眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)という病名を聞いたことがある方は少ないかもしれません。とても難しい漢字を使っていて分かりづらいですが、ごく簡潔に説明すると、眼球が収まっているくぼみ(眼窩)に起こる細菌感染症です。眼窩において、皮膚の真皮層と皮下の蜂窩織と呼ばれる層で化膿性の炎症が起こることから、このような病名がつけられています。珍しい病気ではありますが、治療が遅れると重症化して失明に至るケースもありますので注意が必要です。

眼窩蜂窩織炎は、人間など一部の進化した動物にしか発生しない新しい病気?

眼窩蜂窩織炎とは、眼窩で起こった蜂窩織炎という意味の病気です。
蜂窩織炎という病気は、本来は手足に起こりやすい感染症で、患部が真っ赤に腫れあがってしまうなどの症状が出ます。こちらは、有名な力士がかかって調子を落とした話や、有名な競走馬がかかって死亡するなどのニュースでご存知の方もいるかもしれません。

一方、眼窩というのは眼球を収めるための、骨に囲まれたくぼみのことです。そのくぼみの中で眼窩後壁などの骨や筋肉、脂肪組織などが連携して眼球を包み、柔らかく固定しています。この眼窩を二つ並べて持ち、安定的かつ高感度の立体視が可能になったのがヒトを含む新しい霊長類の特徴だとされています。

だとすれば眼窩蜂窩織炎は完成度の高い眼窩を持った動物に発生する比較的新しい病気なのかもしれません。

まぶたの腫れと痛みから始まる眼窩蜂窩織炎の症状

眼窩蜂窩織炎の初期症状では、まぶたが赤く腫れ、圧痛が生じます。
症状が進行すると、腫れのためにまぶたを開けにくくなることもあります。眼窩内のより奥(眼窩隔膜の後ろ)で炎症が起こっている場合には、結膜の充血やむくみ、眼球運動に伴う痛み、視力低下、眼窩の腫脹に伴う眼球突出など、より重篤な症状が現れることがあります。

なるべく初期の段階で抗菌薬を投与して治療を開始したいのですが、ごく初期の段階ではこれらの症状のどれも生じないこともあり、気づくと重症化していることもあるため、診断には注意が必要です。

感染の原因はさまざま

眼窩蜂窩織炎における感染は、まぶたや顔面にできた傷や「ものもらい」(麦粒腫・霰粒腫)、あるいは虫や犬・猫などの動物による咬み傷や引っかき傷などから細菌が侵入することで起こります。この場合の主な原因菌は、黄色ブドウ球菌と化膿レンサ球菌です。いずれも常に皮膚にいる常在菌で、皮膚バリアが局所的に崩れて内部に侵入するものと思われます。

【麦粒腫】

【霰粒腫】

また眼窩蜂窩織炎は、耳鼻科領域や歯科領域の病気から引き起こされることもしばしばあります。たとえば、副鼻腔炎や歯周病といった病気の感染巣から眼窩へ炎症が波及してくるのです。副鼻腔炎は小児などで頻度が高く、中でも蝶形骨洞から感染してくるものが大半を占めます。また頭蓋内の手術後の傷口に起こる感染が血流に乗って転移してくることもあります。

【副鼻腔炎】

診断では念のためCTやMRIを使うことも

まぶたの腫れや発赤などの臨床症状やその経過の様子を調べることでほぼ診断がつきますが、CTやMRIを用いて眼窩内の形状や副鼻腔の様子をチェックし、診断を補強することもあります。眼窩内の様子を詳しく調べることで、治療方針を定めます。
また、まぎらわしい疾患としては何らかのアレルギー反応、虫・動物による咬傷で結果的に蜂窩織炎ではないもの(蜂窩織炎の原因となるものもある)、腫瘍、炎症性眼窩偽腫瘍などがあります。これらの疾患との鑑別も重要となります。

緊急入院をして抗生物質の点滴を

診断が確定したら、直ちに入院をして抗生物質の点滴静脈注射を開始します。投与期間は通常7~10日間です。視力が障害されている場合などでは、眼窩内圧の除圧手術や膿瘍を排出するドレナージなどの外科的治療が必要となることがあります。さらに、耳鼻科領域や歯科領域などの疾患が原因となっている場合は、それぞれの専門科での治療も必要となります。

予後は、感染巣が眼窩内の浅い領域(眼窩隔膜の手前側)にあるか奥深い領域(眼窩隔膜の後ろ側)にあるかによって違ってきます。浅いところにある場合、適切に治療すれば、ほぼ完治します。一方、奥にある場合、たとえば副鼻腔に感染巣があるようなケースでは、眼窩と副鼻腔は薄い骨一枚のみで隔てられているだけなので、眼窩感染は広範囲で重度となるリスクがあります。いずれにしろ、眼球や脳や脊椎など、隣接する臓器には重要臓器があるため、発見や治療が遅れて感染のコントロールがうまくいかなければ、視神経が障害されて失明したり、脳などに後遺症が発症したりする危険があります。

糖尿病の人はかかりやすいので注意を

ある種のリスクファクターを持っている人は眼窩蜂窩織炎にかかりやすいので、この病気に対して特に気をつける必要があります。皮膚に外傷や潰瘍のある人、水虫などの真菌感染症のある人、その他の皮膚疾患によって何らかの皮膚バリア障害のある人などです。また、糖尿病の人や、なんらかの持病で免疫が低下している人も注意してください。

板谷院長のひとことアドバイス

眼窩蜂窩織炎は重症化すると失明に至る細菌感染症です。細菌は皮膚に常にいる常在菌で、皮膚バリアが崩れた際に侵入します。虫や犬・猫などのひっかき傷から感染することもあるので、動物と触れ合う際は十分注意しましょう。

まとめ

  • 眼窩蜂窩織炎とは、目の奥で起こる細菌性の炎症です。
  • 初期は特別な症状が現れにくい面もあり、気がつくと重症化していることがあります。
  • 治療には緊急入院のうえ、抗生物質を投与します。
  • 重症化すると失明の危険もあるため、可能な限り速やかに治療することが重要です。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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