涙とは、感情が揺れ動いた結果、流れるもの。そう捉えている人は多いでしょう。けれども涙の通り道が詰まることで、鼻から排出することができなくなり、涙が止まらなくなることがあります。その原因の一つが涙道閉塞という病気です。痛みは伴わないことが多く、軽く見られがちですが、症状が進むと目やにが止まらなくなったり、目の中で感染が起こったり、涙嚢炎という病気を併発することもあります。

「目で涙が作られ、鼻の奥に排出される」という一連の流れは、台所のシンクにもたとえられます。シンクが詰まると、カビが生えるなど問題が起こります。目もそれと同じで、涙道閉塞が目の感染や涙嚢炎といった二次トラブルを招きやすいので、早めの受診が正解です。ここでは主に後天性の涙道閉塞を取り上げます。

縁の下の力持ち、「涙」が目に果たしている役割をご存じですか?

目が正常に機能するには、目の表面が常に潤っていることが重要です。普段、意識しないかもしれませんが、潤いに役立っているのが、涙(=涙液)です。

涙の大きな役割として、目の表面を潤すこと、さまざまな病原から目を守ること、老廃物を洗い流して目に栄養を与えることが挙げられます。

また、涙が目の周辺で作られ、排出されていく一連の流れを「導涙機能」と呼びます。涙の分泌量と排出量が、絶妙なバランスになるよう、体は自動的に調整をしているのです。しかし、このバランスがなんらかの原因で乱れると、目の表面が乾きすぎたり(=ドライアイ)、涙があふれて止まらなくなったり(=流涙)してしまいます。

涙にも通り道があり、スムーズに流れていることが重要

涙の流れは、台所のシンクと似ています。「水(涙)が作られるところ(涙腺)」と「水(涙)が出ていくところ(涙道)」がある、というイメージです。もちろんこれらのルートは、詰まることなくスムーズに流れることが理想です。

涙は、まず涙腺と副涙腺から分泌されます。そして「目の表面を潤す」という大役を果たした後、目頭を経て、鼻の奥へ排出されていきます。詳しく言うと「上・下涙点→上・下涙小管→涙嚢→鼻涙管」という順を経て、鼻の奥に流れていきます。この涙がたどるルートを、涙が通る道、つまり「涙道」と呼びます。涙道を外から見ることはできませんが、鼻の脇に細い管が走っているとイメージしてみてください。

止まらない涙、目やにを軽く見てはいけない

「涙道」とは細い管ですから、老廃物などが詰まったり、細くなったり、突発的なトラブルに見舞われることもあります。涙道が詰まれば、涙道の入口付近から涙があふれ出ることになります。このように、涙道が詰まった状態のことを涙道閉塞と呼びます。涙道閉塞は、涙があふれるだけではありません。放置すると、当然のことながら目の問題はどんどん広がってしまいます。例えば目やにが出すぎるようになったり、一時的に感染を引き起こすこともあります。つまり、二次的なさまざまなトラブルを招く恐れもあるので、涙道閉塞は放置しないことが重要なのです。

涙が溜まった目の中では、炎症が起こるリスクが高まるので厄介

涙嚢炎とは、鼻へと至る涙の流れ道が滞ってしまい、涙を溜める涙嚢という器官で菌が繁殖して、炎症が起こることをいいます。鼻涙管が狭くなっていることに加えて、ぶどう球菌やレンサ球菌などの細菌に感染することがきっかけで、引き起こされます。涙や目やにの量が増えたり、涙嚢を圧迫すると涙点から膿が出てくるなどが特徴です。症状が悪化すると、炎症が涙嚢の周りにまで広がって、涙嚢の部分の皮膚が腫れ上がったり、痛みが起こるケースもあります。深刻化した場合、針を刺して膿を排出したり、抗菌薬を投与したりする必要も生じます。涙嚢炎に至る前、涙道閉塞の早期の段階で気付くことが理想的です。

抗がん剤の投与が、涙道閉塞の原因になることもある

涙道閉塞が発症する原因は、多岐にわたります。最も多いケースは、加齢によるもので、涙道が次第に閉塞するといった事例が多く見受けられます。その他にも、蓄膿症などの副鼻腔のトラブルや、けが(外傷)による顔面骨折などで涙道が狭まり、発症することもあります。他にはアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、副鼻腔内の腫瘍によって涙道が閉塞することもあります。そんな可能性が疑われる場合は、CTやMRIで精査します。

また一部の抗がん剤の治療の副作用によって、涙道閉塞が引き起こされることもあります。当然ながら、抗がん剤を処方した主治医と眼科医との間で、密な連携をとることが重要です。

涙道閉塞の状態で生まれてくるお子さんもいる

新生児の場合、涙道が開通して生まれてくることが多いのですが、中には涙道の出口である鼻涙管がうまく通っていないまま、誕生するお子さんもいます。その場合、うまく涙が流れないため、お子さんはいつも目に涙を浮かべている状態になります。鼻涙管の形成異常が主な原因ですが、このような状態を先天鼻涙管閉塞症と呼びます。ただ、先天鼻涙管閉塞症は、生後1年~1年半で自然開通することがほとんどです。その間、抗生剤の点眼などを行い、経過を観察します。

新生児の涙道閉塞は涙嚢炎へと発展しやすい

先天鼻涙管閉塞症の場合、うまく涙が流れないため、涙管内で細菌感染が起きることがあります。これを新生児涙嚢炎といいます。涙管に生理食塩水を通す検査を行い、まず涙管閉塞症であるかを診断します。生理食塩水が涙点から逆流する場合は鼻涙管閉塞症ということになります。また逆流した涙の中に膿が多い場合、涙嚢炎も同時に発症していると診断できます。

とはいえ、この病気は自然開通することも多いので、1歳になるまで行わないでよいとする説もあれば、お子さんのストレスを軽減するために鼻涙管を開放させる手術を早く行ったほうがよいという報告もあります。

涙の排水路を正常にするためには、手術が必要

涙道閉塞を診断するときは、涙点に生理食塩水などを流し込み、鼻やのどの奥まで流れてくるかを調べます。閉塞があると、液が逆流します。

涙道閉塞の治療は、点眼薬ではなく、手術が必要です。手術によって涙道を正常に開通させ、涙の排水路を確保します。手術には、涙管チューブ挿入術と、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)という2種類があります。涙管チューブ挿入術とは、内視鏡で閉塞した部分を開通させてから、シリコンやポリウレタンでできたチューブを涙道に2~3カ月間入れておくという治療になります。手術は片眼の場合、約20分間で終わります。

難しいケースの場合、涙道のバイパスを作る手術もある

通常、涙道閉塞は涙管チューブ挿入術で完治します。しかし長年涙道閉塞を患っていた場合、涙管チューブ挿入術での治療は難しいため、涙嚢鼻腔吻合術が必要になります。涙嚢鼻腔吻合術とは、本来の涙道とは別のルートに穴を開けて、バイパスを新しく作る手術です。トータルで約1時間30分間ほどかかりますが、術後の経過がとてもよいことで知られています。患者さんには術前に鎮静薬を用いるため、「眠っている間に手術が終わった」という声をよくいただきます。

目の周りをケガしたときは、涙道を損なっていないか確認を

涙道とは、涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管からなる一筋の道です。中でも鼻と目の間に位置する涙小管については、注意が必要です。「さまざまな不慮の事故やケガによって、涙小管にダメージを与えてしまい、切れてしまった」というケースがあります。涙小管が損傷されると、涙道がうまく機能しなくなります。その結果、手術が必要になることも珍しくありません。涙管にチューブを挿入することもあります。近年、医療機器の目覚ましい進歩により、内視鏡による手術の件数が増えてきています。内視鏡を目から入れる術式と、鼻から入れる術式があります。いずれにせよ「目の周辺にものがぶつかった場合」などは、早めに眼科を受診することをおすすめします。

板谷院長のひとことアドバイス

涙道閉塞は、痛みを伴うことが少ないために軽視されがちですが、放置しておくとさまざまなトラブルを引き起こすこともある病気です。チューブ挿入や手術によって治る病気ですので、涙が止まらない、目やにがひどいといった症状がある場合は、すぐに眼科を受診しましょう。

まとめ

  • 涙の通り道が詰まって、涙が止まらなくなるのが、涙道閉塞です。
  • 涙道閉塞を放置すると、涙嚢炎などさらなるトラブルを招くことになります。
  • 一部の抗がん剤の服用によって、涙道閉塞が起こる可能性もあるので、注意が必要です。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

目についてのお悩みは、はんがい眼科へどうぞ