夜になるとものが見えにくいという症状を検索したり、眼科医から網膜色素変性症の疑いがあると言われたりして、この記事をお読みになっているのかもしれません。

網膜色素変性症という病気は眼の中の光を感じる組織である網膜に異常が現れる遺伝性の病気です。日本では10万人に18人程度の患者がいるのではないかとされています。

主な症状は、暗いところでものが見えにくくなったり、視野が狭くなったり、視力が低下したりします。
日本人の失明原因の上位に入る疾患ですが、必ず失明するわけではなく、進行の速度もまちまちで、数十年かかってゆっくり症状が進んでいくケースも少なくありません。どのような病気か、一緒に見ていきましょう。

暗いところで見えにくい、視野が狭まる、視力が低下する

網膜色素変性症の主な症状は、暗いところでものが見えにくい「夜盲」、周辺部から視野が狭くなる「視野狭窄」、視力が少しずつ見えにくくなる「視力低下」、明るいところで異常にまぶしさを感じる「羞明(しゅうめい)」です。

初期では、暗いところでものが見えにくいという症状から始まることが多いですが、暗いところでものを見るという日常体験が少なくなっている現代では、気づきにくい症状かもしれません。人によっては、歩いているときに人にぶつかりやすい、車の運転が苦手になるといった症状で視野狭窄を感じて受診をする方も少なくありません。症状が進んでくると、視力の低下や光に対して異常にまぶしさを感じるようになります。

まず、暗い中で光を感じる杆体(かんたい)という細胞が障害される

網膜にあって光を感じる視細胞には、錐体(すいたい)細胞と杆体(かんたい)細胞という2種類があります。
錐体細胞は網膜の中心部である黄斑に存在し、視力や色覚を担い、明るい場所で色を認識する役割を担っています。一方の杆体は網膜の周縁部に存在し、暗い中で光を感じる役割を担っています。
網膜色素変性症は、ほとんどの場合、まず杆体細胞から障害されるため、夜間に物が見えにくいという症状が現れます。進行するに従い錐体細胞も障害されていくため、視野狭窄や視力の低下といった症状が現れるようになります。

症状の進み方や重症度は、個人差が大きい

のちほど詳しくご説明しますが、網膜色素変性症の発症は遺伝子の異常が関係しています。原因遺伝子は多数あるため、症状の進行スピードや重症度、症状の現れ方にはかなり個人差があります。

大抵の場合、症状の進行は非常に遅く、数年あるいは数十年かけて進行するケースがほとんどです。60代になっても中心に視野が残り、ある程度の視力を保つケースもあります。しかし中には進行が早いタイプもあり、30〜40代で目の前 1mでかざした手の指の数がわからないような状態、つまり、光をまったく感じられないわけではないけれども自立した生活を送るのに困難をきたす「社会的失明」の状態に至る方もいらっしゃいます。

網膜色素上皮細胞で働いている遺伝子の異常によって起こる

網膜色素変性症は視細胞と、視細胞にくっつくように存在している網膜色素上皮細胞という組織で働いている遺伝子の異常によって起こるとされています。関連する遺伝子は60種類以上ありますが、原因となっている遺伝子がどれであるかが判明できる症例は、ごく一部です。しかし最近の研究で少しずつ原因遺伝子の特定が進んできています。

50%程度の患者さんに遺伝が認められ、遺伝の仕方には3タイプある

明らかに遺伝が認められる患者さんは全体の50%程度とされています。残りの50%では、親族に同じ病気の方が誰もいないのに発症しています。しかし遺伝が確認できない場合でも、遺伝子のどこかに異常があると推察されるので、ほとんどの場合、なんらかの形で遺伝が関係していると考えられています。

遺伝の仕方には3タイプあり、最も多いのは常染色体劣性遺伝タイプで、全体の35%程度。次に多いのが常染色体優先遺伝タイプで全体の10%程度、最も少ないのがX連鎖性遺伝(X染色体劣性遺伝)タイプで、5%程度です。

遺伝の仕方をご説明すると、以下のようになります。

<常染色体劣性遺伝>
両親とも発症していないが保因者である。保因者同士から生まれる子どもに、25%の確率で発症する。
※保因者とは、劣性遺伝病の原因となる遺伝子を持っているが、発症していない人のこと。

<常染色体優性遺伝>
両親のどちらかが患者で、50%の確率で子どもに遺伝する。

<X連鎖性遺伝(X染色体劣性遺伝)>
女性の保因者の家系で男子に50%の確率で発症する。

世界中の研究機関で、根本的な治療方法の開発が進められている

現在のところ根本的な治療法はなく、症状の進行を遅らせるためにビタミンAやヘレニエン製剤(βカロテンの一種)の服用、暗順応改善薬、循環改善薬などが用いられることがあります。

現在、この疾患の発症メカニズムの解明や、網膜再生治療・人工網膜・遺伝子治療などの開発など、根本的な治療方法の研究が世界中で進められています。
 

視野は狭まっても、最後まで中心部の視界が残ることが多い

網膜色素変性症の病気の特徴に、ドーナツ状に見えない部分ができるということがあります。これを輪状暗点といいます。ドーナツ状に見えにくい部分が次第に拡大し、やがて視界の中心部だけ視力が残る、というのが進行の典型的な形です。

近ごろ取り上げられることの多い黄斑変性症はこの逆で、網膜の真ん中が障害されるので、視界の中央だけ見えなくなります。

網膜色素変性症は、ものを見るための中心組織である黄斑(おうはん)の機能は最後まで残るので、中心部の視界が残り、顔を上下左右に動かすことで物を見ることができます。歩くことには困難が伴いますが、文字を読み書きしたり、デスクワークを続けたりすることは可能なケースがとても多いのが、この病気の救いになっているといえるかもしれません。残った視力を最大限に生かすために、まぶしさを和らげる遮光メガネや、活字を見やすくする拡大鏡など、ロービジョンケアのためのツールが用意されています。

板谷院長のひとことアドバイス

網膜色素変性症は必ず失明する訳ではなく、進行するスピードも人によって異なります。視野の周囲からドーナツ状に見えなくなり、網膜の中心である黄班の機能は最後まで残るため、進行していても文字の読み書きやデスクワークを行うことが可能なケースが多い病気です。

まとめ

  • 日本では10万人に18人程度の割合で患者さんがいるとされています。
  • 3大症状は、夜盲、視野狭窄、視力低下です。
  • 暗いところで光を感じる杆体細胞から障害されるため、暗いところで物が見えにくいという症状が最初に起こることが多いとされています。
  • ほとんどの症例に遺伝が関係していると考えられています。原因遺伝子は多様なため、症状の進行スピード、重症度などには個人差が大きいとされています。
  • 視野の周囲からドーナツ状に見えなくなってきますが、網膜の中央にある黄斑の機能は残るので、中心部の視野は最後まで残ることが多くなっています。
  • 根本的な治療方法を開発すべく、世界中で研究が進められています。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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