最近の検査機器は、驚くほどの進化を遂げています。特にOCT(光干渉断層計)という機器は、眼科医療におけるブレークスルーの一つです。
実は、私(院長の板谷)は2005年にトプコン社と筑波大学の安野博士が中心となって開発され、世界で初めて発売されたスペクトラルドメインOCTの開発に参加しました。科学分野で最も権威あるOphthalmologyという医学雑誌の表紙を飾り、世界の注目を集めました。
OCTの画期的なところは、目の中を、前眼部(角膜から水晶体までの部分)だけでなく眼底(網膜や視神経などが覆っている目の奥の部分)まで断面図にして撮影できる点にあります。OCTによって撮影された画像は、病気の診断を正確に行い、適切な治療方針を決めるうえで大いに役立ちます。今では多くの眼科クリニックにOCT検査機器は備えられており、OCTなくして眼科医療は考えられなくなっています。
今回はそんなOCTについて、どんな機能があってどんなことがわかるのか、詳しくご紹介します。

まるで医師自身が患者さんの目の中に入っているかのように見ることができる!

OCTは、近赤外光を利用して網膜や視神経の断面画像を得ることのできる検査装置です。とても画期的な装置で、患者さん自身にほとんど負担をかけることなく、眼底の断面図をマイクロメートルレベルで繰り返し撮影することができるのです。
これまでは、眼底の表面を空から眺めるだけだったので、眼底の内部にどのような病変があるのかは、眼底の表面から推測するしかありませんでした。「表面が膨らんでいるから、浮腫かな?」といった感じです。
しかしOCTが登場してからは、眼底内部の病変を直接見ることができるようになりました。そのため、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)、黄斑円孔(おうはんえんこう)、網膜浮腫(もうまくふしゅ)などの網膜や黄斑疾患の診断が画期的に進みました。

【正常な黄斑のOCT画像】

【加齢黄斑変性のOCT画像。】

造影剤がなくても、血液の動きがわかるOCTアンギオグラフィー(光干渉断層血管撮影)

OCTを使ったもう一つの検査に、OCTアンギオグラフィーがあります。網膜・黄斑部の血管の状態を観察する検査です。
これまで行っていた蛍光眼底造影では検査前に造影剤を点滴する必要がありましたが、OCTアンギオグラフィーでは造影剤は使いません。そのため造影剤が患者さんのお体に合わず体調が悪くなるなどの心配がなく安心して検査を受けていただけます。また、目に機器が接触することもありませんので、簡単に検査ができます。検査時間は、蛍光眼底造影より短い時間で終わります。

患者さんは、写真のようにお顔を機械にくっつけてのぞき込むだけ

OCTにはいろいろな種類がありますが、検査の仕方は同じです。座った状態で、機器についている装置であごや額を固定し、片目ずつ機器をのぞいていただきます。
そして、中央に表示されているマークを見ていただきます。赤や緑の光が見えますが、目(眼球)には何も触れませんので、安心して検査をしていただくことができます。撮影自体は十数秒で終わりますし、検査全体でも、10分もかからずに終わります。

【OCTアンギオグラフィーが使用できるキャノンの「OCT-HS100」】

OCTで発見できる病気・はんがい眼科の症例①強度近視による強度近視網膜分離症

強度近視の方は、40歳頃から眼底の後ろ部分だけがへこんでいく「後部ぶどう腫」と呼ばれる大きなへこみが形成されます。この眼底の変形は、「病的近視」または「変性近視」と呼ばれ、網膜の中心である黄斑にさまざまな病気を引き起こします。
こうした強度近視で起こる黄斑の病気は、OCTによりはっきりと捉えられるようになってきました。
たとえば、強度近視網膜分離症(近視性牽引黄斑症)です。OCTが登場する以前も、強度近視の方は黄斑円孔網膜剥離になることが知られていましたが、実はその前段階で強い病的変化が起きていたことが、OCTの登場により発見されたのです。
その変化とは、後部ぶどう腫が生じて眼球がフットボールのように前後に長くいびつに伸びてしまう過程で、網膜が伸びきれず、前後に裂けてしまうものです。この状態を放置すると、黄斑円孔や黄斑円孔網膜剥離へと症状が悪化し、強い視力障害を起こします。
 OCTにより網膜剥離症が起きていることが分かったため、黄斑円孔になる以前の治療が重要であることが認められ、硝子体手術の適応となりました。

【強度近視網膜分離症。左側の眼底写真では変化が分かりづらいですが、右側のOCT画像では、黄斑部の網膜が前後に伸びて分離症を起こしており、さらに眼底から一部が剥離してまっている様子がはっきり分かります。『OCTアトラス』より】

OCTで発見できる病気・はんがい眼科の症例②近視の方の緑内障

緑内障の診断に一役買うOCT

緑内障とは視神経などの神経線維が障害されることによって、目が見えにくくなる病気です。神経線維は視覚情報を脳へ伝える電線の役目を果たしています。
緑内障では光を感じる細胞は健在ですが、神経線維が減るため脳へ視覚情報が伝わらず、見えにくくなっていくのです。
網膜の最も表面の層には神経線維の束が走っていて、神経線維層と呼ばれています。緑内障では神経線維の減少にともなって神経線維層が薄くなるため、これを見つければ緑内障の早期発見が可能です。この早期発見に一役買うのがOCTです。この神経線維層を可視化し、厚みを計測できるため、緑内障を早期発見できるのです。

診断が難しい強度近視の方の緑内障もOCTで発見できる

緑内障の治療は早期発見が重要になります。というのも、一度障害を受けた神経線維は元に戻らないからです。早期発見により神経線維への障害が少ないうちから、ダメージを与える眼圧をコントロールできれば、高い確率で失明に至ることを回避できるのです。
 ところが、近視の方は眼底の変化、特に視神経が束になっている視神経乳頭の形状変化が多種多様に生じています。それらの変化が病的なものか、それとも単なる形状変化にすぎないのかの診断が非常に難しい面がありました。そのため、近視の方は緑内障の発見が遅れがちになっていました。
その診断の難しい近視の緑内障で威力を発揮したのがOCTでした。OCTを使えば、容易に神経線維層が薄くなっていることを見つけることができます。
 近視が強いほど緑内障になりやすいことがわかっているので、強度近視の方は定期的にOCTによる検査を受けることをおすすめします。

OCT検査と治療は車の両輪。治療効果をOCTで判定する

OCTは疾患名を特定するだけでなく、治療効果を測るためにも使用されます。
 たとえば、加齢黄斑変性(滲出性)や糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管に使われるVEGF阻害剤というお薬があります。これらの病気が視力低下を引き起こすのは、新たに血管ができて増殖したり(血管新生)、網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出したりすることによります。その原因物質であるVEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑制する薬剤がVEGF阻害剤です。眼内に注射で投与することで、血管新生や血管成分の漏れを抑えます。
 このVEGF阻害剤を投与し、効果を測定するためにOCTを用います。効果をOCTで見て、追加でお薬を投与するか否かを判定するのです。

板谷院長のひとことアドバイス

OCT(光干渉断層計)の登場によって、それまで難治性とされていた多くの黄斑疾患に治療の光が当てられるようになりました。特に、病気の診断と経過観察で威力を発揮し、正しい病状が把握できることで、その病状に適した治療方針を選択できるようになったことが大きいといえるでしょう。

まとめ

  • OCTは眼科医療にブレークスルーをもたらした発明といわれており、開発には院長も携わっています。
  • まるで目の中に入ったかのように病変部が見えるのが特長です。
  • 加齢黄斑変性、黄斑円孔、網膜浮腫などの網膜や黄斑疾患の診断が画期的に進みました。
  • 強度近視の方の緑内障や網膜分離症の診断にも威力を発揮します。
  • 患者さんに苦痛はなく、座っているだけで検査が終わります。
  • OCTアンギオグラフィーの検査では、造影剤を使わずに網膜・黄斑部の血管の状態を観察できます。
  • 治療効果の測定でもOCTが使われます。

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執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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