本記事は、2020年3月26日に再更新いたしました。

網膜に血液を届ける血管(動脈)にトラブルが起こって詰まったとき、網膜への血流が途絶え(虚血ともいいます)、急速に機能が失われることがあります。
眼球に血液を届ける大きな動脈である網膜中心動脈が詰まってしまうことを「網膜中心動脈閉塞症」といい、網膜中心動脈の枝である動脈が詰まってしまう場合を「網膜動脈分枝閉塞症」といいます。

網膜中心動脈は1本しか無いため、網膜中心動脈閉塞症になると、網膜への血流がほとんど途絶えてしまうため、「突然見えなくなった」と気付いてから1~2時間で視力が失明することが多いのです。
残念なことですが「すぐに眼科で処置をしたのに、視力を救うことができなかった」という事例が多いのです。

「変化に気付いたその日のうちに眼科を受診したのに、なぜ視力を失ったのか」と、後から私のもとを訪れてきた患者さんもいらっしゃいました。
皆さんにはまず「このような病気がある」と知り、予防に努めていただければと思います。

網膜は血流が途絶えると機能を失う

網膜動脈閉塞症とは、網膜に血液を送る動脈が詰まることで、網膜の神経細胞への血流が途絶えてしまうものです。心筋梗塞や脳梗塞も、血流が途絶えることで発症する同様な病気です。人間の細胞がその活動を維持していくためには、酸素や栄養を常に送り届ける必要があります。

酸素や栄養は、血液によって運ばれているため、血流が途絶えた途端、そこから先の細胞は徐々に弱り、やがて活動ができなくなってしまいます。これを「虚血」といいます。
特に、中枢神経細胞は虚血に弱く、いったん失われると元へ戻りません。網膜とは、外の光を感知する中枢神経組織です。網膜の神経細胞は動脈血流が途絶えると1~2時間で死滅して、視覚が失われます。時に、1,2分続く突然の視覚喪失(一過性黒内障)が先行する場合がありますので、元へもどっても安心せず、眼科受診をお願いします。

網膜動脈閉塞症の原因は全身疾患との関係が深い

網膜動脈閉塞症が起こる原因として一番多いのは、血流にのって運ばれてくる血栓や塞栓です。平均60歳前後に好発し、男性に多く、40歳以上では4分の3に頸動脈の異常を有します。
すなわち、頚動脈のアテローム性動脈硬化が進むと、プラークと言われる塊が血管壁から剥がれて、血流にのって脳や網膜に運ばれてきて動脈閉塞をきたします。

また、心臓の不整脈で血液が心臓に滞留すると高齢者は血液が固まりやすくなって血栓を形成します。その血栓が、脳や網膜へ運ばれてきて動脈閉塞を起こします。他に、細菌(細菌性心内膜炎)、脂肪、腫瘍(心臓粘膜種)、空気などでも生じます。いずれにしても、高血圧や不整脈など全身の病気が背景にあります。

【網膜中心動脈閉塞症の原因で一番多いのは、首の動脈(頚動脈)にできやすいプラーク(アテローム性動脈硬化)です。このプラークが剥がれて血流に乗って、眼球や脳に至る動脈を詰まらせて、網膜中心動脈閉塞症や脳梗塞を引き起こします。】

主な原因の背景に、動脈硬化がひそんでいることが多い

網膜動脈閉塞症の原因に挙げた、血栓や栓子。これらができる背景には、動脈硬化という大きな問題が横たわっています。動脈硬化の原因となる糖尿病や高血圧などの病気をもっている方や、喫煙癖がある方は、網膜動脈閉塞症を発症するリスクも高いといえます。
動脈硬化とは、動脈の血管壁が硬くなってしまったり、血管内壁にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロした粥状物質がたまって、血管が狭くなる病気です。年齢を重ねることで起こりやすくなりますが、ほかにも喫煙や、運動不足、食べ過ぎなどの問題も大きな原因となります。動脈硬化は、やがては脳梗塞や心筋梗塞にまで進展しかねない恐ろしい病気の1つです。

目の動脈が詰まる部位には2パターンがある

網膜の動脈が詰まる病気には、網膜中心動脈閉塞症と、網膜動脈分枝閉塞症の2種類があります。

網膜に血液を届ける唯一の血管である中心動脈が閉塞した場合を網膜中心動脈閉塞症といいます。網膜全体が血液による栄養や酸素を得られなくなるため、急速に組織が障害されてしまいます。

一方、網膜動脈の「枝」の部分が詰まるのが網膜動脈分枝閉塞症です。血流が巡っていかないのは、血管が閉塞したところから先の部分だけになります。そのため、網膜の一部が機能しなくなるという病気です。視野が欠けますが、視力は保たれる場合が多いです。

【69歳男性の網膜中心動脈閉塞症の眼底写真】網膜全体が虚血になり白くむくんでいる。吉村長久、板谷正紀著「OCTアトラス」(医学書院)より。

【網膜中心動脈閉塞症のゴールドマン視野】ごくわずかに視野が残るのみ。吉村長久、板谷正紀著「OCTアトラス」(医学書院)より

【発症当日のOCT画像】網膜内層がむくみ高反射になっている。吉村長久、板谷正紀著「OCTアトラス」(医学書院)より

【発症後2ヶ月のOCT画像】網膜内層が菲薄化している。吉村長久、板谷正紀著「OCTアトラス」(医学書院)より

【65歳男性の網膜動脈分枝閉塞症の眼底写真】初診発症当日。2018年11月22日。網膜の下半分が虚血になり白くむくんでいる。

【網膜動脈分枝閉塞症のゴールドマン視野】2019年4月20日。視野視野欠損は部分的である。

【網膜動脈分枝閉塞症のOCT画像】初診時発症当日。網膜内層は下半分だけむくみ高反射になっている。

【網膜動脈分枝閉塞症のOCT画像】2019年4月20日。。網膜内層は下半分だけ菲薄化している。

どんなに健やかな目にも、突然発症するリスクはつきまとう

網膜中心動脈閉塞症も、血流の枝の部分に起こる網膜動脈分枝閉塞症も、共通しているのは、「発症するまで自覚症状はない」「視力低下や視野欠損が、突然起こる」という点です。

とはいえ、発症前の予兆として1,2分続く突然の視覚喪失が先行する場合があります。それを一過性黒内障と呼びます。また、軽度の頭痛や目の奥の痛みを覚えることもあります。早期発見のためには、少しでも異常を感じたら、受診をするのが理想的です。

動脈が詰まった場合は、一刻を争う

網膜動脈閉塞症についての治療は、「中心動脈」「動脈分枝」のどちらであってもいかに早く血流を回復させるかによります。

①まぶたごしに眼球をマッサージをして、網膜循環を良くする
②前房穿刺を行い眼の中の房水を抜いたり、眼圧下降薬の点滴で眼圧を下げ、網膜循環を良くする
③血栓溶解剤や網膜循環改善薬を投与して網膜循環を改善する

さらに、星状神経節ブロックや高圧酸素療法が行われる施設もあります。

特に、網膜中心動脈閉塞症では、1時間以上網膜が虚血状態になると回復できないダメージを負います。しかし、実際には眼科にたどりつくまでに数時間、ときには数日間も時間が経ってしまうことがほとんどで、残念なことではありますが、結果的に視力に問題が残ってしまいがちなのです。

予防こそが最高の治療

網膜動脈閉塞症の発症には、高血圧や糖尿病を背景にした動脈硬化が大きく関係しています。治療のタイミングが間に合わないからこそ、普段から偏食を避け、肥満解消、禁煙、運動、ストレス発散などを心がけ、網膜動脈閉塞症を予防しましょう。

言い換えると、網膜動脈閉塞症を発症したと言うことは、全身に動脈硬化や高血圧、不整脈などのなどの問題がある可能性が高いと言うことになります。この目の病気が、身体の問題に目を向けるように警告してくれていると考えることが重要です。目は全身の健康状態を映し出す「鏡」なのです。

板谷理事長のひとことアドバイス

網膜中心動脈閉塞症も網膜動脈分枝閉塞症も、共通するのは「発症するまで自覚症状はない」「視力低下や視野欠損が、突然起こる」という点です。予防こそが最大の治療です。万が一、発症されたときは、できるだけ速く眼科を受診していただき、可能な限りの治療努力を行うとともに、頚動脈や心電図異常などの全身のチェックを行い新たな網膜動脈閉塞や脳梗塞などから身を守ることが重要です。

まとめ

  • 網膜動脈閉塞症に共通しているのは、発症するまで自覚症状がなく、視力低下や視野欠損が、突然起こる点です。
  • 網膜動脈が詰まる主な原因は、動脈硬化や不整脈からくる血栓や栓子です。喫煙や運動不足など、動脈硬化を招きやすい生活習慣を改善しましょう。
  • 網膜動脈閉塞症が発症したら頚動脈や心電図異常などの全身のチェックを行う必要があります。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ