白目が充血し、目やにがたくさん出て、まぶたが腫れてくる。「結膜炎にかかったかな?」と思って眼科を受診し治療を続けても、なかなか治らない。このようなとき、実は、性感染症による目の病気であることがあります。
性感染症の多くは、目に何らかの症状を引き起こすものが多く、意外にも、眼科とは関係が深いのです。日本ではかつてトラコーマという目の病気が失明に至る重病として警戒されていましたが、現在ではほとんど発症することはなく、また研究が進んで性感染症とは区別されるようになりました。トラコーマを心配する必要はなくなりましたが、初期で診断ができずに治療が遅れると重い全身症状を招きかねない性感染症が、目の症状の陰に潜んでいることがありますので、注意が必要です。
今回は、性感染症と目の症状について詳しくお伝えしようと思います。

性感染症の多くは目にも症変をもたらす

性感染症は、性行為によってウイルスや細菌、原虫などに感染することで発症する病気の総称です。症状は主に生殖器や泌尿器などに現れますが、目にも症状が現れる場合が少なくありません。
性感染症と診断されたあとに目に症状が現れて眼科を受診した患者さんの場合は、眼科の医師と他科の医師とが協力し合って症状の改善に取り組み、治療を進めます。
しかし、まだ特に性感染症の症状が現れていない患者さんが、目に症状が現れたということで眼科を受診されるパターンでは、われわれ眼科医が目の症状の陰に隠れた性感染症の存在を見抜かなければなりません。早期に性感染症であると診断できないと目のほうの病気も改善しませんし、全身の症状も進行してしまいます。普通の結膜炎とは何かが違う、なかなか治療効果が上がらない、といった違和感があるときには、性感染症を疑がって検査を行います。

「クラミジア結膜炎」~日本で最も多い性感染症が原因~

細菌「クラミジア・トラコマティス」が目に触れることで感染する

性感染症によって起こる目の病気として代表的なのは、クラミジア結膜炎です。かつては封入体結膜炎と呼ばれていました。日本で最も多い性感染症として知られている性器クラミジア感染症が原因となって起こります。性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマティスという細菌に感染することで発症する病気です。
クラミジア結膜炎は、性器クラミジア感染症の患者さんが性器に触れた手で目をこすったために発症することが多いのですが、まれに、感染した母親から生まれる赤ちゃんが産道を通るときに母親から感染してしまうこともあります。

【クラミジア結膜炎】

原因菌が同じでもまったく別の病気「トラコーマ」

かつて、同じくクラミジア・トラコマティスに感染することで発症するトラコーマという病気が日本でも存在していました。現在ではほとんど発症することがないため心配はいりませんが、開発途上国などでは今でも大きな失明原因となっています。クラミジア・トラコマティスが原因菌であるため、トラコーマはかつて性感染症の一種と考えられていました。しかし、その後、トラコーマを発症させる原因菌とクラミジア結膜炎を発症させる原因菌とは、同じクラミジア・トラコマティスでも血清タイプの異なる別物であることが分かりました。トラコーマの場合は感染経路もさまざまで、ハエを通じて感染したり、タオルなどを介して感染したりするため、現在では「性感染症ではない感染症」とするのが一般的になっています。トラコーマはクラミジア結膜炎よりさらに感染力の強い病気ですので、衛生状態がよくない国を訪れる際にはご注意ください。

流行性角結膜炎とよく似た症状が現れる

クラミジア結膜炎の症状には、白目の充血のほか、目やに、まぶたの腫れなどがあります。アデノウイルスによって発症する流行性角結膜炎と症状が似ているので、鑑別することが重要です。

治療は抗生物質で

抗生物質の投与による治療が効果的です。重症化することはあまりなく、適切な治療で炎症は改善していきます。しかし、濾胞(ろほう)という粒状のできものが下まぶたの裏側にでき、数カ月にわたって残ることがあるため、その間は目がゴロゴロするなどの不快な症状が続きます。

HIV感染で起こる目の病気

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると、目にもさまざまな病気が生じることがあります。HIVが直接もたらす血管障害によって生じるものや、HIVが間接的にもたらす日和見感染によって生じるものがあります。
HIV感染で起こる目の病気の代表的なものとして、HIV網膜症とサイトメガロウイルス網膜炎をご紹介します。

「HIV網膜症」~眼底に白斑や点状出血が現れる~

HIV網膜症は、HIVによって引き起こされる血管障害により、眼底に白斑や点状出血などの症状が現れるものです。HIVに伴って発症する目の病気としては最も発症頻度の高いものです。ただし、眼底の症状は1~2週間で自然に消失しますし、視力低下も生じませんので、治療の必要はありません。しかし、こうした症状が見られたら、HIVの感染を疑って検査を行う必要があります。

【HIV網膜症】

「サイトメガロウイルス網膜炎」~網膜壊死や網膜剥離が起こることも~

HIVに感染すると、免疫力が次第に低下していき、やがてさまざまな感染症にかかりやすくなります。このような状態を後天性免疫不全症候群(AIDS)といいます。健康な状態であれば感染症を起こさないような病原体であっても、病気を発症するようになってしまうのです。これを日和見感染といいます。眼科領域における代表的な日和見感染症が、サイトメガロウイルス網膜炎です。サイトメガロウイルスは、大半の人が感染している、ごくありふれたウイルスですが、免疫力が極端に低下したときに体内で急に増殖し始め、目の網膜を損傷するだけでなく生命を脅かす存在となります。
サイトメガロウイルス網膜炎になると、眼底に黄白色の病変や浮腫が現れ、網膜が壊死してしまいます。また、たくさんの裂孔が生じて網膜剥離が生じることもあります。
治療は抗ウイルス薬の全身投与によって行います。網膜炎の進行が止まってからも、しばらくは投与が必要になります。

【サイトメガロウイルス網膜炎】

HIV感染者は定期的な眼科検査を

ここでご紹介したHIV網膜症やサイトメガロウイルス網膜炎以外にも、HIVに感染することで発症する目の病気はいくつもあります。目の病気に気づいたことが契機となってHIV感染が判明したときにはHIVの治療を開始することになりますが、その際、眼科でも引き続き定期的な検査を行って、目の病気に適切に対処していくことが必要です。

「淋病(りんびょう)」~激しい症状を伴い、失明の危険も~

淋菌が目に触れて感染する

淋病は性器クラミジア感染症とならんで発生頻度の高い性感染症で、淋菌に感染することで生殖器を中心に炎症が生じます。
淋病による目の病変は、感染者の分泌物が結膜に直に触れることで目に淋菌が感染して発生します。また、クラミジア結膜炎と同じく、産道感染によって新生児の結膜に淋菌が感染することで発生することもあります。

【淋病による結膜炎】

角膜が障害されて失明に至ることも

目の症状は、クラミジア結膜炎と比べると非常に激しく、強い結膜炎、まぶたの腫れ、充血が急速に進みます。進行が速いため、適切な治療を行わないと急速に角膜障害が進んでしまい、やがて角膜穿孔を起こして失明に至ることもあります。

耐性菌が増えているため、複数の抗生物質を併用しても治りにくい

治療は抗生物質の投与で行います。しかし近年、治療薬に耐性を持った淋菌も増えており、複数の抗生物質を併用しても治療しにくくなっています。こうした耐性菌を生み出さないためにも、治療はパートナーと一緒に治りきるまで確実に行う必要があります。

「梅毒」~目のさまざまな部位で炎症を引き起こす~

国内で増加している梅毒患者

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌による感染症です。「昔の病気」というイメージがありますが、近年ふたたび日本国内で増加傾向を示している性感染症です。感染後すぐには症状が現れず、数年~10年以上かけて徐々に進行していき、やがて全身に症状が現れるようになります。目にもさまざまな部位で炎症が起こるようになり、結膜炎、角膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎、網脈絡膜炎、視神経炎など、多様な病気を引き起こします。

病原菌を死滅させるだけでなく、全身の症状に対処することも重要

治療では抗生物質で病原菌を死滅させますが、病原菌を除去しても障害を受けた臓器は治りませんので、並行して、それぞれの症状に対処する必要があります。目に発生する多様な症状にも、それぞれに対応して治療を施します。

性感染症の患者さんは、目に症状がなくても、眼科で定期的に検査を

性感染症は目に症状を現すことが多く、場合によっては失明という事態を招きます。まだ症状が出ていないからと眼科での検査を怠っていると、急激な症状出現に襲われたり、知らぬ間に眼底で病変が進んでしまっていたりすることもあります。性感染症にかかったら、泌尿器科にかかるだけでなく、眼科を受診して目の状態を調べておくようにしましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

近年の日本では、性感染症が増加傾向にあります。それぞれ、目に症状を現すことがあるので、適切に治療をするために眼科で受診をすることが大切です。

まとめ

  • 性感染症には目の病気を招くものが多くあります。
  • 性感染症を診断された患者さんに目の症状が現れた場合は、眼科と他科が連携して治療を行います。出現しているのが目の症状のみの患者さんの場合は、眼科医が目の治療を行うとともに性感染症の鑑別診断を行います。
  • 性感染症にかかった方は、たとえ目に症状がなくても、症状が現れた際に速やかに対応できるよう、眼科を定期的に受診して目の状態を調べておくようにしましょう。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ