ここ数年、せっかく白内障手術をするのであれば、「高機能の多焦点眼内レンズを検討したい」という方が増えてきています。その方の生活や希望に合った多焦点眼内レンズを選んだ結果、「こんなによく見えると思わなかった」「若い頃の視力に近く、気分まで若返った」と喜んでくださる患者さんも多数います。

とはいえ、多焦点眼内レンズにも弱点はあります。代表的なものは、夜間のライトなどがにじんでみえる「ハロー」や、光が伸びてギラギラして見える「グレア」です。多焦点眼内レンズは、光を複数の焦点に分散するためにレンズ表面に小さな溝が作られており、そこに光が乱反射してこうした現象が起こるのです。
特に注意が必要なのは、夜間の車の運転です。街灯や対向車のライトがハロー・グレアでまぶしくて見えないとなると非常に危険ですから、タクシーや長距離トラックの運転手など日常的に夜間運転をする方には多焦点眼内レンズをすすめられない、というのが以前の定説でした。

しかし、このハロー・グレアをほとんど生じない多焦点眼内レンズが、2016年に開発されました。それが、今回紹介する「ミニウェル・レディ」です。遠くから、生活のなかでよく使う中間距離の視力に優れていて、夜間の運転をする方にも向く最新の多焦点眼内レンズです。詳しい性能や特長について、以下に説明しましょう。

世界で最初に開発されたプログレッシブ(累進焦点)眼内レンズ「ミニウェル・レディ」

ミニウェル・レディは、イタリアのSIFI MedTech社が開発した多焦点眼内レンズです。材質は親水性‐疎水性のコポリマー、レンズの両面がわずかに膨らんだ形の透明レンズです。レンズ面を支える支持部(足)が4点あることで、レンズの安定性を高めています。

ミニウェル・レディ(SIFI MedTechより)

遠くから中間距離まで連続してよく見える

ミニウェル・レディは、世界で最初に開発されたプログレッシブ(累進焦点)タイプの眼内レンズです。これは従来の回折型や屈折型の多焦点眼内レンズとはまったく異なる、EDOFという技術が用いられています。EDOF(Expanded Depth of Field)とは、球面収差の原理を利用して、焦点が合う距離(焦点深度)を広くしたもので、最近のカメラやスマートフォンのレンズにもこの技術が採用されています。

これによって、遠方から中間距離まで視力の落ち込む距離がほとんどなく、連続してクリアに見ることができます。また、光のエネルギーロスがほぼないためにコントラスト感度も優れていて、より自然に近い見え方が実現しています。

ハロー・グレアがほとんどなく、夜間視力も良好

ミニウェル・レディのメリットとして強調したいのが、多焦点眼内レンズの宿命といわれたハロー・グレアがほとんどないことです。夜間の光も、人の水晶体に近い見え方になるので、夜に運転をする方でも問題なく使用することができます。

また、従来の多焦点眼内レンズは、光を複数の距離に分散させているため、薄暗いところでは瞳孔が縮んで目に入る光量が極端に少なくなり、見えにくくなる傾向がありました。それに対してミニウェル・レディは、照明の少ない室内などの薄暗いところでも、良好な視力が得られます。

ミニウェル・レディの夜間の見え方をシミュレーションした画像。ほとんどハロー・グレアがありません(SIFI MedTechより)

3焦点眼内レンズに比べると近方の見え方がやや弱い

ごく近い手元は、ぼやけて見える

一方、ミニウェル・レディの欠点を挙げるとすれば、3焦点眼内レンズに比べると、手元の見え方がやや弱いことです。近方でピントが合うのは40cmほどになるので、それより近い距離で読書をする、編み物など手元の作業をするというときは、老眼鏡など近見メガネを使用したほうがいいこともあります。

ミニウェル・レディの見え方は、距離による視力の落ち込みがなだらかな点が特徴。そのかわり、手元に近くなるほどぼやけてしまうのがデメリット(SIFI MedTechより)

またミニウェル・レディは日本未承認のレンズとなるので先進医療が適用されません。治療や検査、手術にかかる費用は全て自由診療になります。ミニウェル・レディは、ヨーロッパからレンズを取り寄せます。日本に到着するまで4~6週間ほど時間がかかるので、スケジュールには余裕をもって治療を進める必要があります。

「ミニウェル・レディ」の特徴一覧

名称 ミニウェル・レディ(Mini Well Ready)
メーカー(生産国) SIFI MedTech(イタリア)
焦点数と光学部デザイン 累進焦点EDOF型
ピントの合う距離 遠方、中距離
メガネなしでの得意、不得意 遠方から中間距離まで連続してクリアに見えるのが特長。コントラスト感度も良く、ゴルフ、テニス等のスポーツにも最適。また夜間にライト等をまぶしく感じるハロー・グレアがほとんどないため、時間を問わず、車の運転には非常に適している。40cm以内の近方はぼやけるので、近距離での読書などはやや不向き。
ハロー・グレア ほとんどない
薄暮視(薄暗い場所での視力) 非常に良い
乱視矯正 あり
先進医療 なし(全額、自由診療)

夜間に運転をする方や、球技などのスポーツを楽しみたい方に最適

ミニウェル・レディは、ごく近い距離の見え方こそ劣りますが、それ以外の距離はどこを見ても人の目の水晶体に近い、とてもよい視力が得られます。ミニウェル・レディを、現在の多焦点眼内レンズのなかでは最高水準の眼内レンズの一つ、と考える眼科医も多いようです。
特に、長距離トラックの運転手や夜間によく運転をする方では、ハロー・グレアがないというミニウェル・レディの恩恵を最大限に生かせると思います。

またテニスやゴルフといったスポーツでは、自分がヒットするポイントから、遠くに飛んでいくボールがずっとクリアに見えます。これも焦点深度が広く、遠方から中間距離まで連続してクリアに見えるミニウェル・レディならではの利点でしょう。
もちろん運転やスポーツに限らず、たとえば営業の仕事をしている方であれば、初めて行く訪問先のビルの看板から、向かい合った相手の顔やデスク上の書類まで、メガネなしで見ることができます。

そのほかに、片目だけ白内障が進んで眼内レンズを入れたいといったケースでも、人の目の見え方に近いミニウェル・レディは利用価値が高いといえます。

板谷院長のひとことアドバイス

ミニウェル・レディは手元に近づくほどぼやけるため、読書や裁縫には向かないという欠点があります。しかしそれ以外では、自然な見え方に最も近づいている眼内レンズであり、夜間運転もスポーツもかなり自由にすることができます。

まとめ

  • 「ミニウェル・レディ」は、新しいEDOFという技術を使った多焦点眼内レンズで、遠方から中間距離まで、広い範囲が連続してクリアに見えます。
  • 夜間に光をまぶしく感じるハロー・グレアがほとんどなく、夜間に車を運転する方でも使用できます。
  • 40cmより近い手元はぼやけて見えます。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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