本記事は、2020年1月24日に再更新いたしました。

近年、白内障手術で挿入する眼内レンズの性能は、飛躍的に向上しています。特にここ数年は海外を中心に、遠くも近くもメガネなしで見えるだけでなく、若いときの目の見え方により近い、優れた視機能をもつ多焦点眼内レンズが登場しています。これだけ多くの製品があると、選ぶ際にとても迷うのではないでしょうか。

そこで今回は、白内障治療に使われている主な多焦点眼内レンズの特徴や性能について解説します。今の生活スタイルや手術後にどんなことをしたいのかをよく考え、その人に合った眼内レンズを選んでほしいと思います。

見え方の質は生活の質に直結する

現在の白内障手術に使用される眼内レンズは、次々と新しい機能を持った製品が登場しています。こうした優れた眼内レンズを選択した白内障の患者さんのほとんどは、とてもよく見えることに驚き、感動されています。優れた眼内レンズを選ぶことで、白内障や老眼で「見えない」「見えづらい」からとあきらめていたことを、また楽しめるようになるのです。見え方の質(QOV:Quality of Vision)は、生活の質(QOL:Quality of Life)と直結し、大きな変化をもたらすことができるのです。

ただし、人間の水晶体の見え方に近づいてきているとはいえ、まったく同じという夢のような眼内レンズは、まだ登場しておりません。高機能の多焦点眼内レンズも製品によってそれぞれに特徴があり、得意や不得意があります。また、大なり小なり副症状もあります。そうしたレンズの特徴を自分の趣味や人生観と照らし合わせて、最適な一つを選ばなければならないのです。

人がものを見ている距離は、「近く」「中間」「遠く」の3つに大別できる

多焦点眼内レンズの説明に入る前に、知っておいていただきたいのが、焦点と見るものの距離との関係です。私たちが日常生活で「ものを見る」というとき、目と見えるものの距離は「近く」「中間」「遠く」の3つに大きく分けられます。

  • 「近く」……目から30~40cmの距離のことです。読書をするときやスマートフォンを見るとき、書類を書くとき、裁縫や編み物、模型の製作などの手元作業をするときは、この距離で見ています。
  • 「中間」……目から50cm~1mの距離を指します。デスクトップのパソコン画面を見る、調理台で料理をしている手元を見る、テーブルの向いの相手の顔を見る、掲示板の文字を読む、車を運転しながらカーナビを見る、そういうときの距離が「中間」です。
  • 「遠く」……およそ3m以上先を指します。テレビを見る、映画や舞台を鑑賞する、駅で電車の案内板を見る、散歩で遠くの景色を見る、車の運転で方や信号や標識等を見る、といったときがこれに相当します。

焦点(近距離・中間距離・遠距離)画像

若いときの人の目は水晶体が柔軟で高い調節力があるため、この三つの距離のどこにでも自在にピントが合います。たとえ近視であっても、メガネやコンタクトレンズを使えば、どの距離もピントがあります。人間の目は素晴らしい性能を持っているのです。

しかし、年をとると水晶体が硬くなって調節力が低下し、ピントが合う距離が限られてきます。はっきり見える世界が狭くなっていくわけです。そして見えない距離をカバーするために、老眼鏡や遠近両用メガネに頼らざるを得なくなります。こうした不便さ、わずらわしさの多くを改善できるのが、多焦点眼内レンズです。

多焦点眼内レンズに限りませんが、眼内レンズを選ぶ際には、この三つの距離のどこが“メガネなし”で見えると快適で便利なのかを理解して、ご自分の仕事やライフスタイルよく考えることが大切です。そのうえで、多焦点眼内レンズの性能等を比較してみましょう。

ブレンド法(ミニ モノビジョン)

以前は、眼内レンズは左右同じレンズを入れるのが良いとされていましたが、最近は左右で少し性能の違う眼内レンズを入れるブレンド法が有効であることがわかってきました。以前より、右目には遠方焦点の単焦点眼内レンズ、左目に手元焦点の単焦点眼内レンズを入れると両目で見たときに遠くも手元も見えるようになる人がいることがわかっていました。モノビジョン(mono vision)といいます。しかし、左右の差が大きいため脳が慣れるのに時間がかかりますし、慣れない方もおられるため、元々モノビジョンの傾向が無い限り、冒険的な方法であり、普及していません。ところが、多焦点眼内レンズの場合は、例えば、遠くと手元が強い2焦点眼内レンズと遠くと中間が強い2焦点をブレンドすると、両目で見たとき、中間と手元が補い合って、どの距離もはっきり見えるようになりますが、ほとんどの方が1ヶ月以内で慣れて快適に見えるようになります。この場合は、本物のモノビジョンに比べ、左右の差が小さいため、脳の適応が確実で速いのだと考えられています。その意味で、ミニ モノビジョン とも言われる方法です。

このように、今後は、ブレンドを考えたときに、各多焦点眼内レンズの性能が、どのように役立つかを考えながら理解していく必要があります。

知っておきたい 加入度数とは?

少し難しく感じるかもしれませんが、各多焦点眼内レンズの違いを理解するときに役に立つ知識です。多焦点眼内レンズとは、まず遠方にピントを合わせ、そこから光学的技術により手前に光のフォーカスを持ってくるものです。どれくらい手前にフォーカスを持ってくるかという程度が加入度数で、メガネのジオプター(Diopter, D)を単位としています。アバウトに言いますと、4D加入のレンズは手元30cmにフォーカスの中心があります。3D加入では40~50cm、2.5D加入では50~67cmにフォーカスの中心があります。すなわち、2焦点の場合は加入度数が大きいほど手元が見やすくなる代わりに、中間距離が見えにくくなるのです。また、加入度数が大きいほど、副症状のハロー・グレア・スターバーストが大きい傾向があります。

知っておきたい ハロー・グレア・スターバースト

ハロー・グレア・スターバーストは夜に車のヘッドライトや街灯が下図のように見える現象です。わかりやすくするために少し極端に表現されています。白内障そのものでも大なり小なりこのような見え方をしますが、多焦点眼内レンズも多少なりとも、このような見え方になります。夜間では瞳が開いているため白内障や多焦点眼内レンズの広い範囲に光が入って生じやすくなります。多焦点眼内レンズにより程度やパターンに差があります。ほとんどハロー・グレア・スターバーストがないもの、弱いがあるもの、強く目立つもの、といった具合です。加入度数の強い、手元までピントが合う多焦点眼内レンズほどハロー・グレア・スターバーストが目立つ傾向があります。同じ程度でも気になる人と気にしない人がいるのも事実です。夜間運転が多い方は、ハロー・グレア・スターバーストが少ない多焦点眼内レンズを選ぶことが多いです。

多焦点眼内レンズの性能①
遠近2焦点眼内レンズは、中間距離の見え方がやや弱い

日本で認可されており、多くの医療機関で使われている多焦点眼内レンズは、ほとんどが2 焦点の製品です。「遠く‐中間」または「遠く‐近く」の2つの距離がメガネなしで見えます。先進医療の対象なので、費用は手術の前と後の検査や診察にかかる費用は保険診療対象になります。先進医療の対象外の海外の多焦点レンズにも2焦点の製品はあります。

遠近2焦点眼タイプは、3m以上の遠くと近くがメガネなしで見えます。スマホ操作など近くがメガネなしでよく見えるほか、写真撮影で遠くの景色と手元のカメラを見る、カルチャースクールや講習会で黒板と手元の資料を見る、といったシーンでも便利さを実感します。弱点は、50cm~1mほどの中間距離の見え方が少し落ちることです。中間距離は、日常生活でよく使っている距離であるため、見え方には個人差がありますが、不満足の原因になることもありました。現在は、手元の見え方を強化するためにブレンド法で片方の目に遠近2焦点眼内レンズを選ぶという使い方が考えられます。

→製品例・テク二スマルチ、レストア、レンティス

テク二スマルチ(AMOより)

レストア(Alconより)

レンティス(Oculentisより)

多焦点眼内レンズの性能タイプ②
遠中2焦点眼内レンズは、手元の見え方がやや弱い

2017年から焦点が合う距離が「遠く‐中間」の遠中2焦点眼内レンズが登場して、国内の多焦点眼内レンズ使用量が数倍に増えました。このタイプは、遠くから50cmくらいまでの距離がクリアに見えます。買い物で店内と商品棚の商品を見る、運転をしながらカーナビを見る、カラオケで画面の歌詞を読む、といったときに威力を発揮します。実は、遠くと中間距離は、交互に視線を動かしながら見ています。ですので、中間距離を見るときだけメガネをかけるというのは難しいのです。例えば、運転中にカーナビを見るときにメガネをかけると危険です。部屋の掃除は、手元を掃除しながら、部屋の隅にゴミが落ちていないかも同時に見ます。遠中両用眼鏡という手もありますが、レンズの上が遠方、下が中間とエリアでわけているため、首を上下に振る必要があります。中間から遠方までの広い範囲がはっきり見えることは、日常のさまざまな行為でとても快適なことなのです。ただし近くを見続ける読書やスマホなどでは、多くの方は、薄い老眼鏡を使う必要があります。

→製品例・シンフォニー、アクティブフォーカス

シンフォニー(AMOより)

アクティブフォーカス(Alconより)

多焦点眼内レンズの性能③
中間距離にも焦点がある3焦点眼内レンズ ―先進医療にも3焦点が登場

ヨーロッパの多焦点眼内レンズには、「遠く」「中間」「近く」の3つすべてに焦点が合う3焦点眼内レンズ(トリフォーカル)の製品が増えてきました。ESCRS(欧州白内障屈折矯正学会)の報告では、ヨーロッパでは2017年以降トリフォーカル眼内レンズが最も使用される眼内レンズとなっております。例えば、2018年の結果では使用される眼内レンズの比率が、トリフォーカル58%、バイフォーカル20%、EDOF20%となっています。圧倒的にトリフォーカルは選ばれていることがわかります。これは、2011年にベルギーPhysIOL社より発売されたファインビジョン トリフォーカルのパフォーマンスが高かったことが寄与しています。近方には3.5Dが加入されていますので、手元30cmもかなりよく見える性能を持っています。最近、同じ3.5Dの加入度数を持つレイワンが出ました。コントラストがファインビジョンより高いですが、グレア・スターバーストが強いという特徴があります。また、最近、3焦点でEDOF性能(次の項参照)を持つアクリバ トリノバも出ました。ただ、アクリバ トリノバは、3.0D加入であるため、30cmはやや弱く40cmがよく見える性能を持っています。アクリバ トリノバは、他のレンズが採用する鋭角な溝では無く、波状のゆるやかな溝であるため、グレア・スターバーストがほとんどなく、ハローが弱いという長所を持っています。

これまで3焦点眼内レンズは自由診療でのみ使用できたのですが、2019年になって初めて先進医療に3焦点眼内レンズが認可されました。米国アルコン社のパンオプティクスです。近方は3.25D加入であり、近方はファインビジョン/レイワンより弱く、トリノーバより強いと言えます。手元30cmがよく見える方と、今ひとつな方に分かれます。

いずれにせよ、このタイプの眼内レンズを使うとほとんどの方がメガネから解放されます。仕事はもちろん、パンフレットを見ながら街歩きをする、役所に行って窓口を探して手続きをする、パーティ会場で離れた席の方の顔から手元の席札までクリアに見えるなど、生活の利便性がぐんと高くなります。

→製品例・ファインビジョン、レイワン、アクリバ トリノバ、パンオプティクス

ファインビジョン(PhyIOLより)

レイワン(イギリスRayner社より)(PhyIOLより)

トリノーバ(VSY Biotechnologyより)

パンオプティクス (米国 アルコン社より)

多焦点眼内レンズの性能④
焦点深度が広いEDOFは、遠くから手元までなめらかに見える

多焦点眼内レンズの中でも、最新の機能として注目を集めているのが、「EDOF(イードフ:Extended Depth of Field)」です。

最初のEDOFレンズは、2017年より使用可能となったシンフォニーです。焦点深度(ピントが合う距離)を広げることでクリアに見える範囲を拡大し、遠くから中間距離までを連続してよく見えるようにしたものです。最初の多焦点眼内レンズは、手元を重視したため中間距離の落ち込みが問題となりました。EDOFは、落ち込みのない連続した見え方を訴求した技術です。ただし、シンフォニーは近方への加入度数が1.5Dであるため手元はピントが甘くなります。その後、近方2.5D加入のEDOFのミニウェル、3.0加入のアクリバ トリノバ とより手元にピントが合うEDOFが登場しましたが、確実に日本人の読書距離である手元30cmまで連続して見えるEDOFはありません。運転やスポーツなど手を伸ばした所から遠くまで連続して見えることを重視するならEDOFレンズが適しています。

→製品例・シンフォニー、ミニウェル、アクリバ トリノバ

シンフォニー(AMOより)

ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)

トリノーバ(VSY Biotechnologyより)

多焦点眼内レンズの性能⑤
夜間に車の運転をする方は、ハロー・グレアの少ないものを

メガネなしで広い範囲がよく見える多焦点眼内レンズですが、知っておきたいのは、多かれ少なかれハロー・グレア・スターバーストが起こることです。

ハローとは強い光や夜間のライトが輪っかのようににじんで見える現象、グレアは光が広がってギラギラして見える現象、スターバーストは光が放射状に伸びる現象です。白内障そのものでも、ハロー・グレア・スターバーストは生じます。手術する前のハロー・グレア・スターバーストが強い人は、術後のハロー・グレア・スターバーストは気にならない可能性があります。多くは、慣れとともに気にならなくなりますが、人によっては気になってしまいます。ハロー・グレア・スターバーストを苦痛に感じるかは、その方の性格の影響も大きいです。夜間によく運転をする方は、多焦点眼内レンズのなかでも、ハロー・グレアが少ない製品を選ぶことをおすすめします。

ハロー・グレア・スターバーストの最大の原因は、鋭角な回折溝にあります。回折溝が多いほど、回折溝は深いほど、ハロー・グレア・スターバーストは多くなります。ハロー・グレア・スターバーストがほとんどないミニウェルは、色収差を利用し、回折溝が存在しません。アクリバ トリノバは、回折溝が鋭角ではなく、正弦波パターンであるため、グレア・スターバーストハローがほとんど無く、ハローが少しある程度です。レンティスは、屈折型の多焦点眼内レンズで、回折溝がないため、グレア・スターバーストは少なめです。

→製品例・ミニウェル、トリノーバ、レンティス


ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)


トリノーバ(VSY Biotechnologyより)

レンティス(Oculentisより)

多焦点眼内レンズの性能⑥
多焦点眼内レンズは、特に乱視矯正が重要

ほとんどの多焦点眼内レンズには、乱視矯正用にトーリック機能が付けられます。多焦点眼内レンズは、メガネ無しで見えることをめざす眼内レンズですので、大きな乱視が残ると裸眼で視力がでにくくなります。ランス矯正に力を入れることが重要です。ただし、問題は、乱視矯正の度数が、0.5刻みと粗いことです。国内の多焦点眼内レンズでは0.75程度の軽い乱視には対応できないことが多いのです。ヨーロッパには、0.01D刻みで乱視を矯正できる完全オーダーメイドの多焦点眼内レンズも存在します。ドイツOculentis社のレンティスとイギリスRayner社のレイワンです。

レンティス(Oculentisより)

レイワン(イギリスRayner社より)

最後に、現在、はんがい眼科で扱っている白内障治療用の多焦点眼内レンズ10種の特徴をまとめておきます。ぜひ眼内レンズ選びの参考にしてください。

【多焦点眼内レンズ一覧表】

板谷理事長のひとことアドバイス

多焦点眼内レンズは次々と新製品が登場していますが、それぞれ一長一短です。ご自身のライフスタイル、仕事、運転頻度に合わせて、一番適したものを選んで手術に臨んでください。主治医と相談して納得の一枚を。

まとめ

  • 日本で認可されている先進医療対象の多焦点眼内レンズは、これまで「遠く‐中間」「遠く‐近く」の2焦点でした。2019年になって、3焦点眼内レンズが登場しました。
  • 海外のプレミアム眼内レンズは、個性的な特徴があるものが多く、「遠く」「中間」「近く」の3つに焦点が合う、3焦点眼内レンズもあります。自由診療になりますが、ほぼメガネなしで生活が可能です。
  • 新機能「EDOF」により、広い範囲を連続して見える多焦点眼内レンズもあります。
  • 夜間にクルマの運転をする機会が多い方はハロー・グレアの少ないタイプが合っています。
  • 副症状のハロー・グレア・スターバーストを知っておこう。
  • ブレンド法は2つのタイプの長所をいいとこ取りする方法として活用されるようになった。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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