眼底出血などを起こす糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症としてご存知の方は多いと思いますが、高血圧が原因で発症する高血圧性網膜症については、意外と知られていません。眼底の血管に高血圧の影響が出ることで、網膜症へと進行してしまうのが高血圧性網膜症です。近年、検診などで眼底検査を受けたときに、高血圧性網膜症を指摘される方が増えています。

「高血圧が目に来るなんて」と思われる方も多いかもしれません。高血圧が原因となる動脈硬化は、心臓の冠動脈が詰まったり、脳血管が詰まったり破れたりします。そのメカニズムを考えれば、同様に目の血管に障害が起こることも決して不思議ではありません。

患者数は約4,000万人とも言われる国民病の高血圧ですが、血圧測定による数値で把握する以外、自覚症状ではわからない疾患です。痛くもかゆくもないため気がついたときには、長期にわたって高血圧にさらされることで動脈硬化の進行が進んでいた、ということは多々あります。ですから、定期的に血圧測定をして、ご自分の血圧状態を知っておき、高いとわかった場合には、治療を受け、生活習慣に留意することが必要でしょう。

“サイレントキラー”高血圧で発症する網膜症

高血圧の状態に長い間さらされていると、血管がダメージを受けて、動脈硬化に陥ってしまいます。動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中の原因として知られていますが、心臓の冠動脈や脳血管だけに影響が限られていません。血管は全身の至るところに張り巡らされています。すべての血管に影響すると考えてください。

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれています。血圧測定で数値を知る以外には、自覚症状がほとんどないため、そのまま放置されていることが多いのが実情です。高血圧性網膜症は、高血圧に長くさらされ動脈硬化が進むことで、新生血管が増殖し、眼底出血を起こすなど、網膜血管や網膜を障害する病気です。

ある30代女性の高血圧性網膜症のケース

私の経験では、ある30代の働き盛りの女性のケースが印象的でした。
彼女は母子家庭のお母さんで、子どもを育てていくために、自分の体を顧みる暇もなく、毎日、馬車馬のように働いていたようです。もちろん、そんな状況ですから、検診なども受けていません。診察に訪れたときの血圧は、収縮期血圧(心臓が収縮して血液を送り出す時の血圧)が200mmHG、拡張期血圧(心臓が拡張して血液が心臓に戻る時の血圧)も100mmHGに迫る勢いでした。

これくらいの高い血圧になると、頭痛や肩こりなど、さまざまな自覚症状があったはずです。ただの疲れだと思って、やり過ごして放置していたのでしょう。彼女は硝子体出血を起こして、はじめて事の重大さを知り、私のところへ来院したのです。

すぐに硝子体手術をして、後は血圧のコントロールをしました。すると、彼女の眼底はどんどんきれいになっていき、網膜にあった出血も引きました。

彼女は年齢が若かったため、心臓や脳に発症せずに、たまたま目に発症したといえるかもしれません。高血圧をそのまま放置していれば、全身のあらゆる血管に障害が発生し、命に関わった可能性もあったかもしれません。

高血圧の9割以上を占める本態性高血圧は、血圧さえコントロールすれば、動脈硬化を予防することができます。後戻りのできない状態にならないように生活習慣に気をつけたり、薬物療法で血圧を下げるなどして動脈硬化を予防するべきです。また、他の病気が原因で起こる二次性高血圧の場合には、その病気の治療をすることです。

自覚症状がないため、眼底検査で診断する

高血圧による目の血管異常は、自覚症状がないことがやっかいです。ただし、目はのぞけることはメリットになります。

“目は全身の窓”という言葉があるとおり、目の状態を観察することによって、高血圧の状態が把握できます。全身状態を管理する動機付けにもなり、他の病気の予防もできるのです。高血圧の方は定期的に眼底検査をするべきだと思います。

眼底検査は、眼底の血管の状態を観察して、白い濁りのある血管の梗塞や血管からシミ出た滲出斑を見つけ出します。次に蛍光眼底検査という特殊な検査を行って血管の状態を把握し、動脈硬化の程度を判定します。

血柱反射を見ることもあります。血柱反射とは眼底検査の時に血管内の血液に照明が反射し、血管が光ってみえる現象のことです。銅線動脈といって、血柱の色が濁って銅線のように見えたり、銀線動脈といって血管が白く見える状態などを観察できます。

動脈と静脈は交差しているため、動静脈交差現象といって、動脈硬化を起こした動脈が静脈を押しつぶすことがあります。これは、網膜静脈閉塞症という状態です。

さらに、網膜動脈閉塞という病気もあります。目に血液を供給する大きい動脈は1本しかないため、閉塞すると約2時間程度で網膜が壊死してしまいます。心筋梗塞や脳卒中のように緊急を要する状態です。

造影剤を使わずに眼底の血管の様子が詳細に分かる最新のOCT検査機PLEX Elite 9000 SS-OCTによる眼底写真。高血圧による血管の異常も詳細に解析できます。

まず高血圧の治療。網膜血管や網膜が障害されていたら眼科的治療を

まず行うのは、高血圧に対する内科的な治療です。血圧のコントロールさえできれば、網膜症も自然と治っていくからです。現在、高血圧に対する治療薬が進歩しています。

アンギオテンシンという血管の収縮を強力にする作用を阻害するタイプのアンギオテンシンII受容体拮抗薬や、血管を広げるカルシウム拮抗薬、心臓の働き過ぎを抑える薬などがあります。実は、高血圧症であっても、大部分の高血圧性網膜症に対する治療は通常行いません。

ただし、網膜血管や網膜自体が障害されたり、虚血により新生血管ができる増殖網膜症などの場合は、新生血管を抑えたり硝子体出血を予防するために、レーザー光凝固術などの眼科的治療が必要になります。

むくみや出血がひどい場合には、VEGF阻害剤という浮腫を改善する薬を眼内に注射することもあります。硝子体出血や網膜剥離が起きた場合には、硝子体手術を実施し、硝子体をきれいにし、網膜剥離の修復を行います。目の治療が終わっても、高血圧のコントロールはずっと持続しながら全身状態に気を使い、定期的に眼底検査を受けることが大切です。

板谷院長のひとことアドバイス

目の状態を知ることにで、高血圧の状態を把握することができます。全身状態を管理することにも繋がり、他の病気の予防も期待できます。高血圧の方は定期的に眼底検査をしましょう。

まとめ

  • 高血圧に長くさらされ動脈硬化が進むことで、網膜血管や網膜を障害する病気が高血圧性網膜症です。
  • 目の状態を観察することによって、高血圧の状態が把握できます。高血圧の方は定期的に眼底検査をするべきでしょう。
  • 網膜血管や網膜が障害されていたら眼科的治療を受けることとなります。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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