ヘルペスとは、子どものときにヘルペスウイルスに感染した人に、思春期あるいは成人期になってから発症する病気です。体内で何年間も眠っていたウイルスが、疲れたときやかぜをひいたときなど体の免疫力が低下したときに目覚めることで発症するのです。ヘルペスウイルスを体の中に持っている人であれば、誰でもヘルペスを発症するリスクを抱えています。このウイルスが角膜に発症したものを、角膜ヘルペスと呼びます。

再発しやすく失明率の高い感染症

ヘルペスウイルスに感染した人の体の中でウイルスは、その人の生涯を通じて生息し続けると考えられています。このウイルスが角膜に発症する角膜ヘルペスには、再発を繰り返しやすいという特徴があります。再発が繰り返されることで、角膜が次第に混濁していき視力が障害され、ときには角膜が穿孔(せんこう)して角膜移植が必要となることがあります。目の感染症の中でも失明率の高い病気の一つでしたが、近年になって特効薬アシクロビルが開発され、失明率は低下しました。この病気にかかったら、再発を繰り返さないように、しっかりと薬物治療を行うことが大切です。

単純ヘルペスウイルス1型の感染から始まる

ヘルペスウイルスには、大きく分けて、単純ヘルペスウイルスと帯状疱疹ヘルペスウイルスがあります。どちらも、10年単位で長期間潜伏し、免疫力が低下したときに悪さをする、という点では同じですが、ウイルスの型が違うので区別するのが一般的です。角膜ヘルペスを起こすのは単純ヘルペスウイルスですので、以下、ここでは単純ヘルペスウイルスについて説明します。

単純ヘルペスウイルスには、戦後の非衛生的な環境で育った世代では保有率が高く、現代の衛生的な環境で育った世代で低いという特徴があります。日本皮膚科学会が行った調査によると、10代では約17%、20~30代では50%弱、40~50代では70%強、60代では約90%、70代では約96%の人が単純ヘルペスウイルスを保有しています。

単純ヘルペスウイルスには、1型と2型という2つのタイプがあります。1型のウイルスは口唇や目を含む顔面などの上半身に、2型のウイルスは性器を中心とする下半身にヘルペスを発症させます。角膜ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスの1型によって引き起こされる病気の一つなのです。角膜ヘルペスは、原因ウイルスを持っている人の約0.05%に発症するといわれています。

ママとのキスで感染?

では、角膜ヘルペスの原因ウイルスである単純ヘルペスウイルス1型は、どのようなときに感染するのでしょうか? まだ体内に抗体を持っていない乳幼児は、ウイルスに感染しやすい状態にあります。そんな乳幼児が、母親から食べ物を口移しでふくまされたときや、キスをされたときなどに、母親の保有していた1型の単純ヘルペスウイルスに感染する可能性があります。感染したウイルスは目の奥にある三叉(さんさ)神経の中に潜み、ふだんはおとなしくしていますが、疲れがたまったときや精神的ストレスがかかったときや病気になったときなど、免疫力が低下したのをきっかけに神経を伝わって角膜に現れ、活動を開始します。

再発しやすく、繰り返すと失明することも

角膜ヘルペスには、ウイルスが角膜の上皮層を侵す上皮型と、角膜の実質層を侵す実質型があります。タイプによって経過が違うので、どちらのタイプであるのか知ることが大事です。

上皮型は、ウイルスが角膜の最も外側の上皮層で活発に増えることで上皮の細胞を壊してしまうタイプの角膜ヘルペスです。充血が起こり、なみだ目になり、目がゴロゴロして痛みを覚えます。視力の低下は軽度です。

実質型は、実質層でウイルスに対する免疫反応(アレルギー)が起こって炎症が生じるタイプの角膜ヘルペスです。充血が起こり、視界がぼやけ、視力が顕著に低下します。眼科医が見て、角膜に濁りを見つけることもあります。ウイルスが深い部分に入ると、ぶどう膜炎を併発することもとあります。再発しやすく、繰り返すと失明することもあります。

特効薬の開発で失明は大幅に少なくなった

近年、ヘルペスウイルスに対する特効薬として抗ウイルス薬アシクロビル(ゾビラックス)という薬が開発されました。この薬剤を用いることにより、角膜ヘルペスによる視力障害や失明が生じるリスクを大幅に低減することができます。実質型の角膜ヘルペスには、体の免疫反応を抑えるために、副腎皮質ステロイド系の点眼薬を併用します。

板谷院長のひとことアドバイス

角膜ヘルペスは目の感染症の中で最も失明率の高い病気です。角膜が混濁し視力障害となったり、角膜が穿孔し、角膜移植が必要になったりすることもあります。乳幼児にはウイルスへの免疫がなく、母親から食べ物を口移しでふくまれたときなどから感染することもあるので注意が必要です。

まとめ

  • 一度よくなっても、三叉神経節にウイルスが残留し、再発を繰り返すことがあります。万一再発した場合は早めに眼科を受診することが重要です。
  • 適切に治療が行われずに再発を繰り返すと視力障害が出やすくなります。
  • 角膜ヘルペスが他人に伝染することはあまりありませんが、ウイルスに対して抗体を持っていない乳幼児では感染の頻度が高くなるので注意が必要です。発症している患者が目を触った手で乳幼児に触れると感染させる可能性があります。
  • 子どものうちに知らずに単純ヘルペスウイルスに感染して免疫ができると、後年、発症しても軽症ですみます。逆に大人になってからはじめて感染すると、症状が重症化することがあります

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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