何かものを見るとき、通常は両目の視線はそのものの方向を向きますが、片方の目がものとは違う方向を向く状態を斜視といいます。
目の向きがずれることにより、不快な症状が引き起こされることがあります。また、周囲から見たときの印象にも影響を及ぼします。斜視というと、生まれつきで自然となってしまう子どもの斜視(先天性のケース)の印象が強いかと思いますが、大人になってから起こること(後天性のケース)もあります。それぞれ治療方針が異なり、特に子どもの斜視はしっかり治療をしないと視力が低いまま発達しない弱視になることがありますので注意が必要です。今回は斜視についてどのような種類があり、またどのような注意点があるか、詳しくご紹介します。

子どもの斜視と、大人の斜視の違いとは

乳児期から小児期に見つかる斜視の多くは、はっきりとした原因がわかっていません。遠視や近視、乱視などの屈折異常や、目のピント合わせの調節機能の働き過ぎで起こる斜視もあります。これらは「共同性斜視」と呼ばれています。共同性斜視が遺伝によるものかどうかについても、現在は研究段階です。一方、頭部のけがや、脳内の疾患、目を動かす外眼筋の異常がもとで発症する「麻痺性斜視」は、小児期から大人まで、どの年代でも起こる可能性があります。
まとめると、子どもの斜視の多くは「共同性斜視」で、大人の斜視の多くは「麻痺性斜視」だといえます。

【斜視にもいろいろな症状があり、こちらは正常な目(左)に対して、外斜視(中央)、内斜視(右)を表しています。斜視の原因としては、子どもは先天性の「共同性斜視」が多く、大人はけがや脳の疾患などで外眼筋の異常で起こる「麻痺性斜視」が多い傾向があります。】

意外と多い、大人の斜視

ある統計によると、「斜視は日本の人口の約3%にみられる」といわれます。決して珍しい病気というわけではないのです。多くの場合、幼少期に症状が現れ、親御さんに連れられて眼科を受診されますが、周囲の大人が目のトラブルに気がつかなかったり、安易に考えたりして、眼科を受診しない方もいます。また、治療を受けてもメガネによる矯正や、斜視の手術を受けただけで「治った」ととらえて、それ以上の治療や検診は行わないという患者さんもいらっしゃいます。大人の斜視には幼少期に適切な処置を行わなかった患者さんも含まれると考えてよいでしょう。

大人になってから発症するケースも珍しくない

大人になってから斜視が引き起こされるケースも存在します。目を動かす神経や筋肉の異常のために目の位置がずれる患者さんなどが該当します。また、突発的な眼筋麻痺によって斜視の症状が現れることがあります。眼筋麻痺とは目の周囲の筋肉に麻痺を生じるために、眼球や眼瞼を動かして周辺視することが十分できない、または両眼を協調して動かすことができない状態を指します。

加齢が原因の斜視は、予防できる

また、「加齢」が原因で大人の斜視が起こることもあります。人の目の向きは、意識をしていないときに、両目に力が入らず外側へと寄っていく傾向があります。年齢を重ねると、両目が外側へと向かっていくことがあります。「目が外側へ寄りがちな状態」が常であると、「両目を内側へ寄せる」ことが難しくなり、目が外側を向く「外斜視」という種類の斜視になることがあります。このような加齢による斜視は、一定の割合で起こるとされています。ある程度自覚症状を感じるようになったら、外斜視の予防のために「両目を内側へ寄せる」トレーニングを行うとよいでしょう。

斜視が引き起こす全身へのダメージとは

大人の斜視では視線を合わせるのに疲れを感じ、肩こりや頭痛の原因となることも少なくないため、予防策を講じたほうがよいでしょう。また、斜視の程度がいちじるしい場合は、社会活動するうえで容姿が気になることも考えられます。目を動かす神経や筋肉の異常で起こってくる場合は「ものが二重にダブって見えること」つまり、複視が引き起こされることになり、日常生活に不便を感じるようにもなってしまいます。斜視というと、「先天性のもの」「生まれつき」といったイメージが強いかもしれません。しかし、大人になってから起こる可能性もあることを、心に留めておいてください。

斜視と間違えやすい「乱視」にご注意

斜視の症状として「ものが二重に見える」ことがあります。ものが二重に見える原因として、乱視である可能性もあります。乱視かどうかは次のような方法で確認することができます。片方の目で見たときだけ、二重に見える場合は、眼球そのものの問題ですから「乱視」、両方の目で見たときだけ二重に見える場合は、「斜視」の可能性があります。

自己診断は避けて、医師の診察を受けましょう

大人の斜視のうち「ものが二重にダブって見える」、つまり「複視」を訴える患者さんの場合、脳の血管の詰まり、脳腫瘍、全身の筋肉の病気やのどの病気である可能性も考えられます。その場合には、血液検査や「MRI」(磁気共鳴画像)などの検査が必要です。どの診療科目にいくか、迷った場合は、まずは眼科へ行き、検査を受けることをおすすめします。また見かけ上は斜視のように見える「偽斜視」とよばれるケースもあります。一般に斜視との見分けは難しく専門家による診察を受けることをおすすめします。

検査で調べるのは「目の位置関係」

検査の現場では、医師のほかに「視能訓練士」という国家資格をもつ専門家がいます。
斜視の検査のひとつに「眼位検査」があります。「眼位」とは、両眼の位置関係のことです。眼位がずれているかどうかを調べることで、斜視の検査をします。眼位検査では両眼をペンライトで照らす方法(角膜反射法)や、片目を隠して眼球の動きを観察する方法(遮閉試験)などがあります。遮閉試験で眼位ずれの程度を調べるときには、プリズムという機器を使います。

斜視を調べる検査には、多くの種類がある

ほかに「視力検査」「屈折検査」「両眼視機能」「眼底検査」「ヘスコージメータ※」(Hess赤緑試験)なども行われています。
※ヘスコージメータとは、赤色のフィルターと緑色のフィルターによって色を分離することで両目の動きが正常に行われているかを調べる検査です。目の神経や筋肉に何らかの異常はないか、目の動きは悪くないか、過剰に動きすぎてはいないかなどを知ることができます。

治療は容姿を整える整容と視機能向上

斜視の治療は、大きく二つに分かれます。一つ目は、容姿を整える「整容」。二つ目は、視力や両目視機能などを改善させる「視機能向上」です。どちらか1つが目的でも、治療を受けることは可能です。主治医と相談のうえ、治療の方針を決めましょう。手術以外に体に負担をかけない治療法も多くあります。

メガネをかけて日常生活を送るだけで、改善することも

治療法は、状況に応じて、選択肢の中から選ぶことができます。
「屈折矯正」という方法では、「メガネをかけること」で治療を行います。遠視、近視、乱視をともなった斜視の患者さんに適した治療法です。遠視によって起こる「内斜視」の場合、斜視が軽くなることがあります。

「プリズム装用」では、光を一定方向に曲げる作用のある樹脂製の膜「プリズム」をメガネに取り付け矯正します。斜視そのものを治す治療法ではなく、両眼視機能を回復することが目的です。

【プリズムレンズは三角柱による光の屈折を利用した特殊なレンズです。(「高田眼鏡店」より)】

「ボツリヌス注射」は、外眼筋にボツリヌス毒素を注射して、筋肉の痙縮の改善を図る治療法です。眼位の調整を目的としています。

手術には、緻密な計算が求められる

上記に上げた治療法以外に、手術を行うこともあります。手術では、目の周囲の筋肉である「外眼筋」を調整して、目のずれを治すことを目的としています。手術は通常30分~1時間半ほどで終わります。乳児から大人まで受けることが可能です。手術の目的は「筋肉の位置を調整すること」ですので、事前に緻密な計算を行います。ただしあくまでも人の手で行う作業です。熟練の医師でも加減は非常に難しいとされています。

斜視の治療は完璧を目指しすぎないほうがよい

斜視の手術をした結果、「ものが二重にダブって見える」複視が引き起こされることもあります。また、手術後に再発が起こるケースもあります。そのため、手術をしなおしたいという方もいらっしゃいます。しかし、何度も手術を行っても完全な状態になるとは限りませんので、日常生活に支障が出ない程度を目標にすることをおすすめしています。主治医に相談のうえ、より自分に適していると納得できる治療法を探していきましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

ものが二重にダブって見える患者さんの場合、脳の血管の詰まり、脳腫瘍などの病気である可能性も考えられます。自己診断は避けて、医師の診察を受けましょう

まとめ

  • 斜視には、先天性と、加齢や病気などによって引き起こされる後天性があります。
  • 斜視の治療では、メガネなどの矯正器具、注射、手術など、さまざまな治療法が存在します。
  • 日常生活に支障の出ない範囲で、斜視と「うまくつきあっていく」という考え方をおすすめします。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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