近視の中でも、-6.0D(D=ディオプター。レンズの度数を表す単位で、この数値がマイナスに大きいほど近視の度合いが強い)を超えるものを「強度近視」と呼びます。
強度近視の記事でもご紹介していますが、強度近視は眼軸長(がんじくちょう)が伸びすぎることで、網膜やその土台が薄く引き延ばされ、常に網膜とその土台が脆弱となって負荷がかかっている状態となります。そのためさまざまな眼底の病気を起こすリスクが高まるのです。
特に、眼底の中心である黄斑に、この記事で紹介するようなさまざまな病気を引き起こし、視力障害を招くため、「病的近視」と呼ばれます。

強度近視に伴う眼底の病気は初期の間は何も症状が無いこともありますので、40歳を超えたら年に1度は眼科を受診して眼底を見てもらうことが望ましいです。
また強度近視の方が、以下の写真のような「視力低下」「歪んで見える」「中心部が暗く見える」などの見え方をする場合には、すぐに眼科を受診してください。黄斑の病気が始まった可能性が高いからです。

強度近視が引き起こす疾患にはどんなものがあるのか、詳しくご紹介します。

強度近視の目に起こる2つの危険な変化

強度近視の記事でもご紹介しましたが、強度近視の方の眼球は、眼軸長(がんじくちょう)が伸びすぎることで、網膜や、網膜の土台の役割を担う脈絡膜が後方に引き延ばされ、組織の脆弱化が進み、病気を引き起こしやすくなります。
特に問題となる組織の脆弱化は、周辺部網膜の「格子状変性」と網膜の中心部分の「後部ぶどう腫」と呼ばれる変化です。

「格子状変性」:強度近視の目は若くても中年期にも網膜剥離(もうまくはくり)になりやすい

「格子状変性」とは、網膜の周辺部分(眼球を地球に例えた場合の赤道部分)にできる薄く脆くなり、硝子体が強く癒着する変化のことです。網膜剥離(もうまくはくり)は若年者と中高年が危険年齢ですが、そのどちらにも格子状変性が関わります。

まず、若年者の網膜剥離の多くは、格子状変性の中に丸い孔(円孔といいます)が形成されて発症してゆっくり進みます。一方、中高年の網膜剥離は、目の中を占める硝子体が中高年期に網膜から離れる「後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)」と呼ばれる現象が起きます。飛蚊症(ひぶんしょう)や光視症を自覚します。
これ自体は加齢による生理的変化であり病気ではないのですが、一部に硝子体が網膜を強く引っ張って網膜を破いてしまい急速に進む網膜剥離を生じます。格子状変性は、薄いうえに硝子体の癒着が強いため容易に裂けてしまうのです。

強度近視の方は、硝子体の加齢変化が早く後部硝子体剥離が40代、早い方は30代でも起きるため、網膜剥離が起きやすい年齢も10~20歳若いことになります。

網膜剥離については、こちらのコラムでもご紹介しております

失明リスクもある白内障手術後の合併症「網膜剥離」

「後部ぶどう腫」:強度近視の目は眼底の中心が奧へくぼんでいく

強度近視の多くは40歳を過ぎると、さらに進行して眼球の後ろ側だけがいびつに後方に膨らむように伸びていきます。これを「後部ぶどう腫」といいます。
昔後部ぶどう腫の目を取りだしたとき、ブドウのような色の膨らみに見えたから付けられた用語と考えられます。後部ぶどう腫は目にとって異常な変化であり、さまざまな黄斑(おうはん)の病気を引き起こします。詳細は後述します。

強度近視の方がなりやすい、後部ぶどう腫。眼底がふくらんで近視が強まるとともに、さまざまな眼病にかかりやすくなります

 

病的近視は失明原因の4位

後部ぶどう腫が形成されていくと、黄斑部の網膜とその土台である脈絡膜やブルッフ膜が異常をきたし黄斑の病気が発症したり、視神経乳頭が変形し緑内障になりやすくなったり、その変形自体で神経線維が失われ視野が欠けていく近視性視神経症になったりします。治療できる病気と治療法の無い病気があります。
日本人の失明(視覚障害1級)の原因として、病的近視によるものが第4位となっているのです。また第1位は緑内障ですが、強度近視の方は緑内障になるリスクが高いことも知られています。強度近視の方は、年に1度程度は眼科を受診して眼底検査を受けてほしいと思います。

1位 緑内障 25.5%
2位 糖尿病網膜症 21.0%
3位 網膜色素変性 8.8%
4位 病的近視 6.5%
5位 黄斑変性 4.2%

視覚障害1級(失明)の原因疾患

出典:平成17年度厚労省網膜脈絡視神経萎縮症調査研究班報告書

OCTが病的近視の診断治療を進歩させた

近年、目の検査にOCT(Optical Coherence Tomography)という機器が使われるようになり、眼底の断面を詳細に見ることができるようになりました。機器により3~8μmの高い解像度を持ち、微細な変化を見逃さずに手に取るように観察できます。
実際、OCTが登場してはじめて発見された病的近視による病気もあるほどです。高度近視黄斑分離症はその良い例です。OCTは黄斑疾患を見逃しません。

病的近視でよく見られる4つの黄斑の病気とは?

強度近視はさまざまな病気が起きますが、共通するのは目が前後に伸びすぎて起こる網膜と視神経の病的変化が背景にあることです。この観点から見て参りましょう。

近視性牽引黄斑症

後部ぶどう腫が形成されていくと、目の壁の強膜の伸びに網膜がついて行けなくなり、その結果網膜を引っ張る力(牽引力)が生まれ、網膜の中が裂けたり(「網膜分離」)、黄斑部の網膜が剥離したり(「黄斑剥離」)、黄斑の中心に孔が開いたり(「黄斑円孔」)します。このように後部ぶどう腫の形成の結果起きる黄斑の病気を総称して「近視性牽引黄斑症」という病名が提唱されました。

網膜分離の段階では自覚症状が乏しいのですが、黄斑剥離したり黄斑円孔が形成されると視力が低下します。強度近視眼の黄斑円孔は閉じにくく、閉じても後遺症が残りますので、黄斑分離の段階で発見して孔が開く前に手術を行う方が良いと考えます。
黄斑円孔が形成され放置すると、「黄斑円孔網膜剥離」という治りにくい網膜剥離に進展していきますので注意が必要です。

診断には先述した網膜の断層検査であるOCT検査で検査すると一目でわかります。先述した歪みや中心暗点を自覚したら、かなり進行していますので、すぐに眼科を受診しましょう。

近視性牽引黄斑症によって網膜分離を生じて黄斑部が網膜剥離を起こしているOCT画像

治療

治療は硝子体手術です。硝子体手術により、後部ぶどう腫内の網膜にかかっている力を取り除くことが治癒への唯一の道です。網膜を牽引する後部硝子体膜を剥離除去し牽引を取り除きます。網膜の最内層にある内境界膜を剥離除去することにより網膜血管による牽引を取り除きます。網膜分離や黄斑剥離はこれで治ります。注意点は、手術中に黄斑円孔を作らないことです。このため黄斑の中心部分(中心窩〔ちゅうしんか〕)の内境界膜は剥離せずに残します。

黄斑円孔については、こちらのコラムでもご紹介しております

中心が見えなくなる黄斑円孔は手術で治す

すでに黄斑円孔が発症した症例は、上記テクニックに加えて、目の中をガスまたはシリコンオイルに置き換えて下向き姿勢を取ることで孔を閉鎖します。
しかし、強度近視眼の黄斑円孔は閉じにくいため、上記テクニックの中の剥離した内境界膜を孔に埋め込んで閉鎖を促す「内境界膜翻転術(ないきょうかいまくほんてんじゅつ)」または「内境界膜移植術」を行います。

黄斑部出血/脈絡膜新生血管

網膜は酸素の消費量が人体のなかでも最大となる組織です。網膜血管以外にも、脈絡膜血管が網膜の裏側で光を感じる視細胞に酸素を供給しています。この脈絡膜と網膜を隔てるブルッフ膜が、酸素や栄養は通す一方で、脈絡膜血管が網膜に侵入しないためのバリア機能を担っています。
強度近視が進むとブルッフ膜に亀裂が生じ、その亀裂を通じて異常な血管が新生・増殖されて網膜に障害を生じてしまうのです。あたかもアスファルトの割れたすき間から、雑草が生えてくるように血管が生えてくるのです。これを脈絡膜新生血管といいます。

新生血管はもろくて破れやすく、血液や血液中の水分が漏れ出て、出血や浮腫を起こします。特に網膜の中心部である黄斑近くに生じると矯正視力の低下や視野障害、ものが歪んで見える変視症(へんししょう)などを引き起こします。これが黄斑部出血です。

治療

新しい血管をつくる働きをしているVEGF (血管内皮増殖因子)を抑える治療が効果が高く、普及しています。VEGFを抑えるには、VEGF阻害剤を硝子体注射により投与します。数回の投与で脈絡膜新生血管は萎縮して治まります。
なかには、脈絡膜新生血管が生じていなくてもブルッフ膜の断裂だけで出血を起こす場合があり「単純出血」といいますが、これは自然吸収を待ち、VEGF阻害剤の適応はありません。

網膜脈絡膜萎縮

病的近視が進行すると、網膜の土台である脈絡膜が委縮して非常に薄くなってしまう病態が表れることがあります。こうなると網膜の光を感じる視細胞に酸素や栄養が届かなくなり死滅していきます。
委縮は「びまん性萎縮」、「局限性萎縮」、「ラッカークラック」などに分けられています。限局性萎縮部は網膜の光を感じる視細胞は消失しているため、これが黄斑の中心におよぶと強い視力障害をきたします。

治療

以前は有効な治療法がありませんでしたが、脈絡膜新生血管に続発して広がる網膜脈絡膜萎縮はできるだけ早期にVEGF阻害剤治療を行い、脈絡膜新生血管を抑え込むことで進行を抑制できるようになりました。

緑内障と近視性視神経症

強度近視の方は緑内障と近視性視神経症の2つの進行性視野障害のリスクがあります。緑内障は眼圧により視神経乳頭の篩状板(しじょうばん)という神経線維の支持組織が障害されていく病気と考えられています。

まず、近視の方は緑内障の罹病(りびょう)リスクが高く、強度近視の方は近視でない方の数倍緑内障になりやすいことがわかっています。一方、強度近視の目に起きる後部ぶどう腫の中には神経線維が強く引っ張られて障害されてしまうタイプがあります。
この眼球の伸展に伴い神経線維が障害されてしまい視野障害が進行する病態を「近視性視神経症」と呼ばれるようになりました。

緑内障とはメカニズムが異なるとして区別されますが、同じく視神経を障害する病態であり、完全に分かれるわけではありません。
いずれも視野障害は初期には自分で気がつきにくく、眼圧が正常なことが多く、視野検査と眼底検査が診断の決め手になります。これも強度近視の方は40歳を超えたら眼科で検査を受けていただきたい理由の1つです。

治療

通常の緑内障の治療と同じく、薬物療法が第一選択になります。病状によってレーザー治療や、手術が行われます。基本は薬物療法ですので、さまざまな薬効をもつ点眼薬を組み合わせて進行を遅らせて、失明を防ぎます。

黄斑の病気を早期発見するためにカレンダーを片目で見てみよう

早期に合併症を見つけるには定期的に眼科を受診することがもっとも確実な方法ですが、なかなか時間がとれない方も多いのではないでしょうか。そういう場合は、壁にかけてあるカレンダーを、片目を隠して見てみましょう。もし文字や罫線が歪んで見えたら、何らかの黄斑の病気が生じている可能性があります。

片目ずつカレンダーを見て、もし線が歪んで見えたら眼科を受診しましょう

お金も時間も手間もかからない方法ですから、強度近視の方は“カレンダーを片目で見るチェック”を習慣にしても良いのでは?ただし、神経質になりすぎないようにお願いします。

板谷院長のひとことアドバイス

強度近視は目の万病の元といえます。ものを見るしくみそのものの黄斑と視神経に病気が出やすいのです。自覚症状が無くても一度眼科で眼底の状態を調べておくことをおすすめします。

まとめ

  • 強度近視は、眼軸長が伸びているため網膜に負荷がかかり、さまざまな網膜の病気を生じやすくなります。
  • 網膜の周辺部に負荷がかかると網膜剥離になりやすくなります。
  • 黄斑に負荷がかかると網膜分離、黄斑円孔、黄斑円孔網膜剥離、黄体部出血などになりやすくなります。
  • 視神経に負荷がかかると緑内障や近視性視神経症になりやすくなります。
  • 初期ではほとんど自覚症状がないため、40代以降は年に1度はOCT検査を受けましょう。
  • 毎日の生活では、壁に掛けてあるカレンダーを片目ずつで見て、文字や罫線が歪んで見えないかチェックしましょう!

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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