老視、いわゆる老眼の対処法としては、老眼鏡による矯正という時代が長く続いてきました。今、新たな選択肢がいくつかできようとしていることをご存知ですか? 
その有力な選択肢のひとつが老視矯正手術です。ご存知のように屈折矯正手術としては近視や遠視、乱視に対する手術が先行していました。「そう、それなら聞いたことがあるけど、老眼でもできるの?」と思われる方も多いのではないかと思います。老視矯正手術は1980年代頃から欧米で新方式が次々と開発され、2000年代に入り、我が国でも導入されるようになりました。これまではごく一部の方が受けていた治療法ですが、少しずつ認知度も高くなって、受ける方が増えつつあります。その背景として、最近はスマートフォンやタブレットを持ち歩く人がどの世代でも増え、日常生活の中で近くを見て作業をする時間がどんどん長くなっていることがあると思います。老視世代である中高年世代も例外ではなく、メガネに頼らずスマホなどの操作ができる視力と、なおかつ遠方を見るときの裸眼視力の両方を望む傾向が強くなっており、そのニーズに老視矯正手術は応えることができるからです。もしかすると、そう遠くないうちに一般にも知られるようになり、老視に対する新たな選択肢として、この手術を考慮する時代が到来するかもしれません。今回はその老視矯正手術の代表的な術式をいくつか紹介します。参考にしていただければ幸いです。

老眼鏡を煩わしく思っている方の受け皿になる

老視は、カメラのレンズにあたる水晶体が硬くなったり、その厚みを瞬時に変える筋肉の毛様体筋が衰えたりすることで、ピントの調節が難しくなっていき、近くのものが見えにくくなる現象です。メガネやルーペなどで屈折矯正できますが、見るものの距離に応じて掛けたり外したりしなければなりません。また、老視は進行するので、作り変えが必要になります。こういったことを煩わしく感じる方は、老視矯正手術を受けることも選択肢の一つとなるでしょう。
近年は、角膜に特殊な器具を埋め込んで屈折を矯正する角膜インレーや、白内障手術同様の多焦点眼内レンズを使った手術でも老視を治すことができます。

代表的な老視矯正手術―角膜による矯正として

エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術とモノビジョンを組み合わせた老視レーシック(モノビジョンレーシック)

目の表面でレンズの役割をしている角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する手術です。人の目にも利き目がありますが、利き目を遠くが見やすく矯正し、もう一方の目を近くが見やすく矯正します。すると両目で物を見たときに遠くも近くもよく見えるようになります。しかし、左右の目に視力差があると、脳がうまく処理できずに眼精疲労や頭痛になりやすくなってしまいます。そのため、患者さんにこの方法が合うかどうかを確かめるため、治療の前にはコンタクトレンズによるシミュレーションが必須です。

【レーシック手術の手順。角膜の屈折を変化させて近視を治すことができますが、左右の屈折変化に差をつけることで老視を改善するモノビジョンレーシックという治療法もあります。】

アメリカで承認を受けたKAMRA™(カムラ)

角膜にKAMRAという直径3.8mmの薄く小さなリング状(ドーナッツ形状)のフィルムを、角膜に設けたポケットに挿入します。フィルムの中心には直径1.6mmの穴が開いていて、ポケットに挿入したリングがカメラの絞りのように働くことで、遠くや近くを見られるようになります。KAMRの挿入は部分麻酔をして、10分程度で終了します。リーディングアイなどの別称もあります。アメリカ、ヨーロッパおよびアジアの45~60歳の老視患者508人を対象として、リングを挿入した患者を3年間にわたり追跡した試験では、8割以上の方が矯正用レンズを装着せずに新聞を読める視力になり、その効果は3年間の試験中変わりませんでした。副作用として混濁がありましたが、ステロイドによる治療が可能でした。その後、挿入フィルムを改良することで、この副作用も認められなくなりました。副次的なメリットして、焦点深度が上がるので、近視もある程度改善されます。副作用として、眼が乾きやすくなる点、角膜の細かな傷によって度数が変わる点が挙げられています。仮に術後の見え方に馴染めない場合は、たとえば白内障手術により挿入した眼内レンズを取り出そうとするよりも、比較的簡単にフィルムを取り出すことができる点もメリットと言われています。取り出した後は普通に老眼鏡で近方を見ることになります。

白内障手術により、水晶体を摘出する屈折矯正手術-眼内レンズによる矯正として

白内障手術は、加齢など原因で濁ってしまった水晶体の中身を取り出し、代わりに人工の眼内レンズを挿入する手術です。白内障を治療するための手術ですが、老視を治療することもできます。その方法を二つご紹介します。

単焦点眼内レンズによるモノビジョン

単焦点眼内レンズは、遠くか近く、あるいは中間の距離しか焦点を合わせられませんが、左右の眼内レンズの度数を調整し、一方の目のピントを遠くに、もう一方を近くに合わせることで老視を改善する治療方法です。レーシックによるモノビジョンと原理は同じです。左右の目がそれぞれ遠くと近くを認識するため、両目で見たときに遠くも近くも、よく見ることができます。
しかし、左右での視力差が出てくるため遠近感がつかみにくい、立体的にものを見るのが困難になる場合がありますし、また、色、明るさ、輝度などのコントラストが低下するといった問題もあります。健康保険の適用となります。

多焦点眼内レンズによる老視治療

焦点の数が二つ以上あるため、遠近両方にピントが合うのが多焦点眼内レンズです。単焦点眼内レンズでは、モノビジョンにしない限り、遠くか近く、あるいは中間の距離しか焦点が合わないため老視治療ができたとはいえませんが、多焦点眼内レンズであれば老眼鏡に頼ることなく近くのものも見え、同じように遠くのものも見ることができます。
ほとんどの方は手術後、メガネを使う頻度が減る、あるいはまったくメガネなしで生活できるようになります。とはいえ、自在にピントが合うわけではなく、メガネを掛けたほうが楽に見えることもあります。特に、長時間細かい文字を読むときは、メガネを掛けたほうが楽だという方が多いようです。健康保険の適用外です。

【水晶体の中身を取り除き、眼内レンズに入れ替える白内障手術。多焦点眼内レンズを使用すれば、老視の治療にもなります。】

板谷院長のひとことアドバイス

屈折矯正手術には長い歴史がありますが、多くの人々がこの手術を受けるようになったのは、1980年代に入ってからのことであり、長期間の治療成績を示すエビデンスはありません。メガネやコンタクトレンズが問題なく使用できていれば手術をしなければいけない理由はありません。メガネやコンタクトレンズが煩わしいと感じる方にとっては、有力な選択肢となり得るかもしれません。

まとめ

  • 老視矯正手術は1980年代頃から欧米で新方式が次々と開発され、2000年代に入り、我が国でも導入されるようになりました。
  • 代表的な老視矯正手術は、目の表面でレンズの役割をしている角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正します。
  • 近年は、角膜に特殊な器具を埋め込んで屈折を矯正する角膜インレーや、白内障手術同様の多焦点眼内レンズを使った手術でも老視を治すことができます。

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執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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