本記事は、2020年1月14日に再更新いたしました。

季節の移り変わりは、季節ごとのイベントや景色の変化を楽しむ分にはいいものですが、季節の健康への影響は知っておきたいところです。今回は、とくに冬に気をつけたい目のトラブルについてのお話です。
冬場には、寒さから体を守ろうとする自律神経の働きや、空気の乾燥という環境要因によって、目の健康に悪影響が及ぶことがあります。もしもの時に正しく対処するために、ぜひ参考にしてください。

冬に気をつけたい目のトラブル①「急性緑内障発作」
~冬場の眼圧上昇に注意しよう~

冬場に気をつけたい目の症状として、眼圧の上昇が挙げられます。眼圧は季節性の変動があることが知られており、多くの場合はただの生理現象として気にする必要はありません。
しかし、緑内障を発症している方は眼圧が上がりやすく、視野障害の進行に影響しますので眼圧を下げる治療を強化する必要が出ることがあります。多くはゆるやかな上昇なのですが、困るのは年末急激に眼圧が上昇する患者さんがいることです。

私のクリニックでは、毎年クリスマスが近づくと急激な眼圧上昇で紹介を受ける患者さんがいます。緑内障のタイプとしては、落屑緑内障、緑内障手術歴のある開放隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障などです。
おそらくぎりぎり房水をくみ出していた、いわば自転車操業でバランスを保っていた眼圧が、冬場の上昇により限界を超えた一気に上がってくるのかと考えています。12月から2月までは、緑内障専門医が気の抜けない季節なのです。

冬場に眼圧が上がるメカニズム

眼球は房水という液体で満たされていて、これにより眼球の内側から外側へ向かって圧力がかかり、目の球形が保たれています。この圧力を眼圧といいます。
目はそれぞれに生涯耐えられる眼圧というものがあり、その安全眼圧を超える高い眼圧が続くと、その高い圧力に耐えられずに視神経が傷ついてしまい、視覚シグナルを脳へ伝える神経線維が減っていき視野が欠けていくのです。これが緑内障です。

眼圧は一日のなかでも変動があります(日内変動)。また、季節によって変動し、冬は眼圧が高くなりやすいことがわかっています。冬場に眼圧が高くなる傾向には自律神経が関与していると考えられています。
冬になると体内では、寒さから体を守るために自律神経(交感神経)の働きによりアドレナリンというホルモンの分泌が活発になります。アドレナリンには心拍や血圧を上げて体温を保とうとする働きがあるのですが、その一方で、眼圧を上げる作用もあるため、低温に晒される冬になると眼圧が上がりやすくなるのです。

冬に気をつけたい目のトラブル②「網膜静脈閉塞症」
~高い血圧が血管のトラブルを引き起こす~

激しい気温の変化によって血圧が急激に乱高下することで、心臓や血管に障害が起こる症状を「ヒートショック」といいます。近年、冬に気をつけたい血管イベントとして、メディアでもよく取り上げられています。このヒートショックは、目にも影響して網膜静脈閉塞症という病気を引き起こすことがあります。では、網膜静脈閉塞症とはどんな病気なのでしょうか。

網膜上の静脈が詰まったり破れたりして起こる視覚障害

眼球の内側を覆っている神経の膜を網膜といいます。脳から目の中に伸びている中枢神経のいわばパラボナアンテナです。瞳から入ってきた光が網膜で像を結ぶことで、私たちは「ものが見える」と知覚します。
この網膜には1本の網膜中心静脈が入ってきて枝分かれします。網膜中心静脈が詰まる病気が網膜中心静脈閉塞症、枝が詰まるのを網膜静脈分枝閉塞症といいます。いずれにしても網膜静脈が詰まると行き場の無くなった血液は静脈からあふれ出して網膜出血を引き起こし、血液の水分である血漿がもれだして、網膜が水浸しになり、特にものを見る中心機能を担う黄斑という部分にむくみが出ると、ものがゆがんで見え視力が低下します。黄斑浮腫と言います。

黄斑のむくみを取るための効果的な治療が抗VEGF剤という分子標的薬をを硝子体注射する治療です。VEGFが毛細血管かれ血漿を漏れやすくするため、これを抑えることで黄斑浮腫が改善します。
さらに、網膜中心静脈閉塞症は広い範囲の毛細血管に血液が流れなくなると硝子体出血や血管新生緑内障という難治性の緑内障を合併するリスクが高いため、予防的に汎網膜光凝固術を行います。網膜静脈分枝閉塞症も硝子体出血に関しては同様で、血管新生緑内障を起こすことはほとんどありません。

網膜静脈閉塞症によって、眼底に出血が起きた様子

冬場に起こりやすい血圧の急上昇が発症の要因に

網膜静脈閉塞症を発症する最大の要因は、高血圧です。網膜血管は動脈と静脈がお互いに接している部位があります。血圧が高くなると動脈が硬くなるため静脈を圧迫してしまうのです。圧迫された静脈壁は変形し流れが悪くなり、血液が固まりやすくなって血栓を形成してしまい閉塞するのです。

とくに冬場は、寒さを感じると自律神経(交感神経)の働きによって血管が収縮し、血圧が上昇します。特に暖かい室内から寒い廊下やトイレに移動したときなどには、急激な温度差によって血圧が急上昇し、血管に大きな負担がかかってヒートショックの症状を起こしてしまうことがあります。この冬場の高血圧が引き金になってしまうことがあるのです。

網膜の静脈が詰まると血管が破れて出血を起こします。詰まった場所により、網膜静脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の2種類があります

冬の網膜静脈閉塞症を予防するには

冬場の急激な気温差によって起こる網膜静脈閉塞症の発症を予防するには、急激に血圧を上昇させるような温度変化が生活の中で起こらないように注意する必要があります。寒いトイレや脱衣所は暖房器具で温めておきましょう。浴室内を温水シャワーで温めてから入浴するのも効果的です。外出するときは、室内でコートやマフラーをしっかり身に着けてから戸外に出るようにするとよいでしょう。とくに高血圧症の方は、生活改善や薬物療法によって血圧の正常化を図るよう心がけましょう。

冬に気をつけたい目のトラブル③「ドライアイ」~空気の乾燥で悪化する~

日本の冬は、空気が乾燥します。そのため火事には要注意ですが、目の乾燥にも注意してほしいと思います。空気が乾燥することで、ドライアイになりやすくなる季節です。

冬は、目の表面を潤す働きが低下する季節

私たちの角膜の表面は涙の層で覆われて守られています。涙の層は、表面から順に、油層、水層、ムチン層と、3つの層が重なってできています。油層は水層の水分の蒸発を防ぎます。

ムチン層は、水層が重力で流れてしまわないように表面張力で貼り付けています。この3層のバランスが取れていると安定した涙液層が形成されるのです。ドライアイとは、涙の量が減少することでも起こりますが、涙が十分でていても、この涙の層のバランスが崩れ、涙の蒸発が亢進したり、涙が角膜から流れ落ちてしまうことでも起こるのです。

ドライアイの原因にはさまざまなものがあります。加齢、空気の乾燥、ディスプレイを見続けることによるまばたき回数の減少、内服薬の影響、涙の分泌が少なくなる疾患(シェーグレン症候群ほか)などです。これを冬場で考えてみますと、冬場は空気が乾燥します。

戸外はもとより、暖房によって室内の湿度も低下するので、涙の蒸発が高まりドライアイに陥るリスクが高まります。特に、マイボーム腺の機能が衰えている方は上記の油層が張りにくくなり涙の蒸発がおきやすくなり空気の乾燥の影響を受けやすいのです。
ドライアイになると、目に乾燥感や痒みや痛みが生じたり、目がゴロゴロしたり、かすみや眩しさを感じたり、やたらと涙があふれたりするようになります。
このような症状を放置しておくと、目の表面の角膜が傷ついて症状がさらに悪化することがありますので、早めに眼科を受診しましょう。

加湿と点眼薬の投与で対応する

ドライアイには、症状の軽い場合は人工涙液やヒアルロン酸の点眼薬が処方されます。
マイボーム腺の機能が落ちて油層ができにくくなつている方は、原因となるまつげ付近の雑菌を減らすケアとまぶたを温めてマイボーム腺に固くなって溜まっている油の分泌を促すケアを組み合わせます。目専用の液体石鹸がありますのでお勧めします。
水層の中にもムチンが浮遊して角膜から流れ落ちない粘りけを保っているのですが、ムチンが減るとさらさらになり重力に負けて流れ落ちてしまいます。この場合は、ムチンの分泌を促すタイプの点眼薬を使います。

涙の量が減っていて人工涙液では不十分なときは、まぶたの目頭側にある「涙点」という、涙を排出する孔に栓をして、目に留まる涙の量を増やす「涙点プラグ挿入術」という治療法を行います。

ドライアイになるのを防ぐには、乾燥から目を保護する必要があります。乾燥が強い時期には加湿器で室内の湿度を調整しましょう。
エアコンなどの風が直に顔に当たらないように環境を整えることも大切です。外出時には風が直接目に当たらないように保護めがねをかけることもお勧めです。
最近は市販のドライアイ用の目薬も増えているようですが、誤った使い方が原因となって症状の悪化をみるケースもあるようです。市販薬で症状が改善しないときは、一度、眼科で相談してみてください。

板谷理事長のひとことアドバイス

冬は眼圧が高まることが知られていますので緑内障の方は、受診を欠かさないようにお願いします。冬は血圧も上がりやすく高血圧の方は網膜静脈閉塞症を引き起こさないように血圧に注意しましょう。冬はドライアイの方も原因に応じた対策を。

まとめ

  • 冬場は自律神経の働きで眼圧が高くなりやすく、なかには急激に上昇する方もいますので気が抜けません。
  • 暖かい所と寒い所の温度差によって血圧の急上昇が起こりがちな冬場は、「網膜静脈閉塞症」のリスクが高まります。
  • 冬場は空気の乾燥が涙の蒸発を亢進して、「ドライアイ」を悪化させやすくなります。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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