本記事は、2020年1月28日に再更新いたしました。

子どもの出生時に、先天的な異常が見られることは決して珍しいことではありません。しかし、赤ちゃんは異常を訴えることはできません。比較的わかりやすい症状であれば、周囲の大人によって早期に発見することができます。また、「新生児特有の病気が存在する」という知識を持っていれば、親も冷静に対処できることでしょう。ここでは先天的な目の病気の1つである「新生児涙嚢炎」についてご紹介します。涙は常に分泌され角膜を潤したあと涙道を通って鼻の中へ排出されます。 この涙道は、涙小管→涙嚢→鼻涙管からなります。生まれたときに鼻涙管の出口が開いていないため、涙がたまってウルウルしたり、目やにが出たりするのが、先天性鼻涙管閉塞といいます。先天性鼻涙管閉塞は自然に治ることが多いのですが、治りが悪く涙を溜める涙嚢に細菌感染を起こして涙嚢周囲が炎症を起こした状態が新生児涙嚢炎です。

涙には上水道と下水道がある

まず涙の生理にしてお話しします。涙が目を潤す仕組みについては「分泌」と「排出」という2つを考えるとよくわかります。涙を分泌する器官を「涙腺」といいます。いわば「上水道」にあたる部分です。一方、涙を排出する器官を「涙道」と呼びます。こちらは「下水道」に相当する部分です。「は、上流からから目頭にある「涙点」(るいてん)→「涙小管」(るいしょうかん)→「涙嚢」(るいのう)→「鼻涙管」(びるいかん)と流れていき鼻の中に排出されます。下水道にあたる「涙道」のうち「鼻涙管」の鼻への出口にハスナー弁と呼ばれる薄い膜があり閉じているのですが、通常は生後、この膜は無くなり開通します。生後する鼻涙管が開通しないことがあり、「先天性鼻涙管閉塞」といいます。

目が潤んでいたり、目やにがつきやすかったら先天性鼻涙管閉塞を疑う

涙嚢炎が新生児に起こる背景には、「先天性鼻涙管閉塞」があることがほとんどです。いつも目に涙が溜まったり、目やにが出ている場合は、先天性鼻涙管閉塞を疑います。新生児ですから「泣くこと」が常とはいえ、機嫌がよく泣いていないときにも涙がたまっているわけですから、おかしいと思えます。生後すぐは眼科への受診は難しいですが、慌てることはありません。なぜなら、先天性鼻涙管閉塞は自然に治ることが多いからです。つまり、少し遅れて自然開通しやすいのです。医師の間では議論の分かれるところですが11歳までは自然治癒を待つという考え方が主流になっています。

目頭のまぶたが腫れきたら新生児涙のう炎

一方、新生児涙嚢炎は、先天性鼻涙管閉塞の赤ちゃんの一部で起こる病気です。先天性鼻涙管閉塞のために涙が涙嚢の中に滞留しているため細菌感染を起こしてしまい周囲に炎症が起こる状態を指します。これが長引くと涙嚢周囲の皮膚や瞼が赤く腫れ上がった状態となり、ひどくなると涙嚢周囲炎や眼瞼および眼窩蜂窩織炎へと重症化する例もあります。眼科受診して治療が必要になります。

診断法

鼻涙管が閉塞しているかどうかを確認するために、目の内側や鼻の付け根あたりを圧迫します。このとき、涙が逆流してくると、閉塞している可能性が高いです。逆流した涙の中に、粘液や黄色い膿が混じっている場合は涙嚢炎が起きている可能性があります。診断を確定させるために「涙道通水試験」を行います。涙小管から涙嚢へ生理食塩水を押し流して、鼻涙管に水が通るかをみる検査です。

涙嚢マッサージが治療の王道

「自然治癒を待つ」といっても手をこまねいて「ただ見ているだけ」ではありません。先天性鼻涙管閉塞については、涙嚢マッサージが、治療のスタンダードになりつつあります。適切なマッサージによって鼻涙管の開通が促されます。医師の指導のもと、親による涙嚢マッサージを行っていただくことでほとんどが開通します。

涙嚢炎になってしまったら抗生物質の点眼や内服による治療が必要になります。たまった膿を排出する目的で涙嚢マッサージを行った後に点眼します。治っても、点眼は続けて行ない、再発を予防します。

涙嚢マッサージの基本的な方法は、次の通りです。目の内側と、鼻の付け根あたりを人差し指で軽く奥に圧迫する要領でマッサージを行います。10回程度を1セットとし、日に3~4セット行います。このときには、清潔な手で行うようにしましょう。お子さんの月齢、年齢にもよりますが、力加減には細心の注意が必要ですので、マッサージを行うにあたってはかかりつけの医師の指示を仰ぎましょう。涙嚢炎の場合は、マッサージ後に抗菌薬を点眼することもあります。

マッサージでも治らない場合

ごく稀にですが、継続的なマッサージによっても改善が見られないというケースもあります。そのような場合は、かかりつけ医と相談の上、その他の治療の方法を検討します。涙道ブジー※、涙道チューブ留置術などを行います。

※「ブジー」とは「鼻涙管開放術」という治療法です。これは「涙点」という目の「下水口」にあたる部分から、細い針金状の「ブジー針」を鼻涙管へと差し込み、涙の流れを邪魔している膜を突き破るという治療法です。た新生児は鼻涙管が狭く穿孔してしまいやすいため、現在ではあまり行われなくなりました。

「1歳」が治療を始めるかどうかの分岐点

他の病気についても言えることですが、治療法は、医療技術の進歩とともに移り変わります。また、眼科医のなかでも、様々な考え方があり、治療の方針をめぐっては議論が行われています。「1歳になるまでは、積極的な治療はしない」という考え方が現在では多いです。一方で、先天性鼻涙管閉塞から涙新生児涙嚢炎を引き起こしている場合には、お子さんのストレスが大きくなることから、早期の積極的な治療を勧める医師もいます。お子さんの症状、成長の度合いを観察しながら、かかりつけ医とよく相談することが重要です。

板谷理事長のひとことアドバイス

新生児が常に目に涙を浮かべていたら、「先天性鼻涙管閉塞」の可能性が疑われます。先天性鼻涙管閉塞は涙嚢マッサージでほとんどが治りますので心配はありません。ただし、目頭が腫れてきたら感染を起こし「新生児涙嚢炎」になったと考えられ、抗生物質による治療が必要です。

まとめ

  • 先天性鼻涙管閉塞の赤ちゃんの一部が新生児涙嚢炎になります
  • 先天性鼻涙管閉塞は、マッサージを行うことで症状が改善に向かうことがほとんどです
  • 新生児涙嚢炎になったら涙嚢マッサージと抗生物質による治療を併用します
  • 1歳を過ぎても快方に向かわない場合は、他の治療法を考えてもよいでしょう。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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