現在、あらゆる産業で話題となっているAI(人工知能)。世界中で競うように研究開発が行われており、社会を大きく変革するのではないかと期待が寄せられています。
眼科医療でもAIの活用について研究が続けられており、特に診断の領域において近い将来に何らかの形で実用化されると考えられています。眼科は初期の診断が難しい病気が多いので、AIのサポートが得られればより高い診断成績が期待できます。
今回はAIがもたらす眼科医療の未来の可能性についてご紹介したいと思います。

AIが得意なのは「人間の一生をはるかに超える量の経験を蓄積すること」

AIは、人間の頭脳と同等、もしくはそれ以上の働きができると期待されていますが、それだけ大きな期待が寄せられるようになったのは、Googleの関連会社が開発したAlphaGoが世界一の棋士を囲碁で圧倒した“事件”がきっかけでした。
AlphaGoは、それまでのAIと違って、人間の神経細胞(ニューロン)の仕組みを模したニューラルネットワークが基礎になっています。ニューラルネットワークを多層的に構築し、データをさまざまな角度から評価することで、より深い学習が可能になるのです。この学習の方法をディープラーニング(深層学習)といいます。
例えば囲碁では、ある局面で有効な手は、数手先の相手次第で不利になる、といったことを、複数の評価軸で検討し、学習していくことができるのです。AlphaGoは自分自身で数千万回の対局を行って、やがて人間では評価できないレベルの手を打つようになりました。

医療界で応用されるAIの学習能力

AIはあらゆる産業界で研究が続けられていますが、医療分野でも役立てられることが現実味を帯びてきています。特にがんの診断に関する研究が世界中で進んでいます。
東京大学医科学研究所では、IBM社の「ワトソン」というAIを利用して、患者の遺伝子データを入力することで、がんに関する遺伝子変異を抽出し、治療薬があれば提示するシステムを開発しています。アメリカでも検査画像から高い精度で初期のがんを発見できる「Enlitic」というAIが登場しています。
このように、早期発見が難しい病気であっても、ほんのわずかな兆候を多角的に評価して高い精度の診断に結びつけることができるのが、AIの威力といっていいでしょう。

眼科で考えられるAIの活用

では眼科でのAI活用はどのようになるでしょうか。実は、眼科ほど画像診断が重要な医療分野はなく、AIの活用が他科よりも進むのではないかと考えられます。

画像診断に威力を発揮

眼科では、病気を診断する際にさまざまな検査を行います。視力検査や視野検査、眼圧検査など、客観的なデータを正しく評価することは、診断をする上でとても重要です。
また、診察で患者さんからお聞きする自覚症状も大事な情報です。特定の病気の可能性を見つけ、どのような検査を追加すべきか検討します。
そしてもう一つ、診断において必要となるのが眼底写真と眼底のOCT(光干渉断層計)画像です。緑内障や糖尿病網膜症などは、早期発見・早期治療が重要ですが、初期の段階で発見するのはとても難しい病気でもあります。というのも、初期には自覚症状が現れることが少ない上に検査でも特徴的な数値に現れづらく、病気が静かに進行していることもあるからです。

眼底のわずかな変化を見抜くことが病気の早期発見につながるのですが、眼底写真やOCT画像のわずかな変化をAIによって見つけることができれば、より正確に診断できるようになることが期待できます。あるいは完璧な診断でなくとも、世界中のデータをリンクして可能性を%で表してくれれば、医師にとってはとても大切な評価基準になるでしょう。

【眼底写真のわずかな変化で、病気の有無や進行度を判断しなければなりません。】

【OCT(光干渉断層計)による黄斑の画像。AIはOCT画像の変化も正確に評価して診断することができます。】

医師の労働環境を変えて、患者さんの待ち時間も短縮できる

診断でAIのサポートを活用することができれば、もう一つ大きなメリットが生まれることが考えられます。それは、診断にかかる時間や労力が減少することで、診断後に医師が治療にかける時間を増やすことができるということです。
治療にかける時間が増えれば、患者さんが診察の順番を待つようなことも少なくなるでしょう。
また、医師の労働時間も少なくすることができるかもしれません。現在、医師の労働環境の悪さは社会問題の一つとなっていますが、病気である確率をAI診断機器が自動で計算してくれれば、医師が診る患者数を減らすことができるでしょう。医師は病気の確率が高い患者さんのみを診ればよくなり、治療が必要な患者さんにもっと多くの時間を割けるようになるでしょう。

眼科医など特定の専門医の少ない地域で医療の窓口になる

AIが活用されるようになれば、医師不足の問題も解決できるかもしれません。
例えば、医師不足の地域、眼科医などの特定の専門医が少ないような地域にAI診療所を設置し、住民に対して定期的な健診を行うとします。このとき、AIを扱うのは医療従事者でなくともよく、一般の公務員でもいいでしょう。AIの診断によって、病気の可能性が高いとされた方は、そのときに初めて診断結果を持って別の地域の眼科クリニックを受診します。
このような医療の仕組みが確立できれば、無医村の問題や自治体ごとの医師不足の問題はかなり解決できると考えられます。

現在のAIは、診断は得意でも治療方針の選択ではミスが多い

AIは、このまま開発が進んで進化を続ければ、いつか医師がいらなくなる、と考える方もいるかもしれません。いつかそんな日が来ることを否定することはできませんが、しかしまだ近い将来で起こる出来事ではなさそうです。

例えば、先に紹介したIBM社の「ワトソン」というAIは、がんの診断については世界最高の医師と比べてもそん色のない成績を出しましたが、その後の治療方針についてはミスを出すことが多かったという結果になっています。
このことが意味するのは、現在のAI技術は、治療の選択肢の中から人間の医師と同等の精度で治療方針を選択できるレベルにはまだ達していないということです。

この状況は、眼科領域でも同様です。お薬の処方箋を提案することはできても、難症例に対する精度の高い治療方針を導き出すことはできないようです。

高度な医療を誰もが受けられる未来にAIは欠かせない

まずは、AIによる診断を普及させて、高度な医療を効率的に提供できる仕組みを作ることです。それだけでもAIが医療界に果たす役割は革命的といえるでしょう。

AIが普及すれば、難しい眼底病変を発見できるのは熟練の医師だけ、ということはなくなりますし、その分、医師は治療に専念できるようになります。また、人口の少ない自治体にとっては、AIに正確な診断をしてもらってから患者さんを適切な医療機関に紹介できるようになるので、医師不足に嘆くことも少なくなるでしょう。
高度な医療を誰もが受けられる社会の実現には、AIの発展と普及が欠かせないものであるといえそうです。

板谷院長のひとことアドバイス

緑内障や加齢黄斑変性の初期症状は、ベテランの眼科医でも診断が難しいものです。もしAIが診断に一定の評価をしてくれれば、それを参考に必要な検査に進むことができます。AIが何もかもを解決してくれるわけではありませんが、医療を進歩させてくれるものであることは、十分に期待できるでしょう。

まとめ

  • AIは膨大な画像データを学習することで、精度の高い診断をくだすことができます。
  • AI診断が普及することで医師の負担が軽減され、より効率的な医療を実現できる可能性があります。
  • AIにも限界があり、今のところ治療方針については、医師が納得できるレベルの提案は必ずしもできるわけではありません。

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執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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