本記事は、2020年4月28日に再更新いたしました。

視野が欠ける病気というと、「緑内障」が有名です。緑内障は日本人における中途失明原因の第1位であり、国内の推定患者数は約400万人に上りますが、発症が増えるのは40代以降で、多くは年齢とともにゆっくりと進行していきます。それに対し、20~30代の若い世代でも発症し、急激に視野の欠けや視力低下が起こる病気があります。それが「視神経症」です。

視神経症は、外界から網膜へ届いた光の情報を脳に伝える神経である「視神経」が障害される病気で、さまざまな種類があります。今回は、おもな「視神経症」について解説します。

視神経に異常が起こることで視力や視野が障害される病気

視神経症とは

視神経とは、眼球の後方についている神経線維が集まっている束です。眼球(網膜)に届いた光の情報が視神経を伝わって脳に到達することで、私たちは「ものが見える」状態になります(下図参照)。

視神経

【視野の異常】

この視神経に何らかの原因で障害が起こる病気を「視神経症」といいます。視神経症の症状は次のようなものです。

  • 片目または両目の急激な視力低下
  • 視野の異常(視野の中央が見えない「中心暗点」、視野の上半分または下半分が見えない「水平半盲」など)
  • 眼球運動痛(目を動かすときに目が痛む、圧迫感がある)
  • 視神経症の種類

    視神経が障害される原因には、さまざまなものがあります。

    もっとも多いのは、視神経に炎症が起こる視神経炎です。視神経炎には、原因がわからない特発性視神経炎のほか、自己免疫が関係している抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎などがあります。

    このほか、視神経に栄養を与える血管が詰まるなどして起こる虚血性視神経症、視神経が腫瘍などに圧迫されて発症する圧迫性視神経症、外傷や薬物、遺伝による視神経症などがあります。

    視神経症が疑われるときは、その原因を探るため患者背景の問診とともに、正確な診断を行うために、視力検査・眼底検査・視野検査・MRI検査・血液検査など、さまざまな検査を行います。

    おもな視神経症の特徴と治療法

    特発性視神経炎

    視神経炎のなかで、原因がわからないものを特発性視神経炎といいます。年齢は20~30代に好発し、女性に多く発症します。典型的な症状は、片目に生じる急激な視力低下です。中心暗点型の視野欠損が主流です。全体に霧がかかったように見えたり、色覚異常、羞明(異常なまぶしさ)を自覚することもあります。また目を動かしたときに、上まぶたの奥や目の奥に痛みを感じるのも特徴的です。

    特発性視神経炎なかでも、炎症が視神経乳頭(視神経の眼球側の端)に生じているもの(視神経乳頭炎)は改善しやすいタイプとされています。一方、炎症が視神経乳頭より奥の球後神経に生じているもの(球後視神経炎)は、多発性硬化症という全身性の神経難病の症状の一つとして現れていることがあります。軽快と悪化を繰り返すことが多いとされます。

    特発性視神経炎は症状が自然に回復することも、特に治療をせずに経過観察を行う例もありますが、治療をするときはステロイド薬やビタミン薬の点滴が中心になります。

    抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎

    細胞の表面にあるアクアポリン4という物質に対する抗体が作られ、抗原抗体反応によって視神経に炎症が起こる視神経炎です。最近になって、視神経炎の約10%がこのタイプであることが分かってきました。抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎を発症するのは、ほとんどが女性で、両眼に重い視力低下が起こり、ときに失明に至ることもあります。

    治療としては、ステロイド薬の大量療法が行われますが、奏効しないときは血漿交換療法、免疫抑制薬投与、大量ガンマグロブリン治療などが選択されます。また回復後も再発の可能性が高いため、ステロイド薬による維持治療を継続します。

    虚血性視神経症

    視神経症のなかでも特発性視神経炎と並んで二大疾患に数えられるのが、虚血性視神経症です。視神経を養う血管が詰まり十分な血液が届かなくなり、視神経が障害されます。動脈炎により血管が閉塞して起こる動脈炎性と、動脈硬化がおもな原因となって起こる非動脈炎性に分けられます。

    発症は高齢者に多く、ある日突然に片目に視力低下や視野欠損が起こります。発症時より数日して悪化する場合もあります。視野欠損は中心暗点や、水平半盲(下半分あるいは上半分の視野欠損)がよくみられます。

    動脈炎性の場合は、約70歳以上の高齢者に好発します。視力障害が重く、発症とほぼ同時に0.1以下にまで低下する多いです。また、続いて他方の目にも症状が現れることもあります。治療は、ステロイド薬の全身投与で治療をしますが、視力改善はほとんどありません。しかし、反対側の目に発症するのを防いだり、重度の視力障害を防ぐことができます。

    非動脈炎性は50歳以上に好発します。ほとんどの場合は、高血圧、糖尿病、高脂血症、血液疾患、心疾患などの全身の危険因子が存在します。残念ながら効果的な治療法はありません。反対側の目に起こることは稀です。基礎疾患の治療のモチベーションにすることが大事です。

    圧迫性視神経症

    眼球と脳とをつないでいる視神経のどこかが腫瘍や動脈瘤(どうみゃくりゅう)などによって圧迫され循環障害が起こることで発症します。症状としては通常、片目の視野欠損や視力低下が徐々に進行します。脳外科的手術によって、視神経を圧迫している原因を取り除きます。

    外傷性視神経症

    交通事故や打撲などで、前額部、特に眉毛部外側を強打した場合に、打撲を受けた側の視神経管内で視神経が挫滅(ざめつ)し、急に視力低下や視野欠損が起こります。受傷24時間以内の早期であれば副腎ステロイドの大量投与が試みられます。外科的に視神経管開放を行うことも行われてきましたが、効果については確たるエビデンスが乏しいです。

    中毒性視神経症

    医薬品や薬物、化学物質によって視神経が障害されて発症します。原因となる医薬品としてよく知られているのは抗結核薬(エタンブトール)ですが、ほかに免疫抑制薬(シクロスポリンなど)や一部の抗がん薬(シスプラチン)も原因となることがあります。医薬品以外では、シンナー、メチルアルコール、農薬、鉛などによって視神経障害が引き起こされることがあります。

    症状としては、比較的急に、両目に視力低下や視野障害が起こります。原因物質の摂取を減量あるいは中止し、ビタミン薬の点滴や内服によって治療を行います。

    遺伝性視神経症

    遺伝性視神経症には、レーベル病や優性遺伝性視神経萎縮などがあります。レーベル病は母系遺伝で、10~40代の男性に多く、視力低下と中心暗点が生じます。片目に発症したあと数週から数か月を経て他方の目にも発症するのが一般的ですが、最初から両目に発症することもあります。優性遺伝性視神経萎縮は、小学生頃から両目に視力低下が生じますが、著しい視力障害には至らない例が大半です。

    どちらも現段階では、有効な治療法は確立されていません。

    目を動かしたときの眼痛や視力低下などの症状があるときは専門医を受診しよう

    このように視神経症にはさまざまな原因があります。

    また多発性硬化症や自己免疫疾患などの全身疾患と関わりが深いものも多く、正確な診断が難しいことも少なくありません。

    目を動かしたときに眼痛がある、短期間で急に視力が低下した、視野の中心が見えないといった症状に気付いたときは、地域の眼科から大学病院などの神経眼科の専門医を紹介してもらい、診断と治療を受けることをおすすめします。

    板谷理事長のひとことアドバイス

    「視神経症」は、発症率は決して高くなく、原因はさまざまですが、急に見えにくくなることが共通します。すぐに、近医眼科を受診し、視力検査、視野検査、眼底検査を受け、視神経症の疑いがある場合、大学病院などの神経眼科で治療を受けることをおすすめします。

    まとめ

    • 「視神経症」とは、網膜に届いた光の情報を脳に伝える視神経が障害される病気です。
    • 特徴的な症状として、短期間での視力低下、視野の異常(「視野の中心が見えない」や「視野の上半分または下半分が見えない」)、目を動かしたときの目の痛みなどがあります。
    • 近医で視神経症が疑われたら、大学病院などの神経眼科の専門医を受診して診断と治療を受けましょう。

    執筆者プロフィール

    医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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