タイトルをご覧になって、「血液のがんが目に起こるって本当?」「しかも姿を隠して他の病気のように見せかけているの?」と二重にいぶかる方がいるかもしれません。しかしどちらも事実です。白血球中にあるリンパ球が「がん化」する悪性リンパ腫は、首や足の付け根などの全身のリンパ節をはじめ全身のリンパ系組織に発生する病気です。この悪性リンパ腫が目に発生することがあります。これが眼内悪性リンパ腫です。症状や所見が、ぶどう膜炎に酷似していて紛らわしいのが特徴ですが、脳へ進展するなど重篤な経過をたどることもある怖い病気です。

悪性リンパ腫が、なぜか、リンパ節のない目に発症する

悪性リンパ腫は、体外から侵入してくる細菌やウイルスなどを排除しているリンパ球という血球細胞が、がん化した病気です。頚部、腋の下、足の付け根などで触れることのできるリンパ節をはじめとして、全身のリンパ系の組織や臓器に発生する可能性があります。悪性リンパ腫の原因はよくわかっていないのですが、一部にはウイルス感染症が関係することや、免疫不全者に多いことがわかっています。好発年齢は60~70歳代といわれており、年間で約1万7千人の新規罹患者が見つかっています。

この悪性リンパ腫が眼球の周辺組織や眼球内に発生するのが、眼内悪性リンパ腫です。眼内にはリンパ節がないのに、なぜリンパ腫が発生するのか、その理由はよくわかっていません。

症状・所見が、ぶどう膜炎に酷似

眼内悪性リンパ腫の主症状は、風景がかすみのかかったように見える「かすみ目」や、飛蚊症、まぶしさ、眼痛などです。硝子体混濁や眼底のまだら状病巣をみることもあります。黄斑部(色や形を識別する視細胞が集まっている眼底の中心部)に障害が及んでいる場合には著しい視力低下を認めることもあります。

【飛蚊症】

眼内リンパ腫にみられる索状で、放射状に拡がる硝子体混濁

これらの自覚症状や所見は、ぶどう膜炎のそれと非常によく似ています。まるで「ぶどう膜炎」という仮面をかぶって隠れているような病気、それが眼内悪性リンパ腫といえます。しかも眼内悪性リンパ腫は発症者数が少ないため、医師が真っ先に疑うことはほとんどありません。そのため、症状がよく似ているぶどう膜炎と診断されてしまうことが多いのが現状です。

全国の大学付属病院でぶどう膜炎と確定診断された症例を対象として行われた2009年度の調査によると、全体の2.5%が実際には眼内悪性リンパ腫であったことが明らかとなりました。2002年度の調査の結果が1%でしたから、眼内悪性リンパ腫の割合が短期間でかなり増えたことになりますが、これは純粋に発症者が増えたというより、眼内悪性リンパ腫への関心が少し高まっていることなどが影響して、発見が増えたのかもしれません。しかし、欧米諸国でも増加傾向にあり、専門家が注視しているところです。

鑑別・診断が難しい

リンパ節が腫れるなどの症状が全身に現れて悪性リンパ腫の診断がついている場合は、眼内悪性リンパ腫の診断も比較的容易ですが、そのようなケースはごくまれです。多くの場合、患者さんが眼科を受診した時点では、目の症状しか現れておらず、その他の異常は出現していません。そのため、ぶどう膜炎との判別が容易ではないのです。

このように困難をきわめる眼内悪性リンパ腫の診断ですが、われわれ眼科では、ぶどう膜炎の治療法であるステロイドの点眼薬・内服薬の投与を行ってそれに対する反応の様子を観察したり、硝子体の中の細胞や網膜下の組織を採取して調べたりして、その結果を診断の一助としています。

治療は放射線療法か薬物療法で

眼内悪性リンパ腫の診断が確定したら、眼病変に対する局所的な治療法として、眼部への放射線照射もしくは抗がん剤メトトレキサートの眼内注射を行います。どちらの方法を選択すべきであるかについては、統一した見解は得られていません。
また眼内悪性リンパ腫では、眼病変に加えて、脳内にリンパ腫が発生することも多く、脳神経症状が出現するなど重篤な経過をたどることもあるため、血液内科、神経内科、脳神経外科などへの受診が必要になることもあります。

板谷院長のひとことアドバイス

当院では、診断が困難である悪性リンパ腫には敢えてぶどう膜炎の治療法を行います。反応の様子を観察したり、硝子体の中の細胞や網膜の組織を採取したりして、診断に役立てております。

まとめ

  • 悪性リンパ腫の原因は明らかになっていないません。
  • 好発年齢は60~70歳代。一年で1万7千人の新規羅患者がいます。
  • 診断は難しく、症状が似ているぶどう膜炎と診断されるケースが多いです。
  • 治療法は眼部への放射線を照射、もしくは、抗がん剤のメトトレキサートを眼内に注射の二つがあります。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ