遠くでも近くでも、見えにくいというのは本当に困るものです。
今の日本では、実に多くの情報に囲まれて生活しています。身近では昔からある新聞、テレビ、雑誌、掲示板はもちろん、今はスマホ、パソコンの時代ですね。出かければ駅の表示、運転中の道路標識、などなど数え上げたらきりがありません。これらのものが見えにくくなれば、生活が不便になって仕方ないものです。
視力の低下は、いつのまにか忍び寄ってきます。そして、知らぬ間に目を細めて“しかめっ面”になってしまったり、疲れ目になりやすくなって目がショボショボしたり、頭も痛くなってくることもあります。生活の不便だけでなく、不快感も高まり、肉体的にも心理的にもストレスになってしまうのが視力の低下です。

しかし “視力の低下”とひとくちに言っても、実は裸眼視力の低下と矯正視力の低下では、ことの重大性が全く異なることはご存じでしたでしょうか?裸眼視力はメガネやコンタクトなどによる矯正をしない裸の視力のことで、矯正視力は眼科でめいっぱい視力がでるように近視や乱視を矯正した視力です。

矯正視力が良くて裸眼視力が悪いのは、単に近視や乱視の屈折異常または老眼が進んだことが考えられ、メガネやコンタクトを新調することで良い視力を取り戻せます。一方、矯正視力が悪い場合は必ず何かしらの目の病気が潜んでいます。

今回は、視力が低下したと感じたときに、何を考えれば良いかお伝えしたいと思います。ぜひ参考にしてください。

視力の低下にはふたつの意味があります

視力の低下には、“裸眼視力の低下”と“矯正視力の低下”があります。さらに言うと、“メガネ視力”“コンタクトレンズ視力“という言葉もあります。言葉通り、メガネやコンタクトレンズを着けた視力です。この中で、シリアスなのは矯正視力が出ない場合なのです。
その場合、白内障、目の奧の眼底疾患、緑内障などが進んできた可能性があり、眼科受診が必須になります。矯正視力が良いけれど、裸眼視力、メガネ視力、コンタクトレンズ視力が落ちてきたら、メガネ、コンタクトレンズの新調で解決できます!

裸眼視力、メガネ視力、コンタクト視力の低下はメガネなどで矯正できます


裸眼視力が低下するのは、うまく網膜にピントが合っていない屈折異常が原因の場合と、ピントを合わせる力が落ちる調節異常があります。
屈折異常には、遠視、近視、乱視があります。調節異常と言えばいわゆる老眼(正式には老視といます)があり、他にも子供の調節緊張、最近ではスマホの使い過ぎで一時的に老眼の症状が出るスマホ老眼が注目されています。遠視、近視、乱視の中でも正乱視、老視はメガネでもコンタクトレンズでも矯正できます。

遠視は目の奥行きが短い人に起こる

人は遠視で生まれ、成長とともに徐々に近視に向かいます。遠視とは、本来なら網膜上に結ばれるはずのピントが網膜の後ろにあること、すなわち目の前後の長さ(眼軸長と言います)が短い目のことです。
何らかの理由で、大人になっても遠視が残ってしまう方がいます。生まれつきの眼軸長が短すぎたり、眼軸長の伸びが少なかったりといった理由です。
遠視という言葉は、遠くがよく見えるという誤解を生みますが、遠くの景色であれば網膜にピントが合っているわけではなく、水晶体の調節力で無理やり網膜面にピントを合わせているのです。
その証拠に、老眼が進んで調節力が落ちると遠視の人は遠くが見えにくくなります。若い方でも、常に調節力を働かしているので疲れやすい特徴があります。

近視は目の奥行きが長くなると起こる

近視の人はこの真逆のことが起こります。目の奥行き(眼軸長)が通常の人よりも長くなってしまうために、焦点が網膜よりも手前に合ってしまっているのです。この状態では、遠くのものほどピントが合わず、ぼやけてしまいます。
先述したように人は遠視で生まれ成長とともに徐々に近視に向かいますが、これが急激に起こるのが10歳~15歳の小学校高学年から中学生にかけての学童期なのです。この時に、何らかの理由で眼軸長の伸びが速すぎると近視になります。
1つには近くを見る作業時間が長いことが原因と考えられています。この時代、学校の授業の他にも塾通いの子が多いですよね。行き帰りも本を読んだり、スマホを見たり、家に帰ってもコンピューターゲームをしたり—と今の子は実に近見作業が多いのです。
逆に、スポーツなど野外活動が多いと近視になりにくいことがわかっています。田舎よりも都市部の方が近視になりやすいのです。

実は、“近視”には、今述べました目が長くなることによって起こる“本当の近視”と目のピントを合わせる筋肉(毛様体筋と言います)の使いすぎで起こるいわゆる“仮性近視”があるのです。仮性近視の正式名称は“調節緊張”または“調節痙攣”です。
これも学童期に近くを見る時間が長いと毛様体筋が過度に収縮しつづけるために、遠くを見ようとしても収縮したままになり緩めることができず、一時的に遠くが見えにくい近視と同じ状態になってしまうのです。
気がつかれたでしょうか?本当の近視も調節緊張も、ともに近くを見る時間が長い生活が影響しているのです。

眼軸長が伸びて起きる本当の近視は、元に戻すことはできません。適切なメガネを使用するとともに、野外活動も増やすなどして、さらに近視が進むのを予防しましょう。最近では、低濃度アトロピンという薬を使った目薬が近視の進行を予防できることがわかっています。
メガネをかけると近視が進むという都市伝説がありますが、最近では度数のきちんと合ったメガネをかけた方が近視が進みにくいことがわかっています。
対して調節緊張は、毛様体筋の緊張を取る目薬や、ワックという毛様体筋を運動させて緊張を緩める治療法などがあります。

いずれにせよ学童期のライフスタイルを改善していくことが大切です。

乱視は角膜のゆがみで起こる

遠視の目でも、近視の目でも、さらには遠視も近視もない目にも起こりうるのが乱視です。最も多い角膜乱視は、本来正円のドーム形をしている角膜が、楕円形にひずむことによって起こります。
例えて言えば、丸いあんパンが楕円形のレモンパンになるようなものです。正円のドームはどこも均等なカーブをしていますので同じ光を曲げる力(屈折といいます)が働いて一カ所にピントを結びますが、楕円形のドームではカーブの強いところと弱いところとでは光を曲げる力が異なるために、一カ所でピントを結べず2つのピントが生じるため、ダブって見えてしまうのです。
これを正乱視といいメガネでもコンタクトレンズでも矯正できます。なかには、不規則なカーブを持つ不正乱視もあり、これはハードコンタクトレンズでしか矯正できません。

実は、白内障の初期症状で視力は落ちていなくても2重3重に見える水晶体乱視もあります。これは、水晶体の濁りが強いところと弱いところがあるために起こる現象です。メガネやコンタクトレンズでは矯正できず、唯一の治療法は白内障手術なのです。

老視は水晶体が硬くなって起こる

さて、もうひとつ、40歳ごろから始まる老視は、加齢とともに水晶体が硬くなっていき、遠くへ近くへとピントを合わせるのに必要な水晶体の厚みを変える力が減ってきて起こります。こうしてピント調節機能が衰えると、本来ピントが合っているところから離れたところはぼやけてしまうのです。
メガネやコンタクトレンズを使用している人もいない人も、普段の生活では遠くが見えるようにしています。このため、老視が進むと手元がぼやけ始めるのです。

老視はメガネでもコンタクトレンズでも矯正できます。しかし、元々近視でメガネやコンタクトレンズなどを使用していた方は遠近両用にする必要があります。メガネは都度掛け替えるという方法もありますが不便です。
たまたまメガネ無しでもちょうど手元にピントが合っていた中等度近視の方は、手元を見るときに遠く用のメガネを外して見るという方法もあります。老視が完成するのは60代です。
ぼちぼち白内障が出始める年齢ですので、最近では白内障手術をして多焦点レンズを入れる方法も広がりだしています。

矯正視力が低下してきたら、眼病の兆候あり!

裸眼視力の低下は、メガネやコンタクトレンズによって矯正することができます。しかし、矯正したはずの視力が低下してきたら要注意です。なぜなら、それは単なる屈折障害や調整障害ではない可能性があるからです。

ものを見る”ことの3つのステップ

“ものを見る”ということには、大きく3つのステップがあります。まず、最初のステップでは、取り込んだ光を角膜と水晶体で屈折し、網膜の中心にある黄斑にピントを合わせます。
次のステップでは、黄斑が受け取った光を電気信号に変換し、視神経から脳へと送ります。そして脳が電気信号を受け取って、映像を認識するのです。これで初めて、私たちは「見える」ことを実感します。

このなかで、最初のステップの屈折とピントのみに異常があるのなら、メガネやコンタクトレンズで矯正すれば視力は回復します。しかし、矯正視力が低下したということは、これらのステップの別の部分に障害が発生していると考えられるというわけです。
つまり、角膜や水晶体などの本来透明な組織が濁っていたり、網膜など眼底に異常があったり、視神経に問題があったり、あるは脳に問題があったり……つまり、眼病など深刻な病気の疑いがあるということになります。

考えられる眼病とは?

まず、途中で濁りがあり光が十分な形で黄斑に届いていない可能性があります。黄斑までにある透明な組織は、角膜、前房、水晶体、硝子体です。そのどの部位も、濁る目の病気があるのです。
代表的なもので角膜混濁、ぶどう膜炎、白内障、硝子体出血などがあります。ぶどう膜炎は、角膜と黒目の間のスペースである前房が炎症で濁ります。

網膜に像を結ぶ段階に問題があるとすれば、黄斑の病気が考えられます。黄斑の病気はたくさんあります(加齢黄斑変性、黄斑円孔、黄斑前膜、糖尿病黄斑浮腫など)。
網膜剥離も進むと黄斑が剥離して見えなくなります。網膜に異常があると、角膜と水晶体がせっかく光を集めても、それを脳へ送るための電気刺激に変えることができなくなります。したがって、視力の低下へと繋がるというわけなのです。

黄斑までに問題がなくとも、視神経から脳へ伝達する神経回路部分に障害があると、せっかく黄斑が光を電気信号に変えても、それを脳へ伝えることができなくなるため視力が低下します。
有名で多くの人がかかる病気が緑内障です。その他にも、視神経への血液が滞って視神経が損傷する虚血性視神経症や、視神経で炎症が起きる視神経炎などがあります。

他のも、脳の視覚を担当する後頭葉に脳梗塞や脳腫瘍が生じることで、視力が低下することもあります。

矯正視力の低下には、こういった様々な目の病気の可能性が潜んでいるのです。

視力低下の原因を自分で探るのは困難!眼科受診で判断を

あなたの目が“見えにくくなった”のは、裸眼視力が低下しているだけですか? それとも矯正視力が低下したからですか?
こう質問されて、すぐに答えを導き出せる人はほとんどいないでしょう。それもそのはず、眼科医だってしっかりとした検査をしてみなければ、はっきりとした原因なんてわからないのですから。
ですので、視力が低下したら、原因を探るためにも眼科での検査を受けていただき、治療のチャンスと安心を手に入れましょう。

まとめ

  • “視力の低下”には、裸眼視力の低下と矯正視力の低下というふたつの意味があります。さらにはメガネ視力、コンタクト視力も。
  • 矯正視力が良ければ、ピントを合わせる機能のどこかに不調があると考えましょう
  • 矯正視力の低下は眼病が潜んでいる可能性が高いのです

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ