白内障手術では、濁った水晶体の代わりに人工の眼内レンズを挿入します。この眼内レンズは、水晶体の濁りを取るというだけでなく、近視や遠視、乱視などを矯正する機能もが備わっています。手術前に眼鏡やコンタクトレンズを使っていた方では、白内障手術によって、眼鏡やコンタクトの使用頻度を軽減できます。遠方と近距離の2焦点にピントが合うレンズですが、中間距離もスムーズに見えるのが、このレンズ「レンティス」の特徴です。

ただし、患者さんの近視や遠視、乱視の状態は人それぞれです。近視や乱視などが矯正されて「よく見える」ようになるには「屈折」、つまりメガネやコンタクトレンズを作るときの“度数”が合っていなければなりません。

一般に多焦点眼内レンズの度数間隔は、眼内レンズの種類によって決まっているため、レンズ度数の狙いと実際の見え方に若干の誤差が生じることあります。しかし、なかには患者さんの目の状態に合わせ、きめ細かく度数を調整できる種類もあります。
それが今回、紹介する「レンティス」という製品の特長です。

他の眼内レンズの50倍の精度で度数合わせができる「レンティス」

レンティスは、ドイツのOculentis社が開発した多焦点眼内レンズです。レンズの上方が遠方視、レンズの下方が近方視に対応しており、遠近両用メガネのような設計になっている眼内レンズです。遠近のレンズに境目はないため、遠方から近方、もしくはその逆の焦点移動がスムーズに行えるのが大きな特徴です。丸いレンズ部分と周辺の四角に近い支持部が一体化した、独特の形状をしています。

レンティス(Oculentisより)

完全オーダーメイドで、精度の高い矯正が可能

レンティスの最大の特徴は、患者さんの目に合わせて作成される完全オーダーメイドの眼内レンズだという点です。他の多焦点眼内レンズでは、度数間隔が0.5D(ディオプター)ごとになっている製品が多いのに対し、レンティスは0.01D刻みで作成できるため、他の製品の50倍の精度で近視や遠視、乱視の度数合わせができます。

特に乱視矯正機能をもつレンズ(トーリックレンズ)は高い評価を得ていて、他の多焦点眼内レンズでは矯正できない強い乱視でも、この眼内レンズであれば対応できるケースが多くなります。

視界が明るく、コントラスト感度も良好

レンティスは遠方と近方の2焦点眼内レンズですが、従来の2焦点眼内レンズ(回折型)とは異なり、二つのカーブの異なるレンズを組み合わせた分節屈折型という構造になっています。二つの球面の中心が同じところにあるため、2焦点眼内レンズの弱点といわれる中間距離も視力の落ち込みが少なく、遠くから近くまで連続して良好な視界が得られます。

二つの距離に焦点を合わせるためのカーブを、完全に分けているレンティス。(Oculentisより)

この構造によりコントラスト感度も良く、夜間の運転時などに光をまぶしく感じるハロー・グレアも少なくなっています。
また、光学的ロス(どこにも焦点が合わない光の量)も5%程度と少なく、目に入る光の95%は焦点が合うため、従来の多焦点眼内レンズより明るく、鮮明な視界が得られるというメリットもあります。近方の焦点は40~50cmのものと、60~70cmのタイプがあり、患者さんの希望や生活環境に合わせて選べます。

lentis

従来の多焦点眼内レンズでは、夜間に光がにじんで見える「ハロー」やぎらついて見える「グレア」の症状が出ましたが、レンティスはほとんど出ないように開発されています。

近方の見え方はやや弱く、極端に瞳孔が小さい方には不向き

ごく近い手元は、ぼやけて見える

レンティスのデメリットとしては、手元の見え方がやや弱いことが挙げられます。30cmなどのごく近い距離で読書をするとか、編み物や模型製作など精密な作業をするといったときは、老眼鏡を使用したほうがラクなこともあります。

まれにワキシービジョンが出ることも

明るくクリアな見え方が特長のレンティスですが、ごくまれにワキシービジョン(ワックスがかかったような、すっきりしない見え方)が出るとの報告があります。また加齢などにより瞳孔径が極端に小さい場合には、近方視部分のレンズに光が入りづらくなり、近方の視力低下が起こるといわれています。
 さらにレンティスは先進医療に認可されていないため、自由診療になります。眼内レンズは海外から取り寄せるため注文してから日本に到着するまで4~6週間ほど時間がかかります。治療スケジュールも確認しておく必要があるでしょう。
 
「レンティス」の特徴一覧

名称 レンティス(Lentis)
メーカー(生産国) Oculentis(ドイツ)
焦点数と光学部デザイン 分節屈折型
ピントの合う距離 遠方、近方
メガネなしでの得意、不得意 度数調整の幅が広いオーダーメイド眼内レンズで、強度の近視や乱視にも対応する。2焦点でありながら、遠方から近方までの中間距離も連続してクリアに見え、コントラスト感度も良好。夜間にライト等をまぶしく感じるハロー・グレアも少ない。40cm以内の近方はぼやけるので、近距離で長時間、読書などをするときは老眼鏡を併用する可能性があります。
ハロー・グレア 少ない
薄暮視(薄暗い場所での視力) 良い
乱視矯正 あり
先進医療 なし(全額、自由診療)

強い乱視、近視等のある方でメガネ使用を減らしたいときに

夜間の高速道路などでは、光の見え方は安全に直結します。ハロー・グレアが少ないレンティスは自動車の運転をされる方に向いている多焦点眼内レンズといえます。

白内障治療と同時にメガネ使用を減らしたい、治療前に遠近両用コンタクトレンズを使ってきた、という方には、多焦点眼内レンズをおすすめします。

特に強い乱視や近視があり、他の多焦点眼内レンズでは矯正がむずかしいようなケースでは、完全オーダーメイドのレンティスの利点が活きてきます。その方にぴったりの度数合わせができることで、クリアで快適な視力を得られます。度数が合っていると目も疲れにくくなるので、眼精疲労のためにいつの間にかあきらめていた仕事や趣味などの活動を、再び楽しめるようになる方もいます。

また、自動車の運転時には遠くの道路や標識と車内のカーナビを交互に見ていますが、そうした遠方と近距離を行ったり来たりしながら目を使うようなシーンにも、レンティスは最適です。夜間のライトなどがまぶしく感じるハロー・グレアも少ないので、昼夜を問わず運転をよくするという方にもレンティスは向いています。

ほかにも、会議や研修会で遠くのスクリーンと手元の資料を交互に見る、買い物で店内の陳列棚と手に取った商品の値札を見比べるといったときにも、この眼内レンズの便利さ、性能の高さを実感できることと思います。

板谷院長のひとことアドバイス

遠方と近距離を行ったり来たりしながら目を使うようなシーンに、レンティスは最適です。運転をよくする方には向いているでしょう。

まとめ

  • 「レンティス」は、完全オーダーメイドの多焦点眼内レンズで、強い乱視や近視がある方でもきめ細かい度数合わせが可能です。
  • 中間距離の落ち込みが少なく、遠方から近方まで連続してクリアな視界を得られます。
  • 40cmより近い手元はぼやけて見える。極端に瞳孔径が小さい場合は、近方の視力低下が起こることがあります。

目についてお悩みは、はんがい眼科へどうぞ

執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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