本記事は、2020年4月21日に再更新いたしました。

眼底出血などを起こす糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症としてご存知の方は多いと思いますが、高血圧が原因で発症する高血圧性網膜症については、意外と知られていません。眼底の血管に高血圧の影響が出ることで、網膜症へと進行してしまうのが高血圧性網膜症です。内科における高血圧の管理が行き渡ったおかげで高血圧性網膜症になる方が減っている反面、高血圧性網膜症を悪化させて硝子体出血を起こしてしまう方もなくなりません。

「高血圧が目に来るなんて」と思われる方も多いかもしれません。高血圧が原因となる動脈硬化は、心臓の冠動脈が詰まったり、脳血管が詰まったり破れたりします。そのメカニズムを考えれば、同様に目の血管に障害が起こることも決して不思議ではありません。

患者数は約4,000万人とも言われる国民病の高血圧ですが、血圧測定による数値で把握する以外、自覚症状では気がつきにくい疾患です。高血圧でも症状のない方が多く、肩凝りや頭重感、めまい、動悸、息切れなどの症状が出る場合もありますが仕事の忙しさにかまけて内科受診されない方もいらっしゃいます。長期にわたって高血圧にさらされることで動脈硬化の進行が進んでいた、ということは多々あります。定期的に血圧測定をして、ご自分の血圧状態を知っておき、高いとわかった場合には、内科的治療を受けるとともに、生活習慣を改善することが必要でしょう。

“サイレントキラー”高血圧で発症する網膜症

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれています。血圧測定で数値を知る以外には、自覚症状がほとんどないため、長い間高血圧の状態に気がつかず、脳卒中や心筋梗塞で命を落とすことがあるからです。高血圧が長く続くと、脳や心臓の大きな血管だけではなく網膜の細い脈(細動脈)にも高い負荷がかかり破綻していくのです。具体的には、網膜細動脈が細くなり血流を細らせてしまいます。このような状態になると、網膜の細動脈の下流にあって、網膜組織へ酸素や栄養を配っている毛細血管が詰まったり破れたりします。すると、さらに下流の静脈血管にもほぼ同様の変化が起きます。このようなドミノ倒しの変化が、網膜出血や網膜浮腫、毛細血管閉塞を引き起こし、網膜組織が壊れたり、最悪は血管新生や増殖反応を引き起こして硝子体出血が起きるのです。

ある40代女性の高血圧性網膜症のケース

私の経験では、ある40代の働き盛りの女性のケースが印象的でした。

彼女は母子家庭のお母さんで、子どもを育てていくために、自分の体を顧みる暇もなく、毎日、いくつもの仕事をかけもちして馬車馬のように働いておられました。検診なども受けておられなかったようです。診察に訪れたときの血圧は、収縮期血圧(心臓が収縮して血液を送り出す時の血圧)が200mmHG、拡張期血圧(心臓が拡張して血液が心臓に戻る時の血圧)も100mmHGに迫る勢いでした。

これくらいの高い血圧になると、頭痛や肩こりなど、さまざまな自覚症状があったはずです。ただの疲れだと思って、仕事優先で、やり過ごして放置していたのでしょう。ある日、硝子体出血を起こして見えなくなり、私のところへ来院されました。

すぐに硝子体手術をして硝子体出血を治すとともに内科へ紹介して血圧のコントロールをお願いしました。硝子体出血の原因は、異常になった網膜細動脈にできた瘤(網膜細動脈瘤)が破裂したためでした。硝子体手術で硝子体出血はすぐ治り、0.4だった視力も1.2に回復しました。ただし、眼底には網膜出血が認められ網膜症は依然続いていました。ところが、高血圧のコントロールがうまくいくと、病気だったことがわからないくらい眼底はきれいに治ったのです。

高血圧の合併症が最初に目に現れたために、高血圧が見つかり治療を始めることができました。もし、高血圧性網膜症による硝子体出血が起こらなかったら、最初に心臓や脳に合併症が出て命にかかわっていたかもしれません。目の異常が身体の異常のアラームになったと考えることもできます。

【初診時の眼底写真】

【硝子体手術翌日の眼底写真】硝子体出血がなくなり、破裂した網膜細動脈瘤の跡と網膜下出血が映っている。網膜出血が見られ高血圧性網膜症は治っていない

【1年8ヶ月後の超広角レーザー検眼鏡写真】高血圧性網膜症は治り、病気がなかったかのようにきれいである。

自覚症状がないため、眼底検査で診断する

高血圧による目の血管異常は、多くの場合自覚症状がないことがやっかいと申しました。全身の血管は、簡単には見ることができません。ところが、眼底は眼科医なら簡単に見ることができますし、眼底写真も簡単に撮影できます。

“目は全身の窓”です。眼底の状態を観察することによって、高血圧の有無や程度が把握できます。高血圧は、血圧が高いのが問題なのですが、もっと重要なのは高血圧がどれくらい長い期間続いて全身の血管にダメージを蓄積しているかなのです。血圧を測って、今血圧が高いことを知ることはできるのですが、高血圧により身体にため込んだダメージはわかりません。眼底の血管を観察すると、ためこんだダメージをうかがい知ることができます。高血圧と診断されたら、一度は眼底検査を受けていただきたいと思います。

眼底検査は、眼底の血管の状態を観察して、高血圧の結果として網膜動脈の血流が細くなっていることがわかります。つまり、動脈の内腔が狭くなっているのです。内腔の太さが不均一になっていきます。また閉塞して神経線維が腫れている所見(軟性白斑)や血管が破れてシミ出た出血や滲出斑などの所見を見つけることができます。蛍光眼底検査という特殊な検査を行えば、血管が閉塞しているエリアや血液成分が漏れ出している様子がわかります。

網膜細動脈の動脈硬化は血柱反射でわかります。血柱反射とは眼底検査の時に血管の壁が透明であるため、血管内の血液に照明が反射し、血管内腔が赤く輝いてみえる現象のことです。ところが、動脈硬化が進むと血管壁が厚くなって透明性が減っていくため、銅線動脈といって、血柱の色が濁って銅線のように見えたり、さらに進むと銀線動脈といって血管が白く見える状態になります。

網膜では面上で動脈と静脈が必ず交差しているため、高血圧になると動脈が硬くなり交叉部で接触している静脈を押して曲げてしまう動静脈交差現象が起こります。押し曲げられた静脈は眼底検査では見えにくくなり細っているように見えるのです。高血圧が悪化するほど動静脈交差現象が強くなります。押し曲げられた静脈では、血流がまっすぐ進めず血栓を形成しやすくなり、網膜静脈閉塞症ひき起こしやすくなるのです。

網膜の動脈が詰まる網膜動脈閉塞症という病気もありますが、これは頚動脈の動脈硬化によって形成されたプラークの破片など血栓が遠隔地から飛んできて起こす動脈閉塞です。目に血液を供給する大きい動脈は1本しかないため、閉塞すると約2時間程度で網膜が壊死してしまいます。心筋梗塞や脳卒中のように緊急を要する状態です。

まず高血圧の治療

高血圧による網膜動脈の変化に対する直接的な眼科治療はありません。高血圧に対する内科的な治療がすべてです。血圧のコントロールができると、網膜症も自然と治っていくからです。現在、高血圧に対する治療薬が進歩しています。

アンギオテンシンという血管の収縮を強くする作用を阻害するタイプのアンギオテンシンII受容体拮抗薬や、血管を広げるカルシウム拮抗薬、利尿薬などがあります。

眼科的治療を必要とするとき

眼科的な治療が必要になるのは、網膜症が悪化して起こる合併症が生じた場合です。具体的には、以下のようにいくつかの合併症を経験します。

  • 血液が巡らない無灌流領域ができて新生血管ができて硝子体出血や網膜剥離を引き起こす増殖網膜症
  • 網膜細動脈に瘤ができて、破れて引き起こす硝子体出血、血液成分が漏れて引き起こす黄斑浮腫
  • 先述した動脈と静脈が交叉する部位で、高血圧で硬くなった動脈が静脈を押し曲げて起きる網膜静脈閉塞症は黄斑浮腫を引き起こします。
  • 眼科的治療とは

    無灌流領域にはレーザー光凝固術で血管新生や増殖膜形成を抑えます。

    網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫は抗VEGF薬という浮腫を改善する薬を眼内に注射します。

    硝子体出血や網膜剥離が起きた場合には、硝子体手術を実施し、硝子体出血を取り除いたり、網膜剥離の修復を行います。

    目の治療は、あくまで高血圧性網膜症が引き起こした視力を障害する合併症をやむなく治療するものであり、高血圧性網膜症が治るわけではありません。高血圧性網膜症の本質的な治療は、高血圧のコントロールです。

    板谷理事長のひとことアドバイス

    目は全身の窓。高血圧性網膜症は身体が悲鳴を上げているサインです。高血圧の管理を始めましょう。間に合わず目の合併症が生じてしまったら眼科治療で視力を守ります。その場合も、平行して高血圧の内科的治療を行うことが何より大切です。

    まとめ

    • 高血圧に長くさらされ網膜細動脈が狭細化して網膜を障害する病気が高血圧性網膜症です。
    • 眼底の網膜血管を観察することによって、高血圧が全身に蓄積した血管のダメージを推察できます。
    • 高血圧性網膜症の治療の本質は、原因となっている高血圧の治療です。
    • 増殖網膜症、網膜細動脈瘤、網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫には視力を守るために眼科的な治療が必要になります。

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

    公式サイト

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