近年、白内障手術で挿入する眼内レンズの性能は、飛躍的に向上しています。特にここ数年は海外を中心に、遠くも近くもメガネなしで見えるだけでなく、若いときの目の見え方により近い、優れた視機能をもつ多焦点眼内レンズが登場しています。これだけ多くの製品があると、選ぶ際にとても迷うのではないでしょうか。

そこで今回は、白内障治療に使われている主な多焦点眼内レンズの特徴や性能について解説します。今の生活スタイルや手術後にどんなことをしたいのかをよく考え、その人に合った眼内レンズを選んでほしいと思います。

見え方の質は生活の質に直結する

現在の白内障手術に使用される眼内レンズは、次々と新しい機能を持った製品が登場しています。こうした優れた眼内レンズを選択した患者さんは、皆さんほぼ例外なく、とてもよく見えることに驚き、感動されています。優れた眼内レンズを選ぶことで、老眼や白内障で「見えない」「見えづらい」からとあきらめていたことを、また楽しめるようになるのです。見え方の質(QOV:Quality of Vision)は、生活の質(QOL:Quality of Life)と直結し、大きな変化をもたらすことができるのです。

ただし、人間の水晶体の見え方に近づいてきているとはいえ、まったく同じという夢のような眼内レンズは、まだ登場しておりません。高機能の多焦点眼内レンズも製品によってそれぞれに特徴があり、得意や不得意があります。そうしたレンズの特徴を自分の趣味や人生観と照らし合わせて、最適な一つを選ばなければならないのです。

人がものを見ている距離は、「近く」「中間」「遠く」の3つに大別できる

多焦点眼内レンズの説明に入る前に、知っておいていただきたいのが、焦点と見るものの距離との関係です。私たちが日常生活で「ものを見る」というとき、目と見えるものの距離は「近く」「中間」「遠く」の3つに大きく分けられます。

  • 「近く」……目から30~40cmの距離のことです。読書をするときやスマートフォンを見るとき、書類を書くとき、裁縫や編み物、模型の製作などの手元作業をするときは、この距離で見ています。
  • 「中間」……目から70cm~1mの距離を指します。仕事でデスクトップのパソコン画面を見る、調理台で料理をしている手元を見る、テーブルの向いの相手の顔を見る、掲示板の文字を読む、車を運転しながらカーナビを見る、そういうときの距離が「中間」です。
  • 「遠く」……およそ3m以上先を指します。テレビを見る、映画や舞台を鑑賞する、駅で電車の案内板を見る、散歩で遠くの景色を見る、車の運転で前方や信号等を見る、といったときがこれに相当します。
  • 若いときの人の目は水晶体が柔軟で高い調節力があるため、この三つの距離のどこにでも自在にピントが合います。人間の目は素晴らしい性能を持っているのです。しかし、年をとると水晶体が硬くなって調節力が低下し、ピントが合う距離が限られてきます。そして見えない距離をカバーするために、老眼鏡や遠近両用メガネに頼らざるを得なくなります。こうした不便さ、わずらわしさの多くを改善できるのが、多焦点眼内レンズです。

    多焦点眼内レンズに限りませんが、眼内レンズを選ぶ際には、この三つの距離のどこが“メガネなし”で見えると快適で便利なのかを、よく考えることが大切です。そのうえで、多焦点眼内レンズの性能等を比較してみてください。

    多焦点眼内レンズの性能①
    2焦点眼内レンズは、手元や中間距離の見え方がやや弱い

    日本で認可されており、多くの医療機関で使われている多焦点眼内レンズは、2 焦点の製品です。「遠く‐中間」または「遠く‐近く」の2つの距離がメガネなしで見えます。先進医療の対象なので、費用は一部に保険がききます。先進医療の対象外の海外の多焦点レンズにも2焦点の製品はあります。

    焦点が合う距離が「遠く‐中間」のタイプであれば、遠くから60~70cmくらいまでの距離がクリアに見えます。買い物で店内と商品棚の商品を見る、運転をしながらカーナビを見る、カラオケで画面の歌詞を読む、といったときに威力を発揮します。ただし近くを見続ける読書などでは、老眼鏡など近見用のメガネを使ったほうが楽な場合もあります。
    →製品例・シンフォニー、アクティブフォーカス

    シンフォニー(AMOより)

    アクティブフォーカス(Alconより)

    「遠く‐近く」タイプは、3m以上の遠くと近くがメガネなしで見えます。スマホ操作など近くがメガネなしでよく見えるほか、写真撮影で遠くの景色と手元のカメラを見る、カルチャースクールや講習会で黒板と手元の資料を見る、といったシーンでも便利さを実感します。弱点は、60cm~1mほどの中間距離の見え方が落ちることです。見え方には個人差がありますが、特にこの距離をクリアに見たいという場合、別の製品を選ぶほうが安心です。
    →製品例・テク二スマルチ、レストア、レンティス

    テクニスマルチ(AMOより)

    レストア(Alconより)

    レンティス(Oculentisより)

    多焦点眼内レンズの性能②
    中間距離にも焦点がある3焦点眼内レンズ

    海外のプレミアム眼内レンズには、「遠く」「中間」「近く」の3つすべてに焦点が合う3焦点の製品があります。自由診療になりますが、このタイプの眼内レンズを使うとほとんどの方がメガネから解放されます。仕事はもちろん、パンフレットを見ながら街歩きをする、役所に行って窓口を探して手続きをする、パーティ会場で離れた席の方の顔から手元の席札までクリアに見えるなど、生活の利便性がぐんと高くなります。
    →製品例・ファインビジョン、トリノーバ

    ファインビジョン(PhyIOLより)

    トリノーバ(VSY Biotechnologyより)

    多焦点眼内レンズの性能③
    焦点深度が広いEDOFは、遠くから手元までなめらかに見える

    多焦点眼内レンズの中でも、最新の機能として注目を集めているのが、「EDOF(イードフ:Extended Depth of Field)」です。
    EDOFは、焦点深度(ピントが合う距離)を広げることでクリアに見える範囲を拡大し、遠くから近くまでを連続してよく見えるようにしたものです。脳の機能によってぼけた像を補正するため、人によって見え方はやや異なるとされていますが、広い範囲の風景をじっくりと見る、ゴルフやテニスで打ったボールの軌跡を目で追うといったときには、EDOFの利点が際立ちます。
    →製品例・シンフォニー、ミニウェル

    シンフォニー(AMOより)

    ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)

    多焦点眼内レンズの性能④
    夜間に車の運転をする方は、ハロー・グレアの少ないものを

    メガネなしで広い範囲がよく見える多焦点眼内レンズですが、気を付けなければならないのは、ハロー・グレアが起こりやすいことです。
    ハローとは強い光や夜間のライトがにじんで見える現象、グレアは光が伸びてギラギラして見える現象です。眼内レンズを入れた当初は多くの方がハロー・グレアを感じます。慣れとともに気にならなくなるケースもある一方、人によってはその症状が残ることもあります。特に夜間に車の運転をする方では、ハロー・グレアで視界が見えにくくなるのは危険です。夜間によく運転をする方は、多焦点眼内レンズのなかでも、ハロー・グレアを抑えた製品を選ぶことをおすすめします。
    →製品例・ミニウェル、トリノーバ、レンティス

    ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)

    トリノーバ(VSY Biotechnologyより)

    レンティス(Oculentisより)

    多焦点眼内レンズの性能⑤
    乱視の強い方は、乱視矯正機能のある製品を選ぶ

    通常の多焦点眼内レンズでは白内障はもちろん、近視や遠視も矯正が可能ですが、乱視の矯正はできません。乱視があっても程度の軽いものはそれほど問題になりませんが、乱視の程度が強い方では、白内障手術後も乱視があることでものかぶれて見える、ぼやけて見えるという症状が残ることがあります。

    乱視が強い場合は、乱視矯正機能のあるトーリック眼内レンズを選びましょう。現在は、多焦点眼内レンズのほとんどにトーリックタイプが出ています。医療機関によって取り扱うレンズには違いがあるので、眼科医に相談してください。
    →製品例・テク二スマルチ、シンフォニー、レストア、アクティブフォーカス、レンティス、ファインビジョン、ミニウェル、トリノーバ

    テクニスマルチ(AMOより)

    シンフォニー(AMOより)

    レストア(Alconより)

    アクティブフォーカス(Alconより)

    レンティス(Oculentisより)

    ファインビジョン(PhyIOLより)

    ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)

    トリノーバ(VSY Biotechnology)より

    最後に、現在、はんがい眼科で扱っている白内障治療用の多焦点眼内レンズ8種の特徴をまとめておきます。ぜひ眼内レンズ選びの参考にしてください。

    【多焦点眼内レンズ一覧表】

    板谷院長のひとことアドバイス

    多焦点眼内レンズは次々と新製品が登場していますが、それぞれ一長一短です。ご自身のライフスタイルに合わせて、一番適したものを選んで手術に臨んでください。

    まとめ

    • 日本で認可されている多焦点眼内レンズは「遠く‐中間」「遠く‐近く」の2焦点です。先進医療の対象ですが、中間距離などの見え方が落ちることがあります。
    • 海外のプレミアム眼内レンズには、「遠く」「中間」「近く」の3つに焦点が合う、3焦点眼内レンズもあります。自由診療になりますが、ほぼメガネなしで生活が可能です。
    • 新機能「EDOF」により、広い範囲を見えるようにしている多焦点眼内レンズもあります。
    • 夜間にクルマの運転をする方はハロー・グレアの少ない製品を、乱視の強い方は乱視矯正機能のある多焦点眼内レンズを選ぶとよいでしょう。

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    執筆者プロフィール

    はんがい眼科院長 板谷正紀

    京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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