(2000-2002年)という調査によって判明しました。すなわち、正常な眼圧でも視神経が負けて障害されることが多いことがわかったのです。

この調査により、40歳を超えると20人に1人、約5%の方が緑内障を発症していることもわかりました。そのうちの約8割が、原因不明の原発開放隅角緑内障という病気です。さらに、そのなかの90%が正常眼圧緑内障だということがわかったのです。

眼圧の異常は必ずしも病気の原因というわけではありませんが、視神経を障害する危険因子であることは変わりません。緑内障から視神経を守るためには、病気が進行しなくなるレベルまで眼圧を下げる必要があります。

このように、眼圧が高いために緑内障を発症する方と、眼圧が正常でも緑内障を発症する方がいます。また、初期には視野検査でも正常とでます。このことから、緑内障の診断と評価には眼圧とは別に眼底を検査することが最重要な項目になっています。今回は緑内障について、基礎的な知識をご紹介しましょう。

緑内障は眼圧により視神経が障害されて起こる

眼球の重要な器官は閉ざされた球体の空間の中に閉じ込められ機能しています。サッカーボールなどのように、ボールの内側からの圧力により球形を保っています。目の場合、この圧力、すなわち眼圧が一定程度保たれることでクリアに見えるための光学系として機能します。

しかし、何らかの原因でこの眼圧に視神経が負けてしまうと、視神経の中の神経線維が失われていき視野が欠けていってしまいます。これが緑内障です。眼圧が正常範囲を超えて高くなって視神経が負ける場合と、眼圧は正常範囲ですが、視神経乳頭に弱さがあって負けてしまう場合があります。眼圧は10~21mmHgが正常範囲とされています。眼圧が50 mmHgと正常の2、3倍に上がると目の痛みや頭痛として自覚されますが、30 mmHgなど少々正常を超えても、自覚症状は全くありません。後述するように、視野障害もかなり悪化するまで気がつきにくく、緑内障は自分で自覚することが難しい病気なのです。そのため、40歳を越えたら検診や眼科受診により、早期発見に努めることが失明を防ぐうえで重要になります。

緑内障は原因のあるものと原因不明のものがある

緑内障は病態で大きく分類すると、原発閉塞隅角緑内障、原発開放隅角緑内障、続発緑内障、発達緑内障の4つに分かれています。緑内障を知るうえで、さらに「原因がわかっているもの」と「原因不明なもの」に分ける考え方が重要です。なぜなら、原因がわかっている緑内障の治療の第1選択は、「原因を取り除く」だからです。それぞれみていきたいと思います。

原因が分かっている「原発閉塞隅角緑内障」

「原発」とは、別の病気が原因ではない、という意味です。原発閉塞隅角緑内障は、「別の病気が原因ではなく元々の目の個性として隅角という部位が狭くなり閉塞して起きる緑内障」という意味になります。

原発隅角緑内障を理解するためには、目の中の水分である房水の流れを知るとわかりやすくなります。房水は毛様体で血液から作られ水晶体と虹彩の間のスペースを通って虹彩の前に流れ込み、虹彩と角膜の根元にある隅角の線維柱帯というフィルターを通過して、シュレム管→集合管→上強膜静脈 と流れ出ていきます。

【房水の流れ】

この房水の流れの中で問題になるのは、水晶体と虹彩の間のスペースなのです。人の水晶体は年齢ともに厚くなっていきます。その結果、水晶体と虹彩の間のスペースが狭くなっていきます。通常の目なら問題ないのですが、一部の方はもともと目の構造が小さくて、水晶体と虹彩の間のスペースが狭まり流れが悪くなっていきます(相対的瞳孔ブロック)。すると、流れない房水が虹彩の後ろに溜まってしまい、虹彩が前へ弓なりに押し出され、隅角が狭くなってしまうのです。これを狭隅角または閉塞隅角症と言います。近視の方は目が大きめなので起こりにくく、正視、特に遠視の方にリスクがあります。

ここから緑内障になるには2つの進み方があります。

急性緑内障発作

これは水晶体と虹彩の間のスペースが急に閉じてしまい(瞳孔ブロックといいます)、行き場を無くした房水が虹彩を強烈に押し出して隅角が完全に閉じてしまう状態です。眼圧の上昇は激しく50 mmHg以上、時に70~80 mmHgと正確に測定できないレベルにまで上がます。症状は激しく、強い目の痛み、強い頭痛、吐き気嘔吐、視界のかすみなどが同時に起こります。早急に瞳孔ブロックを解除しないと失明します。薄暗いところで下向きの作業を長時間行うと発作が誘発されやすくなります。瞳を広げる抗コリン作用のある薬を服用すると発作が起こりやすくなります。抗コリン作用のある成分を含む薬は風邪薬や睡眠薬など身近にありますのでご注意ください。添付文書に「緑内障の方は禁忌」と記載があれば抗コリン作用があることになります。しかし、これでは数ではもっと多い開放隅角緑内障も含んでしまうため、令和1年から「閉塞隅角緑内症の方は禁忌」と改訂がなされました。

慢性閉塞隅角緑内障

水晶体と虹彩の間のスペースが急に閉じることはせず、流れは維持されているが減っている(相対的瞳孔ブロック)ために、虹彩の前方突出が慢性的に続き徐々に虹彩の根元が隅角に癒着して線維柱帯が塞がり眼圧が上昇して緑内障になる状態です。癒着が徐々に進むため眼圧の上昇はマイルドで、眼痛、頭痛などの症状は生じず、このため気がつきにくく、発見されたら相当緑内障が進んでしまっているリスクがあります。隅角の50%以上が閉塞すると眼圧は上昇しやすくなります。

【急性緑内障発作の目】

原発閉塞隅角緑内障の治療

治療は瞳孔ブロックを解除するために、虹彩の根元に孔を開け迂回路をつくる治療が行われてきました。房水は迂回路を通って虹彩の前へ行けるため、虹彩が前へ弓なりに押し出されることは無くなり隅角は開きます。虹彩の根元に孔を開ける方法は、手術(周辺虹彩切除術)で始まり、外来でできるレーザー(レーザー虹彩切開術)に取って代わられました。ただし、急性緑内障発作で角膜混濁が解消されない場合はレーザーができないため、周辺虹彩切除術を行います。レーザー虹彩切開術は、外来で比較的手軽にできるため、緑内障になるリスクがある閉塞隅角症に予防的に行われます。日本はこの予防的治療を熱心に行ってきたため、原発閉塞隅角緑内障による失明が少ないのです。

レーザー虹彩切開術は、瞳孔ブロックを解除して虹彩の前方への突出を防ぎフラットにしますが、隅角そのものが狭いことを解除することはできません。このため約20%の目ではレーザー虹彩切開術後でも、慢性閉塞隅角緑内障が進むとされています。このため、最近では、白内障手術が第1選択となってきました。白内障手術ときくとピンとこないかもしれませんが、原発閉塞隅角緑内障の原因が水晶体の厚みが増すことであることを思い出してください。白内障手術では、人の水晶体よりもはるかに薄い眼内レンズに置き換えます。これにより、水晶体と虹彩の間のスペースも隅角も、広々と広がり、2度と閉塞隅角が進むことは無くなります。100%解除されるのです。ただし、既に癒着している部分は白内障手術だけでは広がらず、「隅角癒着解離術」により癒着を剥がす必要があります。また、既に視神経乳頭が傷ついて緑内障になっている場合は、生涯緑内障の管理が必要になります。

【原発閉塞隅角緑内障の2つの治療】虹彩の根元に孔を開ける治療は虹彩をフラットにするが、水晶体の大きさに虹彩が押し出させているのは変わりがない。白内障手術は、大きな水晶体がなくなるので、虹彩は本来の位置に戻る。

【レーザー虹彩切開術前後の前眼部OCT画像】虹彩の弓なりの前方突出はなくなりフラットになったが隅角は狭いままである

【白内障手術前後の前眼部OCT画像】虹彩の弓なりの前方突出がなくなりフラットになるだけではなく、隅角は大きく開いた

別の病気が原因の「続発緑内障」

ぶどう膜炎や糖尿病など、他の病気に起因する緑内障を「続発緑内障」といいます。まず、緑内障を引き起こした原因に対しての治療が必要です。原因を抑え込んでも十分に眼圧が下がらない場合は、眼圧を下げるための点眼治療を開始し、それでも十分に下がらない場合は、緑内障手術が必要になります。では、続発緑内障を引き起こす病気とその治療を見ていきましょう。

ステロイド緑内障

ステロイドを長期間使用すると房水の出口にある線維柱帯が構造変化を起こし房水の通りが悪くなり眼圧が上昇します。まず、ステロイド点眼を使用するときは注意が必要です。特に、効果の強いデキサメタゾンやベータメタゾンで眼圧上昇が起こるリスクがあります。ステロイドで眼圧が上がりやすい方を、ステロイドレスポンダーといいます。もともと開放隅角緑内障のある方、若年者、強度近視の方、糖尿病のある方はステロイドで眼圧が上がりやすためステロイドの使用時は気をつけたいところです。けっして、使用しないということではありません。例えば結膜炎が重症でかゆみなどの症状が強くてステロイド点眼が必要なときも、だらだら使うのではなく短期間限定で使用したり、長期間使用する必要があるときは必ず定期的に眼圧チェックを行うことが大切です。目やまぶたにステロイド点眼やステロイド眼軟膏を使う場合がもっとも眼圧が上がりやすいですが、ステロイドの内服薬や背中など目以外の皮膚に使うステロイド軟膏でも眼圧は上がるリスクはありますので、眼圧の定期的チェックは必要です。なかには、痔の薬などステロイドが入っていると知らずに使用していることもありますので、長期に使用している薬に関しては、成分表をご確認願えればと思います。

治療は、まず原因であるステロイドの使用を休止することです。短期使用の場合は、休止するだけで眼圧は元に戻りますが、長期に使用していると下がりにくいため眼圧を下げる治療が必要になります。内科的疾患の治療の必要性からステロイド内服を止められない場合、ステロイド懸濁液のテノン嚢下投与のように効果が2~3ヶ月持続する場合も、眼圧を下げる必要があります。眼圧を下げる治療としては、まず緑内障点眼を行います。点眼で抑えきれない場合は、線維柱帯切開術を行います。実は、ステロイド緑内障は線維柱帯切開術が最も効きやすい緑内障なのです。

線維柱帯切開術については、こちらもご参照ください

https://hangai.org/surgery/glaucoma-surgery/

ぶどう膜炎

目の虹彩やぶどう膜はさまざまな原因による炎症が起きやすい場として知られており総称してぶどう膜炎(炎症が虹彩に限局する場合は虹彩炎ともいいます)といいます。ぶどう膜炎の炎症が隅角に及ぶと線維柱帯の房水排出力が低下して眼圧が上がります。さらに炎症が続いたり、強まると虹彩の根元が線維柱帯に癒着して塞いでしまい(周辺部虹彩前癒着)、強い眼圧上昇を引き起こします。

治療

まず、ステロイド点眼で炎症を抑えます。炎症が強いときは、ステロイドの内服やステロイド懸濁液のテノン嚢下注射を行います。同時に、虹彩と水晶体の癒着(虹彩後癒着)を防ぐために散瞳剤を使います。散瞳剤により瞳を広げて動かすことで虹彩後癒着を防ぐのです。それでも、360度癒着した場合は瞳孔ブロックが起こります。この場合、虹彩が前の方に飛び出てくるため「膨隆虹彩(Iris Bombe)といいます。この場合は、緊急的に周辺虹彩切除術を行います。

炎症で線維柱帯の機能が落ちているだけなら、ステロイド治療で炎症を抑えただけで眼圧が下がりますが、ステロイドそのもので眼圧が上がりやすい方(ステロイドレスポンダーといいます)は、今度はステロイドで眼圧が上がりジレンマに陥ることもあります。炎症が収まれば点眼回数を減らすなどしてステロイド点眼による眼圧上昇に留意します。ステロイド点眼を完全に止めると再び炎症が起きてくることがあります。周辺部虹彩前癒着が広い範囲に進み線維柱帯が広く塞がってしまうと、炎症が消退しても眼圧が下がらなくなります。その場合は、人工的な房水の出口を作成する線維柱帯切除術かプレート付きインプラント手術が必要になります。

血管新生緑内障

房水の出口である隅角、特に線維柱帯に新しい血管(新生血管)が生えて房水の排出が妨げられ眼圧が上昇する緑内障です。増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症、眼虚血症候群では、網膜の広い範囲で血液の流れが悪くなり、新しい血管を作ろうとする生体反応として血管内皮増殖因子VEGFが産生されます。VEGFは、網膜新生血管を作り、硝子体出血など眼底の病気を引き起こすとともに、虹彩や隅角にも新生血管を作り血管新生緑内障を引き起こすのです。隅角新生血管が線維柱帯に生えると線維柱帯の働きが落ちて眼圧が上昇します。この段階であれば、治療として網膜を隅々までレーザーで汎網膜光凝固術を行ってVEGFの産生量を落とせば隅角新生血管が消退して眼圧が下がることがあります。さらに進むと、虹彩の根元が線維柱帯に癒着する周辺部虹彩前癒着が進み眼痛や頭痛を伴う激しい眼圧上昇をきたします。ここまで進むと、汎網膜光凝固術だけでは抑えきれず、緑内障手術を併用する必要があります。緑内障手術は線維柱帯切除術かプレート付きインプラント手術を行います。

重症例では、硝子体出血や虹彩の新生血管(ルベオーシス)からの前房出血が原因で汎網膜光凝固術を行えないことがあります。この場合は、硝子体手術を行い目の中から直接的に汎網膜光凝固術を行います。血管新生緑内障の目は散瞳薬を用いても瞳が大きく開かず、網膜の周辺部までレーザーが届かず、血管新生緑内障の勢いを止められないことがあります。この場合も硝子体手術を行い目の中から直接的に汎網膜光凝固術を行います。

眼虚血症候群は、目に血液を供給する頚動脈や眼動脈が高血圧性変化により狭くなって血流が低下して起こる病気です。網膜だけではなく眼球全体が酸素不足(虚血)に陥るため、網膜を光凝固しただけでは血管新生緑内障は抑えきれないことがあります。頚動脈や眼動脈の内径を細くしている高血圧性変化の治療が必要になります。

【新生血管緑内障の目】虹彩にルベオーシスとよばれる新生血管が木の枝のように生えているのが見える

落屑症候群

高齢者の片眼もしくは両眼の瞳孔や水晶体に独特の白色物質が付着してくることがあります。これを落屑物質と呼びます。この落屑物質は隅角にも沈着していることが多く眼圧上昇を引き起こし高眼圧を伴います。眼圧の上昇は、時に急激であり、視野障害の進行も原発開放隅角緑内障よりも速いため注意が必要です。片眼性の場合は、健康な方の視野がカバーするため気がついたら末期ということもしばしばあります。原因は、落屑物質ですが、この物質を取り除くことはできないため、治療は原発開放隅角緑内障に準じます。急激に眼圧が上昇して点眼で抑えきれない場面がしばしば経験され、緑内障手術が必要になります。視野障害が軽度なら線維柱帯切開術やiStentを行いますが、視野障害が高度な場合は線維柱帯切除術を行います。いずれの治療も、原発開放隅角緑内障よりは効きにくい傾向があります。

【落屑緑内障の目】白色の沈着物が瞳孔縁と水晶体表面に付着している

水晶体融解性緑内障

白内障が相当進むとなかには、水晶体皮質が溶け出し、液状になります。液状になった水晶体物質が水晶体の外に漏れ出すと、強い免疫反応が起こって炎症が起こり眼圧を上昇させます。なぜなら、水晶体の中味は生まれてからずっと水晶体嚢の中に存在し免疫系と触れることがないため、水晶体物質は異物と間違われてしまい免疫反応が起きてしまうのです。治療は、白内障手術を行い、水晶体物質を除去し、眼内レンズに置き換えます。

生まれつき隅角の発達異常がある「発達緑内障」

発達緑内障は、生まれつき隅角に発達異常があるために眼圧が高くなる緑内障です。国内では約3万人に1人に発症すると報告されています。発達緑内障は、生後1歳までに約80%が発症し、これを早発型発達緑内障といいます。特に、生まれた時に起こっている場合は先天緑内障とも呼ばれてきました。残りは、主に10~20歳代で発症する遅発型発達緑内障(隅角異常の程度が軽い)と目の先天異常(無虹彩症、スタージ・ウェーバー症候群、ペータース異常など)を伴う発達緑内障に分類されます。

出生後から眼圧が高い場合は、眼球が大きい状態(牛眼)で発見されることがあります。他にも、涙が多い、光を極端にまぶしがる、まぶたがピクピク動く、黒目が白くにごるなどの症状を伴うことがあります。一方、遅発型発達緑内障の場合は、症状に乏しく、発見が遅れがちです。目の先天異常を伴う発達緑内障は、全身的な先天異常を伴うことがあります。

治療ですが、早発型発達緑内障の治療は、早急に線維柱帯切開術を行います。全身麻酔になります。1回の手術で眼圧が下がらないこともあり、その場合は複数回の手術が必要になります。弱視になるリスクがあり、眼鏡の装用やアイパッチの使用など、弱視に対する治療も必要になることがあります。

遅発型発達緑内障は緑内障点眼から開始し、緑内障点眼で十分眼圧が下がらない場合に手術を行います。

目の先天異常を伴う発達緑内障では、目の状態に応じて緑内障点眼または手術を行います。

原因が分からないことが多い「原発開放隅角緑内障」

原発開放隅角緑内障は「緑内障の原因となる明らかな問題がなく、隅角も広い目に起きる緑内障」という意味になります。

先に説明しましたように、房水は隅角にある線維柱帯という網目状のフィルターを通って排出されますが、隅角が広くても線維柱帯の房水の通りが悪くなると、眼圧が上昇し、緑内障が発症します。このように、原発開放隅角緑内障は原因不明に眼圧が高くなる緑内障と考えられていました。

しかし、眼圧が正常なのに緑内障になる正常眼圧緑内障は、原発開放隅角緑内障と区別して考えられてきましたが、眼圧が緑内障の原因ではなく危険因子と捉え直されたのを契機に、正常眼圧緑内障も原発開放隅角緑内障のなかに組み込まれました。多治見スタディーは、正常眼圧緑内障は原発開放隅角緑内障の90%を占めるという驚きの状況を明らかにしたのです。眼圧が正常範囲(10〜21mmHg)であるにもかかわらず視神経が障害され、進行もゆっくりなため気づくのが遅れ、取り返しのつかない状態になってしまうことも多い病気です。特に近視や高齢者の方に多いため、強度の近視の方や40歳以上の方は定期的な眼底検査が望まれます。

治療は眼圧が高い場合は、まず眼圧を正常域にコントロールします。では、正常眼圧緑内障はどうしたら良いかといいますと、治療開始前の眼圧を何度か測定してベースライン眼圧を調べます。仮に、ベースライン眼圧を20 mmHgとしますと、20 mmHgが緑内障を引き起こした危険な眼圧と見なし、そこから20%~30%下げる(16~14 mmHg)と視野障害が進みにくい安全な眼圧になると考えられています。この安全な眼圧を目標眼圧と言います。視野障害が軽度な場合は20%ダウンで16 mmHg、視野障害が強い場合は30%ダウンで14 mmHgを目標眼圧とします。常に目標眼圧よりも眼圧を低くなるように治療の強度を調節します。

では、目標眼圧に下げる方法はと言いますと、これまでは第1選択は緑内障点眼でしたが、レーザー治療を第1選択にした方が良いという論文が出始めました。緑内障点眼は、私が研修医の時に比べ眼圧を下げる効果が高い点眼薬が次々と出てまいりましたが、同時にさまざまな副作用と闘うことにもなりました。角膜の点状表層角膜炎、充血、まぶたの色素沈着、眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、まぶたのくぼみ、などけっして軽いとは言えない副作用があります。最近、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)、マイクロパルス経強膜毛様光凝固術という2つの眼圧を下げるレーザー治療が保険診療に認可されました。どちらも副作用が乏しいこと、繰り返し治療が可能であることが特徴です。選択的レーザー線維柱帯形成術の方が点眼治療よりも経済的にコストがかからず効果も高いという論文が出始め、レーザーを最初に使うという考え方が広まり始めています。

ほとんどの緑内障はゆっくり進行し自覚症状に乏しいことに要注意

多治見スタディーの結果、日本人は緑内障の約8割が、原因不明の原発開放隅角緑内障という病気で、さらに、その90%が正常眼圧緑内障であることが示唆されました。これら緑内障のほとんどは、進行がゆるやかで10~20年と長い年月をかけて進行していきます。そのため、視野異常が検出されたときには、すでに10~20年以上前から緑内障が始まっていたということも多いのです。

眼圧が正常、あるいはマイルドな眼圧上昇があっても初期の間は自覚症状はありません。視野異常がかなり進んできても、目は左右で視野を補い合うため、片目の視野障害が進んでも、もう一方の目の視野で補ってしまい、そのせいで気がつきにくいのです。

【視野の欠損は徐々に進みます。また左右の目で補うため後期になるまで気づかないこともあります。】

緑内障の診断は将来のリスクを測ることが大事!

緑内障の治療とは、見えなくなって生活に困る時が訪れるリスクを予測して、そのリスクを無くすために十分に強い眼圧下降治療を行うことです。ただ、緑内障点眼をすることが治療ではありません。常に、この眼圧で大丈夫かどうかを視野検査で判断して治療強度を変えていきます。

40歳を超えると20人に1人が緑内障を発症するといわれていますが、そのうち失明する方はごく一部です。緑内障は、日本の失明原因一位ですが、緑内障の母数が大きいため、失明まで進まない方が多いのです。つまり、失明のリスクのある方を見抜くことが何より重要です。もっと正確に言うなら、失明するよりも前から見えにくくて生活に支障がでますので、生涯の間に生活に困るくらい見えにくくなるリスクを見極めることが重要なのです。ハイリスクと判断したら治療強度を強くして眼圧を極力下げて、可能な限り視野が進みにくくなるように努めます。

初診時にわかるリスク

ハイリスクを見分けるには、年齢と、視野障害の程度とパターン、進行速度などで判断します。例えば、こんな風に考えます。

  • 年齢:同じ程度の視野障害であれば、若ければ若いほど、残りの人生が長い分だけ失明のリスクが高いのは理解しやすいと思います。
  • 視野障害の程度:同じ年齢でも視野障害が強いほどリスクが高いのはわかりやすいと思います。
  • 視野障害が下側の方がハイリスク:視野は下方の方が生活に必要であるため下方の視野障害が強いとハイリスクと言えます。
  • 視野障害が中心に近いほどハイリスク:見つめたところが見えないと字を読むなど生活に困りますので、中心近くに視野障害があるとハイリスクと言えます。
  • 経過を見てわかってくるリスク
  • 視野障害の進行が速いほどハイリスク:視野障害の進行が速いと生涯の間に見えにくくなるリスクは高くなります。しかし、視野が進むのが速いかどうかはすぐにはわかりません。3~4ヶ月に1回の視野検査を2~3年続けると、年に減る視野の量がわかります。それをもとに、何歳頃に見えにくくて生活にお困りになるかが予測できるのです。
  • 視野進行が速いと言われている危険因子は、睡眠時無呼吸症候群、偏頭痛、拡張期収縮期血圧が低い、2型糖尿病などがあります。
  • 強度近視の緑内障の約40%は早期から中心視野を担当する神経線維が減少

    視野障害が中心部分から起こる場合もあり注意を要します。強度近視の目と正常眼圧緑内障で起こりやすいと言われています。我々の研究では、強度近視の目は約40%で視野の中心部分を担当する神経線維の減少が早期から起きていました(Kimura Y, Hangai M, et al. Retinal nerve fiber layer defects in highly myopic eyes with early glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2012;53:6472-8.)。強度近視でない目では、15%の頻度でした。また、私が京都大学の緑内障外来で初期の視野異常を持っている方の年齢分布を調べてみたところ、非強度近視の方が初期視野障害を有する年代は50~60代がピークで、強度近視の方が初期視野障害を有する年代は30代がピークでした。この2つの知見を合わせて考えると、やっかいなリスクが浮かび上がります。強度近視の方の中には、まだ若き仕事年齢で中心付近が見えにくくなるリスクを持つ人がいるということです。PCのマウスポインターがふっと見えなくなるとの訴えで受診されるのです。こういうリスクを持つ方は、とにかく症状が出る前に、超早期に発見して眼圧を徹底して下げる必要があります。

    ところが、20代、30代で眼科を受診する方は多くはありません。この年代の眼科受診が多い機会として考えられるのはコンタクトレンズ外来です。ところが、眼底検査はほとんどおこなっていないのが実情でしょう。コンタクト診療は包括診療になってしまい眼底検査をしても保険点数が獲得できないためです。近視の目は緑内障の罹病率が数倍高く、しかもコンタクトレンズクリニックに集まります。なのに、せっかくの早期緑内障の発見機会を逸しているので残念です。

    とはいうものの、近視の場合は、視神経乳頭が変形しているため、初期の緑内障の診断はなかなか難しいのも現実です。近視の目の緑内障診断は一筋縄ではいかないのです。鍵は、次項のOCTです。

    【近視が強い方は、視神経乳頭がさまざまなパターンに変形している】

    OCT(光干渉断層計)による眼底検査が重要

    緑内障は神経節細胞が50%以上減少した時点ではじめて、視野異常が検出されることが多いとされています。つまり、視野異常が検出されたときには、すでに相当神経節細胞や神経線維は減ってしまっているのです。しかし、見方を変えると、視野検査では緑内障を見つけることができない超早期の緑内障でも、眼底に大きな変化が起きていて、これを見いだせば超早期発見が可能になると言えます。これを可能にするのが、OCT(光干渉断層計)です。OCTは、眼底の細部まで観察できる画期的な診断機器です。網膜の10層構造が手に取るようにわかります。なかでも緑内障で重要なのは、神経線維層(RNFL)と神経節細胞層(GCL)です。緑内障では神経節細胞が減るわけですが、その細胞体が存在するのが神経節細胞層、その軸索である神経線維が走っているのが神経線維層です。すなわち、この2層が薄くなっていくのが緑内障の姿なのです。

    【正常な目の網膜10層構造】内側の2層が緑内障で薄くなる神経線維層(RNFL)と神経節細胞層(GCL)である

    具体的に見ていきましょう。下図の症例は、視野障害は軽度なのですが、中心付近から始まっているのがリスクです。視神経乳頭は比較的丸くて近視性変化が少なく診断が容易です。近視が乏しい目の視神経乳頭はドーナッツのような丸いかたちをしていますが、緑内障にナルトドーナッツの食べるところ(リム)が薄くなります。この症例では、耳下側のリムが薄くなり、その部位に乳頭出血と呼ばれ出血を認めます(緑矢印)。これをOCTで観察すると、視野欠損に一致して神経線維層と神経節細胞層が明らかに薄くなっていることが見て取れます(赤矢印)。



    【初期緑内障の視野、視神経乳頭(眼底写真)、OCT画像】

    実は、このOCTによる診断では、視野に異常が検出されない緑内障(視野前緑内障と言います)を容易に診断できるのです。例えば、下記の症例では、標準的な視野検査では異常を検出できませんでした。視神経乳頭も、円形でドーナッツの食べるところ(リム)に薄くなっているところははっきりしません。唯一、緑内障性変化として考えられるのが緑矢印にはさまれている神経線維層欠損と呼ばれる箒状の暗い部分だけです。このような超早期の段階でも、OCTでは神経線維層が明らかに薄くなっているのがわかります。OCTは、緑内障の超早期発見のためのクリニーニングに優れているのです(Nakano N, Hangai M, et al. Ophthalmology 2011;118:2414-26.)。



    【視野前緑内障の視野、視神経乳頭(眼底写真)、OCT画像】

    ただし、OCTによる神経線維層と神経節細胞層の菲薄化は、必要条件ではあっても十分条件ではありません。視神経や頭蓋内の病気であっても神経線維層と神経節細胞層の菲薄化の菲薄化が起きるからです。菲薄化のパターンや視神経や頭蓋内の病気が否定できるなど総合的な判断が必要になります。

    同様に、視野異常は視神経や頭蓋内の病気など緑内障以外の疾患も考えられます。視野障害イコール緑内障とするには早計です。視野異常がある場合は、眼圧に加え、眼底の異常と視野の異常が対応していることに着眼しなくてはなりません。

    OCT(光干渉断層計)による眼底検査が重要

    先に強度近視の目の問題点を説明しましたが、緑内障診断の難しさも問題の一つです。近視の目は、本来丸いドーナッツの形をしている視神経乳頭が、人の耳のようにひしゃげた形に変形していることが多いのです。この近視性変化は、学童期に近視が進んだ時期に起きた形態変化であって機能的に問題は少なく心配はいりません。しかし、視神経乳頭の形の異常で緑内障を診断することを妨げるのです。近視性変形が病的に見えるため、検診では緑内障疑いという判定が下ります。しかし、よほど近視が強くない限りOCTでみる黄斑部の形は近視性の変化は乏しく均一であり、正常と異常の区別は比較的容易につきます(Nakano N, Hangai M,et al. Am J Ophthalmol 2013;156:511-523.)。

    【視野異常のない目の視神経乳頭とOCT画像】視神経乳頭の近視性変形は強いが、黄斑部の神経線維層と神経節細胞層は正常に見える

    【視野異常のある目の視神経乳頭とOCT画像】視神経乳頭の近視性変形は強く緑内障の有無ははっきりしないが、黄斑部の神経線維層と神経節細胞層は明らかに薄くなっている部分がある(赤矢印)

    原因がある場合と原因不明の場合

    緑内障の治療の基本は、原因がある場合は、原因に対する治療を行います。原因不明の場合は点眼またはレーザー治療により眼圧を下げる治療を始めます。次に、その患者さんの将来のリスクを把握することが大切です。

    原因となる疾患があるのにその治療をせずに点眼治療だけを行うと、眼圧を抑えきれず悪化させてしまうことがあるので要注意です。

    日本人の失明原因の1位は緑内障ですが、失明まで進むのは一部のハイリスクの方です。早期発見すること、緑内障と診断できたらリスクを読み、リスクに応じた十分な眼圧コントロールを行っていくことが大切です。緑内障の多くは進行が緩やかで、今日明日失明するわけではありません。ご自分が高齢期に入ったときに見えづらくなり生活に困るという方が多いのです。そして、今から十何年、何十年先の自分を守るために、今できる最善の治療を行うことが緑内障の治療なのです。

    板谷理事長のひとことアドバイス

    緑内障は理解が難しい病気であり、緑内障という病名も怖いイメージがあります。むやみに恐れて、精神的にまいってしまうのもマイナスです。緑内障という病気と闘うためには、知ること、理解を深めていくことが大切です。知ると怖くなくなります。見えないからお化けは怖いのです。あなたの緑内障をあなたの人生の中で捉えてリスクを語り治療の方向性を提案してくれる眼科医を見つけましょう。

    まとめ

    • 緑内障は視神経が障害され、神経線維が減少して視野が徐々に狭くなる疾患です。視野の欠損の進行はゆっくりで、両眼で補い合うため、症状を自覚しにくい特徴があります。
    • 眼圧が上がる原因がある場合と不明な場合があります。原因である場合は、原因を明らかにして、まず原因の解除を行います。
    • 緑内障の大部分は眼圧が正常か高くてもマイルドな上昇の原発開放隅角緑内障です。
    • 原発開放隅角緑内障から失明を防ぐためには、早期発見と障害のリスク評価が重要です。
    • 緑内障の早期診断にはOCTが有力です。
    • 緑内障のリスク評価には視野検査が有用です。

    日本眼科医会/日本眼科学会/MSDマニュアルプロフェッショナル版/はんがい眼科各ホームページ/『「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術』板谷正紀著

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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