近視は万病の元。今回はそんな話題です。
近視とは近くは見えるが遠くがぼやけてしまうことというイメージで理解されている方が多いと思います。なぜそんなことが起こるのでしょうか?
ほとんどの人は元々遠視で生まれてくるのですが、身体が成長する学童期(8~15歳)に目も奥行き方向に成長して、ピントが網膜というスクリーンに合うようになって正視になります。ところが、目が成長しすぎて網膜がピントよりも後ろへ行ってしまうと近視になります。
そして、学童期の過ごし方が、近視の進み方(目の成長)に強い影響を与えることがわかってきました。眼球が成長しすぎて奥行き方向の長さ(眼軸長〔がんじくちょう〕)が26.5ミリを越えると強度近視と呼ばれます。

実は、強度近視の方は、若年から老年期までさまざまな眼の病気になりやすいのです。中途失明原因の4位になっていることも意外と知られていません。

今回は強度近視の仕組みと、幼少時にどう防いだらいいのかといった予防の知識や、さらに強度近視の方に起こりやすい疾患についてご紹介します。近視というのはご自分にも、ご自分のお子さんやお孫さんにも関わるものです。そんな近視とのつきあい方の参考にしていただければと思います。

近視とは目の奥行が伸びすぎてしまったこと

日本では近視(近眼)は珍しくありませんが、目が成長しすぎることで近視になるというのはご存じでしょうか?小学生から中学生にかけていつのまにか近視になりメガネをかける子が増えることはよく見る風景ですね。
身長がググッと伸びる8〜15歳頃(学童期といいます)に、実は目も奥行き方向に成長していきます。正面から見た時の黒目が大きくなるわけではないため外見上はわかりませんが、角膜から網膜の中心までの距離(目の奥行き)が伸びていくのです。この距離のことを「眼軸長(がんじくちょう)」といいます。

角膜から網膜までの、目の奥行きの長さを眼軸長といいます

 

人は生まれたときは遠視、その後の目の伸び方が遠視、正視、近視を決める

人は生まれたときは遠視なのです。つまり、眼軸長が短くてスクリーンの網膜がピントより前にある状態で生まれてきます。その後眼軸長が伸びていきスクリーンがピントに近づいていきます。スクリーンがちょうどピントの位置まできて目の成長が止まると遠視でも近視でもない正視になります。
眼軸長の伸びが足りずスクリーンがピントの前にあるままだと遠視にとどまり、逆に眼軸長が伸びすぎてスクリーンがピントの後ろに行ってしまうと近視になるのです。

眼軸長が伸びていくほど、近視が強くなります

 

強度近視の定義

レンズの度数はD(ディオプター)という単位で表します。近視の方が装用するレンズはマイナス〇Dなどと表しますが、この〇の部分の数字が大きいほど、近視が強いということになります。
一般に近視の中でも-6.0Dを超えるものを「強度近視」と呼びます。この境界はあいまいで、-6.5D, -7.0Dなどさまざまです。
これを目の奧行きの長さである眼軸長でみてみると、人の正視の眼軸長は24 mm前後ですが、26 mmを越えると強度近視とされています。この境界も、26.5 mm、27 mmなどさまざまです。

強度近視を知り未病と早期発見に努め、視力を守ろう

強度近視の方は朝起きても部屋の壁も手元も見えずメガネを探すのも一苦労。メガネの見え方は不十分でコンタクトレンズが手放せません。強度近視の方のご苦労はなってみないとわからない大変なものです。
その上、後述するように失明につながりかねない眼の病気になるリスクがあります。強度近視と向かい合うには、原因を知り予防に努めるとともに、引き起こす病気を知り早期発見早期治療に努めることが大切です。

強度近視の原因を知り予防する

強度近視の2つの原因

網膜で焦点が合う状態を正視と言います。しかし何らかの原因により眼球の奥行き(眼軸長)が伸びすぎると、焦点が網膜の手前で合ってしまい、近視と呼ばれる状態になります。

眼軸長が伸びすぎる原因には、大きく分けて二つあると考えられています。一つは遺伝的背景です。最近の研究では、両親いずれも近視でない子どもに比べると、両親とも近視の子は近視になるリスクが高くなるという結果があります。特に強度近視ではその傾向が強いとされています。
もう一つ最近明らかになってきた原因ですが、8〜15歳の学童期に、近くの物ばかりを見ている(近見作業といいます)ことで眼軸長が伸びすぎるリスクが高まると考えられています。

なぜでしょう? 近くを見るとピントは後ろへずれます。このピントを追うように眼球は伸びて近視が進むのです。学童期になると近見作業が増えるうえに、学童期は目の大きさが変化できる可塑性が保たれているのです。

強度近視のほとんどは、遺伝的背景がある上に、近くを見る作業ばかりしていることが原因と考えられています。

8〜15歳ごろは、勉強とともに外遊びやスポーツを積極的に!

では、お子さんやお孫さんの近視を防ぐ方法はあるのでしょうか?遺伝はどうしようもありませんね。また、学童期は授業と宿題があり近見作業をしないわけにはいきません。ご安心ください。予防する光明は見えてきています。
最近の研究では、8〜15歳頃の学童期に勉強以外にも積極的に外遊びやスポーツをすることで、強度近視を防げることが明らかになりました。

外遊びやスポーツを積極的にさせるようにしましょう

なぜ外遊びやスポーツがいいのかというと、遠くのものをみたり、近くのものを見たり、バランス良く目を使うことができるからです。
室内での作業は、読書や勉強、ゲーム、スマホ、タブレット端末など、ほとんどが近見作業です。しかし外遊びやスポーツは、遠くのものを見たり、手前のものを見たり、あらゆる距離のものを見ることができます。ボール遊びなどは、まさにこれにあてはまります。
このようなバランスの良い視覚刺激が、眼軸長を伸ばしすぎないために非常に有効なのです。

一度伸びた眼軸長は元に戻ることがありません。お子さんを強度近視にしないために、1日1時間程度でいいですので外遊びやスポーツをさせるようにしましょう。

強度近視は目が伸びすぎて失明リスクのある病気を起こす(網膜剥離〔もうまくはくり〕)

強度近視は、目の前寸前の近い距離でないとピントが合わないというだけでなく、実はさまざまな眼底の疾患を起こすトリガーになりやすいことでも知られています。なぜ、そうなるかを理解して早期発見の意識を持っていただくことが大切です。

強度近視では眼球が奥行き方向に過度に伸びていくため、目を構成する3層、すなわち外から強膜(「目の壁」)、脈絡膜(「網膜の守護神」)、網膜(中枢神経)が薄く引き延ばされることは想像に難くないでしょう。この目の変化が、眼底(網膜や脈絡膜など)にさまざまな異常を引き起こしやすくなります。

例えば、網膜が引きのばされて薄くなった部分は、格子状変性という薄く破れやすい組織に変性し、小さな丸い孔(網膜円孔)が網膜に開いて網膜剥離(もうまくはくり)になります。若年の網膜剥離のほとんどがこれにあたります。
また、格子状変性は硝子体との癒着が強くなるため中高年になり硝子体が網膜から離れる時、強く引っ張られて格子状変性部位が裂けて網膜剥離になりやすくなります。このように強度近視の方は網膜剥離になりやすいので注意が必要です。

強度近視は視神経も変形して緑内障になりやすい

近視の方が緑内障に数倍なりやすいことが明らかになっていますが、強度近視の方は、さらに緑内障になりやすいことがわかっています。強度近視は視神経乳頭が傾いたり、小さくなったり、逆に大きくなったりと視神経乳頭に強い変形を引き起こし、これが緑内障のリスクを高めているとともに、緑内障の早期発見を難しくしているのです。
さらに最近では、強度近視の中には緑内障で無くても視野障害が進行していく場合があることもわかってきました。いずれにせよ進めば失明のリスクがあります。強度近視の方は、視野障害を早期に発見することが重要です。

強度近視は黄斑(おうはん)のさまざまな病気を引き起こしやすい(病的近視)

後部ぶどう腫は多くの眼病を引き起こします

強度近視の目は40歳頃から眼底の後ろ部分だけが凹んでいき後部ぶどう腫と呼ばれる大きな凹みが形成されます。これにより近視はさらに進んでいき、眼軸長は時に30ミリを越えます。
この眼底の変形は、「病的近視」または「変性近視」と呼ばれ、網膜の中心である黄斑(おうはん)にさまざまな病気を引き起こすのです。この強度近視で起こる黄斑の病気は、光干渉断層計(OCT)という診断機器により明らかにされてきました。

OCTにより眼底(眼球内部の後面、網膜のある部分)の断面を詳細に見ることができます。
例えば、強度近視の目で網膜の中が分離する病気を網膜分離症(黄斑分離症)といいますが、OCTが登場して初めて見つかった病気です。他にもさまざまなことがOCTによって明らかになり強度近視が引き起こす病気の理解が進みました。
後部ぶどう腫は多くの眼病を引き起こしますが、おもなものには、黄斑出血、網膜分離症、黄斑円孔網膜剥離、脈絡膜新生血管黄斑症(みゃくらくまくしんせいけっかんおうはんしょう)、網脈絡膜萎縮(もうみゃくらくまくいしゅく)などがあります。40歳を過ぎてから近視が進むようになったら眼科を受診するようにしてください。

黄斑円孔網膜剥離については、こちらのコラムでもご紹介しております

中心が見えなくなる黄斑円孔は手術で治す

強度近視の人の苦労

普通の近視の人はメガネ無しでも近くは見えますが、強度近視の方は遠くも近くもぼやけてしまうので苦労が多いのです。強度近視の方のメガネは度数が大きくレンズが分厚いため、周辺部がゆがんで見えたりするなどで十分見えませんので、コンタクトレンズに頼りがちになります。どうしてもコンタクトレンズを長時間装用することになり、ドライアイや角膜の傷、アレルギー性結膜炎などで悩まされることになります。

強度近視の方に老眼がでてくると苦労がひとつ増えます。通常のコンタクトレンズでは手元がぼやけるようになってくるからです。
通常の近視や遠視なら遠近両用メガネが便利ですが、先述したように強度近視の方はメガネでは見えにくいのです。最近は、遠近両用コンタクトレンズが良くなってきていますので朗報ですが、すべての方が合うわけではありません。

強度近視の人が、メガネやコンタクト以外の方法で矯正をするには?

レーシックはNG!

強度近視の場合は、レーシックでの近視矯正はおすすめできません。なぜなら、屈折率を矯正するために角膜を非常に多く削らなければならず、角膜が薄くなりすぎてしまうからです。
検査によって角膜の厚さが十分であれば、近視が強くともレーシック手術が行われることもあるそうですが、手術を行うかは慎重にお決めになってください。また、先述したように強度近視の方は緑内障を併発することが多く、緑内障はレーシックが禁忌ですので要注意です。

ICL(有水晶体眼内レンズ)がベターな選択

メガネやコンタクトレンズでの矯正が煩わしいようでしたら、強度近視の方におすすめなのは、ICLと呼ばれる有水晶体眼内レンズです。水晶体を残したまま眼内レンズを挿入して近視を矯正するため、このように呼ばれています。
角膜と虹彩(こうさい)の間(前房)に挿入するタイプと、虹彩と水晶体の間(後房)に挿入するタイプがあります。このICLは薄くて柔らかいレンズを眼内に置きっ放しにするので、取り替える手間がなく、もしレンズを取り出したくなったら摘出することも可能です。
以前は房水の流れを悪くすることがあったため安全とは言えませんでしたが、レンズの真ん中に小さな孔を開けることでこの問題が解決さ、かなり安全となりました。

白内障手術によって近視も矯正できる

そして強度近視の方が白内障になったら、水晶体を取り出して眼内レンズを入れる白内障手術によって強度近視を治す方法が視野に入ってきます。白内障は60~70代の方の多数に生じますが、強度近視の人は、普通の人より10~20年早く白内障になりやすいとされています。
白内障の治療(手術)で使用される眼内レンズは、近視、老視、乱視をすべて矯正することが可能です。

強度近視の方が白内障となり治療を受けることで、苦労してきた近視とおさらばできるのです。さらに老視からも。白内障の手術をしていちばん喜ばれるのは強度近視の方です。それほど苦労が多かったと言うことでしょう。

板谷院長のひとことアドバイス

強度近視はさまざまな失明につながりかねない病気を併発するリスクが高い眼病です。若年から高齢まで起こりえる病気があります。強度近視のリスクを知っていただき、定期的な眼底検査とOCT検査を受けていただくことを願います。

まとめ

  • 強度近視は、遺伝的背景と8〜15歳頃の学童期の過度な近見作業が関わっています。
  • 8〜15歳ぐらいの時期に、近くのものばかり見ていると眼軸長が伸びて近視が進んでしまいます。
  • 強度近視を防ぐには、スポーツや遊びなど、屋外での作業を意識して取り入れるようにしましょう。
  • 強度近視の人は、若年から高齢に至るまで失明のリスクのある眼底疾患のリスクが高いため、眼科で「眼底検査」を受けることが大切です。
  • メガネやコンタクトを使わずに近視矯正をする場合は、レーシックはNG。ICLや白内障手術で対処しましょう。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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