子どもの出生時に、先天的な異常が見られることは決して珍しいことではありません。比較的わかりやすい病態であれば、周囲の大人によって早期に発見することができます。また、「新生児特有の病気が存在する」という事実を知っていれば、親も冷静に対処できることでしょう。ここでは先天的な目の病気の一つである「新生児涙嚢炎」についてご紹介します。涙嚢炎とは、「鼻涙管」という目の奥から鼻につながる細い管に薄い膜のようなものが残ることで、「涙が止まらない」などの症状や炎症がみられる病気です。一過性のケースが多く、通常は経過を観察しますが、親とかかりつけ医との連携が重要になってきます。

目が潤んでいたり、涙をためていたりしたら、トラブルのサイン

新生児涙嚢炎とは、常に涙を目に浮かべて、うまく流れないため、鼻涙管の中で細菌感染や、炎症が起こる状態を指します。目に涙が溜まるだけではなく、目やにも出るようになります。新生児ですから「泣くこと」が常とはいえ、機嫌がよく泣いていないときにも涙がたまっているわけですから、目の異常に気づくことは比較的容易です。出産をした医療施設で医療従事者によって気づくことが理想ですが、「産後はすぐに母子ともに自宅へ帰る」というスタイルも増えています。親から見て「常に目が潤んでいる」「機嫌がよいときも涙をためている」と感じたら、すぐに受診をおすすめします。生後すぐは眼科への受診は難しいため、出産をした医療施設に相談をしてみましょう。

涙の通り道が未発達のこともある

なぜこのような新生児涙嚢炎が起こるのか、原因についてお話します。涙嚢炎が新生児に起こる背景には、「先天性鼻涙管閉塞」があることがほとんどです。「涙の通り道」が未発達であったり、うまく機能できなかったりすることで、涙がうまく流れず、目の中にたまりっぱなしになってしまうためです。

涙の知られざる役割とは

そもそも、涙はどこで作られ、どのような機能を担っているのかをお話をします。涙の役割は、目の表面を潤すことで、これは新生児も大人も同じです。涙がないと、目が乾いてしまい、ヒリヒリしてとても目を開けていられなくなります。そのため、涙は常に分泌され続けていますが、私たちがそのことを自覚することはありません。健康な状態であれば、涙は目を適度に、かつ自動的に潤いのベールで包んでくれています。

目には上水道と下水道がある

涙が目を潤す仕組みについては「分泌」と「排出」という二つの視点から考えるとよくわかります。涙を分泌する器官を「涙腺」といいます。いわば「上水道」にあたる部分です。一方、涙を排出する器官を「涙道」と呼びます。こちらは「下水道」に相当する部分です。「涙道」は、上部から「涙点」(るいてん)、「涙小管」(るいしょうかん)、「涙嚢」(るいのう)、「鼻涙管」(びるいかん)に分かれます。1本の管が目から奥に向かい、鼻のほうへ向かうというイメージです。下水道にあたる「涙道」のうち、「鼻涙管」が生まれつき非常に狭かったり、なんらかのトラブルで通りにくかったりすることがあります。それが「先天性鼻涙管閉塞」です。

鼻涙管閉塞の診断法

鼻涙管が閉塞しているかどうかを確認するには、目の内側や鼻の付け根あたりを圧迫します。このとき、目の中に涙が逆流してくると、閉塞している可能性があります。逆流した涙の中に、粘液や黄色い膿が混じっているケースもよく見られます。これらのサインがあれば「鼻涙管閉塞」の可能性は高くなります。その後、診断を確定させるために「涙道通水試験」という鼻涙管に水が通るかをみる検査が行われます。

涙嚢炎が続くと重症化する可能性も

涙嚢炎とは涙嚢の中に溜まった涙液に、細菌などが感染して炎症が起きる状態をいいます。このような炎症が起きた状態が長引くと、やがて涙嚢の周りやまぶたが赤く腫れることがあります。深刻化すると「涙嚢周囲炎」や「眼窩蜂窩織炎」などへと重症化することもあります。涙嚢炎は、さまざまな病気の元になる危険をはらんでいるのです。

鼻涙管閉塞は、時間とともに改善する

元来、鼻涙管とは胎児期にはふさがっていて、生まれる前に自然に開口する、という説もあります。鼻涙管の開口がうまくいかず、出生後もふさがった状態が「先天性鼻涙管閉塞」です。ただし、ほとんどの場合は、時間とともに涙道機能が回復し、改善へと向かいます。医師の間では議論の分かれるところですが「1歳までは自然治癒を待つ」という考え方が主流になっています。

マッサージが治療の王道

「自然治癒を待つ」といっても手をこまねいて「ただ見ているだけ」ではありません。先天性鼻涙管閉塞については、マッサージが、治療のスタンダードになりつつあります。適切なマッサージによって鼻涙管の開通が促されます。親による「涙嚢」のマッサージだけで、治癒したという事例が数多く報告されています。

涙嚢マッサージの基本的な方法は、次の通りです。目の内側と、鼻の付け根あたりを人差し指で奥に圧迫する要領でマッサージを行います。10回程度を1セットとし、日に3~4セット行います。このときには、洗浄後の清潔な手で行うようにしましょう。お子さんの月齢、年齢にもよりますが、力加減には細心の注意が必要ですので、マッサージを行うにあたってはかかりつけの医師の指示を仰ぎましょう。涙嚢炎の場合は、マッサージ後に抗菌薬を点眼することもあります。

新生児涙嚢炎の陰に、鼻涙管の閉塞あり

このような「先天性鼻涙管閉塞」が根幹にあると、細菌に感染したり、炎症が起こったりする「涙嚢炎」が引き起こされる可能性が高くなります。「新生児涙嚢炎」と診断をされたら、「先天性鼻涙管閉塞」という病気についても正しく理解をしておくとよいでしょう。先天性鼻涙管閉塞では、マッサージで鼻涙管の開通を促し、涙嚢炎が引くよう働きかけていくという流れになります。

マッサージでも治らない場合

ごく稀にですが、継続的なマッサージによっても改善が見られないというケースもあります。そのような場合は、かかりつけ医と相談の上、その他の治療の方法を検討します。まず、涙管通水試験および涙嚢洗浄、次いで涙道ブジー※、涙道チューブ留置術などを行います。

※「ブジー」とは「鼻涙管開放術」という治療法です。これは「涙点」という目の「下水口」にあたる部分から、細い針金状の「ブジー針」を鼻涙管へと差し込み、涙の流れを邪魔している膜を突き破るという治療法です。ただ現在ではあまり行われなくなりました。

「1歳」が治療を始めるかどうかの分岐点

他の病気についても言えることですが、治療法は、医療技術の進歩とともに移り変わります。また、眼科医のなかでも、様々な考え方があり、治療の方針をめぐっては議論が行われています。「1歳になるまでは、積極的な治療はしない」という考え方が現在では多いようです。一方で、先天性鼻涙管閉塞から涙新生児涙嚢炎を引き起こしている場合には、お子さんのストレスが大きくなることから、早期の治療を勧める医師もいます。お子さんの症状、成長の度合いを観察しながら、かかりつけ医とよく相談することが重要です。

板谷院長のひとことアドバイス

新生児が常に目に涙を浮かべていたら、「新生児涙嚢炎」の可能性が疑われます。新生児涙嚢炎の原因には、鼻涙管という涙の通り道が生まれつき狭かったりふさがっている先天性鼻涙管閉塞が潜んでいることがあります。先天性鼻涙管閉塞はマッサージで快方に向かうことがほとんどですが、1歳を過ぎても症状が出ているなら、他の治療法を検討しましょう。

まとめ

  • 新生児涙嚢炎の背景には、生まれつきの病態である先天性鼻涙管閉塞の可能性があります。
  • 先天性鼻涙管閉塞は、マッサージを行うことで症状が改善に向かうことが多いです。
  • 1歳を過ぎても快方に向かわない場合は、他の治療法を考えてもよいでしょう。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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