本記事は、2020年4月20日に再更新いたしました。

暗いところに入ると、ほとんど何も見えないという症状になったら、たまらなく怖いです。通常は明るい場所から暗いところに移動すると、しばらくすると暗さになれて周りが見えるようになります。これを「暗順応」といいます。

しかし、暗順応の機能が働かず、暗い場所や夜ではよく見えなくなる病気があります。それが「夜盲症(やもうしょう)」です。

先天的なものと後天的なものがありますが、夜盲症とは夜にものが見えにくくなる症状の総称であり、背景には原因となっているいくつかの疾患が存在します。どういった特徴や症状があり、どのようなことが原因となっているのでしょうか?
詳しくご紹介していきます。

夜盲症の種類

光を感じ取る視細胞には、錐体(すいたい)細胞と杆体(かんたい)細胞があります。このうち錐体細胞は、主に細部まではっきり見る力(視力)と色を見分ける力(色覚)を担当していますが、光の感度は鈍いため、光が少ない環境、すなわち、暗いところではあまり働きません。健康な目でも暗い場所ではものの色がよく分からなくなってしまうのはこのためです。一方の杆体細胞は光に対する感度が高く、光が少ない場所でも明暗を見分け、もののかたちなどを識別できます。このため、桿体細胞が障害される病気は暗いところで見えなくなるのです。これを夜盲症と総称します。

夜盲症を起こす病気は、最初は桿体細胞だけの障害が進み、錐体細胞は健常であるため、明るいところではちゃんと見えて目が悪いという自覚はありません。暗いところでだけ見えなくなっていくのです。

【夜盲症の見え方】左図は健常な見え方、右側が夜盲症の見え方

夜盲症は先天性と後天性に分けることができ、さらに先天性は進行性と非進行性に分けられています。

先天性かつ進行性の夜盲症を引き起こす原因疾患に、網膜色素変性症がありますが、この病気は緑内障や糖尿病網膜症とともに日本で上位の失明原因となっています。

それでは、夜盲症のそれぞれの種類についてご説明していきます。

先天性の夜盲症

先天性の夜盲症は遺伝的な背景があるケースがほとんどです。症状が少しずつ進んでいく「進行性の夜盲症」と、発症しても症状がほとんど進まない「非進行性の夜盲症」に分けられます。

「進行性の夜盲症」は、本人が“暗いところで見えにくいな”と気づいて受診することが多く、学童期から青年期に症状を自覚することが多いです。しかし成人してからの発症も少なくないので注意が必要です。

「非進行性の夜盲症」は、3〜6歳頃に、子どもが暗いところで見えないことを訴えたり、暗いところでつまずいたり転ぶ様子を見たりして、保護者が気づくケースが多くなっています。

それぞれの代表的疾患を挙げて説明いたします。

網膜色素変性症(進行性)

進行性に桿体細胞が失われていく病気です。日本では10万人に18人程度の患者がいると推定されています。

はじめは桿体細胞の障害が中心で、暗いところでものが見えにくくなる(夜盲症)が始まり、周辺部から視野狭窄が真ん中に向かって進みます(求心性視野狭窄)。桿体細胞が障害された後は、骨小体様と表現される色素沈着が起こります。病名はこの色素沈着に由来します。進行すると、錐体細胞も失われていき、視力の低下が始まります。症状の進行は非常に遅く、数十年かけて進行するケースがほとんどです。症状の進行には個人差があるのも特徴で、進行が早いタイプでは、40代で社会的失明になる方もいらっしゃいます。白内障を合併することも多く、白内障の治療を受けることで、白内障が原因となっている視力低下は回復することができます。

網膜色素変性症は遺伝子の変化でおこる病気ですが、実際に遺伝が認められる患者さんは全体の50%程度で、残りの50%の患者さんは親族に誰も同じ病気の方が見つからないのです。遺伝のタイプは、常染色体劣性遺伝 が最も多くて35%程度です。次に多いのが 常染色体優性遺伝でこれが10%です。最も少ないのが X連鎖性遺伝 (X染色体劣性遺伝)でこれが5%程度となっています。

【網膜色素変性症の方の眼底写真】萎縮した網膜は変色し、骨小体様色素沈着が散見されます

【網膜色素変性症の方のゴールドマン視野】中心部のみの視野が残っている

治療

現在のところ残念ながら効果の高い治療法はなく、症状の進行を遅らせるためにビタミンAや暗順応改善薬、循環改善薬などが用いられることがあります。世界中でこの病気を治す新しい治療法の研究が盛んに行われています。新薬の開発に加え、網膜再生治療や人工網膜、遺伝子治療などが試行されています。

ロービジョンケア

網膜色素変性症は進行が緩やかであることと、中心視野が保たれている方が多いため、ロービジョンケアが有効です。ロービジョンケアとは、残っている視機能を最大限に生かすための補助器具を用いてものを見る生活の質を向上する取り組みです。1人ひとりの視覚障害の症状や程度に応じて適した補助器具を選んでトレーニングを行います。まぶしさを和らげる遮光メガネ、活字を見やすくする拡大鏡などが用いられます。

また、最近では、最新の映像テクノロジーが応用され暗所視支援眼鏡「MW10 HiKARI」(HOYA)が開発されました。これは、外側のカメラが景色を撮影し、内側のモニターに明るくカラーで映し出される仕組みです。夜盲症のある方の夜の視界を明るく広げてくれます。

市販のビデオカメラ 人の眼に近い状態

HOYA MW10 HiKARI 標準カメラレンズ

HOYA MW10 HiKARI 広角カメラレンズ

小口病(非進行性)

小口忠太医師により発見されたため、小口病(おぐちびょう)と呼ばれています。症状は、暗いところでものが見えにくい夜盲のみで、視力や視野、色覚などは正常です。夜盲以外の症状はなく、症状は進行しないため、病気に気づかずに生活している方も多いとされています。

眼底を診察すると“金箔の剝げかかったような” と表現される特徴が見られます。

(【小口病の眼底写真】)吉村長久・板谷正紀著「OCTアトラス」医学書院より転載

治療

日本で初めて見つかった病気のため、日本での研究はさかんですが、やはり現在のところ根本的な治療法は見つかっていません。ただ、非進行性のため、夜盲症の症状さえ注意すれば日常生活に大きな支障はありません。

白点状眼底・眼底白点症(非進行性)

幼少期から、暗いところでものが見えにくい症状が現れますが、症状は進行しないことが多く、視力や視野、色覚は正常です。ただし、最近は症状が進むことがあると言われており、慎重に経過観察する必要はあります)。常染色体劣性遺伝形式を示す疾患です。

眼底には、特徴的な小白点が無数に見られます。網膜色素変性症の一種である白点状網膜症と似ているため、遺伝子検査による鑑別が重要となります。Retinol dehydogenease (RDH5)遺伝子の異常により発症することが知られています。日本人に多く認められる疾患です。

(【白点状眼底の眼底写真】)吉村長久・板谷正紀著「OCTアトラス」医学書院より転載

治療

やはり現在のところ根本的な治療法は見つかっていません。非進行性ですが、黄斑変性や黄斑ジストロフィーなど黄斑の病気を合併することがあるため、定期的な眼底検査を続ける必要があります。

後天性の夜盲症

杆体細胞のなかで光の感度を担当しているロドプシンという色素は、ビタミンAがないと作られません。そのため、ビタミンA欠乏症によって夜盲症が発症することがあります。

ビタミンA欠乏症のほかに、網脈絡膜炎、眼球鉄錆症などが原因となって起こるものがあります。また悪性腫瘍が体内にあることで夜盲が起こることがあります。

ビタミンA欠乏症

現代の食生活では、ビタミンAをまったく摂取しないということがほとんどないと考えられます。そのため、ビタミンA欠乏による夜盲症は、消化器系の疾患や術後の合併症として発症することがほとんどです。

治療

ビタミンAを投与します。過剰に摂取しても異常な症状(めまいや頭痛などのビタミンA過剰症)が現れますので、投与量には注意が必要です。

悪性腫瘍随伴性網膜症

体内に悪性腫瘍があると夜盲が起こることがあります。多いのは肺がん(肺小細胞がん)や乳癌です。悪性腫瘍が産生する蛋白質に対する自己抗体が類似性のあるタンパクを有する視細胞を攻撃して、網膜やその土台の網膜色素上皮が萎縮して夜盲や視力低下が起こると考えられています。夜盲症はいち早く現れる症状のため、がんの早期発見につながる症状としても注意する必要があります。

治療

ステロイド剤の全身投与、免疫抑制剤の投与、免疫グロブリンの大量投与、血漿交換などの治療が報告さえていますが、効果には疑問が呈されているのが現状です。

網脈絡膜炎

目の脈絡膜という部分に炎症が起こる病気です。網膜炎を合併することが多いので、その場合は網脈絡膜炎と呼ばれています。脈絡膜が障害されることで、夜盲の症状が起こります。炎症が起こる原因には、感染症と免疫反応があります。

細菌性の感染症には、結核や梅毒、ハンセン病、ウイルス性の感染症には、ヘルペスやサイトメガロウイルスがあります。またトキソプラズマなど原虫による感染でも炎症が起こります。

免疫反応による全身疾患では、ベーチェット病や原田病などがあります。

治療

原因となる原疾患ごとに治療があります。

眼球鉄錆症

角膜に鉄粉や鉄片が付着したまま放置すると、鉄が付着した部分にリング状に褐色の錆が生じ、およそ1日で角膜鉄錆症状を発症します。これを治療しないまま放置すると、眼球全体に炎症が広がり眼球鉄錆症になります。

鉄は非常に身近な物質ですが、目にとって非常に毒性が高い物質なのです。網膜に炎症が拡がると夜盲症状が現れることがあります。

治療

鉄錆症は悪化すると失明に至ることもある怖い疾患です。目に鉄粉や鉄片が入った場合は、すぐに症状が現れなくても放置せず、眼科を受診して鉄粉・鉄片を取り除く必要があります。

板谷理事長のひとことアドバイス

夜盲症をきたす目の病気は多岐にわたっています。進行性もあれば非進行性の病気もあります。まずは、原因を突き止めることが大切です。

まとめ

  • 夜盲症には先天的なものと、後天的なものがある。
  • 先天的な夜盲症には、症状が進行するものと、症状が夜盲のみで症状が進まないものがある。
  • 夜盲症の症状は、子どもの頃から生じる場合と、大人になってから発症する場合がある。
  • 先天的な夜盲症は遺伝的な背景があるものが多く、治療は今後の進展を待つ。
  • 後天的な夜盲症には、ビタミンA欠乏や眼底疾患、悪性腫瘍が体内にあるなど原因は多岐にわたる。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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