子どもの視力は、両目でものを見るという経験を通じて徐々に育っていきます。生まれたばかりの赤ちゃんの視力は明暗がわかる程度といわれます。生後3か月頃では目の前の動くものを目で追うことができるくらい(0.02程度)で、6 か月頃から少しずつ周りのものが見えるようになります(0.04~0.08程度)。さらに幼児期にかけて徐々に視力が成長していき、5~6歳頃にようやく1.0ほどの視力になります。

乳幼児期の子どもは、まだ視力も言葉も成長の途上にありますから、自分で「見え方がおかしい」と気付いたり、訴えたりすることができません。そのため、目に異常があっても発見が遅れることが少なくありません。

こういう場合に重要になるのが、保護者や周りの大人が子どもの目の異常に早く気付くことです。子どもの瞳の色や位置、まぶたなどが「ちょっと様子がおかしい」と気付いたときには、一度眼科(小児眼科)で診てもらうことをおすすめします。

今回は、周りの大人が気付くことで発見される子どもの目の病気の一つである「網膜芽細胞腫」について、解説したいと思います。

子どもの目の網膜に生じる悪性腫瘍。遺伝との関係もわかっている

網膜芽細胞腫とは

網膜芽細胞腫とは、目の網膜に発生するがん(悪性腫瘍)のことです。

発症率は出生児15,000人に1人といわれ、日本では年間70~80人が新たに発症しています。平均発症年齢は生後18か月で、95%が5歳までに発症するといわれています。

網膜芽細胞腫は、片目だけに腫瘍ができる片眼性が全体の65~70%、両目の網膜に腫瘍が生じる両眼性が30~35%となっています。腫瘍の数や進行度は人によってさまざまですが、治療によって克服できる例も多く、がん治癒の目安である5年生存率は約9割と高くなっています。

ただし、病気が進行してしまうと、眼球や視機能を失うリスクは大きくなりますから、やはりできるだけ早期に発見することが大切になります。

網膜芽細胞腫の発生原因

この腫瘍は、RB1遺伝子という特定の遺伝子に異常が生じることによって発生します。RB1遺伝子とは「がん抑制遺伝子」の一つで、細胞の分裂・増殖にブレーキをかけて調整する働きがあります。この遺伝子に異常が生じて本来の働きが失われると、細胞が無秩序に増殖を続けるようになり、悪性腫瘍(がん)が発生するのです。

RB1遺伝子の異常は、患児がまだ母親の胎内にいるときに生じるのですが、その異常発生の様式には2通りあります。一つは、母親の胎内で卵が受精したあとに体細胞レベルで遺伝子異常が生じる形です。このタイプの遺伝子異常がたまたま網膜の細胞で生じたときに、片眼性の網膜芽細胞腫が発生します。この場合、患児の次世代へ病気が遺伝していくことはありません。

もう一つは、母親の胎内で卵が受精するときに胚細胞レベルで遺伝子異常が生じる形です。このタイプでは、遺伝子異常が全身の細胞に及び、患児の次世代へもその遺伝子が引き継がれることがあります。網膜芽細胞腫の両眼性のすべてと片眼性の10~15%が、遺伝によるものといわれています。また、このように全身の細胞にRB1遺伝子異常があると、将来的に骨肉腫などの別の悪性腫瘍が生じる可能性もあるため、長期にわたり、注意深く経過を観察する必要があります。

網膜芽細胞腫の症状

網膜に生じた腫瘍が小さいうちは、目立つ症状はありません。腫瘍がある程度、大きくなってくると次のような症状が現れてきます。

・瞳が白く見える、光って見える(白色瞳孔)
・両眼の黒目の向きが違う(斜視)
・まぶたの腫れ
・結膜充血
・視力低下
・眼球の充血

網膜芽細胞腫の症状で特徴的なのが、瞳の奥が白っぽく見えたり、猫の目のように光って見えたりする白色瞳孔で、全体の6割に現れるといわれます。カメラでフラッシュをたいたときや、薄暗い状況下で周りの人が気付くことが多いようです。また、斜視も1割強に現れる症状です。斜視と併せて、目を細めるような動作やまぶたの腫れ、目の充血などが現れることもあります。

命を守ることと同時に、
できるだけ眼球や視力を残す治療を検討

網膜芽細胞腫の治療

網膜芽細胞腫の治療は、腫瘍が眼球内に留まっているか、眼球の外にまで広がっているかで大きく変わってきます。腫瘍が眼球の外に広がってしまっているときは、命を守るための全身治療が中心になります。一方、腫瘍が眼球の中に留まっているときには、眼球や視機能をどれだけ残すかを考え、治療方針を検討します。最近では、できる限り眼球や視力を温存して治療する考え方が一般的になっています。

腫瘍が眼球内に留まっている場合

治療によって視力の維持が期待できるケースでは、眼球を残したまま腫瘍に対する治療を行います。また、腫瘍の位置や大きさ、進行度により、抗がん剤治療や放射線治療、局所療法(レーザー照射や冷凍凝固など)を組み合わせて行うこともあります。局所療法の一つとして、眼球の動脈に抗がん剤を少量注入する方法も注目されています。

ただ眼球を残せた場合でも、腫瘍の大きさや場所によっては良好な視力を保てないこともあります。また眼球を残す治療法にはメリットもある反面、次のような懸念もあることを知っておきましょう。

・腫瘍の再発・転移の可能性が残る
・治療回数が増える
・眼球が小さくなることがある
・斜視や白内障が生じることがある

なお、網膜芽細胞腫が眼球内に留まっていても、視力維持が期待できないときや、緑内障などの他の疾患を伴うときには、眼球摘出を行うケースもあります。この場合は手術後に傷が落ち着いてから、義眼を入れることになります。

腫瘍が眼球の外に広がっている場合

手術によって眼球を摘出し、できる限り腫瘍を取り除きます。術後には、抗がん剤治療や放射線治療などを行います。放射線治療は治療効果が高いものの、放射線照射による二次がんの発生や、目の周りの骨の成長障害といった副作用も少なくないことから、近年は他の治療では効果が得られない進行した症例でのみ行われています。手術で眼球を摘出した後は、やはり義眼を挿入しての生活になります。

「瞳が白い」「目が光って見える」
そんな症状に気付いたら、早めに眼科へ

網膜芽細胞腫は小児がんの一種ですが、患者数が少ないため、小児科の医師や保健師などでも、ときには見過ごすことがあるといわれます。

1歳半健診などで「少し様子みましょう」と言われて半年、1年と時間が過ぎるうちに腫瘍が大きくなってしまう可能性も考えられます。保護者をはじめ、子どもの身の回りの人が「瞳が白っぽく見える」「目が光って見える」「黒目の位置がおかしい」といった症状に気付いたときには、早めに眼科、できれば小児眼科の専門医に診てもらうようにしてください。

また、遺伝性の網膜芽細胞腫がわかり、子どもの将来や次世代への影響が心配だというときには、地域のがん診療拠点病院などの遺伝相談外来で、カウンセリングを受けることも有意義です。

板谷院長のひとことアドバイス

先天性の目の小児がんである「網膜芽細胞腫」は、保護者やまわりの大人が気づくことが多い病気です。大人の目から見て、子どもの瞳の色や位置、まぶたなどに違和感があったら、すぐに眼科に受診しましょう。網膜芽細胞腫は、患者数が少ないため、保健婦や小児科の医師でも見過ごすことがあります。受診の際は、できれば小児眼科の専門医に診てもらうようにしてください。

まとめ

  • 網膜芽細胞腫は胎児のときに起きた遺伝子の異常により、目の奥の網膜に発症するがんです。
  • 平均発症年齢は18カ月で、瞳が白く光って見えたり、斜視などの症状が現れます。
  • 治療には、腫瘍が眼球内に留まっているか、それとも外に広がっているかで方針が異なります。
  • 腫瘍が眼球内に留まっているなら、できる限り視力を残す治療法を検討します。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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