あるサッカー選手が試合中に、相手DFの右肘に顔面を直撃されて目に大ケガを負った事故がありましたね。それは、目のくぼみの骨が折れる「眼窩底骨折」でした。こうしたケガはプロスポーツ選手にときどき起こる特殊なものと思っている方が多いかもしれませんが、じつは意外にも、アマチュアスポーツのシーンでも少なからず起こっています。その選手は手術を回避することができましたが、手術が必要なケースもあります。今回は、眼窩底骨折について解説します。

眼窩底の骨は薄く、骨折しやすい

眼球が収まっているくぼみを眼窩といいます。はいくつかの骨で構成されています。目に強い衝撃が加わったときに、これらの骨が折れてしまうことがあります。これを眼窩骨折といいます。眼窩骨折のなかでも、くぼみ内の空間の床にあたる部分である「眼窩底」の骨が折れるものを眼窩底骨折といいます。眼窩底の骨は非常に薄く、けっして頑丈ではないため、ちょっとしたはずみで折れてしまうことがあります。

眼窩底骨折は「ブローアウト(吹き抜け)骨折」とも呼ばれます。眼窩底骨折のメカニズムについて、かつては、衝撃が眼球に加わって骨が「へし折れる」という説明がされていました。しかし最近は、一瞬の衝撃により、骨に囲まれた密室である眼窩内で行き場のなくなった圧力が一気に高まって内圧が急上昇し、脆弱な瓶の底が「吹き抜ける」ようにして骨折が起こる、という説明がされるようになっています。眼窩底が薄くできているのは失明に至る眼球破裂を防ぐためだ、とする説もあります。眼窩底の骨が折れることによって、眼球が受ける決定的かつ壊滅的な衝撃を緩和しているのではないか、というわけです。

スポーツや交通事故が原因で起こる

眼窩底骨折は交通事故によって起こることもありますが、よくあるのは、野球やサッカーなどの球技、ボクシングやラグビーなど身体と身体がぶつかるコンタクトスポーツなどでの事故によるものです。これらのスポーツでは顔面に衝撃を受ける場面が珍しくないため、アスリートたちに「慣れ」があるのか、骨折しても気づかずにいることが少なくないようです。

目の腫れや痛みだけでなく、眼球運動障害や複視が生じることも

眼窩底骨折が起こると、眼の腫れや眼球を動かすときの痛みだけでなく、眼球運動障害(眼を動かしにくくなる)や複視(ものがダブって見える)といった症状が現れることがあります。眼球を動かす役割をもつ筋肉組織が損傷したり、眼球の位置がズレてしまったりすることで起こる症状です。ほかに、吐き気や頬部の知覚異常などが生じることもあります。

重症例や閉鎖型眼窩骨折の場合は手術を

眼窩底骨折の診断は、眼球運動の観察と、頭部画像検査(X線・CT・MRI)によって行います。

一般的に、複視の症状が認められない場合には、眼球運動のリハビリを行いながら経過を観察します。一方、数週間たっても複視が回復しない場合や、最初から眼球が眼底に落ち込んでしまっているような重症例では、手術を行います。手術では、正常な眼球運動を取りもどすために、折れた骨を元の位置に戻す再建術を行います。折れた骨が欠損してしまっている場合には、人工材料で代用することもあります。

患者さんがお子さんや若い方の場合で、吐き気や眼球運動時の痛みがあるときには、すみやかに頭部CT検査を行います。吐き気があるときは頭蓋内出血の可能性がありますし、眼球を動かしたときに痛みが出るときには閉鎖型眼窩骨折の可能性があるからです。閉鎖型眼窩骨折とは、骨が未熟で柔らかい場合に起こるタイプの骨折で、身体発達の途上にあるお子さんや若い方によく起こります。骨が柔らかいと骨折が不完全になり、そのせいで、眼球に付随している組織が骨折部に挟まれたままの状態になってしまいます。挟まれた部分には血が通わなくなり組織が虚血に陥る恐れがあるため、緊急に手術を行う必要があります。処置が遅れると眼球運動障害が後遺症として強く残ってしまうこともあります。

眼窩底骨折が疑われたら

眼窩底骨折では、多くの場合、血の混じった鼻水が出ます。このとき強く鼻をかむと、眼窩内に空気が流入してしまい、それによって眼球運動障害が悪化することがあります。眼窩底骨折が疑われるようなケガをしたときは、鼻をかまないように注意し、すみやかに医療施設を受診しましょう。骨折というと、多くの方は整形外科を思い浮かべることと思いますが、眼窩骨折に対しては、形成外科や眼科、あるいはそれらが連携して治療に当たる施設が増えています。ひとまず眼科に相談されることをおすすめします。

板谷院長のひとことアドバイス

眼窩は眼球が収まっているくぼみのことです。眼窩底の骨は薄く、頑丈ではないためちょっとしたはずみで折れてしまいます。若年層の方は骨が柔らかいため閉鎖型眼窩骨折の可能性があるので注意が必要です。

まとめ

  • 眼窩は眼球が収まっているくぼみのこと。眼窩底の骨は薄く、頑丈ではないためちょっとしたはずみで折れてしまいます。
  • 眼窩底が骨折すると、眼の腫れ、眼球を動かすときの痛みなどがあります。
  • 眼窩底が骨折し、眼球の痛みがある時は閉鎖型眼窩骨折の可能性があります。これは骨が未熟で柔らかい場合に起こる骨折で、若年層に多いです。

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執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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