色覚異常とは、他の大勢の人とは色が異なって見える状態を指します。色覚異常には、遺伝性の先天色覚異常と、他の病気の症状として出る後天色覚異常があります。
ここで取り上げる先天色覚異常は、幼少期に本人はもちろん、周囲の大人も気付きにくいことが多いのです。
2003年度から、小学校での健康診断に義務づけられていた色覚検査が廃止されました。このため「幼少時、学生時代と全く気付かずに過ごし、就職試験の際に指摘される」という問題がよく起こりました。その結果、現在は多くの学校で、希望者に検査が行われています。
今のところ、先天色覚異常の治療法はありませんが、悪化することもありません。
学校教育において、あるいは日常生活において色の見え方が違う人がいることを知っていただきたいと思います。そして、我々の世界は標識や信号など3色が見える色覚正常者を基準としてつくられていますが、そのなかで色覚異常の方がどのような不便さを被っているのかを知っていただきたいと思います。その上で、色の捉え方の違いを1つの“個性”として感じて人間関係を築いていきたいものです。

男性の20人に1人、女性の500人に1人が、先天色覚異常

ものを正常に見るには、視力、視野、色覚という3つの機能が必要です。色覚異常は、これらの機能のうち、色覚に異常がある状態をいいます。なかでも先天色覚異常を抱える人は、少ないわけではありません。その割合は、日本人男性の20人に1人(5%)、日本人女性の500人に1人(0.2%)とされています。「弱視」と混同されることが多いのですが、先天色覚異常では、視力は正常に保たれていることがほとんどです。また「暗いところで見たとき」「見る対象が小さいとき」などに、起こりやすいという点が共通しています。
ただ「どの色を誤りやすいか」という問題については、個人差が大きくあります。色覚異常の種類や、本人の意識や自覚によって異なります。

絵を描くときに、大人が気付くことができれば幸運です

先天色覚異常で気を付けたいのは、「本人も自覚がしにくい」という点です。周りの大人が気付ける機会としては「絵を描くとき」「見える色の名前を言うとき」などが挙げられます。
よく見聞きするのは、幼少時に「空を赤など青以外の色で絵を描き、周囲の大人に注意される」というケースです。ただし、大人の側に先天色覚異常についての知識がない場合。「幼いから、まだ分別がないのだろう」「ふざけて描いているだけだろう」と誤解され、目が抱えるトラブルの発見にまで至らないこともあります。男児で20人に1人というのは、必ずクラスに1人はいるという確率です。保育や教育に携わるプロは、知っておいていただきたいですね。その啓蒙活動も、私たち眼科医の使命です。

集団生活でうまくいかない原因になることも

先天色覚異常がある場合、小学校に入学後、集団生活に支障をきたすことは一層多くなります。風景を描くときに、晴れた青空を全く違う色で塗ってしまったり、植物の観察日記をつけるときに、草花の色を実物通りに描くことができなかったりします。たとえば「紅葉をスケッチするという課題で、クラスで1人だけ葉を緑色に描き、先生に叱られた」という話も、親御さんから聞いたことがあります。それらの経験が度重なると、級友にからかわれたり、成績の低下につながるリスクも懸念されます。ひいては、自己肯定感の低下にもつながりかねません。

充電器や信号機など、“小さな不便”は取り除くことができる

成長するにつれ、日常生活で実際に不利益をこうむるケースも増え始めます。たとえば「ゲーム機の充電の色の区別がつかなくて困る」という声を聞いたことがあります。「充電中=だいだい色」「充電済=緑」というルールを判別することが難しく、「その都度家族に聞いて確認する」というお子さんもいました。

また「赤と緑が見分けにくい」という方の場合、信号機のランプの色が、わかりにくくなります。なかでも逆光のときや、雨天や霧が立ち込めているような場合、その傾向は一層強くなります。私のアドバイスは「信号機の色は、位置関係で覚える」です。右が赤(=止まれ)、左が緑(=進む)と理解しておくとよいでしょう。

信号機のランプの色がわかりにくい場合は「位置関係で覚える」

肉の色の判別など、周りのサポートが必要なこともある

さらに、「赤と黒が見分けにくい」という方の場合、お肉の焼き具合がわかりにくくなります。焼肉や鍋料理の際には、家族、友人、同僚のサポートが不可欠です。しかし、色覚異常があることを知らなければ、サポートもできません。先天色覚異常に早く気付き周囲の理解を得ることによって、「日常の不便さ」を和らげ、トラブルを事前に回避できるのです。

お肉の焼き具合がわかりにくい方は周りのサポートを受けましょう

今は学校で、任意で検査が行われている

もちろん、「子どもの目の問題を、できるだけ早期に発見しよう」という社会的な流れもあります。文部科学省の通知により、現在では多くの学校で、保護者に対して先天色覚異常の検査の周知を図っています。また、希望者には検査も任意で実施されるようになりました。
このような動きの背景には、近年、学校で色覚検診が行われなくなったことで、「進学や就職の際に問題が多発するようになったから」という事情があります。「入学試験や就職試験の際に先天色覚異常に気付き、やむなく不合格になる」、そんな若い人たちの夢を突然摘むようなことは、本来あってはならないはず。そのような問題意識から、早期発見が叫ばれるようになったのです。

先天色覚異常の検査例。通常であれば「7」の数字が見えます

学校での検査が、早期発見につながり、人生の質を維持してくれる

最近行われた調査のショッキングなデータをご紹介しておきましょう。
先天色覚異常のお子さんは、たいてい小学生の高学年の頃に「自分の色の見え方は、皆と違う」とわかり始めるようです。しかし一方では、「中高生になっても、約半数の人が自分の色の見え方が皆と違うことに気付けていない」という事実が日本眼科医会の調査で明らかになりました。
確かに、色覚異常は外見だけではわかりません。だからこそ、学校で色覚検診を行う意義があるともいえます。ただし、学校での色覚検診は、色覚検査表を用いて行うスクリーニングです。色覚異常が疑われるとされた場合、眼科をすみやかに受診することが重要です。

自分の色覚の特徴を、よく理解しておく

先天色覚異常と眼科で診断された場合、いったいどうすればよいのでしょうか。
現在、先天色覚異常の有効な治療法はありません。しかし、悪化することもありません。また、日常生活に大きな不便が生じることもないとされています(信号機の色の配置などは覚えておきましょう)。

また、自分がどの色を間違えやすいのか、把握しておくことは有効です。周囲の人たちにも色覚異常について簡単に説明をして理解を深めていただき、「困っているときには助けてほしい」などと呼びかけておくことができれば理想的です。

乗り物関連や、美容関連など、就職で不利になる業種は知っておく

色覚異常が不利になる職業や専門的な学校には、どのようなものがあるのでしょうか。
職業としては、たとえば自衛隊・警察・船舶・航空・消防・鉄道・バス関連の業界などが挙げられます。
また、専門的な学校の場合、入学試験の段階で色覚異常について問われることがあります。たとえば防衛・警察関連・船舶・航空・鉄道などの職業訓練にまつわる学校です(もちろん、募集される職種や部門に応じて異なります)。

このような学校への入学や、業界への就職を希望する場合、早めに確認しましょう。他にファッション関連の仕事(美容師・スタイリスト・ネイリスト)や、調理師・看護師・介護士・カメラマンなども色覚異常が不利になることが想定されます。

調理師など、職業や専門的な学校によっては色覚異常が不利になることも

「色覚検査をやめよう」という流れもある

就職の際に起こった問題として、次のような報告があります。
「消防の仕事につきたかったが、願書に色覚について書く欄があった。検査を受け先天色覚異常であることがわかり、驚いた」
「自動車整備業の就職試験で、先天色覚異常と指摘を受けた」
募集している組織や部署によっては、色覚異常でも採用されるケースはあります。しかし、色覚異常であることが、就職試験の結果にどの程度反映されるのか。その基準がわからず、悩む方も多いようです。このような流れを受け「本業に差支えがないのであれば、採用試験で色覚検査を撤廃しよう」という動きも一部の職種で出ています。1人の眼科医として、そのような気運が広がることを願ってやみません。

周りの人は、優しい配慮を

では周りの人は、先天色覚異常の人にどのように接するべきなのでしょうか。
最も避けてほしいのは「これは何色だと思う?」と興味本位で尋ねることです。本人からしてみると、周囲との“違い”を痛感することになってしまいます。「色の感じ方にも、個性がある」というポジティブな捉え方をしてほしいと思います。また同様の理由で、目に見える色について、逐一「〇〇色だよ」などと伝える必要もありません。本人が明らかに困っている状況であったり、尋ねられた場合のみ答える、という姿勢が正解です。

アプリを利用すれば「色覚異常」は体感できる

保育や教育に携わる現場の人たちも、差別意識をなくすような言動をとることが重要です。授業や講義の際に色の名前に触れる場合は、配慮ある言い回しを心がけたいものです。また今後は文部科学省の方針によって、学校での色覚検診の状況は変わる可能性があります。その度に、教職員が色覚異常についての理解を深められることを願っています。

また、色覚異常の人の見え方をシミュレーションできるアプリが開発されています。微妙な色合いについては、実際の色覚異常の見え方と異なる部分があるかもしれません。しかし、1つの目安として、ぜひ体験していただきたいと思います。
「色覚異常」という個性を尊重できる社会を、皆で築いていきましょう。

板谷院長のひとことアドバイス

先天性色覚異常は、普段の生活を営むうえで大きな不便はありません。背の高い人もいれば低い人もいるように、足の速い人もいれば遅い人もいるように、その人が持つ個性の1つです。そのような方が不便なく生活できるように配慮した社会が、成熟した社会と言えるのではないでしょうか。

まとめ

  • 先天色覚異常の治療法はありません。しかし、悪くなることもありません。
  • 進学や就職に際して夢や希望がある人は、色覚異常について、早めに確認していただくことが望まれます。
  • 当事者の周りの人たちは、「色覚(色の感じ方、見え方)の違い」を、1つの個性として受け入れる心が大事です。

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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