トキソプラズマという言葉を聞いたことがあるでしょうか。トキソプラズマとは、家畜の肉や感染したばかりのネコの糞や土のなかにいる原虫です。小さな単細胞生物で目には見えません。この原虫に、妊婦が初めて感染した場合には、胎児にも感染が及ぶことがあり、流産、死産、脳や目に障害が生じることがあります。
なかでも、目に障害が出るものを「トキソプラズマ眼症」といいます。またトキソプラズマによる障害は、出生時に問題がなくても成長するにつれて症状が出る場合もあるので注意が必要です。
トキソプラズマは感染しないよう予防がもっとも重要です。どんな点に気をつけて予防をすればいいのか、詳しく見ていきましょう。

トキソプラズマに感染しても症状がなく気づかないことがほとんど

トキソプラズマは単細胞の原虫で、世界中で見られます。この原虫が人に寄生すると、トキソプラズマ症という感染症を引き起こします。しかしほとんどの場合、症状に気づかず、感染した人の10〜20%で、リンパ節の腫れ、筋肉痛などの症状が出ることがあります。
トキソプラズマは、健康な人が感染してもまったく問題ありません。しかし妊娠した後、初めて感染するとお腹の中の赤ちゃんにも感染してしまい影響が及ぶことがあるので注意が必要です。特に日本では、大人になってからの感染率が高い傾向があるので、妊婦さんは気をつける必要があります。

妊娠初期に初めて感染すると、流産や死産、目に重い障害が生じることも

妊娠中にトキソプラズマに初めて感染すると、赤ちゃんにも感染する危険性があります。万が一感染してしまった場合、流産や死産、胎児の脳や肺、目に障害が生じることがあります。
特に重要なものには、網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)による視力障害が挙げられます。
網脈絡膜炎とは、目の脈絡膜という部分に炎症が起こり、視力の低下や硝子体の混濁、場合によっては失明などが起こる病気です。胎児のときに感染したものを、「先天性トキソプラズマ症」、なかでも目の障害については「トキソプラズマ眼症」と呼ばれています。

【脈絡膜は虹彩、毛様体とともにぶどう膜と呼ばれる膜の一つで、網膜の土台となって栄養や酸素を供給する役割があります。】

【トキソプラズマ眼症】

成長するに従い、お子さんに症状が現れることもあるので注意が必要

トキソプラズマは、妊娠中期・後期の感染では、出生時に症状が現れないことがあります。出生後の赤ちゃんに症状が現れないため気づかれにくく、無治療の場合には、成人するまでに網脈絡膜炎などの症状が起こることがあります。
妊娠初期にトキソプラズマ感染が陰性で、出生後の3歳児健診で視力低下の診断を受けた例もあります。
生まれた時点でトキソプラズマの感染がわかれば、お薬で治療をすることで目の障害を防ぐことも可能です。もし妊娠中にトキソプラズマに感染するような行為をしてしまった場合には、婦人科の医師などに相談するようにしてください。

トキソプラズマの感染予防、三つのポイント

とにかく妊娠中(妊娠前の6カ月以内を含む)は、トキソプラズマに感染しないようにすることが重要です。以下の三つの点に留意してください。

[予防が重要①]
生肉や加熱が不十分な肉を食べない!

肉には、生きたトキソプラズマが含まれていることがあるので注意が必要です。
たとえば、生ハム、ローストビーフ、レアステーキ、肉のパテ(加熱不十分なパテ)、生サラミ、生ベーコン、ユッケ、馬刺し、鳥刺し、鹿刺し、エゾシカのレアステーキ、鯨刺し、ヤギ刺し、加熱が不十分なジビエ料理などです。
知らず知らずのうちに口にしてしまうものばかりです。トキソプラズマは乾燥や低温でも生きていることが多いので、中心部が67度以上になるまで加熱してください。
また井戸水や川の水などを、加熱せずに飲むことも避けてください。

[予防が重要②]
土いじりの際には、手袋、メガネ、マスクを! 作業後は十分な手洗いを

トキソプラズマの含まれた土でガーデニングや農作業などをしたり、子どもと一緒に砂遊びなどをすると、土を触った手を口や目に持っていったりすると、トキソプラズマに感染してしまう恐れがあります。土ぼこりが目に入ることでも感染する可能性があります。
そのため作業中は、ゴム手袋やマスク、メガネなどを装着して、口や目に入らないように注意してください。また作業後は、十分な手洗いをすることも大切です。そして収穫した野菜などはよく洗ってください。

[予防が重要③]
ネコ用トイレの掃除は、家族などに頼んで!

ネコがトキソプラズマに感染すると、最初の2週間くらいはネコの糞に紛れ込ませ、トキソプラズマが子孫を外界にまき散らします。その後トキソプラズマは、ネコの体内でおとなしく暮らしています。しかし、ネコが将来いつトキソプラズマに感染するか、過去に感染したことがあるかなどはわかりません。
そのため、ネコ用トイレの掃除は家族にお願いする、ネコに生肉を与えない、妊娠中に新しくネコを飼わない、他のネコと接触させないことなどが重要です。

【トキソプラズマの感染経路】

板谷院長のひとことアドバイス

トキソプラズマは、健康な人が感染してもまったく問題ありません。妊娠しているときに初めて感染すると胎児にも影響が及ぶ可能性があり、注意が必要です。妊婦さんは気をつける必要があります。

まとめ

  • トキソプラズマはとてもありふれた原虫であり、健康な人が感染しても問題ありません。
  • しかし妊娠後に初めて感染して胎児にも感染すると、流産や死産を招いたり、胎児の脳や目に障がいが生じたりする可能性があります。
  • 胎児がトキソプラズマに感染すると目への影響が大きく、網脈絡膜炎という視力低下や失明などをまねく病気を起こすことがあります。
  • 妊娠中期・後期の感染では、出生後の赤ちゃんに症状が現れないことが多く、成長するに従い症状が現れることがあります。
  • 妊婦さんは、トキソプラズマに感染しないよう予防をすることが大切です。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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