網膜に血液を届ける血管(動脈)にトラブルが起こって詰まったとき、網膜への血流が途絶え(虚血ともいいます)、急速に機能が失われることがあります。眼球に血液を届ける大きな動脈である中心動脈が詰まってしまうことを「網膜中心動脈閉塞症」といい、眼球内のどこかで動脈が詰まってしまう場合を「網膜動脈分枝閉塞症」といいます。

網膜中心動脈閉塞症の場合、網膜への血流がほとんど途絶えてしまうため、「見え方がおかしい」と気付いてから最悪の場合は1~2時間で視力が失われることもあります。残念なことですが「すぐに眼科で処置をしたのに、視力を救うことができなかった」という事例も多く報告されています。

「変化に気付いたその日のうちに眼科を受診したのに、なぜ視力を失ったのか」と、後から私のもとを訪れてきた患者さんもいらっしゃいました。皆さんにはまず「このような病気がある」と知り、予防に努めていただければと思います。

目の組織も、血流が途絶えると機能を失う

網膜動脈閉塞症とは、網膜に血液を送る動脈が詰まることで、網膜の細胞への血流が途絶えてしまうものです。心筋梗塞や脳梗塞も、血流が途絶えることで発症する同様な病気です。人間の細胞がその活動を維持していくためには、酸素や栄養を常に送り届ける必要があります。酸素や栄養は、血液によって運ばれているため、血流が途絶えた途端、そこから先の細胞は徐々に弱り、やがて活動ができなくなってしまいます。

このように、体の組織にとっては、正常な血液のめぐりは必須のものです。網膜とは、外の光を感知する神経組織です。網膜細胞が血流の途絶えにより働けなくなると、光の感知ができず、視覚が失われることになります。

網膜動脈閉塞症の原因は、三つに大きく分けられる

網膜動脈閉塞症が起こる原因には、大きく三つあります。一つ目は、血栓という血液の固まりです。網膜動脈に動脈硬化が起こり、血管の内径が狭くなっているとき、血圧の変化などで血栓ができることで血管が詰まります。二つ目は、網膜動脈より心臓に近い箇所の血管に動脈硬化が起こったときです。血液や脂肪の塊である栓子が血管の内壁から剥がれ、網膜動脈に付着することで、血管が詰まります。三つ目は炎症やけいれんです。網膜動脈に炎症やけいれんが起こると、血液成分や血流に変化が起きて、血液の供給が途絶えやすくなってしまいます。

【網膜中心動脈閉塞症の原因となるのは、首のあたりの動脈にできやすいプラーク(アテロームともいいます)です。このプラークが剥がれて血管を伝い、眼球や脳に至る動脈を詰まらせて、網膜中心動脈閉塞症や脳梗塞を引き起こします。】

主な原因の背景に、動脈硬化がひそんでいることが多い

網膜動脈閉塞症の原因に挙げた、血栓や栓子。これらができる背景には、動脈硬化という大きな問題が横たわっています。動脈硬化の原因となる糖尿病や高血圧などの病気をもっている方や、喫煙癖がある方は、網膜動脈閉塞症を発症するリスクも高いといえます。

動脈硬化についても、くわしくお話ししておきましょう。動脈硬化とは、動脈の血管壁が硬くなってしまったり、血管内に脂肪の塊が積み重なったりして、血管が狭くなる病気です。年齢を重ねることで起こりやすくなりますが、ほかにも喫煙や、運動不足、食べ過ぎなどの問題も大きな原因となります。動脈硬化は、やがては脳梗塞や心筋梗塞にまで進展しかねない恐ろしい病気の一つです。

目の動脈が詰まる病気には2種類がある

網膜の動脈が詰まる病気には、網膜中心動脈閉塞症と、網膜動脈分枝閉塞症の2種類があります。

網膜に血液を届ける唯一の血管である中心動脈が閉塞した場合を網膜中心動脈閉塞症といいます。網膜全体が血液による栄養や酸素を得られなくなるため、急速に組織が障害されてしまいます。

一方、網膜動脈の主流ではなく「枝」の部分が詰まるのが網膜動脈分枝閉塞症です。血流が巡っていかないのは、血管が閉塞したところから先の部分だけになります。そのため、網膜の一部が機能しなくなるという病気です。血流が届かない場所の機能が損なわれるので、視野が欠けるのは一部に限られます。

【網膜に血液を送る唯一の動脈となる中心動脈が詰まる場合を、網膜中心動脈閉塞症といいます。中心動脈から血液は送り込まれたものの、眼球内で動脈が詰まる場合を網膜動脈分枝閉塞症といいます。】

どんなに健やかな目にも、突然発症するリスクはつきまとう

網膜中心動脈閉塞症も、血流の枝の部分に起こる網膜動脈分枝閉塞症も、共通しているのは、「発症するまで自覚症状はない」「視力低下や視野欠損が、突然起こる」という点です。とはいえ、発症前の予兆として、網膜に瞬間的な虚血が起こり、一瞬目の前が暗くなったように感じることもあります。それを一過性黒内障と呼びます。また、軽度の頭痛や目の奥の痛みを覚えることもあります。早期発見のためには、少しでも異常を感じたら、受診をするのが理想的です。

動脈が詰まった場合は、一刻を争う

網膜動脈閉塞症についての治療は、「中心動脈」「動脈分枝」のどちらであってもいかに早く血流を回復させるかによります。眼球マッサージに加え、血栓溶解薬、網膜循環改善薬などを投与して、血流の改善を目指します。さらに目にたまった余計な水分(房水)を抜いたり、高圧酸素療法で眼圧を下げるよう試みたりすることもあります。

特に、網膜中心動脈閉塞症で、1時間でも網膜が虚血状態になった場合は一刻を争います。神経細胞に血流が行き届かないため、網膜組織が多大なダメージを受け、視力が戻らなくなります。治療は1分1秒を争います。とはいえ多くの方は、その緊急性の高さについてご存じありません。ですから専門的な眼科にたどりつくまでに数時間、ときには数日間も時間が経ってしまい、残念なことではありますが、結果的に視力に問題が残ってしまいがちなのです。

治療のためのセルフマッサージをしてはいけない

「網膜動脈閉塞症の治療法の一つにマッサージがある」とお話をしたとき、「自分で、自己流のマッサージをしてもよいか?」とよく聞かれます。「マッサージ」という一般的な名称とは裏腹に、その技術は大変高度なものです。どの部位で問題が起こっているのかを正しく把握し、ピンポイントで圧力をかけることは、訓練を積んだ眼科医にしかできません。また、たとえ熟練の眼科医でも、自分自身が網膜中心動脈閉塞症にかかったとき、「自分の眼球を適切にマッサージすること」は至難の業であるはずです。「視界が暗くなったから、動脈が閉塞したのだろう」とセルフマッサージを行うことは、おやめください。それよりもまず、受診です。

動脈硬化の全身的な管理こそ、血流の詰まりの最大の予防策となる

網膜動脈閉塞症の発症には、動脈硬化が大きく関係しています。全身病が、大切な目にまで悪影響を及ぼす事実を、忘れないでください。普段から肥満解消、禁煙、運動、ストレス発散などを心がけていきましょう。患者さんのなかには、「目の血管が詰まる」というトラブルに見舞われてから、動脈硬化や高血圧などの問題に気付くという方もいます。目は全身の健康状態を映し出す「鏡」でもあります。そういった意味でも、目の見え方の異変に早く気付くことは重要です。

板谷院長のひとことアドバイス

網膜中心動脈閉塞症も網膜動脈分枝閉塞症も、共通するのは「発症するまで自覚症状はない」「視力低下や視野欠損が、突然起こる」という点です。時間が経つと血流が行き届かず、神経細胞が多大なダメージを受け、視力が戻らなくなります。動脈が詰まった場合は一刻を争いますので、少しでも異常を感じたら受診をするのが理想的です。

まとめ

  • 目の血管が詰まる主な原因は、動脈硬化からくる血栓や栓子です。喫煙や運動不足など、動脈硬化を招きやすい生活習慣は、早めに改善しましょう。
  • 目の血管が詰まる病気に共通しているのは、発症するまで自覚症状がなく、視力低下や視野欠損が、突然起こる点です。
  • 網膜動脈閉塞症の発症には動脈硬化が深く関連しています。これらの病気がすでにある方は、眼科を定期的に受診するなど、目の健康にも気を配っていきましょう。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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