白内障の治療に使われる眼内レンズは、この数年でも新しい高機能の製品が続々と登場しています。特に欧米の製品では、2017~2018年にかけても新しい眼内レンズがいくつも登場しています。
もともと現在使われているような、小さな創口から入れられる眼内レンズが開発されたのが1994年のことです。アメリカのノバルティスグループのAlcon社が、軟らかいアクリル製で折りたたみ式に眼内レンズを世界で初めて開発。それによって今のような傷が小さく、患者さんにとっても負担の少ない白内障手術が可能になりました。
そのAlcon社が、2018年7月に発売したばかりの最新眼内レンズが「アクティブフォーカス」です。これは、Alcon社が以前に開発した2焦点眼内眼内レンズ「レストア」の進化版といえる製品です。
従来の2 焦点眼内レンズの弱点であったハロー・グレアや、コントラスト感度の低下をカバーする、新しいコンセプトの眼内レンズであり、しかも先進医療の対象であることから、白内障治療はもちろん老眼治療の目的で、この眼内レンズを選ぶ方も多くなってきています。
今回はこの「アクティブフォーカス」の特徴について、解説します。
目次
2 焦点でありながらピントが合う範囲が広い「アクティブフォーカス」
アクティブフォーカスは、アメリカのAlcon社が2018年に開発した多焦点眼内レンズです。材質はアクリル製、薄い黄色の着色レンズです。焦点は遠方と中間の2焦点です。製品の形状は、先発の2 焦点眼内レンズであるレストアとほぼ同様ですが、レンズ部分の光学的構造が異なっているため、より高い視機能が得られるようになっています。
アクティブフォーカス(Alconより)
遠方から中間距離が、クリアに見える
アクティブフォーカスの焦点は、遠方と中間の2焦点ですが、アポダイズド回折型という構造により、焦点深度が深い(ピントの合う範囲が広い)のが特徴。そのため、焦点が合う2点以外も視力の落ち込みが少なく、広い範囲が連続してクリアに見えます。特に遠方に多くの光が配分される構造のため、遠方を見たときのにじみやぼけが少なく、遠くまですっきりした視界が得られます。
光を屈折させる溝を浅めに設計したことで、距離の変化における滑らかな焦点を実現し、ハロー・グレアの発生も抑えています。(Alconより)
またアポダイズド回折型の特徴として、現在の2 焦点眼内レンズのなかではもっともハロー・グレア(夜間などの光のにじみやまぶしさ)が少ないことがあげられます。ハロー・グレアは、夜間に街灯や車のヘッドライトを見たときに、光源が強く、大きく見えてしまう現象のことで、これが強いと見づらさや不快を感じ、事故につながる恐れもあります。この現象は、レンズの溝が深いために光の乱反射が起きることで発生します。アポダイズとは、回折を起こすためのレンズの溝を、中心から徐々にゆるくすること(これをアポダイゼーションといいます)で、回折現象の強弱をつける技術です。こうすることでコントラストの感度が上がるほか、光の乱反射も抑えてハロー・グレアをかなり軽減することができるのです。
またアポダイズド回折型は、単焦点眼内レンズと同じようなコントラスト感度の高さ(色彩の濃淡などがくっきり見える)も、アクティブフォーカスの特徴です。
乱視矯正タイプもある
乱視矯正機能のある「アクティブフォーカス・トーリック」も販売されており、乱視の強い方でも適用が可能です。この眼内レンズは術後の安定性が高く、乱視矯正機能が長く保たれます。
先進医療認定で、費用負担が減少
アクティブフォーカスは、厚生労働省の定める先進医療に認定された眼内レンズです。検査や薬代など一部に健康保険が適用になるため、全額自由診療の眼内レンズに比べると、手術費用は抑えられます。
また先進医療保障付きの医療保険に入っている方は、条件が合えば、手術費用について保険金請求ができます。
近い距離で読書するようなときは
老眼鏡が必要なことも
ごく近い手元は見えづらい
アクティブフォーカスの場合、近見でピントが合う位置は50cmほどです。そのため、ごく近い距離は見えづらく、読書や縫い物など、近い距離でものを見続けるときには老眼鏡を使用したほうがラクになります。
近い距離も含めてメガネなしで見たいというときは、別の多焦点眼内レンズを検討したほうがいいケースもあります。
「アクティブフォーカス」の特徴一覧
名称 | アクティブフォーカス(ActiveFocus) |
メーカー(生産国) | Alcon(アメリカ) |
焦点数と光学部デザイン | 2焦点アポダイズド回折型 |
ピントの合う距離 | 遠方、中間 |
メガネなしでの得意、不得意 | 2 焦点眼内レンズですが、遠方から50~60cmの中間距離まで広い範囲がクリアに見えるのが特徴です。ハロー・グレアが少なく抑えられているため、夜間に車の運転をする方でも使用が可能。ごく近い手元を見るときには、老眼鏡を使用したほうがいい場合も。 |
ハロー・グレア | 少なめ |
薄暮視(薄暗い場所での視力) | 良い |
乱視矯正 | あり |
先進医療 | あり |
スポーツ、車の運転など
「アクティブ」な生活を送る方におすすめ
アクティブフォーカスは、遠くと中間という複数の距離が、滑らかにクリアに見えるのが特徴です。車の運転で前方の遠くを見ながらときどきカーナビを見るといったときや、テニスなどのスポーツをするときにも、その威力を実感できるはずです。
同じAlcon社の眼内レンズでいえば、室内で過ごすことが多い方にとっては「遠方、近方」に焦点のあるレストアも便利な眼内レンズですが、夜間も含めて運転をする、スポーツを楽しむ、現役で仕事をしているなど、文字通り“アクティブ”な生活を送っている方にはアクティブフォーカスが向くと感じます。もちろん、高齢の方がアクティブフォーカスを選んでも問題はありません。メガネなしで、中距離である自分の足元も、遠くから近付いてくる自転車もはっきりと見えるようになります。
しかも、アクティブフォーカスは先進医療に認定された眼内レンズですから、全額自費の海外の多焦点眼内レンズより、費用を抑えられます。
生活の中で「50cm未満の近くを見る時間が長い方」「夜間に運転をしない方」はレストアを、「近くを見る時間が少ない方」「夜間運転や、戸外での活動が多い方」はアクティブフォーカスを選ぶという使い分けも考えられます。
板谷理事長のひとことアドバイス
アクティブフォーカスのピントが合う位置は50cmほどです。ごく近い距離は見えづらいため、近い距離もメガネなしで見たい方は、別の多焦点眼内レンズも検討しましょう。
まとめ
- アクティブフォーカスは2018年に発売された最新の2焦点眼内レンズで、先進医療にも認定されています。
- 遠くから中間距離までよく見え、ハロー・グレアやコントラスト感度の低下も少ないです。
- 近くの焦点は50cmほどです。それより近くを見続けるときは老眼鏡を使用しましょう。
執筆者プロフィール
医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀
京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。
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