近視が子どもの可能性を狭めるといったら大げさに思われるでしょうか?実際、近視の子は多く、メガネで比較的簡単に視力矯正ができるため軽視されがちです。しかし視力の悪化が進行するケースも多く、非常に度の強いメガネやコンタクトレンズが手放せなくなるなど日常生活に大きな支障を及ぼすこともあります。さらに近年、強度の近視は、重篤な視力障害や失明の原因となる黄斑変性、あるいは網膜剥離、緑内障の素地になるとも考えられています。これまでこのブログで、子どもの近視を抑制するには、野外活動を積極的に取り入れることやオルソケラトロジーと呼ばれる睡眠時にレンズを付ける方法などを紹介してきました。今回ご紹介するのは「マイオピン」と呼ばれる目薬を使用する方法です。「マイオピン」は、通常の目薬と同じ使用方法で、睡眠前に点眼するだけなので、子どもの抵抗が少ないという点に特徴があります。またこの有用性を研究し報告したのは、世界的にも医療レベルが高いと定評のあるシンガポールの国立病院であり、世界的な導入が急ピッチで進んでいる理由となっています。日本でも複数の大学病院で臨床試験が始まっています。治療の選択肢を広げるためにも「マイオピン」について詳しく知っておきましょう。

ゲームのし過ぎが近視の原因?

多くの近視は、少し誇張した表現になりますが、ラグビーボールのように眼球が後方に楕円形に伸びてしまい、本来なら目の一番奥にある網膜の上に合わさるピントが前方にずれてしまうことが原因で引き起こされます。専門的には眼軸長が伸びるといいます。近視の子どもが増えているのは世界的な傾向で、実際、シンガポール、台湾、香港、韓国、日本など東アジア諸国でも有病率が上昇しており、60~80%の青年が近視で、そのうち15~20%は高度の近視であるとの報告もあります。最近はスマホやゲーム機器などで近くを見る機会が多く、このような生活習慣が眼軸長を伸ばしてしまう大きな理由となっているとされています。上記の東アジア諸国は、ITの普及も高いのはご存知のとおりです。

【スマートフォンの使用は近視化を進行する可能性があります。】

伸びた眼球は元に戻らないので抑制が重要

それはともかく、一度眼軸長が伸びてしまうと、眼球は元の球形に戻ることはありません。回復しないということです。近視にならないようにする、あるいは近視の進行を抑制するためには、眼軸長の伸びを抑えることが重要となります。

マイオピンが開発された背景

1960年代頃から、アトロピンという薬を点眼することで、眼長軸の伸びを抑え、近視の進行を抑制することが臨床的にも統計的にも証明されています。一方で、瞳孔が大きくなるなど以下のような副作用がありました。
・瞳孔が長時間、開き続けることにより、まぶしさと強い光による不快感や目の痛みが出ます。
・目の調節機能が低下し、近くの物がぼやけて見え、読み書きなどの近くを見る作業が困難になります。  
・アレルギーを起こすことがあります。
そこでアトロピンの濃度を薄めて、近視の進行を抑制する研究がシンガポールで始まりました。シンガポールはアメリカの医学系有名大学などとの連携を推し進めている国で、医療レベルが世界的に高いと評価されています。研究の結果、アトロピンの1%液を100分の1に薄めた0.01%の液の点眼でも近視を十分抑制できることがわかりました。

【マイオピン】

驚きの結果に世界中が注目した

点眼を2年間継続した患者を対象とした調査報告で、以下の内容は世界中の眼科の研究者や医師を驚かせました。
・アレルギー性結膜炎及び皮膚炎の報告はありませんでした。
・眼圧(IOP:Intraocular eye pressure)に影響を与えないとの報告でした。
・白内障を発症するとの報告はありませんでした。
・点眼終了後も目の遠近調節機能の低下、また瞳孔が開き続けてしまうという報告はありませんでした。
・電気生理学上、網膜機能に影響を与えるという報告はありませんでした。

副作用はほぼ皆無

このアトロピンの0.01%の液こそがマイオピンです。マイオピンの特徴を箇条書きにすると次のようになります。
・副作用がほぼ皆無の近視抑制薬です。
・近視の進行を平均60%軽減させるとされています。
・日中の光のまぶしさが過敏にならないため、サングラスもほぼ不要です。
・目の遠近調整がほぼ正常に保たれるので、手元を見る作業にほとんど影響を与えません。
・近見視力の低下に影響がほとんどなく、進行性メガネも不要です。
・毎日就寝前に1滴点眼するだけの非常に簡単な治療法です。

【マイオピンにより近視の進行が抑制されます。】

治療の対象になるのは

・6歳~12歳までです。
・近視の程度は軽度~中等度(-1D~-6D)までの児童です。
点眼薬は1本5mLの両眼用で、1カ月の使い切りです。感染症予防のため残っていても破棄します。治療開始後は3カ月に1回来院し、検査・診察を受ける必要があります。治療は自由診療です。少なくとも2年間継続することが推奨されています。オルソケラトロジーとの併用で、より近視抑制に有用であるとのデータも発表されています。

板谷院長のひとことアドバイス

一度眼軸長が伸びてしまうと、眼球は回復することはありません。近視の進行を抑制するためには、眼軸長の伸びを抑えることが重要となります。マイオピンは、通常の目薬と同じ使用方法で、睡眠前に点眼するだけなので、子どもにも抵抗が少なく有効な手段となりつつあります。

まとめ

  • 近視の進行を抑制するものであって、視力が低下した近視を治すものではありません。
  • 近視は進行性のものも多いので、それ以上進行させないためにはマイオピンの点眼治療が選択肢の一つとなります。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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