最近は、「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」という病名を耳にすることも増え、「黄斑(おうはん)」という単語をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
黄斑は眼の奥の網膜の中心にあって、ものの形や色を見る細胞(視細胞といいます)が集まっている1.5mmほどの組織のことを指します。
人は進化の過程で黄斑を持つようになり、高い視力や色彩視、立体視などを得ました。この黄斑というものを人類が持つようになった結果、他人の表情を正確に読み取ることによる高度なコミュニケーションが可能となり、社会というものが形成され、文明が生まれました。人と人が恋をするようになったのも、黄斑のおかげといえるでしょう。この黄斑がなければ、今のような文明や芸術などを人類はもてなかったかもしれません。
今回は黄斑の魅力と不思議について、お話します。

網膜の中心部にある1.5mmほどの組織

【黄斑は目の一番奥、網膜の中心にあります。】

目は、よくカメラに例えられますが、レンズに相当するのが角膜と水晶体で、フィルムにあたるのが網膜です。網膜には視細胞(光を感じる細胞)がありますが、網膜中心部にあって視細胞が密集して存在している部分のことを「黄斑」と呼びます。大きさは1.5mm程度です。
この小さな黄斑があることで、クリアで高い視力、立体的にものを見ること、鮮やかな色彩を見ることができるようになりました。

【黄斑のOCT画像。黄斑のさらに中心は独特の形状にくぼんでおり、この部分を中心窩といいます。(『OCTアトラス』より)】

黄斑は、黄色いシミという意味

【眼底写真を見ると、中央のやや左側にある「シミ」に見える場所が黄斑です。】

どうして「黄斑」という名前がついたかというと、上の写真をご覧いただくとわかるように、まるで黄色い「シミ」や「まだら」のように見えるため、黄色いシミ=黄斑という名前になったようです。

ものが歪んで見えたり、失明する可能性も

 「視力1.0、0.8」などといいますが、これは黄斑の働きによるものです。黄斑に障害が起きると、ものが歪んで見えたり、視力が低下したり、場合によっては視力を失ったりします。しかし、最近ではOCT(光干渉断層計)という医療機器により、黄斑の異常を正確に、より早期に診断することができるようになりました。また、薬や医療技術などの進化により、治せる病気も増えています。
 たとえば、白内障手術では濁った水晶体を取り除き、眼内レンズに置き換えることでクリアな視界を取り戻すことができます。しかし、黄斑の機能が正常に働いていない場合には、水晶体を眼内レンズに置き換えてもクリアな視界を得られないことがあります。そこで、白内障の手術前にOCTによる検査を行うことで、手術後に得られる視力を予測することができるようになりました。

黄斑のおかげで高い視力を得て生存競争に打ち勝った

5,000万年くらい前に地球が寒冷化した際、私たちの祖先である霊長類は、少なくなってしまった果実などの食物を他の生き物と奪い合うために目を進化させます。
 この頃の霊長類の骨格からは、それまでには見られない構造が登場します。それは、目の奥に「眼窩後壁(がんかこうへき)」という骨の壁ができたことです(それまでの霊長類の目の奥は空洞でした)。
この眼窩後壁の存在が何を表しているかというと、人類の祖先となる進化した霊長類の目には「黄斑」があったということです。なぜなら、黄斑には視細胞が集まりクリアで高い視力を実現しますが、眼球が安定していなければ、見たいものにしっかりと視点を集中することができません。そこで、眼球をしっかり支えるために眼窩後壁ができたのではないかと考えられています。
 クリアな視界を得た人類の祖先は、寒冷化の中でも生存競争に打ち勝ち、生き延びていきます。

黄斑があることで、人は恋をするようになった

黄斑により高い視力を得た人類の祖先は、相手の表情を読み取ることができるようになります。それに伴い、笑う、泣く、怒る、すねる、さみしそうにする、などの表情筋を発達させていきます。真猿類(しんえんるい)と呼ばれる、ゴリラやチンパンジーにも豊かな表情がありますよね。彼らにも黄斑があるから笑顔や怒り顔などの表情でお互いにコミュニケーションをしているのです。
 そして豊かな表情は、「社会性」も生みます。誰がボスか、誰がリーダーかなどの秩序に加え、表情による連帯感や絆を生みました。その結果、群れは社会へと進化していったのです。
 黄斑を得てお互いの表情を読み取る力を得たことで、種の保存だけではなく、恋愛という高度なコミュニケーションも生み出します。人類は黄斑のおかげで、星を見たり、絵を描いたり、スマホを使ったり、建築物を建てたり、おいしい食事を目で味わったり、そして恋をすることができるようになったといってもいいかもしれません。

※「目の進化」の記事も併せてお読みください。

板谷院長のひとことアドバイス

黄斑がなければ、今のような文明や芸術などを人類はもてなかったかもしれません。人類の発展に大きな役割を果たした黄斑の役割を意識し、アイケアに努めたいものです。

まとめ

  • 黄斑は目の奥の網膜の中心にあって、ものを見る細胞(視細胞といいます)が集まっている1.5mmほどの組織のことを指します。
  • 黄斑は、黄色いシミのように見えるため、この名前がつけられました。
  • 人類の祖先が氷河期に生き残ることができたのは、黄斑によるクリアで高い視力があったからだといわれています。
  • 黄斑に異常が起こると、視界がゆがんで見えたり、場合によっては失明してしまうこともあります。しかし、最近は医療技術の進歩により治せる病気が増えています。
  • 人類の祖先は、黄斑があることでお互いの表情を読み取る能力を得て、高いコミュニケーション能力を獲得しました。
    その結果、群れを社会へと進化させました。
  • 人は黄斑があることで、より豊かで多様な社会生活を送れるようになったといえるかもしれません。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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